2005-05-09 19:00:11

近松秋江「黒髪」

テーマ:書評
著者: 近松 秋江
タイトル: 黒髪・別れたる妻に送る手紙


『別れたる妻に送る手紙』の方は未読なのだけれど、『黒髪』は読んだので。

この話は、つまり主人公である男が、好きな女のことを追いかけて、数年に渡って会いに行ったりするという話。仕事の話が出てくるでもなく、のんべんだらりと自分の好きな女のことだけを考えている毎日が、綴られている。これは、作者である近松秋江自身と重なる人格であるらしく、正宗白鳥によれば「人間としては嫌いだった。無責任だし、あいつとは事を共にするべきじゃないと思っていた。けれども、書いたものはいいですよ」という感じの人だったらしい。


話が好きになれるかなれないかは、かなり人によって違ってくるのではないかと思われる。いつまでたっても、男は女に騙されているのがわからないらしく、彼女の姿ばかりを追いかけているため、短気な人なら、何をやっているんだか、と思わずにはいられないと思う。しかし、実はわかっていて騙され続けている感も、この主人公は感じられて、売笑を商売にしている女を好きになってしまっているため、他のどんな男と会って関係を築いているのかは定かでないのに、それを「強いて自ら欺くようにして、そういう不快な想像を掻き消し、不安な思いを胸から追い払うように努めていたのであった」ということであるから、そういった自分を騙してでも人を追い続ける感覚に共感できる読み手なら、感情移入も容易にできるだろうし、かなり好きな小説になりうると思う。

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