2006-07-14

255.無神経に無神経に思う

テーマ:彼女じゃない恋愛

彼からの連絡はなかった。
全身で彼を信じ、彼を待った。


「もしもし?せのりさ~ん?聞いてる?」
「ん?聞いてるよ」
「そろそろ、外出てこんか?」
「そろそろ?ん~、あんまり乗り気じゃない」
「引きこもっててもさー…」
「まだそこまで塞ぎこんでないって!」
「そうかな?」
「ほら、まだ彼とも話し合いの途中だし、よし!これからどうしようって考えてるところだよ」
「連絡はあるん?」
「うん、あるよ。会ってからまだないけど」
「いつ会ったん?」
「6月入って…11日やったっけな…」
「もう…1週間以上も経ってるやん」
「1週間連絡がなかったことなんて普通だよ」
「話の途中で1週間経つことに疑問は持たないわけ?」
「ん~、ずっとそれが普通だったから…。途切れた事なんて今思えばないよ」
「あんたはそれで何年待ったの?!これから何年待つつもりなの?!」
「必ず…返事が来る…から…それまで…」
「セックスはしたの?」
「してない…最後にいつしたかも思い出せない」
「そっか…」
「ゆうじとセックス出来たのって何回あったっけな…」
「後悔してる?」
「どんな?」
「う~ん…」
「するとするなら、もっとちゃんと受け入れる事が出来たらよかったな、かな」
「ちゃんと?」
「結局、ウチ、セックスできないままじゃん!って思って」
「……」
「無言になられると困るんやけど」
「ごめんごめん、やっとやったのにとかさ、私が後悔してしまう、変やね」
私を心配してくれる親友と毎日毎夜にこうして連絡を取り合っては何かを見つけ出そうとしていた。
あれから何日が経ったと彼女はいつも言うけれど、私に月日の流れは感じなかった。
100時間経とうが200時間経とうが、私にはカウントする日などなかった。
「結局、関係は続いてるんよね?」
「どんな関係なんだろう?」
「セックスしたいとは思わないか…」
「友達、かな」
「友達…だったら連絡くらいして来いって思うわ」
「忙しいんじゃない?」
「はい、終了って気持ちの切り替えが出来るような奴なら、浮気なんてしない」
「あはは、そうだね。でも、そこに拘ってても何も変らないし…」
「納得したってこと?」
「納得…したのかな?」
「あんたは今、何を待ってるん?」
「話したいことがあるから連絡してって言ったから連絡来るのを待ってる」
「話したいことって?」
「まだ解んない」
「へ?」
「自分が今昔の自分に戻ってるのを客観的に気づき始めてるんよ。ウチが中学の時に取った防衛策で、そうしないと自分が壊れるのを知ってる。ぶっちゃけ、あんたと電話することも面倒くさいと思い始めてる。心を開くことが面倒になってくる。っていうか、面倒って言葉を使うこと自体もう症状は進んでるわけやけど、痛みとか苦しみとか辛さとか感情を隠して感じなくなってきて、きっといつしか楽しさや幸せなんかも感じなくなってゆく…。今、自分が何を感じているのか解らなくなってて、それを感じていないんじゃないか?って客観的に見てる。本当は怒るところなんじゃなかろうかとか、泣いてもいいんじゃないかとか、色々考えるんやけど…感じてくれなくてさ…。あんたに心開けたのは憧れからだった。ウチもあんたみたいな女の子になりたいっていう真似みたいなところがあった。だから、正直自分の気持ちなのかどうかってのは解らない。私だったらどんな風に感じるだろうかっていうものを打ち明けてた。それでも本音には変わりなかったんだよ!フォローになってないか…。ゆうじの場合はね、ゆうじの声は本当に心で感じることができた。この痛みはなんだろう?この心地よさはなんだろう?そっから自分の想いを当てはめて感情を知った。ゆうじに話を聞いて欲しいって思うのは、自分が本当の自分でいられる気がしてるから…。今、こうしてあんたと話していることも十分嬉しさに繋がるけれど、どこか府におちなかったりもっと奥には別の感情があるんじゃなかろうかって…思ってる」
「俺じゃダメか…?」
「誰それ!」
「キムタク」
「懐かしいな~」
「でもそれはずっと気づいてた。あんたの事一番知ってるのはこの私って思ってたけど、あいつが現れてから、変わってくあんた見てて、ウチが知らん事をあいつが知ってて、開けんかった心をあいつが開いて、正直悔しかったもん」
「嫉妬~?!」
「そうそう、せのりは私のもんやのに~ってね」
「ウチ、そう言うの思ったことないかも…私のものってなかった気がする」
「それは違う!確かに独占できるようなものではなかったけど、そう思うことは間違いじゃないし、当然の感情やと思う」
「だからと言って…ね」
「それにあんたもウチのもんでもないし」
「あはは、そうやけど」
「あんたを独占欲で縛ろうとは思わんけど、独占欲があるからこそ、あんたを知ろうって思う。独占欲があるから寂しいと思う。独占欲があるから力になろうって思う。独占欲は独り占めにした欲じゃないとウチは思ってるよ」
「なんか、珍しくえぇこと言うた雰囲気になってるよな」
「茶化してる?」
「ごめんごめん、何か妙にずっしりきたわ」
「何か、ウチした方がいいか?」
「何を?」
「ウチから連絡してみるとか…」
「してもかわらんやろ…」
「必要な時に居てくれへん人が…うん…ま、とりあえず、今日は寝るわ。また明日聞くし」
夜な夜な、毎夜毎夜、続いた。


