“パワーブランドのつくり方” 1月になると、キットカットのクチコミが急上昇する本当の理由
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1月になると、キットカットのクチコミが急上昇する本当の理由
ここ2~3年、受験の験担ぎ商品は、1~2月期商戦の目玉になっています。「うかーる」で「カール」、「きっちり通る」で「キシリトール」、ポッキーまでが裏返して「吉報」。シリアスな受験なのに、駄じゃれオンパレードです。ま、藁(わら)にもすがる心理を突いているのでしょう。
その中で、先駆けといえるのがキットカット。受験生に焦点を当ててから、もう6年にもなります。しかし、キットカットは、一度として「きっと勝つ」という発信をしたことはありません。もともとは、福岡県太宰府あたりの高校生が、博多弁の「きっと勝つとぉ」と発音が似ていたので、お守りにキットカットを持ったことが始まり。消費者側からの自発的な発信だったのです。キットカットは「きっと勝つ」、消費者の人たちが自分たちで盛り上げていた。それが、真相です。
いくらクチコミの時代といっても、メーカーの仕掛けたバズと自然発生的な神話ではその広がりに差が付くのは目に見えています。
そういう意味では、キットカットは幸運でした。その幸運をチャンスに変えるため、侃侃顎顎(かんかんがくがく)の話し合いからスタート。その高校生たちの心理は?ただの遊び?ゲーム感覚?行き着いた結論は、駄じゃれにせよ、彼らにとって受験はシリアスな問題。それはきっと、チョコレートという枠を超えて、勇気を与えてくれるもの、落ち着かせてくれるもの、ホッとできるものになっていたに違いない、そういうことでした。
今にして思えば、これがキットカットのパワーブランドへの道だったのです。しかも、時代にはインターネットの追い風が吹いていました。
受験のために上京し、慣れないホテルに滞在。不安な気持ちはピークを迎えています。そんなとき、チェックイン時にホテルマンから「受験がんばってください」のひと言を添えて手渡されたキットカット。その心理状態を、ブログに書かないはずはありません。それが、あっという間に全国の受験生に広がる。そして、受験生から次の受験生へ。バーチャルな波紋は想像をはるかに超えていました。
ブログの書き込みには、もちろんポジ(好意的)とネガ(否定的)があります。でも、読んでいてうれしくなるのは、「いい話」。小さな地方の旅館に泊まったら、すごく親切にされた。レストランの気遣いに感動したといった話は、読んだ人がつい書き込みをしたくなるものです。皆さんでもそうでしょう、私は間違いなくこの種類の人間です。
つまり、「おもてなし」に感動している。ホテルなどのサービス業では、最重要課題でしょうが、実はすべてのブランドにとって大事なこと。パッケージ・グッズも例外ではありません。私はそう思っています。
どんなブランドにも、機能的な価値と情緒的な価値があります。キットカットでいえば、機能的な価値はウエハース・チョコレートのサクサクするおいしさ。確かに、キットカット独特のものです。しかし、それをまねして造るメーカーが出てきたとしたら、機能的な価値は半減します。そこで重要になるのが、情緒的な価値をどうつくるか。これこそが、パワーブランドに必要な要素です。スターバックスにしろ、ナイキにしろ、機能だけで選んでいるわけではないことを考えてみれば明らかです。
キットカットの情緒的な価値は、受験キャンペーンを通してつくられました。「そばに寄り添って、気遣ってくれる」。ホッとさせてくれる、応援してくれる、勇気を出させてくれる、そういうことでしょうか。
これはまさに、ブランドが消費者にする「おもてなし」です。ブランドのホスピタリティと言ってもいいでしょう。キットカットの赤い箱を見ただけで、オーバルのロゴマークを見ただけでそんな気持ちが沸き起こる。もし、そうならワクワクしますね。
その後の受験キャンペーンでやったことは、駅長さんからの応援メッセージ、本郷三丁目商店街からの応援、センター試験当日の駅から試験会場までの無料サクラサクタクシーの運行。いずれも、キットカットのブランド・ホスピタリティを示すものですが、お気づきの通り、第三者からのホスピタリティ。駅長さん、商店街の人、タクシーの運転手さんがおもてなしをすることで、受験生の不安を柔らかく解消しているのです。
これによって、キットカットは公共性をほんの少しだけ手に入れることができました。社会不安が大きく将来が不透明な時代には、押し付けの広告ブランド戦略は受け入れ難いはずです。こういう時代には、ブランドが消費者の心を気遣う。ブランドが生き残るために不可欠なものなのでしょう。しかも、時代はネット全盛。個人が発信するこのメディアにおいて、「公共性」は強力なエンジンになるはずです。
ご存知でしょうが、今や日本のブロガーの数は世界一。7000万人いると言われるブロガーの37%が日本人なのです。英語でブログを書いている人、つまり英語圏のブロガーをわずかながら上回っているのです。
もう一つ、日本人のネット好きはブランドを選ぶときにも顕著に現れています。米国では、ブランド選択要因の第1位が、「過去の使用経験」。中国は、「ブランドイメージ」。そして日本は、「インターネット」が第1位で、テレビなどのマス広告の2倍近くの数字になっているのです。驚きと同時に、ネットで調べている日本人の姿を想像してしまいます。
そのブログ大国、ネット信奉国を制するものは、間違いなく、21世紀のパワーブランドになるでしょう。マスマーケティング全盛時代のパワーブランドとは生い立ちが違う。ごく少数の発信元(テレビや新聞)から流された一方的なブランド情報ではなく、自然発生的に広がるブランド情報。確かに、それをコントロールするのは難しいでしょう。
「書きたいから書く」。そこには、ブランドへの好意しか存在しない。それを得たブランドだけが強くなっていく。ネット時代のパワーブランドとは、そういうものなのでしょう。皆さんの携わっているブランドには、ホスピタリティはあるでしょうか。お考えになってみてください。また、ご意見をぜひお聞かせください。「ブランド・ホスピタリティ」は、まだまだ考えなければならないことがたくさんありますから。
出典:日経ビジネス オンライン




