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2006-11-20

262.解ると理解のすれ違い

テーマ:彼女じゃない恋愛

「そろそろご飯食べようか?」
「うん」
「お風呂入ったんか?」
「ん?入る」
そんな会話を家族と何度かした。
もうこんな時間か、何度も思った。
何日かが経ってた。


携帯が鳴った。
着メロが鳴り始め「ピーッ…ピーッ…」と警告音が鳴り響き静まる。
充電切れた、そう思った。


その日もまた父が私の部屋の戸を開け言う。
「そろそろご飯たべようか?」
窓の外、陰る日も感じることが出来ずにやるべき事をやらされる日々。
私は携帯を充電器にさした。
そして食事を作る。
これがきっと何十年も続いていくんだと思った。
抜け出そうと思ったこと、バカらしく思えた。
食事を作りながら何度も携帯がなっていた事を思い出す。
だけど直ぐ忘れた。
そして何度も思い出した。
食事を取りながらも、お皿を洗いながらも…。


<俺と付き合ったこと忘れたいか?なかったことにしたいか?俺は意味あるものにしたいと思ってるよ>
付き合ってない。
あなたと私は何もない。
これから意味を見つけるところだった…。
何だったの…私は思ってる。
彼はマイナスな答えは出さないって言った…なのに。
これから答えを出さねばならない別れって、何なの。
きっとあなたとの関係は、私にとって意味あるものだと思った。
何故、今その意味を改めねばいけないの…。
部屋で携帯を眺め、淡々と心に呟く。
返信ボタンを押す行為に少しの踏ん切りが必要で、携帯を持ち替え力いっぱい手を握りしめ拳を作る。
<もう構わなくてもいいよ。こういう扱いには慣れてるし>
随分前に届いたはずのメールに返信したのだけれど、直ぐに彼から返事がくる。
<お前はいつまで現実逃避し続けるつもりだ?>
<逃げてないよ…ずっと同じ場所にいるだけだよ>
<それを現実逃避っていうんだ!>
<逃げてたらもっと楽なところにいる>
<何で動こうとしないんだよ。頑張ってくれよ>
<何でウチに構うの?おもしろい?>
<お前を傷つけたとは思ってるよ。だけど、病院の先生じゃないって言ったのは訂正しない。俺はせのりの友人であり理解者やで。強くなれ、頑張れって言ったのも投げた言葉じゃない。俺の気持ちも解ってくれよ。終わりでも始まりでもない、お前はお前なんだよ>
<私にどうなって欲しいんですか…>
彼が欲しかった言葉はこれじゃないって知ってる。
私は重い言葉で彼をいつも黙らせた。
それを私は素直にならなかったからだと思ってきた。
だけど、違う、これは本音。
私が本当の気持ちを言うといつも彼は黙った。
私はいつも素直で強い子を彼の前で演じてきた。
<一番理解してもらえてることなんて解ってる。何も言わなくったって伝わってるのかもしれない。だけど、私はちゃんと自分の言葉で言いたくて、聞いて欲しいって思ってる。ちゃんと感じたことは話してるつもりだった。なのに、話せてないとか解らないとか無言で電話切られたり患者扱いされたら、何も言えない。理解なんて私が求めてないこと解ってもらえてますか?心なんて読んで欲しいなんて思ってない。私の言葉を拾って欲しかった。ゆうじには何も言わなくてもいいみたいじゃない…それじゃ。もしかしたら私は病院で治さなきゃいけなかったのかもしれない。だけど、先生じゃなく友達や大切な人に聞いてもらいたかった。私、ゆうじと話したい。だから病院行ってきます。ちゃんと話せるようになったら話してくれるでしょ?頑張るから>
これでいいのかな…。
<お前の頑張り見てます。いつか決め付けだったと笑える日がくるように祈ってる。しっかり周りと向き合っていこうな>
<見てる?祈ってる?…私、ゆうじが言ってる意味が解らない。何で話してくれるって簡単な事言ってくれないの?嘘になるから?それとも私が人と話が出来ない人間だから、伝わってないだけなの?解んないよ…>
<見守ってます>
落胆した。
ただ、自分が欲しい言葉もらえなかっただけだったのだけど、私は彼の欲しがってる言葉を言ったのに…それが後悔をさそった。
携帯を握ったまま言葉みつからなかった。
<お前なら出来るから。お前は幸せになれるから>
見捨てられた気分だった。
生きた心地がしなかった。
気づけば右手にカッターを握ってて、怖くなって涙が溢れる。
<いつまでも側にいます>
気づける気持ちはマイナスな事ばかりで、あともう少しで死ねるんじゃないかって…。
だけど、私はそれでも生きたかった。
解らないけど…。
<せのりは、俺の大切な人だから>
代わりに携帯握り締めて、一夜を越した。
もう、彼には連絡を取らないって決めた。
彼は私の一番の理解者なのかもしれない。
<頑張れ、せのり>
今、気づけない気持ち彼は知ってて、何も言わない私に言葉をくれてる。
私は頑張ろうとしてるの?


溢れる気持ちとは逆に、私はいつもと変わりのない日を過ごした。
死んでしまいたいって思いながら、与えられた仕事精一杯やった。
一人ぼっちだと思った。


「なぁ、あいつウチらが思ってるような良い男じゃないんじゃない?」
親友が私にそう言った。
「ずっと側に居るっていったよ」
私はそう答えてた。
「連絡は?」
「連絡とらなくても関係は終わらないから」


