2012-03-05

御婦人との邂逅

テーマ:着物
話下手な私でも

初対面なのに少しの会話をしただけで

何かが響き合うということがございます。


東京の展示会場で出会った御婦人がまさにそうでした。



腰から上がすっかり曲がった御婦人、

隣にはそのゆっくりとした歩みを気遣いながら沿う奥様。


私の拙作が並ぶところまで来られると足を止めて

ある反物とにらめっこを始められました。


次にその場に腰を下ろされたかと思うと

にらめっこをしていた反物をお手に取って

「まあ~。」



…私の手掛けたものに目を留めて頂けることは

何より喜ばしいことです。



口角を上げて次をお待ちしておりますと

「なんだか懐かしいわ。これはなぁに?」

とお声掛け下さいました。


「こちらは…」

(ややマニアックですが)

それが羽二重をベースにしていること、

羽二重とは通常のちりめんの二倍にあたる

7500本の経糸(たていと)で構成されていること、

そして緯糸(よこいと)を三階建てにして

文様を表現していること、

などをご説明致しました。



「なるほど、しっかりしてるわね。」

こちらの素材、年配の方の中には

そのしっかりとした地風を「懐かしい」と表現して頂くことが

しばしばございます。



「私はね、ちょっと前まで毎日着物しか着なかったのよ。

 だけど腰がこんなになっちゃうとどうしようもなくってね。

 持ってる物を順番にこの子に回してるの。」



お隣で優しい表情を浮かべる奥様は

御婦人よりもお背が高く

裄も幾分長く要りそうに見受けられます。



「では全てお仕立直しをしてお譲りになられて…?」


「そうなのよ、譲るのも大変よ。

 だからもう新しいのは要らないのよ。

 私もこの子も。」


と仰ったかと思うと、

ずっと手に携えて下さっている反物を見ながら



「これ、頂くわ。」



…一瞬こけそうになりましたが、冷静に戻り、

不躾ながらお歳もお歳なので念のため


「素敵なコレクションをたくさんお持ちでしたら…」


と言い掛けた私を遮るように


「それでもこれは欲しいのよ。

 あなたも気に入ったわ。

 まるで売ろうとしないんだもの。

 静かにしてるけど、相当な自信家ね。」


「恐縮です。

 ではお嬢様のご寸法で…」


「私が着るのよ。

 あの世にいくときね。」


「それはそれは…ありがとうございます。」



まるでかみ合わない会話、

ところがそれがむしろ心地好く

少しの間お話を楽しませて頂きました。


その様子を見て、お隣におられる奥様もクスクス…



「私、これを着ていって、

 あの世でたっぷり宣伝しておくからね。

 いいもの作って、たくさん持っていらっしゃい。」


「了解致しました。」



至峯舎のひそひそ話



その後、別の場所で採寸などを済まされ、

お帰りになるお姿が見えたのでご挨拶させて頂きました。



「本日はありがとうございました。

 私もしっかり作り込んで、

 お待たせすることが無いように持って伺いますので…」


「あなた、急がなくていいのよ。

 私だってもう少しこの世でゆっくりするんだから。」



京都気質の私などには備わっていない

お江戸の「粋」という感覚がございます。



この勝負、気持ち良く、私の完敗にございます。


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