Experiments With Pops/Gordon Beck | BLACK CHERRY

BLACK CHERRY

JAZZ, BRAZIL, SOUL MUSIC

  涼しげでポップなジャケットのアート・ワークが良い。

その内容はJazzミュージシャンの単なるPopsのカヴァー作品集とは一線を画した作品。

それはアルバム・タイトルを見ればよくわかる。

BeatlesWhoBeach Boysの作品など、とりあげられているのは当時流行のPops。

それらはあくまでも素材で、当時イギリス最強のQuartetの先鋭的な感覚と卓越した技巧で大胆に調理された。

できあがった作品群はきわめて英国的な感性に彩られた実験精神と瑞々しい個性の結晶。

鮮やかなReharmonizationとリズムの解釈、的確なArticulationはサウンドに深い味わいを与えている。

なんといっても音楽として聴いていて心地よくなれる点も重要。

自由に動き回るリズム・セクションとソロ奏者が互いに応酬しあい、リズムやメロディーが予期せぬ展開を見せる。

殆どの楽曲は原型を解体され、かろうじて聞き覚えのあるメロディーがテーマとして奏でられホッとする。

スリリングな演奏とカラフルな奥行きのあるアレンジ、巧みな構成力にキャッチーなテーマ。

PopsとJazzの融合なんていう安っぽい言葉で表現できないepoch-makingな作品。


 Gordon Beckといえば個人的にはUK最強Tenor奏者Tubby Hayesと一緒にやってるピアニスト。

またはNucleus で素晴らしいエレピを弾いている人という印象が強かった。

一般的には、Phil WoodsEuropean Rhythm MachineGeorge Gruntzの後釜、あるいはAllan Holdsworthがよく組んでいた鍵盤奏者としての方が有名かも。

とにかく、この作品に出会ってから彼の参加している作品を追いかけた。

高い技術を持ちながら歌心に溢れた大好きなピアニストの一人。

  『Experiments With Pops』は68年にMajor Minor Labelから発売された作品。

それにしても凄いメンツ。

Tony OxleyはEuropeを代表するドラマー。

タイプは違うけれどAllan GanleyKenny Clareと並んで大好きなイギリスのドラマー。

ベースのJeff ClyneGilgameshのオリジナル・メンバー。Nucleus, Isotopeでも活躍した人。

この2人が鬼のようにキレキレの変幻自在なリズムで煽りに煽る。

John McLaughlinは渡米してTony WilliamsLifetimeMilesのグループに参加する直前。

この4人の繰り広げるテンションの高い、それでいて、どこかCoolな演奏が気に入っている。

These Boots Are Made for Walking”はNancy Sinatraが唄っていたヒット曲。

Milestones”のリフ使い高速Modalチューンに変身。

いきなりのMcLaughlinのソロが熱い。

Norwegian Wood (This Bird Has Flown)”は6/8 拍子で楽曲自体の魅力を生かしたModalJazz Waltz

Beckのミステリアスなコード・ワークとMcLaughlinの12弦アコースティック・ギターが素晴らしい。
Sunny”はGordon Beckの流麗なソロ・ピアノ。

Up,Up and Away” も原曲のメロディーを生かしつつ起伏のある長尺ナンバーに変身。

I Can See for Miles” はClyneのArco弾きが効果的なリリカルで幻想的な雰囲気の曲。


Hancockの『The New Standard』の約30年前に、こんな素晴らしい作品が英国に存在していたんだ。


                     Hit-C Fiore