もう誰も信じないと思った。


「あんた、おかしいよ…」
「そうかな?いつもと変わらないよ」


いつもと変わらない明日がまたやってくる。
季節も変わる。


「何で、そんなにあいつのこと信じられるの?」
「またかって思いたくないから…」


それだけだったと思う。



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2006-11-14

261.カウンセラーじゃない

テーマ:彼女じゃない恋愛

「話すことないなら切るよ」
とても低い声で、彼は無言をさく。
男性のこの声を女性は余り耳にすることはない。
男性を男性だと実感する瞬間、男性を怖いと思う瞬間ではないだろうか。
そんな話し方しなかったじゃない…。
「怖い…」
私は彼に媚びる。
私は女なのだから…と。
「怒ってないよ」
彼のトーンが少し上がる。
「面倒臭いんだ…。話したくないんだよね」
「そんなことない。ちゃんと聞くから」
彼のトーンが更に上がる。
別に私のご機嫌を取らなくともいいはずなのに、彼はいつもよりもゆっくりとした口調で子供をあやすかのように優しく話す。
「ウチ、ゆうじと話をしていたい」
「話、してるだろ?」
「うん…もっといつも話をしていたい」
「何の話をしたいの?」
「その日の楽しかったこと悲しかったこと」
「毎日は聞いてやれないよ…」
「聞いてもらえないと、自分がその日楽しかったのか悲しかったのかさえ分らない」
「自分の気持ちだろ…何で俺が教えてやらないといけない?」
「何でだろう…」
彼は直ぐに答えをくれなかった。
何で?何で?何度も心の中でつぶやいた。
「もっと外に出て、色んな人と接していかなくちゃいけないよ」
「話を聞いてくれる人がゆうじしかいない」
「作ろうとしないだけだろ?!」
「違う…ゆうじだって思ってた筈だよ…なんでこいつこんなに話すのがとろいんだって…」
「思ったことないよ」
「言葉を受け取って吐き出すまでに時間が掛かることくらい自分でよく分ってるし、少しでも早くって思ってる。だけど…私の言葉を待ってくれる人なんていない」
「必ずいるから…」
「何で…私が頑張らなきゃいけないの?話を聞きたいって言ってくれたゆうじがいたから…それじゃダメなの?」
「それでいいよ。無理はするなっていっただろ?」
「言った…でも、ゆうじが聞いてくれないから…一人ぼっちが嫌で…」
「そうだよな…ごめんな。俺が全部悪いんだよな!」
「何で…何でそんなこと言うの?」
「そうだろ!お前が話すことは全て俺を責めてるわけだよな?!」
「違うよ…聞いて欲しいだけ…だよ」
「それで?俺は何ていえばいい。何て言って欲しいの?!」
「そんなじゃ…ないの…お願い…解って…ください」
「解ったから」
「解ってないよね…」
「もうその話はいいから」
「嫌…解って欲しいの」


どれくらい無言が続いただろうか。
「あのね…」
「うん」
無言を消し去る相槌を彼は打ってくれる。
いつもそうだった。
初めて言葉を交わしたときから、私の言葉を待ってくれた。
私の無言を皆は「無感情」だと言った。
私の感情を聞いてくれるのは彼しかいない…私は思ったんだ。
「友達を作ろうと思ったの」
「うん」
「ダメだった…」
「何でダメだったの」
「セックスが付きまとうから」
「女の子でもいいんじゃないのか?」
「女の子はあの子だけでいい」
「そっか…彼氏作ろうと思ったんだな?」
「…うん」
「そんな奴とは仲良くならなくて良かったと思えばいい」
「うん、良かった…」
「全てがそんな奴ばかりじゃないから」
「でも、いつも同じ」
「……」
「…なんで何もいってくれないの?」
「ん?あぁ…お前、仕事は?」
「したくない」
「何で?」
「……」
「何で?!」
「怖いから」
「何が?」
「……」
「何が?!」
「言いたくない」
「やりたい仕事とかないの?」
「やだ!もうやらない」
「いくつか面接受けてただろ?」
「嫌なの…」
「何が?」
「今、言わなきゃダメなの?前にも言ったよ…」
「お前はずっと過去を引きずって生きてくのか?」
「おかしいことかな?」
「そりゃ痛いんだろうと思うよ、だけど痛がってばかりじゃ何もできない」
「痛くなんかないよ、痛くなるのが嫌なんだよ」
「レイプされたのはお前だけじゃない。世の中にはそれでも頑張っている人がいるはずだ」
「何で、レイプされた人間が頑張らないといけないのよ…」
「……」
「そんな所で頑張る必要なんてなかったはずだもん」
「そんなこと言ったって、変えられないだろ」
「何で?男は何でセックスしたがるの?私を見てヤりたいって言うんだ、何で?肩を触ってきたり時には胸を触られて、挙句浮気相手や愛人にしたがる。ゆうじはウチを見てどう思った?」
「……」
「何か言ってよ!」
「女性の魅力が自分の意思とは別に溢れている女性は沢山いるよな。だけど、その女性たち全員がそういったレイプやセクハラを受けてるわけじゃない。お前の在り方にも問題があるんじゃないのか?」
「ゆうじもウチがそんなだからセックスしたんだね…」
「違う」
「軽い女に見えるんだよね」
「違うって」
「だったら、どうしたらいいのかなんて判らない。ウチは普通だもん」
「…そうだな」
「わからないから、嫌」
「お前さえしっかりしていれば大丈夫だよ」
「ウチの意思が緩んでやられたと思ってるわけ?」
「ごめん、言い方が悪かった」
「許したことなんて一度もない。ウチはゆうじとセックスがしたいと思ったんだ」
「ごめん…もういいよ、せのり。ゆっくりでいい。だけど、必ず違う明日が来る。これだけは信じて」
「違う明日なんていらない。ウチはずっとゆうじの言葉を信じてきた」
「なら、信じられるだろ?」
「最後だと思ったんだ。この胸の痛みがゆうじで最後だと思ったんだ。もう、痛むことはないって信じて、この痛みを乗り越えさえすれば幸せになれるって思った。なのに…また、痛みがやってくる。何度、胸を痛めたら幸せになれる?」
「過去を捨てろ…」
「捨てられるわけないじゃん」
「捨てろ」
「捨てさせてくれなかったのはゆうじでしょ!」
「……」
「この何年間で色んなこと思い出した。何で笑わないの?聞いたのはゆうじ。何で名前で呼んでくれないの?聞いたのはゆうじ。何で触れてくれないの?なんでセックスで泣くの?何でセックスで震えるの?何で何も話さないの?何で好きって言ってくれないの?何で気持ちを出さないの?楽しいの?悲しいの?怒ってるの?泣いてるの?素直になれ、強くなれ、泣いてもいい、甘えろ…俺が守るからって言ったのはゆうじ」
「確かに言った。癒せたとも思ってた」
「また、聞かれるんだよ…。彼氏ができたとしても、セックスして何で震えるの?って…。何て言おう?もうウチは話したくないよ、嘘もつきたくない。そりゃね、引いちゃう人もいるだろうけど、好きになってくれる人だったらきっと受け入れてくれると思う。それが最後だったら、笑顔で話すよ。胸に刺さったナイフを、そっと抜いてくれると思う。ゆうじと体を重ねる度に胸が軽くなるのを感じてた。セックスって怖くないじゃん、気持ちいいじゃん、幸せなんだなって思った。ゆうじも感じてたでしょ?ゆうじは、だったら俺じゃなくても大丈夫って思ったんだよね…。でもね、あるんだよ胸にナイフが…。何のセックスだったのかな…」
「性欲だけで抱いたりはしていないよ」
「ふふ…ありがとう。でも、何も感じない」
「……」
「確かなものが欲しかった。じゃないと、もうナイフを抜く勇気は出ない。すごく…怖かったんだ。戻りたい…何も感じなかった頃に…痛みなんて知らなかった頃に…セックスなんて簡単だった。愛されてなくったって寂しくなんかなかったもん」
「本気で言ってんのか?」
「何でゆうじだったのかな」
「……」
「きっと世の中には、ウチにあった人が沢山いるよね」
「……」
「これから出会ってももう勇気出せないや」
「…俺じゃなくてもよかったってことか?」
「そうだね『ゆうじだった』んだだろうね」
「どういう意味?」
「話を聞いてくれる人だったら…タイミングだったんだね」
「……」
「何で彼女のいる人とか、直ぐ心変わりしちゃう人だったんだろう」
「出会わなきゃよかったか?」
「感謝してる。私の心を見つけてくれてありがとう」
「……」
「ウチ、話せる人ゆうじしかいないんだ。ゆうじに心開いちゃった。もう閉じられないよ」
「俺はどうしたらいい?」
「話を聞いて…」
「お前の話を聞くってどういう意味なんだ?」
「もっと解って。もっと理解して」
「理解しているつもりだよ」
「じゃ、何でウチの心はこんなに複雑なんだろう?ウチの知ってる言葉とゆうじが知ってる言葉が違うんじゃないかって時々思う。どんな言葉を吐き出したら伝わるんだろうっていつも思う」
「解ってるよ」
「うぅん、違うと思う。ウチ、伝え切れてない。もっと伝えたいの。吐き出したい」
「はぁ…」
彼のため息でまた無言が訪れた。


