ポンツーン(幻冬舎)8月号にエッセイを寄稿しました。

 

 

 

 

「この世でもっともうまい食事」という内容です。

 

 

皆さんはどの食事がもっともおいしいと思っておられますか?

 

 

ぜひ教えてください。

 

 

 

私は北海道の某所で食べるイクラ丼がとても好きだったです。

 

 

なかなかたどり着けない場所にあることもあり、昔は私一人がお客さんだということもありました。

 

 

ところが、おそらくその地域の方々にとってはとても良いことだと思いますが、情報化社会で観光資源のことが広く知れ渡り、

 

 

そこにも観光バスや外国からの旅行者の方々が大挙して訪れるようになりました。

 

 

するとそのあまり大きくない食堂は、観光客であふれるようになりました。

 

 

そして……

 

 

残念なことに、あのイクラ丼も、もう食べることができなくなってしまいました。

 

 

メニューには載っています。注文もできますし、行けばそうします。

 

 

ただ、ちゃんと出ては来るのですが、……なぜか昔の味わいとは異なっています。

 

 

仕方ありません、数百人も来れば、一丼への濃縮度が低下するのは。

 

 

一日に数少ない客だった頃には味わえていた、珠玉の快感はいつの間にか消えてしまったのです。

 

 

ポンツーンに寄稿したものも、それに類するものかもしれません。

 

 

 

ある70代女性の患者さんは味覚障害で困っておられます。

 

 

がんの高度進行期には味覚障害がしばしば発症します。

 

 

彼女は調味料をテーブルの上にたくさん広げて、問題に対処していました。

 

 

「どれが合うか試してる。砂を噛むような味しかしないから、これを使ってちょうど良い」

 

 

笑顔に強さがにじみ出ていました。