サウンドフェスタ2018 その2です。
今回はラージダイヤフラムのガンマイクについてです。
一般的にガンマイク(狭指向性マイク)は、60年以上前に販売されていた海外製の機種や30年前に販売されていた設備用のダイナミック型の機種以外、ほぼすべてがスモールダイヤフラムのコンデンサーマイクです。
スモールダイヤフラムのコンデンサーマイクは、ラージダイヤフラムのコンデンサーマイクと比べるとS/Nや耐入力、Dレンジの点で不利なため「ラージのガンマイクがあったら面白そうだよね」という話は仲間内で昔からありましたが、ついにテクニカさんが作りましたw
BP28L すごく・・・太いです・・・
従来のスモールダイヤフラムのガンマイクは耐入力が130dB程度のものがほとんどで、大音量のコンサートやライブ会場などでオーディエンス用マイクとして(SRスピーカーの真下や横から客席狙いで)設置すると、SRスピーカーのロー成分でマイクの耐入力を超えてしまい、(マイクや卓でLCFを入れても)歪んでしまうことがありました。
また、映画やドラマでのセリフ収録でもささやきから怒鳴る場面まであり、SE収録も条件が幅広く、いくら良いHAを使ってもマイク自体のS/Nが気になったり、近接では耐入力が問題になることがありました。
今回、サウンドフェスタのオーディオテクニカブースで展示されていたBP28とBP28Lは、ガンマイクとしてはこの数十年では他に例のないφ28mmのラージダイヤフラムを使用しており、それぞれのスペックが
BP28(全長48cm) S/N 89dB、最大音圧143dB、Dレンジ135dB
BP28L(全長57cm) S/N 94dB、最大音圧138dB、Dレンジ135dB
というラージダイヤフラムのコンデンサーマイクとしても最新スペックの高耐入力、高S/N、ハイダイナミックレンジのようです。
マイク自体は30mmちょいの太さだったかな?
実際に音を聞いてみると、f特は最近流行のオフアクシスでも音質変化が少ない、というかテクニカの他のガンマイクと同様に比較的フラットな印象で、セリフ用よりは環境音収録に向いたマイクだと思いますが、大音量の環境下や小さな音の収録ではラージの利点が活きてくると思います。
私も含め環境音やベースノイズ収録でラージダイヤフラムコンデンサーを屋外で使いたい(というか無理矢理持ち出す)エンジニアはけっこう多いと思うんですが、なんとか風防を工夫してもそもそもラージはカーディオイド(単一指向)までしかありませんでしたから、ラージの特性を持ったガンマイクは従来にない新しい存在です。これは屋外の環境音収録で使ってみたいですね。
ガンマイクの用途として多いのがセリフ収録ですが、セリフ録りは常にガンマイクがベストではありません。屋内などブームで近くに寄れる場合はガンよりカーディオイドのほうが周囲の反射音が少なくクリアに録れる場合が多いので、(国内でも)最近の映画やドラマ現場では判を押したように416ではなくカーディオイドのコンデンサーを使う人はけっこういます。
しかし、それでも87のようなラージのマイクを振り回している現場はありません。
私が録音技師として現場でカーディオイドを竿で振る(または振ってもらう)場合、テクニカのAE5100にソフタイをはめて使うことがよくあります。AE5100はスティックタイプでガンマイク用のショックマウントやカゴも流用でき、しかもダイヤフラムがφ24.3mmと大きめでS/Nが83dBとラージの恩恵があります。ただ、もう少しだけ指向性が狭くて繊細な音だったらなぁという不満があります。
海外ではセリフ録りのカーディオイドの定番はCMCですが、個人的にSchoeps特有の音があまり好きではないので(楽器でも声でも)メインとして使いたいとは思わないんですよね... CMCだと加工しても416や816と音が揃わないってのもあります。
今回展示されていたラージダイヤフラムのガンマイクは短いタイプでも48cmあり、指向性もなかなか鋭い感じでしたが、個人的には20cmくらいで416より多少甘く、AE5100よりは指向性の狭いハイパーカーディオイドくらいのタイプがあったら竿で振りやすそうだと思いました。メーカーさんにお伝えしてきましたので、ショートバージョン追加に期待したいところです。
それと、欲を言えばフラットではなく416のようなハイのピークがあるほうがセリフ録りには良いと思うんですが...ともw
余談ですが、416や816が同社の後継機種よりも、他社のどんなガンマイクよりもセリフ収録の定番ガンマイクとして何十年も重用されている理由はハイの特性です。何もしなくてもセリフだけは他のマイクよりハッキリ聞こえるという特徴が簡単・便利だからです。
最近は各社でオフアクシスの音質変化が少ないとか、フラットな特性を売りにするガンマイクが多いですが、プロでも個々の技術差はずいぶんありますし、新しい機種の特性を生かして使いこなせる人ばかりではありません。
私も条件を選んで使っていますし、上手く振ればより質は上がりますから否定はしませんが、416はなんとなく向けるだけでもハッキリ録れるお手軽マイクなんです。だからこそ定番として何十年も生き残っているわけですよね(^^;
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