「なぁ、せのり?」
彼はこの無言で、ある意思を固めたかのように深く私の名を呼んだ。
「俺を責めろ、もっと憎め」
「何で?」
「お前はそうしないと次へ行けない気がする」
「それってゆうじが楽なだけなんじゃない?」
「あぁ、それもあるかもしれない。お前には本当に悪い事をしたと思ってる」
「そう?」
「混乱させてるのは俺だ、それは自分でよく解ってる。素直になれと言ったり強くなれと言ったり甘えろと言ったり甘えるなと言ったり…素直になれって言ったのは俺、それを拒んでるのも俺、俺を責めてお前がやりたいようになればいいんじゃないのか?」
「…よくわからない」
「うん…そうやって解らないフリする女もいるけど、お前は本当に自分の感情をみつけられずに苦しんでるのもよく知ってる。それに、お前が感じてることは俺がよく知ってる。俺が言ってやってもいいが、必ずしもそれが正解とも限らない。お前は、今までずっと俺が言うことを忠実にやってきた。でも、それじゃ人形と変わらないんだよ…」
「なんで?ゆうじが何か言ってくれたら、ウチは確かに感じることが出来る」
「今、素直になれって俺が言ったら何て言う?俺が強くなれって言ったら何て言う?お前は俺の操り人形じゃない」
「強くはなりたくない…素直になりたい」
「……」
「それじゃダメ?」
「だったら?」
「話を聞いて欲しいって思ってるよ」
「声が聞きたかったって何で言えない?」
「え…」
「嫌われると思ったからか?」
「え…違っ…そんなこと…」
「思ってなかったのか?じゃ、何で俺?ってこんな事自分で言うのも変な話だけど、そうだろ?」
「ただ…」
「ただ、何?」
「ただ…自分が壊れそうで怖くてそれしか頭になくて…頼ったのがゆうじだった。ゆうじなら何とかしてくれるって…」
「俺は弱音を吐くためだけにいるのか?」
「そんな時じゃないと話してくれない」
「俺と話すためにそうしてるのか?」
「違うよ!本当にいっぱいいっぱいだったんだ」
「俺ら、別れたときに一緒に頑張るっていったよな?」
「うん」
「俺もくじけそうになるけどお前に弱音は吐かないだろ?」
「話してくれればいいじゃん」
「話して何の意味がある」
「励ませる」
「俺はお前の話を聞いて励ますことは出来ない」
「そっか…」
「素直になりたいと思ってるんだろう?だったら強くなれ」
「でも、毎日強くは生きられない」
「弱音じゃなく、もっとしっかり自分持って話をしろ」
「わからないから…」
「何でもいい、自分に答えを与えてやれ。何で何でって思っててもしかたないだろ?素直に思ったことでも、それが捻くれた形でもいいし、間違っててもいい。対極にある思いがお前の中にあるから、どちらも認めることが出来なくてわからないフリをしてるだけだろ」
「どういう意味?」
「俺に遊ばれたんだ、そう思うことあるだろ」
「……」
「好きなのに何で好きになってもらえないんだろうって思うだろ」
「……」
「俺を信じてくれることは嬉しい。だけど、そんな風に思ってもいいんだよ」
「思ってない」
「俺はお前にちゃんとした言葉で説明してやることが出来ない。嫌われるような事を言って憎まれてもいいって思えないのは俺のズルイところだ。いつまでもお前に好かれていようとしている」
「だったらずっと側にいてくれるでしょ?」
「そばにいるしお前を守ることも裏切らない。ただ、俺がいなくてもちゃんと生きられるようになって欲しい。罵ってくれても構わない。甘えたければ甘えればいい。お前の意思がお前には必要なんだよ。俺が言ったからとかじゃなくて」
「だって、一人じゃ気づけない」
「気づいてるはずだ」
「気づいてる…」
「あぁ」
「…のかな…?」
彼の言葉がどうしても理解できなかった。
それは、彼が言う対極の認めたくない思いがあるからなんだろう。
わからないことがその時私の全てだと思ってた。
彼の苛立ちを感じる。
彼が何も言ってくれなくて私も何も言えなくなる。
彼が黙れば無言が訪れた。


「俺さ」
「ん?」
「お前のカウンセラーじゃないから」
「ど…どういう意味…?」
「お前全然、話できてない。人と話せるようになってから電話くれるか?」


息が出来なかった。
慌てて空気を吸うのだけれど、口にたまる空気は肺を拒み口から漏れるようだった。
何故だったか、私は妙に冷静を保とうとしたのだ。


「ウ、ウチ、話できてな、いの?」
「全然」
「ゆうじ、解ったとか言ってくれてたし、会話にもなってたと思うし…」
「人ってさ、自分の気持ちを伝えるってことと同時に相手の気持ちも受け取ったり、相手を伺って言いにくそうなことがあれば手をさしのべたり、時には自分の言いたい事を相手に言わせてみたりするんだよ。そして最終的に伝えたい事を伝えきる。直球が無理ならカーブを投げてみたりしてさ、それがコミュニケーション」
「うん…」
「お前、俺に何が言いたかったの?」
「そっか、伝わってなかったんだね…」
「まったく。この長い時間なんだったの?」
「ごめん」
「人に気持ち探らせるようなことさせるな」
「どういう…?」
「俺が言ってることが解ってから電話してこい、な!」
「え、もう話してくれないの?」
「話はします、だから話せるようになってから電話してこい」
「ねぇ、いつから思ってたの?」
「え?ずっと、出会った時から」
「ずっと!?変わったって言ってくれたじゃん。ちゃんと話せるようになったって」
「だから、俺お前の何なの?」
「ねぇ、本当に何も伝わってなかったの?」
「あぁ、人形と話してるみたいだ」
「そっか…ごめんね」
「お前、そんなんじゃ人と話できないぞ」
「そうだよね…」


