・・・落ち着かない。
この城の図書館には読んだことの無い書物がたくさんあった。
本当なら今日はここに来るつもりはなかったんだけど・・・あたしは昔から本を読むと落ち着くらしく、不安な時や落ち着かないときはよく本を読んでいた。
それが今まで呼んだことの無い本ならなおさらだ・・・なのに。
・・・寝よ。
明日からの戦いは今までとは違ったものになるだろう。
そんなんだから、気持ちが落ち着かないからって寝不足で体調が悪くなる事だけは避けなきゃいけない。
・・・それなのになんで本を借りてきちゃってるのかなぁ。
『カノキセアさんになら顔パスで貸し出しおっけですよ』
そんな言葉を聞いた後からの記憶が無い・・・。
・聖属性と闇属性の相互について
・「時術」「空術」「錬金術」~属性でなく性質で分類される魔法~
・Knight of Princess
手元にある本のタイトルを見て自嘲めいたため息をつく。
特に最後のなんて童話じゃん。
この話自体はあたしも好きだけど、こんな時に読む気にはなれないなぁ。
そんなことを考えつつ自室に続く通路を歩く。
「おっ!カノキスじゃないか」
「流時・・・?あんたこんな時間に何やってるのよ」
とても人のこと言えたもんじゃないけど。
「なんていうかさ・・・落ち着かなくてね。それよりカノキスこそどうしたんだよ」
「あたしもなんか眠れなくて、ちょっと図書館まで本を読みに行ってたとこ」
「本を読むと落ち着くとか前に言ってたね。で、どう?眠れそう?」
「いあ、これがさっぱりよ」
ジェスチャーも加えて、だめだめっぷりを強調してみる。
「なら少し話しながら歩かないか?」
「お、流時もたまには気が利くこと言うじゃん」
「まったく・・・ラーにもキスティにも驚かされたよ」
「キスティのことを知らなかったのはあんただけだってば」
「それはそうだな・・・ははは」
「あはははは」
そんな他愛も無い話に華を咲かせていたら、城をぐるっと一周していたみたいだ。
「まぁしょうがないだろ?俺はこの世界で生まれ育った訳じゃないんだしさ」
ドクン
その言葉を聞いた時に胸が締め付けられるような気がした。
「っ・・・!」
「・・・どうした?」
「別になんでもないわよ」
どんな時でも平常心を保っているように表情を作る、そうやってあたしは生きてきた。
それは幼少の時から周りに期待の目で見られてきたことや、この年で学会に認められているといったことから自然と身に付いたと言ってもいい。
「さすがに今のは俺にだって分かるぞ?ナルほどじゃないけど、俺だってカノキスとは結構付き合ってきてるんだしさ」
なんで・・・?
さっきまでは落ち着いていられたのに、また落ち着かなくなってきたなんて・・・。
「おい・・・大丈夫か?医務室に向かおうか?」
「だ、大丈夫だってば」
そう言って、流時を振り切って早足で歩き始める。
気づけば私の部屋はもう目の前だったし、なによりこれより遅くなってしまえばさすがに明日に影響が出てしまう。
「おやすみ流時。おかげで眠れそうだわ」
はいはい嘘嘘、そんな訳ないじゃない。
でも、そうでも言わないと流時が寝るのも遅くなってしまう。
周りから期待されてる流時の体調が優れない・・・なんて状況を作るわけにはいかない。
「待て・・・」
「何よ?」
「俺・・・なんで落ち着かなかったかが分かったんだ」
急に何だって言うのよ?
それにあたしはなんで自分が落ち着かないかなんて分かんないわよ。
「俺ってこの世界を何も知らないまま旅してただろ。そんなんでも旅をしていたのは、セルシスが言う『運命』を知るためともう一つ・・・元の世界に帰る方法をみつけるためだったんだ」
「そんなことみんな知ってるって・・・」
「まぁ、そうだろうけど・・・。で、だ。セルシスが言うにはこの戦いの先にその方法が見つかるらしいんだ」
「そんなこと言ってたね」
ドクン
胸を締め付ける苦しさが強くなってきた・・・。
「本当に見つかるかなんてこの際どうでもいいんだ。問題なのは見つかってしまった場合」
「矛盾してるようで矛盾してないようで・・・で、とりあえず何が言いたいのよ」
「もしかするとみんなとお別れになってしまうかもしれないってことなんだ」
ドクン
また・・・?
「っ・・・!」
「だ、大丈夫か?」
「あたしのことはいいから続けて!」
なんでだろ・・・余裕があるわけじゃないのに流時の話を聞かなきゃいけない気がする。
「分かった。・・・お別れになってしまうかもしれない、そう思ったから俺は落ち着いていられなかったんだ」
「そ、それはあたしだって」
あたしだって・・・何?何だって言うの?
なんでこんなこと口走っちゃったんだろ・・・。
「ふぅ・・・」
流時は息を吸い込むとあたしの眼を見つめてこう言ったんだ。
「俺は・・・白神流時はカノキス・・・カノキセアのことが好きだ。だから、もう会えなくなってしまうかもしれない事に不安だった、落ち着かなかった」
ちょ、おま・・・なに真剣な顔してそんなことさらっと言いやがるのよ!
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
いきなりの告白で思考が回らない・・・。
そうなると自然に沈黙が辺りを重い雰囲気で包み込む。
空気が重い・・・・でも・・・でも・・・気持ちが落ち着いていくのが分かる・・・なるほど、そういうことだったのね。
「ごめん・・・体調が悪そうなの時にこんなことを言うともっと悪くなるよな・・・」
「・・・どうして謝るのよ?」
おやすみ・・・そう言って立ち去ろうとする背中にそう問いかける。
「ぇ・・・?」
「あたしも・・・流時のことが・・・好き・・・」
やばい、声が超裏返った・・・。
こんな大事な場面こそ平常心でいなきゃいけないのにっ!
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・ぷっ・・・あはははははははははは」
「わ、笑うなぁ・・・」
「あはははは・・・だってカノキスが動揺してるんだぜ?」
「う~~~~~~~」
「ごめんごめん」
「・・・ふん」
恥ずかしくなってそっぽを向く。
「カノキス・・・ありがとな」
「それはあたしもだよ・・・」
そんなこと言われると恥ずかしくて流時のこと見れないよぉ・・・。
でも、こういう時は・・・こういう時だからこそ・・・恥ずかしいけど・・・。
お互いにその先が分かっているかのように・・・
急にでもなく・・・かといってゆっくりでもなく・・・
二人は抱き合い、そしてキスをした。
短いようで長い・・・ようで、やっぱり短かったかな?
そんなことが頭をよぎる中、一つの影が二つに分かれる。
「カノキス・・・おやすみ」
「お、おやすみ・・・」
抱き合った感触が・・・キスをした感触が・・・まだ残ってるよぉ・・・。
やっぱりというか、なんというか・・・流時を直視できずに視線を泳がせながらその背中を見送る。
「おやすみ・・・」
その声は誰にも聞かれること無く闇夜に消えていった。
・・・落ち着かない。
ベッドで横になりながらそう思う。
でもそれは不安といったものから生まれるものじゃなくて、期待というものから生まれるもの・・・そう理解できる。
だからこそ・・・安心して眠りにつけるんだ。