医薬品分野の日印協力

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インドに赴任してから2年半が経過し、自分の守備範囲(厚生労働行政の分野)でも色々な協力が進んできています。今日は、その中でも最もニーズが高く動きが活発になってきている医薬品分野(特にジェネリック医薬品)について紹介したいと思います。


1.欧米市場におけるインドの製医薬品

インドのジェネリック医薬品は、その価格競争力を背景に世界200か国以上で売られており、米国で販売されている医薬品の3分の1、英国の医薬品の4分の1はインド製の薬です。


近年、インド製医薬品の品質や製造工程の問題により、欧米の当局から輸入禁止など厳しい措置をとられる事例が増えています。

米国や欧州の規制当局は自国の患者に安全かつ安価な医薬品が安定的に供給さきるよう、インドの規制当局や製薬業界と手を組み、インドの医薬品の製造工程の改善に取り組んでいます。(以下ロイターの記事)

http://mobile.reuters.com/article/idUSKCN0VW2EC



2.日本におけるインド製医薬品(これまでの状況)
日本市場は世界第二位の大きさですが、インド製医薬品は、これまでそれほど入ってきていませんでした。これには供給側と需要側両方の事情があると思います。



まず、供給側のインドの製薬業界はこれまで日本市場でのインド製医薬品の販売を模索してきましたが、あまりうまくいっていませんでした。規制の基準が欧米と異なる部分があるという点に加えて、欧米とは異なるパッケージの美観や薬の色など日本の独特の市場の要求水準、商慣行などをインド企業が理解するのは非常に難しいようです。

さらに、言語の障壁も大きいと指摘されています。インドは元々イギリスの植民地であり、社会に英語が根付いています。法律の原典は英語で書かれており役所への各種申請も英語で可能ですし、エリートの教育は小学校から英語で行われています。つまり、インド国内でさえ英語ビジネス上の公用語として機能しており、インド人のビジネスマンはほとんどネイティブ並みの英語力を持っています。彼らにとって、欧米との間で言語障壁はありませんが、ビジネスや役所とのコミュニケーションがすべて日本語で行われる日本との間では、大きな言語障壁があるといえます。


需要側の日本市場の事情を見てみましょう。まず日本は国民皆保険の国であり、医療用医薬品については誰もが医師の処方箋があれば3割負担(高齢者は原則2割又は1割)で医薬品を購入することができます。安価な医薬品が供給されなければ医薬品を入手できない人がたくさんいる市場とは異なるので、相対的に安価な医薬品のニーズが低かったので、インドの安価なジェネリック医薬品のニーズが大きくなかったと思われます。もとよりインド製に限らずジェネリック医薬品の認知が日本で広まってきたのも比較的最近のことです。


3.インド製薬セクターの変化

しかし、こうした状況は明らかに変わってきていると感じています。供給側、つまりインドの製薬業界については、ざっくりとした言い方になりますが、「欧米で受け入れられているインドの医薬品をそのまま日本で受け入れられるようにしてほしい。」という考えから、「日本の基準は尊重するので、どうやったら受け入れられるか分かるようにしてほしい。日本の基準や商慣行を熟知している日本の医薬品関連企業とインドの製薬企業のパートナーシップを強化したい。」という現実的な考え方に変わってきているのを感じます。



4.日本の医薬品市場を取り巻く環境の変化

需要側の日本の医薬品市場を取り巻く環境も変わってきています。先に述べたように日本は国民皆保険制度により、誰もが保険証を持って医療機関に行けば3割負担(高齢者は原則2割又は1割)で医療が受けられ、薬も手に入りますが、少子高齢化を背景に保険財政はかなり圧迫されています。保険料を支払う現役世代の人数が減少し、医療を必要とする高齢者が増えているからです。

誰もが必要な医療が受けられる社会を続けていくためには、同じ治療を(質を妥協することはできないが)より安い価格で受けられる方策や無駄を省くことを考えなくてはいけません。そのようなことを真剣に取り組んでいかなければ、日本の技術を活かした革新的な医薬品を保険制度の中に取り込むことも難しくなってしまい、そうなれば一部の裕福な患者さんしか最先端の治療が受けられないということになりかねません。



そうした背景の中で日本政府は、ジェネリック医薬品の促進を進めています。最近の大きな動きとして、20156月の閣議決定により2017年央にジェネリック医薬品の比率を70%以上とするとともに2018年度~2020年度のできるだけ早い時期に80%に引き上げるという目標を掲げました。現在のジェネリック医薬品のシェアは約56.2%(20159月速報値)ですが、数年後には欧米並みの水準にするという野心的な目標です。また、ジェネリック医薬品の量的拡充に加えて、徐々に薬価も下がってきています。


このため、日本のジェネリック医薬品業界は、生産拡大とともに生産コスト削減の方策を模索し始めています。そうした文脈の中で、医薬品製造コストが低く既に欧米の先進国の市場で実績のあるインドの製薬業界との協力への関心はかなり高まっているのを感じています。実際にインドからの医薬品の輸入量は近年増加し続けています。


5.日印の業界の交流

このような環境の変化は、日印の医薬品業界のパートナーシップの強化を自然ともたらします。201512月に安倍総理がインドを訪問された際の首脳会談の共同声明文書にも、日本のジェネリック医薬品シェア引き上げ目標は日印の医薬品業界の交流を進めるよい機会となる旨言及されています。


現に、ここ数年日本国内でもインド製薬に関するセミナーの開催も活発になってきており、年に数回、そのようなセミナーが東京や大阪で開催されるようになってきています。セミナーの内容も単に交流を始めていきましょうというものから、どんどん実践的な内容になってきていると感じています。



自分自身も日本に一時帰国した際には、医薬品業界の方々と意見交換をする機会を必ず用意していただいていますが、そうした意見交換会を開催するたびに参加される企業の方が増えています。



機運だけでなく、いくつかの日印の企業は既にインド製医薬品を日本基準に高めた上で輸出するための取組を始めていますし、インド進出を検討する日系の医薬品関連企業から私のところにご連絡をいただくことも増えています。今は、あまりなじみがないかもしれませんが、遠くない将来、インド製の医薬品が日本で普通に使われる時が来るのだろうと思います。


6.日印の当局間の協力

これまで述べたように、日印の医薬品業界の協力の機運は高まってきていますが、同時に日本の当局も色んな国との協力をしっかりと進めていく方針(国際薬事規制調和戦略)を打ち出しており、インド当局との対話も活発になり信頼関係が強くなっています。


両国の医薬品・医療機器業界の意向も後押しとなり、201512月には、日印の当局が協力を進める覚書が署名されています。20156月にとりまとめた厚生労働省の「国際薬事規制調和戦略」に基づく取組としては韓国、ブラジルに続き3カ国目となる二国間の覚書署名です。(以下、厚生労働省の発表資料)http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000107378.html



今後、こうした覚書を踏まえて、日印の当局間や業界も交えた交流、インド当局のキャパシティビルディングへの協力といった活動を本格的に進めていくことになります。インドの医薬品が日本で活用されるためには、日本の患者さんが安心して使えるように品質の確保と安定供給が鍵となりますが、どうすればそうした要求を満たすことができるのか、多くの人が理解できるような環境を作っていきたいと思います。



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