私はショックを受けているのだろうかと思った。
妙に落ち着いた感じ、妙に自分の周りの空気が静まる感じ、少し肌寒くとり肌が立つ感じ、そして客観視する感じ。
もしかしたら、一瞬にして私は心のない人形を演じたのかもしれない。
なのに、今までと変わらない自分だったこと、自分で証明した。


「せのり!」
彼が私の名を呼ぶ。
「せのり!」
何度も呼ぶ。
「せのり、返事は?」
言いなりになるのが嫌だった。
「せのり!」
呼び続ける彼。
「せのり!」
「はい…」
「頑張れるよな?!」
彼と話すことが出来なくなる。
声が、出ない。
選ぶ言葉がない。
「頑張れへんのか?」
息を吸い込んでみるが出る言葉はなかった。
「聞いてる?」
「うん」
出せる言葉はあるようだ…。
「頑張れるよな!」
「……もういい……」
「ん?何て?聞こえへん、ハッキリ話して」
「…もういい」


本当は助けて欲しかった。
それでも彼は守ってくれるって信じていた。
彼だけは解ってくれる。
失いたくないのに…。
一人ぼっちになりたくなくて…でも…。


やっと溢れた涙は、彼がくれた言葉でじゃなかった。
私は、何か言ってくれるだろうって…。
聞こえてくるのは、受話器から聞こえる切断音だった。


プーップーップーップーッ…。


携帯電話の機能はそれさえもさえぎり、待ち受け画面に切り替わり省エネ機能も発揮してライトをおとす。


掛け直せなかった。


もう、彼とも話できなくなった。


うぅん、私は初めから誰とも話が出来てなかった。


こいつ何言ってんだろう?みんな思ってたのかな。
なに考えてるか解らない、言われるはずだよね。
それなのに、私はモテるんだ。
男が欲しいと思って男がいなかったことはない。
セックスだけには困らなかった。
好きになった人に好きだと伝える方法を教えてください。
じゃないと、いつまでたっても私の気持ちは伝わらず、私は性処理機のまま生きていかねばなりません。


ウチ、彼女になりたいの。


セックスしたいの…に聞こえてたのかな。


あれ…彼は何が言いたかったんだろうか。
そっか、私は人の気持ちを知らないんだろうな。


本当にもういいや…。
だけど、それでも、私は…生きたかった。



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2006-11-13

260.失った言葉

テーマ:彼女じゃない恋愛

いつからかは解らない。
それを顔色を伺うと言うんだろうか。
思い出せるのは中学の頃、人の腹の声が聞こえだした。
腹立たしかった、裏表のある人間関係が。
聞こえた声に蓋をして人を傷つけずに大切な人を守った。
聞こえた声を荒立てて大嫌いな人を黙らせた。
私が一番腹黒かったのかもしれない。
誰にも自分の腹の中は見せなかった。


登校拒否を始めてから、毎日誰かが学校の公衆電話から連絡があった。
想像はつく、その日の日直だろう。
そのことが仕事かのように義務を果たすべく連絡が入った。
私は言う「行かないよ」。
その一言に、電話の主の後ろから声が漏れる「何考えてるか解らない」。
人間不信という言葉が頭に浮かぶ。
私はその頃から、登校拒否の理由を人間不信にした。
本当の理由は自分でも解らない。


後になってわかったことだが、学校では私がレイプにあったという噂が流れていたらしい。
レイプが理由で学校を休んでいたわけではないが、それは後に本当になる。
二十歳になってからの同窓会だった。
「レイプされたってほんま?」
噂だからこそ聞けたことなのだろうが、私はレイプにあって間もなくだった。
「本当だったら?」
私はレイプされそうな女なのだろうか、皆が黙った。
そんな目で見られていることに、私は人の目を怖がった。


友達の何人かは早くも結婚をするようになっていた。
自分にはまだ彼氏と呼べる男の人すら側にいない。
知り合った男性は、何故だろうか私を2号にしたがった。
条件を提示されて、体だけの付き合いが何人も続く。
私はそれなりに真剣だったが、誰かを好きになることはなかった。
相手が本気になってくれさえすれば、結婚もしていただろう。
そんなもんだと思っていた。
人を好きになるってこの程度なんだと。
人の付き合いなんてものは利害関係のなにものでもないと。
腹の声が聞こえる「馬鹿な女」。
だから私は思う「馬鹿な男」だと。


そして彼に出会う。
彼に言われた言葉は、私の心を突き刺した。
とても痛かった。
それがとても嬉しかったんだ。
心というものは何かを感じることが出来るんだと知った。
心というものが胸にあることも知った。
素直になること、それは心に感じるということ。
「心が痛い」そう口にしたとき肩の荷がおりた。
笑えた、それが強さだと思った。


素直と強さは、不思議に人の腹の声を消した。
目の前にいる人の心がわからなくなる。
とてもそれが怖かった。
嫌われたどうしよう…。
何も言えなくなった、言葉を失う。
だけど彼には何でも話せた。
「一生一緒」彼は安心をくれた。

話し合えること、解り合えること、感じ合えること、素直と強さは私の生き甲斐でもあり生きる術になった。

心があるから生きられるのだと思うようになっていた。

昔の私は死んでいた…。


彼が居なくなる。
私はどうしたらいいのだろうか。
彼が何を思っているのかわからない。
嫌われたのだろうか…。
何もいえなくて、言葉がでてこない。
誰にも何も言えなくて…。
心は何も感じなかった。


親友の誘いで色んな男性と会ったが、親友は私に彼氏がいると私を紹介する。
出会いはなかった。
私に彼氏がいるとわかって寄ってくる男性は、2号を望む。
「彼氏と会わない日は俺とデートでもしようよ」
人が何を考えているのか判らなかった。
無口で詰まらない女と私は呼ばれ始める。
そして「無感情」私の大嫌いな言葉を耳にする。
一瞬腹立たしかったが、怒りきれなかった。
怒り方を忘れた。
心の場所がわからなかった。
のどにつっかえる言葉。
息苦しかった。
「帰る」その言葉を最後に私はまた引きこもった。
感情を言葉にしようとした。
つっかえる言葉は、発作を引き起こした。


