楽園

我思う故に我あり


初夏の日差しが目映い。
道行く人々の足取りも重くなり始めた。
私は最近思い始めた事がある。

本当に、私と云う人間はこの世に存在しているのだろうか?
私が言葉を交わす人々は存在しているのだろうか?

そう思い始めたのは、最近見続けている夢のせいだ。

しかも、なんとも素晴らしい夢。

私にとって最早その夢の方が現実になりつつある。

現実世界において、それが現実だと確信させてくれるものに感覚、特に触覚、臭覚がある。
しかし、良く考えてみて欲しい。
夢の世界でもそれは存在しているのである。
誰しも一度や二度は経験がある筈だ。
恋人とのデートで手を繋いだ時の感覚、キスの味…。

それらは、現実世界と何ら変わりはない。
ならば、この、今私たちが現実と思っている世界が本当に現実として実在している保証はどこにあるのだろうか…。

私にとって、夢が現実であり現実が悪夢でしかないのだ。

今日も早く仕事を片付け、さっさと帰宅して眠りにつかなくてはならない。

【ジリリリ…】

終業のベルがなる。
身支度を整えて帰宅しようとしていると背後から友人…と思っていたルカから声がかかった。

「早希ちゃん、今日空いてない?合コンの面子が足りないの…。」

今までの私なら、付き合いを重視していやいやでも付き合っていたはずだ。
でも、今の私はもう以前の私ではない。
この現実世界に私は未練はないのだ。
もちろん、もう友人も要らない。

「ゴメン、ちょっと用があって急いでるの…また今度ね…。」

ルカの詰るような視線を無視してさっさと退社した。

あの、楽園に一刻も早く帰りたい。
明日は休日だから、丸々1日半眠っていられる。

私は幸せだった。


帰宅後、シャワーだけ浴びてとりもなおさずベッドへ向かう。
さすがに、1日半眠るとなると薬が必要になるが仕方ない。
湯上がりのビールで薬を飲み干した。
そのままベッドに倒れ込み夢の世界へと旅立った。

そこは、楽園だった。

柔らかな日差し。
新緑の森に小鳥たちの声がこだまする。
甘い香りが漂う花畑に色鮮やかな蝶が舞う。

ゆっくりと散歩を楽しんでこの楽園を満喫していた。







「それで、第一発見者は…。」

「はい、あちらにいる、同僚で友人のルカさんです。」

「うむ…。しかし、まあ自殺に間違いあるまい。致死量の睡眠薬をビールで煽ってるんだからなぁ…。」



閑話休題
AD

コメント(8)