嫌な事ばかりが続き、タカシは会社に有給を申し出て部屋を移る事にした。

どうにも、やり切れない気分だったのだ。


凛も、勤め先の市役所住民課をしばらく休む事にした。
仕事がら、休みは取りずらかったが、仕事より重要な問題を抱えていたのだ。




タカシの引っ越しは無事終わり、ひと月程過ぎたある休日の午後。

買い物から戻ったタカシは、テーブルの上に置かれた手紙を見付けて血相をかえた。

乱暴に開封して、全部を読み終える前に玄関を飛び出した。


それを、凛は遠くの木陰からソッと覗いていた。

凛の頬に、涙がつたった。



(ごめんなさい。私の事は、もう忘れて!?)

(私が、馬鹿だったの。)

(一時でも、他の人を好きになった私が悪いの。)

(貴方を忘れて、よそ見をしてしまった馬鹿な私をどうか許して!?)

(本当に大切な人だったのを、失って気付くなんて…)

(ああ~!こんなに貴方が好きだったなんて…)



タカシは、辺りをぐるぐる見渡す。

走りながら、必死に探していた。

険しい表情で、携帯を耳にあて、懸命に話している。

それでも目では凛を探していた。


(ああ~!そんなに私を探さないで。
私は貴方の前には、もう現れてはいけない女なの。)

(駄目 駄目 私は汚れてしまった背徳の女なの。捜しちゃ駄目なの。)

(タカシ…、愛してる。愛してるけど駄目…)


その時、タカシの視界を一瞬凛の姿が掠めた。

凛もそれを察した。

踵を翻して逃げようとする凛。

タカシは、それを全力で追った。

街中に届けとばかりに、声を張り上げ凛の名を叫びなから。


そして、ついにタカシは凛の肩に手を掛けた。


(嫌、駄目よタカシ)

タカシは凛を後ろから羽交い締めにし、全力で抱き締めた。


「決してこの手を離しはしないぞ!。」

タカシは、天まで届けとばかりに叫んだ。

(ああ…タカシ…
それ程迄に私を愛してくれているなんて…。)






「間にあいましたか?」

警官が声を掛けた。

「はい…」

返事をしながら、タカシは、手紙を警官に渡した。

警官は、手紙を読むと徐に手錠を掛けた。



凛の腕だった。


手紙に、こう記されてあった。



(何処へ引っ越ししても無駄よタカシ!
貴方が何処に住んでいるかは、私には解るの。
貴方は一生私のものよ。
今度逃げたら、殺します。)


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