怖くて怖くて彼にメールをする。
<何も感じないの。どうやって心を感じればいいの?誰とも話せない>
ずっと連絡のなかった彼から直ぐに返事が返ってきた。
<なかなかメールできなくてごめんな。誰かと交わりたいという気持ちが少しでもあれば、時間は掛かっても必ずお前に戻れる。お前のペースでいい。頑張れ>
素直と強さを平行させて考える。
私には出来ないことなんだ…頑張らないといけないことなんだ…。
<ゆうじが前を歩いてる…。置いていかれる。誰も待ってはくれなくて…私は頑張るしかない>
彼の返事はなかった。
どんな言葉を待っていたのかはわからない。


発作を繰り返し、このまま死んでもいいやという気になる。
怖さだけが積もり、じっと部屋に閉じこもった。
じんわり汗が滲む。
もうすぐ8月。
クーラーの電源を入れた。
彼に電話する。


「もしもし…」
「せのり、どうした?」
「辛い…」
涙がどっと溢れた。
そう、辛かった。
「苦しいの…」
そう、苦しかった。
「もう頑張りたくないよ…」
言葉が溢れる。
「男の人が怖い…」
今までのことを思い出しながら言葉を吐いた。
「それで?」
「…え?!」
彼の言葉に続く言葉はなかった。
「辛いから何?苦しいから何?頑張りたくなかったらどうするわけ?男が怖くて何?」
「えっと…うんと…」
「何でお前は何も言わないの?」
「え…えっと…」
「素直になるって言ったよな?強くなるって言ったよな?」
「うんと…」
「それで頑張ってたわけ?」
「頑張って…」
「何?」
「辛いんだもん」
「俺を責めてるのか?」
「そ、そんなことはない!ただ…」
「ただ何?」
「自分が何を感じてるのか知りたかった。話ができる人が欲しかった」
「で?」
「で…って…」
「それで?」
「……わからない」


無言だった。
言葉を探した。
何か言って欲しい。
彼の言葉で私は心を感じることができるから…。
お願い、何か言ってください。
涙だけが溢れた。



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2006-11-10

259.楽な生き方

テーマ:彼女じゃない恋愛

<元気になって。ゆうじは素敵な人だと思うから。ウチには伝える術がわからない。あなたの良い所を感じ取ったとしても、あなたに伝えることができない。何も言ってあげられなくてごめんなさい>
映画を見たあと、彼に家まで送ってもらって部屋から彼にメールを打つ。
<別に俺は何も悩んではいないよ>
彼からのメール、会話は当然食い違う。
彼と会っていた数時間、一度だって交わされなかった会話を私が突然始めたのだから。
だけど、きっと彼にはわかっていたと思う、私がどんな話を始めたのか。
<何も言えないのだから聞いてどうなるってわけでもないけれど、ウチは聞いてあげたいと思う>
<何の話だ?>
<ゆうじがウチに会いに来た理由です>
<あぁ、そのことならもう大丈夫だよ>
<何故、言わないの?>
<お前には弱音は吐かないと決めた>
<じゃぁ、ウチはあなたのカッコいい部分だけを見ていたらいいのね>
<そういう意味じゃない。お前には甘えたくない>
<じゃ、何で会いに来たの?見えちゃうのに…>
<ごめん、会ってから気づいた。もう心配はかけない>
<干渉しない方がいいのかな…>
<あぁ、そうしてくれ。お前も何も言わなかっただろ、お前は強くなったと思うよ>
<それが強くなるってことなのね>
<俺たちは強くならなきゃいけない>
<わかった>
私が主導権を握った会話は彼の一貫した意思とともに流れてゆく。
彼が離れてゆく。


調度タイミングよくとでも言うのだろうか、握っていた携帯に親友から電話が掛かってくる。
「食事でもいかが?」
「えぇよ」
「え!?」
「自分で誘っといて何そのリアクション」
「いや、OKでるとは思わんかったし」
「もう化粧も済ませてるし直ぐ出れるで」
「あ、そうなん?じゃ、直ぐ迎えにいくわ~」
「何も言わないことが強さなんかな?」
「へ?」
「こうやってさ、何でもないフリしてたら元気に見えるよね」
「ん?」
「でもさ、元気じゃないって分ったらさ…」
「何の話?」
「やっぱり、人は言わなきゃわからんよね」
「そりゃ~ね~。分っても聞かないほうがいい時もあるし」
「そうか…」
「何となく今ので気づいたけど、今あんたに聞いたら食事キャンセルされそうやしね」
「あはは、ありうる!」
「やろ~!だから、拉致してから聞くわ」


