ジェンダーで見る『ブライト・スター』 ~いちばん美しい恋の詩~
テーマ:ジェンダー視点メディア作品評はい、読者の皆様いかがお過ごしでしょうか。
今日は“ジェンダーという視点で観る映画作品評”です。
作品はこの6月5日に公開されました『ブライト・スター~いちばん美しい恋の詩~』です。
原題:『Bright Star』/2009年イギリス・オーストラリア/119分/配給:フェイス・トゥ・フェイス
【あらすじ(Synopsis)】
舞台は中世の香りが残る1818年のロンドン郊外ハムステッド。詩人としての人生を歩み始めたジョン・キーツ(ベン・ウィショー)と詩人としての才覚をキーツに見出している友人の編集者チャールズ・ブラウン(ポール・シュナイダー)、そしてキーツの書く詩や彼の人間性に惹かれてゆくファニー・ブローン(アビー・コーニッシュ)。お互いに少しずつ韻を踏むように心を通わせていくファニーとキーツに、嫉妬とも受け取れる複雑な言動をするブラウン。
キーツの儚い人生に魅了され、映画化を長く切望していた『ピアノ・レッスン』のカンピオン監督がキーツ役にイギリスの新進気鋭俳優ベン・ウィショーを起用し、抒情的な空間とまるで絵画のような美しく気品あふれる色使いで魅せる作品に仕上がっている。
【ジェンダー視点物語構造】
イギリスの文学界の巨匠たち、劇作家ウィリアム・シェイクスピア、小説家チャールズ・ディケンズたちと並び立つ詩人と言えばジョン・キーツと言われるほど高名な人物をモチーフにした作品だが、主役は誰なの?と言われると、作品の構造はキーツとは言っていない。作品の物語構造が主人公として扱っているのはキーツの相手役アニー・コーニッシュ演じるファニー・ブローンなのである。つまりは、女性が物語を動かす推進役=主人公という構造をとっている。
これは、さほど驚くことではない。何故ならば、キーツは歴史上素性がはっきりもしているし、彼の足跡や素性の記述は多くあるはずなので、そこを中々曲げたり、脚色したり、というのは異論反論の的になってしまう。有名な歴史上の人物をモチーフにした物語の場合、えてして歴史的に余り記述・研究されていない詳細不透明な脇役の人物設定が一番興味深く脚色されていたりするのだ。これはいわゆる歴史物(時代劇)のドラマや映画にはよく見られることなのです。
もう一つ最近の歴史物の物語構造の特徴というのが、私たち現代人のアイデンティティを持った人物(多くは主人公として)を配すことなのです。昔の時代で私たち現代人の持っている価値観や考え方、ものの見方というのは異質ではありますよね、しかしそれを持っている登場人物には私たちは自然と共感を覚えてしまう、というからくりです。少し前にジェーン・オースティンを原作としたイギリス系映画が多く公開されましたが、そのどれもが主人公の女性たちが私たちに近いアイデンティティの持ち主だったりします。女性、アイデンティティ、と来たらもうジェンダーの匂いに誘われる読者の皆さんも少なくないのではないでしょうか?
さて、いかようにキーツの相手役である女性ファニー・ブローンが物語構造上描かれているかと言いますと、彼女が物語を動かす推進者になっているという点に尽きます。彼女のキーツに対する心情の抑揚がそのまま物語の抑揚に繋がっているとでも言いましょうか、キーツとの関係を左右するのがファニーその人だからとも言えるかもしれません。そして何より、ファニーは当時の価値観に立ち向かう現代的アイデンティティを持った女性であります。財産や所得のない男は結婚するべからず、また女性も結婚するならば「持っている」男を選ぶという風潮が色濃い中、ファニーは貧困にあえぎ、友人宅を間借りしている身、さらに今後生計を立てれるかどうかも分らない詩人青年キーツを周囲の目もくれずに恋します。家柄・身分もそっちのけ、というわけです。これにアレルギー的反応を見せるキーツの編集者でもあり友人のブラウンが当時のアイデンティティの権化的良いリトマス試験紙となり、ファニーの価値観と対照的に見せてくれる仕掛けも施されています。更に、彼女はファッションに興味を持っていて、自分で裁縫をして服をプロデュースして着ているわけですが、いわゆる当時の流行とされているファッションから一歩抜け出ようとアイデアを具体化させているわけなのです。つまり、当時の既存のジェンダー観に私は縛られたりしないの!という主張をしているようでもあります。
では、今回はその服装、コスチュームをジェンダーという視点で追ってみようと思います。
【ジェンダー視点テキスト分析】
今回は、物語が進むに連れて、ファニーの服装がどう変化していくのかを追ってみたいと思います。特に着目するのは、首元と色合いです。映像内から「これ!」という画像を抜き出すわけにも行かないのですが、ニュアンスが伝わる画像をいくつか記事に貼ってありますので、参照しながら読んで頂けると分かりやすいかと思います。
首元がキーツとの関係性、つまりファニーとキーツの関係の状況・状態を表現しているように映ります。キーツと知り合う以前は、自身のプロデュースする首元のプリーツが強調された服装をしています。ひだの大きな襟巻きとでも言いましょうか。タイトに首が覆われている状態です。これがキーツと出会ってから彼女が彼に惹かれていくに連れて、まずプリーツがなくなります。襟元がはっきり見える服装へと変わっていきます。そしてキーツと恋に落ち、幸せな時間は、彼女の襟元は広がり、胸元まで素肌が見える服装へと変化してゆきます。最終的にファニーの襟元を見ると、キーツとの恋の行方まで見えてしまう、というわけです。対するキーツの服装はといいますと、ほぼ変わり映えのしないコスチュームで一貫しています。つまり動くのは女性、彼女の服装のフォームが物語を動かす一因となっていることは明白です。
次に色合いを見ていきましょう。キーツはコスチュームのフォームと同じように、色合いも一辺倒。それほど劇的な変化は見せませんが、ファニーは本当によく変わります。記事内の画像を見て頂けるとおわかりになるかと思いますが、キーツに恋焦がれている時は暖色系の胸元が空いた服、キーツに寄り添って仲むつまじい時には、胸元まで空いたキーツと比較的同系色の服装、キーツが一時的に遠くへ行ってしまって、恋文を待つ時間は純白で襟だけはきちんと閉じた服装(身の潔白・貞操観念の象徴みたいですね)、そして最後には・・・。ここまで流れを追ってみると、読者の皆さんはもうお分かりだと思います。
首元、色合い、見て下さい。イギリスの郊外や天気の悪い日が多いどんよりした空気や背景などが、服装の変化をより一層際立たせているようにも思えました。作品タイトルになっているように、ブライト・スターが誰を指しているのか、その輝きの質と表現の変化を読み取ってみると、作品の構造がよりはっきりと見えてくると思います。キーツの詩の引用や暗喩的な感情表現の言い回しが多いので、興味のおありの読者の方は言語だけでも満腹になってしまうかもしれませんね。ただ、とてもポエティックな映像表現も非常に興味深い作品となっております。
この目で確かめたい!という読者の皆さんはぜひ劇場で鑑賞して確かめてみて下さい。
(6月5日より東京Bunkamuraル・シネマ、銀座テアトルシネマ、新宿武蔵野館ほかにて公開中) 公式サイト:http://www.brightstar-movie.jp











