ジェンダーで観る映画『ローラーガールズ・ダイアリー』
テーマ:ジェンダー視点メディア作品評はい、読者の皆様いかがお過ごしでしょうか。
今日は“ジェンダーという視点で観る映画作品評”です。
作品はこの5月22日に公開されました『ローラーガールズ・ダイアリー』です。
原題:『Whip It』 /2009年アメリカ/112min/配給:ギャガGAGA★
【あらすじ(Synopsis)】:
舞台は、アメリカ・テキサス州。16歳のブリス(エレン・ペイジ)は、テキサス州の片田舎にあるボディーンという街で暮らす高校生。教育ママのブルックス(マーシャ・ゲイ・ハーデン)は地元のミスコンへブリスと妹を参加させて、女性を磨かせるのが生き甲斐。父親はそんな妻に理解を示しながらも、息子の居ない女所帯にちょっぴり哀愁を漂わせている。学校へ行き、放課後は親友のパッシュと近くのダイナーでアルバイト、休日は母に連れられてミスコンへ出場、こんな毎日にブリスは退屈している。何かを変えたい、もっと自分らしい生き方を見つけたい、そんな思春期らしい欲求と葛藤し、今の生活に疑問を感じ始めていた矢先に、1枚のチラシ広告を目にする。ローラーゲーム興行の宣伝チラシ。なぜか興味を引かれずにはいられなかったブリスはパッシュを連れてローラーゲームを観に行くことにするのだが、これがきっかけとなり、彼女の生活はドラマチックに展開してゆく・・・。
【ジェンダー視点物語構造】
ジェンダーポリティクス先進国のアメリカにおいても、地方ではまだまだ旧来のジェンダー感が根強いことが伺える現代舞台となっているテキサス州郊外の町ボディーン。また、アメリカの一つの文化とも言える「ミス・コンテスト」。ジェンダー的な視点で見ると、女性をディスプレイし、エストロジェンオーラを人前で晒し、大衆の「Visual Pleasure」になる行為とも受け取れます。つまり、存在意義に対する議論はさて置きまして、旧来のジェンダー観念の権化とも言える存在が「ミス・コンテスト」と言えるのではないでしょうか。その真っ只中にいるのが主人公のブリス。それを率先して奨励し、娘の幸せであると信じて疑わない母ブルックス。
物語は、そんなブリスが、「ローラー・ゲーム」へのめり込んでいくことで進みます。「ローラー・ゲーム」という存在はこの作品の中で「ミス・コンテスト」とは対照的です。いわゆる“男勝り”であることが美徳とされる世界。「ミス・コン」が肉体的に女性化というベクトルを持っているとすれば、「ローラー・ゲーム」は肉体的な男性化のベクトルと言えるのではないでしょうか。その両者の間を振り子のように彷徨うブリス。まるで“The Wondering Jews”ならぬ“The Wondering Bliss”といったところでしょうか。
青春期にありがちな、将来に対する不安や、恋愛に対する不安、それらの裏にブリスのジェンダー観の揺らぎが見て取れるわけです。こうした構造で見ますと、物語の帰結は、ブリスがどのような生き方の選択をするか、ということと連動してくるわけです。「ミス・コンテスト」なのか、はたまた「ローラー・ゲーム」なのか。彼女はジェンダー的な決断をどうするのでしょうか。はたまた決断できるのでしょうか。
この作品の中で非常に興味深い機能を果たすのが父親の存在と彼の肖像です。「ミス・コンテスト」や「ローラー・ゲーム」はもはや女性たちの世界です。登場人物もほとんど女性たちばかり。そんな中で父親の意思や言動が物語の影の推進力であり、また救済者であるように描かれています。彼はいわゆるジェンダーセンシティブな男です。妻や娘たちのよき理解者になっています。しかし、彼の男性ホルモンは静かに、しかし沸々と彼を揺さぶります。隣の家庭の父親は息子たちの部活での活躍をユニフォームや看板を公然と家の前に出して自慢をします。それに対してブリスの父親は寂しく見つめるしかない、そんなシーンが物語っています。彼のもっとも注目すべき機能は作品物語の最終解決の鍵を握っていることです。彼のさじ加減がブリスを最終決断へいざなうのです。最後に娘の自慢を家の前でお隣の父親に見せつける辺りは、この物語のジェンダー観の最終提起に他なりません。
ジェンダー的に読み解くと、この作品は新たなジェンダー青春物語と言えるのではないでしょうか。
【ジェンダー視点テキスト分析】
今回は、本記事2枚目の画像でテキスト分析をジェンダーの視点で行ってみます。「ミス・コンテスト」用の衣装を試着しているブリスとそれを付き添う母の画です。彼女の表情が物語っているように、ブリスは困惑しています。華やかな女性的な衣装に囲まれ、鏡に映る彼女の姿を含めて3人のブリスがいます。彼女のアイデンティティが分散してしまっているように見えませんか?また、実際本人の姿は後姿。私たちが目にしているのは鏡ごしの彼女。はたして彼女の本当の姿はどこにあるのでしょうか。その後姿のブリスの衣装に注目してみましょう。背中がまだ閉じられていませんね。母親は一生懸命にウエストを気にしています。絞り方が足りないんじゃないかと言わんばかり。そんなブリスは衣装がなんだか窮屈そう。ドレスが女性というステレオタイプの殻に見えませんか?背中が大きく開いて素肌が見えているのは、そんな殻から本当の彼女が垣間見えて、今にも飛び出してきそうな感じに見えます。まるで、蛹(さなぎ)から蝶が出てくる直前のような・・・。こんなところからも、ブリスが母親から押し付けられるジェンダー観へ疑問と不安を抱えていること、結果としてブリスがいずれ殻(ドレス)を破って出てくるであろうことが投影されているのが分かるのではないでしょうか。
さぁ、普段より読み解くことに慣れている読者の皆さんはこの物語の最終解決がどんなものなのかご想像頂けるのではないでしょうか?この目で確かめたい!という読者の皆さんはぜひ劇場で鑑賞して確かめてみて下さい。
(東京・TOHOシネマズシャンテほかにて5月22日より公開中・全国順次公開)
【公式サイト】:http://roller-girls.gaga.ne.jp/