そのあと5分ほどして車で迎えに来た親友とダイニングレストランへ向かった。
何の乾杯かはさて置き、強くグラスを叩きつけ過ぎてテーブル中が烏龍茶でベチャベチャになったことに笑い合う。
「でさ、さっきの話って?」
「ん?そうやな…例えば…」
「例えば?」
「付き合ってる男が毎度毎度浮気し放題で、でも何故かそれを許してしまう。許してしまう自分が悪いのだけど、それを指摘されたら困る。今は、慰めあえる相手が欲しい。出来れば今後に繋がる何かが見つかれば尚良い。だけど、それを言ってしまったら自分が惨めに思えてしまう。できればそれを隠しつつ、相手から盗み取れればいいし、それで元気になれればそれでいい。相手に気づかれず、それを遂行させよう」
「…へ?何の例えよ」
「人間の腹黒さ?!」
「妙に分りやすい例え…私のこと?それって」
「今回の誘いのテーマをウチなりに分析してみましたがいかがですか?」
「御名答!」
「でも、何も言わなかったし、逆にウチの話を聞くなんて裏テーマを提示してきた」
「ま、口実ってやつですか」
「逆にウチが誘いを受けた理由ってのは分る?」
「う~ん、その例えからすると、タイミングよかっただけじゃない。私と同じってことね」
「まぁね、もっと腹黒いけど」
「正直、あんたが何考えてるか全然わからんわ」
「うん…ウチはズルイからね」
「ま、あんたの内なる心を聞いてもウチには何の答えも出せへんからアレやけど」
「どうなんやろうな…出したことないけど」
「ちょっと出してみ」
「出してないって言うより、小出しにして出してないフリをしてるんかな」
「出てんのかよ?!」
「この数分にちょいちょい出てるけどね」
「今かよ?!あはは」
「それがさ、お互い何も言わなくても分ったとしたらどう?」
「楽でえぇわな!ウチはだからあんたを誘うのかもしれんな」
「でも、分ってるのに何も言わなかったとしたら?」
「自分から言う」
「そんなもんよな…」
「だって、その為にやろ?!ってか、分ってて言わんって意地悪やん」
「意地悪…ね…」
「違うの?」
「ふふっ!何か感づいた?」
「せのりが、誰かにそうしたってことやろ?」
「意地悪…やったんかな?ただ、言いたくなかったし聞きたくなかったけど、言わないのに対して聞きたいと言った」
「で、どうなったん?」
「お前も言わなかっただろって、それが強さだって」
「あぁ、またあいつの話か~」
「お互い助けを求めてたけど、お互い聞きたくない話だった言いたくない話だった。確かに結果論としては甘えになるのだろうけど、それを強さだと言われて何か違うと思った」
「ってか、連絡きたんや!」
「うん、会ってきた」
「だから化粧してたのか!で、もうあいつ帰ったん?」
「そ、突然会いにきて映画見ただけで帰った」
「ま、何かあるとは思うわな、誰でも」
「もう会うことはないかなって思った」
「な、何で?!」
「もう会う理由がなくなったから」
「恋愛が終わった…から?」
「違う…何も相手にしてあげられることがなくなったから」
「……」
「少なくとも人と会うってのは利用したい何かがあると思うのね」
「ま、言葉は悪いけどそうだね」
「勘の鈍い人を相手にするなら自分から話すよね」
「まぁね」
「でも、出来れば何も言わずして解ってくれる人がいい」
「そりゃね」
「ウチはね、解ってくれる人じゃないと何も話せない」
「ほんま、あんたは何も話さんもんな」
「心の中を当てられて仕方なく言わなきゃいけない状況を作りだしてくれなきゃ何も言えない」
「ウチも10年一緒に居てやっとちょびっと解るようになってきたわ」
「意地悪…か…」
「あんたは何を言いたかったん?」
「解らん…」
「何が言いたかったのかをあいつに聞かれたかったわけね」
「うん、本当は解ってるんやろうけどな」
「で、あいつは?」
「ゆうじがウチに聞きたかったことっていうよりは、ウチがまだゆうじの事を好きかどうかを確かめたかったんだと思う」
「はぁ?」
「いや、よりを戻したいっていうんじゃないよ」
「はぁ?ますます解らんわ」
「愛し愛されるってどんなんだったかな~ってね…ウチも同じだったのかな」
「ごめん、理解しがたい」
「いや、本当の所はどうか解らんよ!ウチが思ったことやけど、好きな人がいるのにどうやって愛せばいいのかが解らなかったんじゃないかなって」
「それってさ、あんたらずっと2人でおればえぇんじゃないの?」
「ゆうじはさ、強くなれっていうんだよ」
「強さって何?」
「本来、人は言わなきゃわからないものだってことでしょ」
「解り合えた人と居ることは甘え?」
「うん、ウチはそれが引っかかった。けどゆうじは強くなりたいんやと思う」
「意味がわからん」
「相手が何に対して傷つくのかとか何に対して喜ぶのかとか、言葉を通じて分かり合っていくもんじゃない?」
「うん」
「ウチらにそれはなかった」
「でも、色々話し合ってきたやん」
「ウチはね」
「ん?」
「ウチは、ゆうじのお陰で色々話すことが出来たけど、ゆうじは何も話してはくれなかった…ウチが何も聞かなかった」
「これからなんじゃ…」
「うぅん…聞いたら…いつか終わるし、ゆうじはそれに気づいて終わらせた」
「どういう…?」
「ゆうじは人を愛せない」
「好きな人が出来たってのも嘘?」
「それは違うと思う。だけど、どうしたらいいのか解らない」
「あいつはせのりのことが好きやと思ってた…」
「だったら、遠の昔に付き合ってたと思うし、それに、ウチも、ゆうじが好きだったのかどうか…わからない」
「なにそれ!?」
「楽だった…一緒に居て楽で、今までずっと心に溜めてた事吐き出せて心が軽くて、それが嬉しくてっていうのが先。ずっと一緒にいたい、それが好きに変わった。ウチもゆうじに楽になってもらいたかった」
「それでいいんじゃないの?」
「…うん、ウチは強くなんかなりたくない」
「怠けることと楽に生きることは違うでしょ?」
「ゆうじは違う道を選んだんだから、仕方ないよね」
「あんたどうするん?」
「ゆうじ以外の人なら…ウチも強くならんと恋愛できんよね」
「……」
「ウチ、何考えてるか解らんし!」
「……」
「楽しい、悲しい、寂しい、ウチ言えるかな~?」
「言えるよ…昔のせのりとは違うし」
「ウチ、今、辛いかも…」
「気づかんかった…」
「うん、良いリハビリだよ…」
「あいつなら、あんたの気持ち解るんやろうな…なんか悔しい」
「意地悪じゃなくて、優しさなのかな?」
「それは違うわ!あいつのわがままや」
「あはは、そうかもね」
「相手が何を考えてるか解るってどんな風に見えてるん?」
「言葉として解るわけじゃないよ、だから初めて会う人の心なんて読めん」
「例えばどんな感じで?」
「その時その時見えるわけじゃなくて、その人の癖を見る」
「癖?」
「うん、リストがあるわけじゃないから具体的には何も言えんけど、会話の構成の仕方から何が言いたいのかが伝わってくる」
「早い話が感受性よな」
「どうなんやろうね、その辺はよく解らん」
「何で自分の事はわからんのやろうな」
「あはは、自分がもう一人目の前におったらよくわかるのかも」
「鏡の前で話したら?あはは」
「それ、いいかもね」
「本気で言うてる?」
「な、わけないやん!それにウチもうやめたし」
「何を?」
「人の気持ち探るっての」
「結構ズバズバ言い当てられてるけど?!」
「あんたにはそれでいいけど、恋愛するのに必要ないよ」
「う~ん、うらやましいけどな」
「ほんと、ゆうじが何を考えてるのか全然解らなかった、楽しかった」
「なにそれ」
「正確には見えないフリしてただけやけど、何も言われないから甘えた」
「あぁ…」
「どんな想いで言ってるかなんて探ろうともしなかった。ただ好きだと言われることを全て信じてきた」
「それは今から探れるもんなん?」
「どうだろうね!?探りたくないし!」
「なぁ?ふっ切れそうに見えるんやけど、今どうなん?」
「ん?全然!未練タラタラ」
「やんな~!こうやって話してるとあんたって人と違うな~って思うけど、結局考えてる事は同じなんよね」
「うん…素直に言えないだけと思う」
「あいつも多分そうやんな」
「どいつ?」
「あいつら、み~んな!!」
「さぁ?」
「ちょと~~~そこは答えてよ!」
「解らんもん…何考えてるかなんて解らんよ、ウチにも。解ってるんじゃなくて当たるだけなんやって。当たらん人もおって当然で…だから人って怖い」
「解るから…か」
「うん…解るから好きで、だから解らないようにして、だから今すごく怖い」
「恋は盲目とはよ~言うたもんや」