親友が徐々にロボットのように思えてくる。
欲しい言葉を吐き出し、捨てたい言葉を飲み込んでくれる。
保存も消去も思いのままで、人としての機能を失いかけていた。
ある日、彼女を傷つけるまで、私はそれに気づかなかったんだ。


「今、彼氏の家から帰ってる途中やねんけどさ!あいつ、また浮気しよって喧嘩して家でてきたった」
「そう…」
「全く追いかけてこんしな!」
「そういうタイプじゃないやろ」
「な~、もうアホな男捨ててさ、二人で新しい男探しに行こうさ」
「遠慮しとく」
「そうやってウジウジしてたって、仕方ないやろ」
「これがウチのやり方やから」
「そうやって何の意味があるっていうのさ」
「今動いたって意味がないことに変わりはないやろ」
「あんたはえぇよな~。そうやって待ってれば戻ってきてくれる男がいるもん」
「それは誰のことを言ってるわけ?」
「あいつ、絶対戻ってくるし」
「それは何の根拠があっていってるわけ?」
「だっておかしいやん!辻褄あわへんもん」
「知ってる限りで合わそうと思ったって、ゆうじの人生は判らんやろ」
「好きならとことん好きでいればえぇやん!」
「じゃ、あんたも彼氏の家戻ればいいんじゃないの!」
「辛い時は、明るくパ~ッと発散させようと思っただけやろ」
「ウチは、そういうんじゃ発散せんから」
「ウチの話は聞いてくれんってことやな」
「聞いてんじゃん」
「もうえぇよ…同じ辛さなら一緒に晴らそうと思っただけやから」
「ウチは、ゆうじが戻ってこな晴れへん…」
「ずっとそうしてたって戻ってくるもんも戻ってこんよ」
「じゃ、何とかしてよ!」
「……」
「ウチはどうすればいい?何かをすれば戻ってくる?あんたは今すぐ戻ればいいんじゃないかな?!」
「……」
「もう…無理なんよ…あんたが思ってるような期待はないよ」
「だったら…」
「ウチもあんたみたいになれたらって思うけど、やっぱり作りが違う。誰しもがより早く立ち直るべくして道を選択すると思う。いつまでもこんなんじゃあかんって思うよ。ウチがとる行動は人からすれば塞ぎこんでるように見えるかもしれんけど、ウチが一番早く立ち直れる術やねん。ひたすら考えて、答えを出す。それしか動かれへんねん。それを認めろとは言わんよ…。自分でも、こんなやり方でずっとやっていきたくない。そやけど、もう少し、見逃して欲しい。…それから男の浮気話とか聞きたくない」
「ごめん…」
「……」
「また…話聞いてな…」


彼女はそっと電話を切った。
しばらく電話の切断音を聞き入った。
なんだか判らない悔しさがあった。



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2006-06-27

本筋関係ないけど更新

テーマ:ブログ

更新止まってしまって申し訳ないです。

毎日沢山の人が来てくださって、メールやコメントを読み、1度更新しておいた方がいいかな、何て思って今書いています。

心配してくださった方へは、メールの返事をしていませんがこの場を借りて…ありがとうございます。


別に体調が悪いとかそんなんではないんです。

色々、考えることなんかが多くて、文章を書くことに集中できないでいます。


最大の原因は…。

最近、テレビで婦女暴行の罪を問う男性が増えちゃいませんか?ってこと。

それも最愛の人を亡くしているんですよね。

妻だったり娘だったり…。

是非論を語ろうとは思いません。

賛否両論、善しも悪しもあるという事…。


ただ…ムカつきます。


新聞でもテレビでも、嫌でも目にする。

街を歩けば、耳にする。


あの人達の正義の中心は一体何処なんだろう?

それが見えなくて、わけの解らない腹立たしさがこみ上げる。

その腹立たしさの矛先は、この男性たちでも犯罪者でもない。

そう、私の中の正義の中心もズレている。

何を持って怒り悲しんでいいのか判らない。


ただ…ムカつきます。


もしも、私が命を失っていたとしたら…そう考える事がある。

もしも、彼と出会っていなかったとしたら…そう考える事がある。

何故、彼はあんな事言ったんだろう…と。


この事に関しては、過去の記事もそうだけどこれから書かねばならない事の一つでもあったりします。

もう直ぐこのブログも完結する。

だけど、ここに来てまた書けない。


罪の重さって何が基準なんだろう。

時にその優しさは残酷だと言われる事がある。

許すという事は時に残酷なのだと。


私の正義は少しズレている。

だから、もう、そっとしておいて欲しい。

正直、犯した罪が与えられた罰で償われるわけがないと思っている。

ギャーギャー騒ぐ人達をうるさいと思う。

同時に傷などそう簡単には消えないのだと思う。

口だけは達者だ。

正直、女性たちに同じ目に合って欲しくないなどというものは心にない。

頭の片隅にはあるが、そう思えるのは、きっときっとずっと未来の私だろう。

罰を与えたら私は幸せになれる?

