1.実質的に議論をしてものを決める会議
あるイベントの開催に向けて、調整の真っただ中なのですが、先日インド側関係者のみなさんと議論する会合を開きました。
日本側の意向は事前に聞いておいて、「ここは日本側が譲れないポイント」「こういうことをぜひ盛り込んでほしい」「ここは、できればこうしてほしいけどインド側がこだわるなら、ある程度は譲れるかな」「ここは、インド側にお任せでOK」「この点はしっかり確認しておかないと心配」など、論点ごとに方針を間違えないように把握しておいて臨みます。
インド側の意向も、それぞれの団体とは個別にコミュニケーションをとり続けているので、だいたいのこだわりポイントは把握しているつもりですが、団体間でも少し意見が違ったりしますし、団体内でも人によって少し意見が違ったりしますし、まだ意向が十分に固まっていない論点もあります。
今回の会合の主眼は、関係者が一堂に会して、共通認識を持ちつつ、一つひとつ物事を決めていく、そしてイベントに向けた役割分担と作業スケジュールを明確にするということです。
2.語学力の面でのハードルの高さ
10人弱くらいの会議で、自分以外はみんなインド人ですが、インド人は英語が達者な上に、議論好きなので、異なる立場の4者が集まれば、喧々諤々の議論が展開されます。結局、論点も多く、インド側の団体間で議論する論点も多かったので3時間にも及ぶ長い会議になりました。
英語でのコミュニケーションは、人数が増えるほどに難易度が高まります。僕の英語力は、伝えたいことはちゃんと伝えられるというくらいのレベルで、多くのインド人みたいにそれほど流暢ではありません。そして、何回も話をしているインド人の英語は聞き取れますが、初対面でなまりの強いインド人の英語は聞き取りづらいです。1対1のコミュニケーションだと、あまり問題はありませんが、同時に複数の人が話したりすると(インド人はみんなよくしゃべるので、よくこういうことが起こる)ちょっと聞き取れない時がありますし、10人もいると、2人くらいは聞き取りづらい発音の人がいます。1対1なら、聞き返すこともできますが、大人数だとそうそう議論を止めて聞き返すことも難しいですね。
3.思いのほか建設的な議論
そういう語学の面では、ハードルの高い会議でしたが、結果的には十分コミュニケーションがとれ、方針もよくまとまり関係者全員が共通認識を持てたので、大変実りの多い会議でした。とても長い会議だったので、みんな疲れましたが最後には口々にfruitfulとかconstructiveとか言って満足のいくものでした。
4.相手方の受容的なスタンス
なぜ、自分の語学力だとちょっとハードルの高い会議で十分コミュニケーションがとれたかというと、わあわあ議論している最中に僕が「ちょっと軌道修正した方がいいな」と思って話しだそうとすると、みんなが話を止めて「なんだ?言ってくれ?」「東京はこの方向で納得してくれそうか?」と聞いてくれたからなのです。
そして、「東京がこだわっているのはこういうことだから、今議論している方向ではおそらく納得しないだろう。」などと言うと、「わかった。じゃあ、違うやり方にしよう。」とすぐに受け入れてくれます。(もちろん、こちらも東京が受け入れてくれそうなことはインド側の意向を尊重します)
一般にインド人は自分の主張を強くして、あまり譲歩しないと言われているので、会議中に議論をしながら、そういうインド側の対応に少々驚きました。
5.なぜ受容的なスタンスをとってくれたのか
無駄な対立なく、スムーズに議論が進んだので、大変ありがたかったのですが、なぜうまくいったのだろうと気になったので、しばらく理由を考えていました。
よく考えてみるとこの会議は始まる前から、双方の意向をぶつけ合って戦う会議ではなく、お互いによいイベントを作ろうと対話する会議だという共通認識が会議の前からできていたのだと気づきました。
なぜ、会議前から対立ではなく対話を通してお互いにとってよいものを作るという共通認識ができていたかといえば、これまでの各団体との個別のコミュニケーションの中で、十分な信頼関係ができていたからなのだと思います。
自分なりに分析してみると、特に以下の4点が大きいのではないかと思います。
(1)「これまでほとんど交流がなかったのだから、対立や押し付けは何も生み出さない、まずは日本とインド、お互いにプラスになることからどんどん始めて交流を増やしていこう。」という自分の基本スタンスをみんながよく分かってくれていたこと、そのためには、相当率直に自分の考えをいつも伝えてきました。よくtranceparentなやり方でありがたいと言われました。
→ 自分のビジョンを日頃から伝え警戒心を解いてもらう。
(2)この人は、日本の意向を一方的に押し付けるのではなく、ちゃんとインド側の事情をよく理解し尊重してくれていると思ってもらえること
→ 相手にとって日本側の窓口として機能する。
(3)この人は日本側の意向をちゃんと把握していると信じてもらえているということ、
→ 発言に信頼感を持ってもらう。
(4)実際に日本側で対応できることであれば彼らがやろうとしていることをかなりサポートしてきたこと、
→ 役に立つ人だと思ってもらえること
という信頼関係が出来上がっていたからなのだと思います。
基本スタンスは、日本で法制度を立案していた時と同じなのですが、僕は弱点を突く交渉術やディベートがあまり好きではありません。論破しても相手が心から納得していなければ、その時は交渉を有利に進められるかもしれませんが、結局ものごとは動きませんし、大概相手との関係は1回限りで終わるものではないので、相手に納得感がなければ将来にわたって仕事がしにくくなるからです。
もちろん、自分の手の範囲に収まる話だから通じるやり方であって、関係者が極端に多い場合や、どうしても対立構造を背負わなければならない交渉や、一発勝負であれば、違うやり方が求められるかもしれません。それでも、根底に信頼関係がなければ、双方にとって余計に交渉が困難になるのではないかと思います。
先日、グーグルで生産性の高いチームの特徴を分析した興味深いネット記事(現代ビジネス「グーグルが突き止めた!社員の「生産性」を高める唯一の方法はこうだ」)を読みましたが、生産性の高いチームの特徴は「他社への心遣いや同情、あるいは配慮や共感」が高いということだったそうです。仕事を一生懸命進めようとしている人たちが公式なもの、非公式なものを含めて、日頃からの人付き合いや信頼関係の構築を大事にしていのは、やっぱりとても合理的なことなのだろうなあと改めて感じました。
→ 発言への信頼感インド側は、3つの団体が関係します。日本側も複数の団体が関係します。会合に参加したのはインド側の3つの団体、日本側の意向を代弁する自分という四者です。