「使い方合ってるんのかしらんけど、全て解ってたら今までこんな恋愛してきてないし」
「ほんまや、あはは」
「愛されてないことには敏感やねん」
「でもさ、人ってそんな直ぐ大切っておもわんやん」
「そう、築き上げて育むもの…やね」
「何であいつとは?」
「愛を知らない人やったからじゃない?そうか…ウチが愛したかったのかも」
「なるほど…」
「ウチ、強くなろうかな…」
「何で?」
「ゆうじに側に居て欲しいから…」
「逆に離れていくんじゃない?」
「そうなったらまた変える」
「そこにせのりの意思がないやん」
「ウチは…ゆうじが好き」
「そっか…」
「男の人また紹介して」
「いやや」
「…自分でみつけるわ」
「無理…せんとき…な」
「ウチに新しい男の人が出来ひんかったらゆうじが居なくなる」
「ホンマにそれって正しいの?あいつに合わせることないやん」
「どうしたら…」
「ウチ、あいつ大嫌いやけど、あいつ以外の男でなせのりをホンマに好きでもせのりは幸せになれへんと思う。あいつやから幸せになれるってわけじゃないよ。今のあいつと一緒いても幸せにはなれんと思うけど、あいつ以外でもなれんと思う」
「最悪やな…」
「ただ…結果じゃなくて、せのりがあいつを好きになれたことは幸せなんやと思う」
「…臭いこと言うな」
「たまにはえぇやろ!」
「でも、頑張らんとあかんのかも…もうゆうじは戻ってこないから」
「ホンマに戻ってこんの?」
「…無理やり他の人と付き合おうなんてせんからまた誘って」
「うん…わかった」


本音を隠しながら本音を語った。
解り合える大切な人と解り合える親友と、人の心を探りながら話す会話は他の誰にも伝わることのない会話だ。
もしかしたら誰も解ってなんかはいないのかもしれない。
自分でも何が言いたかったのか解らなかったから。
何かが引っかかっていて、全てが間違いのような気もしていて…あぁ言ってみたりこぅ言ってみたり。


私が彼を好きでいることが甘えだと言うのなら、甘えた人生を送りたい。
彼が強くなれと言うのなら、強い人生を送りたい。
だから、私は強くなる。
だから、私は彼じゃなく他の誰かを好きにならなくてはいけない。
辛いと思う、逃げ出したいと思う。
だからどうしていいのか解らない。


だけど、答えはとても簡単なのだ。
そこに自分の意思がないことが問題なだけ。


私は強くなる。
その強さは、当たり前のことだから。
誰もがそうやって生きている。
ただ…それが偽りに思えてならない。
だけど、知ってる。
誰もが思い通りに生きてはいないこと。
私は多分、楽をして生き過ぎたのだと思う。

人とは違う心の傷があるからとか、少し自分を特別扱いしすぎたのだと思う。

弱さをみせるから、そこにつけ込まれるのだ。

そう、凛として生きていればそれでいいのだ。



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2006-11-09

258.突然の誘い

テーマ:彼女じゃない恋愛

過ぎ行く時が早かった。
過ぎた時に言葉を当てはめてみる。
「落ち着き」「何もない」「痛み」「思い出せない」「家事」「臆病」「孤立」「囁き」「戸惑い」「離隔」「不必要」「空虚」「爽快」何でも合うような気がした。
私のどうでもいいこの数週間は、どうにでも創り上げられる記憶なのだと改めて思う。
だったら「楽しい」日だったと呼んでやろう。
最近どうかと聞かれたら、楽しかった答えよう。


彼からは一切の連絡はなく、親友もどうやら元の鞘におさまったらしく音沙汰はない。
私から連絡を取ることもないので、見た目穏やかな日が続いていたと思う。


7月も半ば、暑さが気持ちいいと言っていられる日が減りつつある。
週末の午後。
天気がよく、窓から照りつける太陽が少しだけ気持ちよさを誘う。
太陽は、無条件に幸せを与えてくれるなとグダグダ想いに浸っているのは、こんな天気の良い日に外にも出ようとせず、部屋でゴロゴロとしているからだ。


そんな小さな幸せが心に強く刻まれたのは、落差激しい心の痛みが押し寄せたからなのかもしれない。


もう何週間も鳴らずの携帯が大音量で鳴り響く。
いつにもまして大きな音に聞こえた。
焦りからか体がすくむ。
胸がキリリと痛んだ。


「も…もしもし」
「もしもし、俺」
「はぃ…」
「お前、今なにしてんの?」
「で、電話」
「はぃはぃ、で、何してんの?」
「いや、何も…」
「こんな天気の良い日に家でゴロゴロなんてつまらんやろ」
「別に…」
「最近、外でてんのか?」
「いぃや」
「いつから出てないん?」
「ゆうじと会った日から」
「はぁ?もう1ヶ月にもなるやん」
「……」
「外には出なあかんぞ」
「…怖いもん」
「怖くない」
「怖くなくなったら出る」
「あのな~!みんな外は怖いと思ってるんやぞ」
「みんなが同じように耐えられるとは限らない」
「お前は、やり方を知らないだけや。みんな学んでるねん」
「他人とお前は違うって言ったり、同じって言ったり…」
「とにかく!化粧しろ」
「なんでよ」
「映画いくぞ」
「はぁ?」
「今から1時間後に迎えに行くから」
「ちょ、ちょっと待ってよ!OKだしてないでしょ」
「俺が行くって言って引いたことなんてあったか?」
「ない…」
「俺はこれからお前に会いに行く」
「勝手やね」
「今、気づいたん?」
「ずっと知ってる」
「やろ!遅れるなよ!遅刻も俺は嫌いやから」


突然の彼からの誘いだった。
「何故?」単純に聞きたかった。
もう連絡はないような気がしていた。
会えば辛い、会いたくない気持ち。
不思議に彼の強引さが心地よかった。


「久しぶり」
車の中から微かに彼の声が漏れてくる。

1時間と少し経ってから彼が、私の家の前まで迎えに来てくれる。
彼の車の助手席のドアを開けると、すかさず笑顔で彼は話し始める。
「天気いいよな~」
私は、不自然な彼の言動をチラチラ伺いながら助手席に座りドアを閉める。
「映画もいいけどドライブもいいかもな~」
伏目がちに彼の顔を覗く。
彼はずっと前を向いたままだ。
一度も目は合っていない。
「う~ん、今日のせのりさんはいつにもまして無口や」
「そう?」
「おはよっ!」
「お、おはよう…」
「元気ないな~」
「…ゆうじのそれも空元気でしょ?」
「え?!」
「何かあった…違う?」
「な、急に何を言いだすねん。何もないよ~」
「そう?なんか落ちこんでそうやったのは勘違いかな」
「…確かにちょっと考える事はあるけどな」
「だから、会いに来たんでしょ?」
「そ、そんな…うん、まぁそうかもな…」
「話したくなったら話して…」
「…とりあえず、映画、いくか」
走り出した車、無言、何で私たちは会ってるのかな。


