『小林小女』に?を感じたら読む本
『ブルース・リーと101匹ドラゴ
『少林少女』が『少林』も『少女』もロクに描いていない『小林小女』だと思った人、特に『少林』の部分に非常に疑問を感じた人は是非読んでほしい本である。
あの映画(と一応言っておこう)の失敗を表現するのに、製作者、脚本家、監督に「心のドラゴン」が棲んでないと表現が散見されるが、その「心のドラゴン」カミングアウトの画期となったのが本書である。
それ以前のブルース・リーや功夫映画の書籍が『燃えよドラゴン』公開当時にすでに映画に関わっていた人の手によるものだったのであるが、この本はまさに当時にガキであった、ドラゴン直撃世代による初めての本で、「近年の新たなブルース・リー・ブームの発火点となったばかりか、今ではブルース・リー信者、または香港クンフー映画ファンのバイブル(知野二郎『龍熱大全集』より)」である。
考えるな、感じろ!
最初から最後まで
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「映画秘宝」の創業者(笑)町山智浩は『映画宝島vol2 怪獣学入門』の編集後記でその当時(1992年)の映画雑誌に関してこう嘆いている。
「怪獣に限らず、徹底的に映画を解読してみせる評論って、最近あまり流行んないみたいですね。他の映画雑誌はみんなオシャレでビジュアル重視ですから。でも、このままじゃ、4百字で60枚以上の筋の通った論文の書ける映画評論家なんて、滅んじゃうんじゃないでしょうか(読んでもワケわかんないムツカシイ雑誌はあるけど)」
さて今回の別冊映画秘宝『切株映画の世界』はとにかく「切株=人体破壊描写」をキーワードに主要監督やジャンル別に各執筆者がおもいっきり持てる知識と思い入れ、それからたぶん鬱憤をこめた読み応え充分の本となっていて、映画秘宝のなにふさわしい出来である。
充分小汚いしね。
巻頭の切株派宣言!から切株派リ巻頭の切株派宣言!から切株派リーダーの一人高橋ヨシキ「「残酷!野蛮!何より娯楽!切株映画は悪夢のワンダーランド」は『ブルース・リーと101匹ドラゴン大行進』以来の熱気と胡散臭さ満載でもうたまらん。
ちなみに続編のタイトルは『切株映画の逆襲』で町山編集のベストセラー『トンデモ本の世界』と『~逆襲』を踏襲していて(『トンデモ本の世界』が出た時は編集者はまさかこんな本が売れるとは思わず非常に初刷が低く見積もられたというのは有名な話だが)、今春あたりには「切株」が流行語どころか日常語として定着しているかも。
あ、そういえば不思議なことに町山師父もそうなんだけど、「切株派」の提唱者の一人である中原昌也さんも原稿かいてないんだよね。
この作者は相当悪い人だ…いや、人が悪い
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帯で浅田彰が指摘してるように、作者は「したたかな悪人」である。その分(タイトルに反して)この話には決定的な悪人は出てこない。いいや、出てきとーやん(博多弁、久留米なら"でてきとーばいやん"、長崎なら…)という反論もあるだろうが、僕にはそうは思えない。なぜなら、この話に出てくる人間の言葉をそのまま信じてはいけないからだ。
冒頭から登場人物の多くがそれぞれ嘘をつくことで物語は展開していく。そして、その数々の嘘がある時はばりばり見え透いたもんだったり、ある時はそれなりに巧妙だったりするのだが、その中で思いっきり見え透いた嘘をついてるのが誰あろう作者なのだ。
いや、ほんと。嘘だと思うなら179頁の8行目と226頁の1行目を並べてみればいい。このことはお約束として真実を語る場所としてのモノローグにさえ嘘が混じってる可能性をほのめかして、犯人が自分のことを語るその言葉さえもが、どこまで真に受けていいもかどうかと読者を悩ますことになる。
だから読後しばらくどよーんしたまんま、で、ちっともすっきりしない時間続く。なにいってるんだ。人一人の命が奪われてるんだぞ。そう簡単にすっきりなんかしちゃいけないに決まってるじゃないか、すっきりなんかさせてやるもんか、といった声が聞こえる。
ホント吉田修一は人が悪い。