まもなく新年度がスタートします。新しい職場や人を迎える前に、自分を見つめ直すことが重要です。そんなとき経営コンサルタントの小宮一慶氏は、松下幸之助さんの著作を通じて「自己観照」をするといいます。多数ある著作の中から、小宮さんが毎晩かみしめるという5つの「大金言」を紹介します――。



春は松下幸之助さん「成功するビジネスマンの考え方・姿勢」

私は、松下電器(現パナソニックグループ(旧松下電器産業)創業者・松下幸之助さんの著作を愛読しています。その中には人生やビジネスで成功するヒントがたくさん書かれています。とりわけ新入社員など若手社員は「新年度」を迎えるこの時期、松下さんの金言を味わうといいのではないでしょうか。今回はその一部をご紹介しましょう。

(1)「すべてに学ぶ心」

松下さんはこう述べています。

「学ぶ心がなければ、何を見ても、何をしても、ただそれだけのことで終わってしまうでしょう。人と会って話をしても、人々の姿、世の動きなどを見ても、ただ話をするだけの見るだけに終わってしまう場合が多いのではないでしょうか」(『素直な心になるために』PHP研究所)

学ぶ心、そして、そのベースとなっている素直な気持ち。これがなければ、すべてのことから得られることはありません。つまり、自分は成長しません。

また、自分では「学んでいる」と思っていても、実際はそうではないケースも多々あります。大事なのは、時として甘くなりがち自己評価ではなく、お客さまや働く仲間、ひいては世間から評価されること。そうした客観的評価が出て、やっと「学んだ」といえるのではないでしょうか。

つまり、学ぶことが、自分のアウトプットの質や量を上げ、それが自己評価でなく、他人からの評価が上がることでしか、学びが本物となっているかどうかを判断できません。

心のどこかで「これで十分(学ばなくてもいいや)」と思っていたら成長は期待できません。「分かっている」と思うと勉強しなくなるのと同じです。ビジネスの経験を積んで、いろんなことが分かったつもりでも、素直に謙虚に、「まだまだ不十分、常に学ぶことが大切」「もっと素直にならなければ」と考えていくことが重要です。

「一人前で終わる人」と「一流になる人」の天と地

(2)「真剣勝負」

私が毎晩欠かさずに読む松下さんの『道をひらく』(PHP研究所)には「真剣勝負」という言葉の項目があります。人が成功するかどうか。それはもちろん能力の問題もありますが、それ以上に、ものごとに真剣に対応しているかどうかにかかっている部分が大きいと思います。

『道をひらく』(PHP研究所)の項目「真剣勝負」より

頭の良い人、要領の良い人は、人よりもうまく・早く物事ができるので、周りの人から評価されることが多いです。そのことは悪いことではありませんが、そういう人は、そのうちに、「適当に」ものごとをこなすようにもなりがちです。

そして、それが習慣化すると、いつかは、コツコツと、そして真剣にものごとを行ってきた人に追い抜かれ、人から評価されないということにもなりかねません。

要領の良い人が「一流」になりにくいのはそのためです。

「一人前」には人より早くなれるのですが、そこで慢心して、何事にも真剣でなくなり、「一人前」で人生を終えてしまうのです。もちろん、頭の良い人、要領のよい人の中にも常に真剣に物事に向き合う人はいますが、多くの人は社会人経験に慣れると少し緩みます。だから、いつも「真剣さが大切だ」という認識を持っていることが必要です。その意識の差が「一人前」と「一流」とを分けるのです。

新人社員や若手社員が、目の前のことを一生懸命、真剣にやることが重要なのは言うまでもありません。松下幸之助さんも、そのことを厳しく指摘されています。

「真剣」という言葉は、もともとは本物の剣ということです。

竹刀で防具をつけて剣道の試合をする場合には、打たれたら次は打ち返せばいいと思うかもしれません。しかし、木刀で防具なしとなると、打たれれば骨折ということにもなりかねませんから緊張度がちがいます。

「まして真剣勝負ともなれば、一閃が直ちに命に関わる。勝つこともあれば、また負けることもあるなどと呑気なことを言っていられない。勝つか負けるかどちらか一つ。負ければ命が飛ぶ」(『道をひらく』)

そういう気持ちで日々の仕事に取り組む人が成功するのです。

(つづく)