「最近メールくれんよな」
「必要ないんでしょ?」
「俺?」
「不必要なメールは送らないで欲しい」
「なにそれ?!」
「ゆうじがウチに言ったんだよ」
「別に不必要だとは思ってないよ」
「返事がないってことは必要ではなかったんだよ」
「あぁ…何か電話してとか言って…たな…ごめん、忙しくて」
「別にいい、ウチはゆうじに対して不必要なんて思ったことないけど!」
「ごめんって、俺ほんまそんな酷いこと言った?」
「ウチはいつも真剣に話してるし、ゆうじの言葉は忘れない。きっと、ゆうじにとってはそんな時間も不必要だったんだよね」
「ホントごめんって。じゃ、撤回する」
「別にいい。メールしなかったのはゆうじを頼ってなかったんだと思う」
「…そっか」


強がりだったのかどうかさえ解らなかった。


いつもの映画館につき、映画館ロビーの奥にあるソファーで待つよう彼に言われ、そのソファーに腰を下ろした。
彼は入り口付近の発券窓口に出来た長い列に並んでいる。
遊園地のアトラクションとは違い、長い列はあっという間に散る。
チケットを片手に彼は私の元へとゆっくり歩み寄り、私の横に腰を下ろした。
「微妙に時間あるわ」
「ここにいる?」
「う~ん、そうやな!今からじゃ何処にも行けんし、ちょっと話そう」
「何、話してくれるん?」
「俺?」
「言いだしっぺがネタ提供するもんでしょ~」
「う~ん、そうやな?」
「何、何~?」
彼の横顔をじっと眺めた。
いくつかの話題が頭に浮かんでいるであろう彼の顔と彼の想像はリンクしているのかもしれない。
小さく彼はいくつかの表情を見せてくれた。
彼は少し罰の悪そうな顔でこちらを向く。
次の瞬間、私はとっさに頭を抱え顔を?頭を?防ごうとした。
殴られると思った。
彼があげた手に反応した。
痛くない。
彼は私の頭を優しく撫でていた。
反射的につむった目をゆっくり開いてみる。
固まった、頭を防ごうとした腕を下ろすことが出来ずに腕の間から彼を覗きみた。
「何でそんなビビる?」
「いや、えと…何?」
私にはもうこうして優しくされる選択はなかったんだ。
彼でさえ、振り上げた手を恐怖に感じた。
「嫌か?」
「嫌…じゃない」
「そっか…」
「うん」
私はそっと構えていた腕を下ろした。
彼の顔は見れない。
彼はずっと私の頭を撫でたままで話を続ける。
「こうやって頭を撫でたり抱きしめてやると、不思議とお前はいつも落ち着いたよな」
「うん、ホッとする」
「殴られると思ったか?」
「…ぅん」
「何で俺がお前を殴る?」
「解らないけど…」
「人はむやみやたらに危害は加えないし、怖くない」
「……」
「怖がってばかりじゃ何もできないぞ」
「……」
「ん?」
「その手が、離れるのが怖い…」
一瞬、私の頭を撫でる手が止まった。
「俺、あれから家に帰って後悔したよ」
「後悔?」
「あぁ、何で抱きしめてやれなかったんだろうって」
「ダメだからだよ」
「そうだな!だけど、他にお前を守れる術を知らない」
「…居てくれたらいい」
「そうもいかないだろう?」
「何で…」
「お前にもいつか彼氏ができる」
「出来ないよ…」
「できるから!」
「やだ!」
「俺がいけないんだよな…こうやってお前の頭を撫でてる限り他の男が触れられない…」
「いいの、これで」
「俺な、未来の男に嫉妬したよ。抱きしめてやりたいと思うのに出来なくて、それが出来るのは別の男なんだって思ったら」
「別の男なんてこれから先あらわれないよ」
「だけど、そうしなくちゃいけないんだ!わかるよな」
「分らない」
「何でだろう…何で…」
「ゆうじには、好きに人がいます」
そういった後、彼は無言でしばらく私の頭を撫でたあと、私の背中を這うように力なく腕を下ろした。
彼の手が行き場をなくしたかのようで、力なくソファーに転がってるようにみえた。


それからは何でもないテレビ番組の話なんかをして映画の時間を待つ。
無言の方が多かったように思う。
何となく映画を見て、何をするでもなく真っ直ぐ彼は駐車場に足を運び、私はそれに続く。
その間「おもしろかったよな」なんて台詞のような会話を交わした。
車は走り出し、真っ直ぐ真っ直ぐ私の家へと向かっているのがわかった。
太陽のかげりが、私に長い影を作らせる。
「今日はありがとな、付き合ってもらって」
「うん」
「良い気分転換になったよ」
「うん」
「俺、仕事戻るわ」
「仕事中やったん?」
「給料もつかない休日出勤!」
「ふ~ん」
「興味なさげって感じやな」
「そんなことは…」
「わかってるよ!また、メールしろよ」
「いい」
「なんで?まだ気にしてんのか?」
「返事が返ってこないのが嫌なだけ」
「返すから、な!んじゃ、俺からメールするから返せよ、な!」
「考えとく」
「そか」
彼は少し笑って流した。
「お前、頑張れよ!まだまだ可愛いんやから、な」
「うん、もっと色んなところへ行ってみる。で、好きな人が出来て新しい恋愛をする」
「……」
強がったからだろうか、彼が求めているであろう言葉に彼の答えはなかった。
「少しの勇気で変わると思う。だからゆうじも頑張ってね」
やっぱり彼の答えはなかった。
何も言ってくれなくなった。
無言。
「ゆうじCDは?」
「え、あ、忘れたっていうか、家寄ってないから」
「んじゃ、また次貸してね」
「あぁ」
「絶対だよ」
「あぁ、次会う時、必ず持ってくるから」
「うん」
「で、その次は必ずカラオケで歌ってもらうからな」
「うん」
何でかな、次はないような気がしたんだ。
だから、もう一度彼に抱きしめてもらいたかった。
「ゆうじ…」
「ん?」
「バイバイ」
「おぅ、またな」


車を降り、ドアを閉める。
見送るために一歩さがる。
車内には手を振る彼が居る。
笑顔を作って振りかえす。
見送るはずが、動き出さない車にどんな思いが込められているのか後ろ髪を引かれるような重たさを感じ、私は車の後ろを回って家ゆっくり入った。
振り向かなかった。
家のドアを閉め終わると、エンジンの音が聞こえてきた。
体いっぱいに息を吸い込み吐き出した。
強くなる心が寂しかった。



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