2009-10-26 10:25:00 posted by shimorix

戯曲の技術 その3

テーマ:演劇論
ではどうやって構造を作るのか、ということを前回より少し具体的に書きます。

4人という登場人物配置が解りやすいので、テネシー・ウィリアムズの「ガラスの動物園」を例に取りましょう。

まず主人公は、現状に不満を抱え、しかし家を出ていくことのできない青年トムです。父親は家を出ており、母親と姉と共に住んでいます。この3人の共依存の状況の作り方が優れています。トムはアマンダを蔑みつつ、父の勝手さも憎んでいます。姉のローラは不具であり、内向的な性格です。トムはローラに対しては恋愛に似た感情を抱いています。アマンダはいなくなった夫の代理としてトムを支配しようとします。極めてユング的な家族のありさまがまずは「在る」わけです。お互いにこれでよいと思っていないのに、ジリジリとした毎日が続きます。

そこに外部からやってくるのがジムです。ジムはローラの心をさらい、アマンダに夢を思い起こさせ、この家にあった均衡を一気に破っていきます。しかし、ジムには婚約者があり、そのため家の救世主とも、ローラの救世主ともなりえません。ヒーローかと思いきや、ただのトリックスターとして、この家をひっかきまわすだけひっかきまわして去っていくわけです。

さて、この「ガラスの動物園」をもしも3人芝居にしなければならないとしたら、誰を削るでしょうか。
もちろん削ってしまったら名作としていまでも上演される作品になったとは思えないので、乱暴なたとえ話ですが、しかし答えははっきりしています。

トムかローラかアマンダを削るしかありません。どう考えてもいちばんの脇役であるジムではなく、主人公チーム3人のなかからひとりを削るのです。

ふたり芝居にするとしたらどうでしょうか。

やはりトムかローラかアマンダでしょう。

行き詰まった家族があり、そこに外部からいっしゅんの希望をもたらす人物がやってきて、しかしより大きい絶望を与えていなくなことによって、家族(ふたり芝居になってしまったら個人ですね)が崩壊する、という構造を支えるためには、ジムの存在は不可欠なんですね。

もちろんトムとローラとアマンダでジリジリするような関係を見せ続けるという話を書くことも可能は可能です。内部的な事件だけでも十分書けるくらいの魅力的な3人だからです。しかし、そうなると「ガラスの動物園」というよりは、イヨネスコの不条理劇のような作品になっていくでしょう。現状を打破するひとが誰も出てこない、というのが不条理劇を不条理たらしめる要素のひとつだとわたしは思います。ですから、「ガラスの動物園」という話を3人でやるとしたらという問いを立てた場合、やはりジムを削ることはできないとわたしは考えるのです。

最近あちこちで上演されているプルーフというたいへん優れた戯曲があります。これは、「ガラスの動物園」の本歌取りとでもいうべき構造を持っています。もちろんさいごがある意味ハッピーエンドであるところは違います。まあしかし、ジムがローラを救い出すかどうか、というのは、その構造が持つ選択肢のひとつとして「ガラスの動物園」でも可能だったものなので、登場人物の配置と役割分担、それに伴う筋の進みだけならほぼ同じ戯曲と言ってもいい。そこに「数学」という要素を放り込むことによって、まったくあたらしい物語として生まれ変わったのが、プルーフと言ってよいでしょう。

同じテネシー・ウィリアムズの「バーサよりよろしく」も4人芝居ですが、これはジムのような存在が設定されていない(チラリと存在する少女が外部の存在を感じさせますが積極的に機能はしません)、バーサという女の崩壊の瞬間を描いた哀切な戯曲です。ネットで読むことも可能なようです。

これから戯曲を書くというひとや、戯曲の技術を磨きたいというひとは、3人ないし4人の1時間程度の戯曲を書いてみればいいのではないかと思います。できるなら一幕一場で。いまの作家さんはみな、「バーサよりよろしく」のようなタイプのものはうまく書けるような気がするので、小さくとも起承転結とブレイクポイント(クライシス)とそのための人物配置が必要な小品を書いてみたらいかがでしょうか。もしそれがうまくまとまらないのに、2時間、登場人物10人、なんていう戯曲を書くのは、たぶん不可能です。ウォーミングアップもせずフルマラソンに走り出すようなものだと思います。

さて。次はいつになるか未定ですが、さいごに乱暴に、ついでのように書いた、起承転結とクライシスの話を次回はしてみようかな、と思っています。このエントリはヨタヨタ、と、のんびり、続きます。

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