正直、どうだっていい。


ただ、愛に抱きしめられる事を望んだ。

その愛もまたズレている。


未来の私にはなれなくて、ブログの続きが書けない。

ただ書き連ねるだけのブログにはしたくないから…もう少し更新をお休みします。


あなたは、どんな正義で何を守ろうと思うの?

私はね、そっと抱きしめて欲しかった。

そんな私を間違っているって言うのなら、今私はどうして良いのか判らない。

私にはあなたの正義が理解できません。

そんな今日なのです…。

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2006-06-15

254.掴んだ手にあるもの

テーマ:彼女じゃない恋愛

彼から奪い取った手紙を切り刻んだ。
封筒の宛名書きの部分がビニールでクシャクシャとよれる。
切り刻めないことに苛立った。
筆立てからカッターを掴み取り、気が済むまで切り刻みたかったが無理だった。
小さくなった手紙たちがカッターでも手でも切り刻めないことに苛立つ。
「ゆうじ」だとか「愛され」だとか単語の残った紙を見つけては言葉を壊した。
切り裂けないものがある。
切り裂けないものをこの手で壊したかった。
カッターを握る手、切らねばならぬものが自分の中にあることに気づき涙が溢れる。
幸せをこの手で掴めぬのなら、それを欲するこの手を捨ててしまいたい。


眠れなかった。
一晩を明かし、賑わう町に存在する自分が不思議だった。
言葉は出ないが何かを考えている。
今、私の脳で思考回路がつなぎ目を替えているところなのだ。
そう価値観を変えねばならない。
何故…?そう思う理解できないものを組み立てねばならないのだ。


物音に気づき振り返ると、弟が私の部屋の戸をそっと開けこちらを伺っていた。
こんな時間に何事かと思ったが、時計を確認してみたらもう昼を過ぎていた。
「何?」
「うんと…レターセットが欲しい」
「用途は?」
「えっと…」
「何?!」
「えっと…」
「誰に宛てるの?友達?先生?彼女?同僚?上司?」
「女子」
「何の為に?」
「えっと…」
「あぁもぅ!聞き方が悪かったね。便箋にも色々あって、どんな紙で書こうと思ってるの?」
「読んで…」
弟に手渡された茶封筒。
「読んでいいの?」
「俺、どうしていいか判らなくて」
手渡された封筒には、県内にある鑑別所の印が押されてあった。
弟はしきりに体をくねらせている。
弟の体のむず痒さはこの手紙。
封筒を裏返すと表側が放つ威圧感とは違い、誰にアピールするつもりか知らないが自らあみ出したとされる丸く変形した文字で女性の名が刻まれていた。
封の開いた封筒から手紙を抜き出すと、弟はそっと部屋の中へ入り、私の布団の上に座り、これから読もうとする手紙をじっと見詰めた。
その手紙から判ったことは、以前この女性と弟が交際していたこと、別かれたのは彼女が捕まる少し前だったこと、そしてもう家に戻りたいという意思はないということ、つまりその手紙は自殺をほのめかす内容だった。
鑑別所から配布されたと思われる洒落心一つない便箋に、びっしり3枚書き綴ってあった。
私は手紙を折りたたみ封筒にしまった。
弟は今まで見つめていた手紙がしまわれると、大きくため息をつき頭を抱えた。
弟は責任を感じているようだった。
「俺、あいつに何もしてやれんくって…」
この状況で私は何も感じなかった。
責任を感じることなんて何もない、彼女の弱さだと…自分の弱さだと…。
ただ、自分が彼女に重なっただけに過ぎない。
「それで、今更彼女に何を告げるっていうの?」
「更正して欲しいんだよ…」
彼女は窃盗・薬・自傷の常習犯らしい。
今までに鑑別送りになったは2度、2度目に彼女を見捨てたのだと弟は話す。
「薬やめて、普通に暮らそうって言ったんだ。更正したら結婚しようって約束した。でも、止めないから別れたんだ。そしたら…」
これで3度目だ。
手紙には、唯一の支えだった弟がいなくなったのでまたやってしまったと書いてあった。
重い…未成年が抱える問題じゃないだろ…。
何故、この子達がこんなにも苦しまねばならないのだ。
彼女が重なる。
彼女は私くらい馬鹿な女だ。
信頼する男から言われた言葉を直ぐに忘れてしまう。
そして目の前のマイナスに直ぐ負けてしまうのだ。
捨てられることに怯え、言葉を信じられなくなる。
よく似ている。
「彼女さ、もしかして両親離婚してたりする?」
「おぉ!何で判った?」
「まぁいいじゃん勘だよ」
「ずっと喧嘩ばっかりしてたから離婚して清々したって言ってた」
「彼女が願った両親の結果は離婚じゃなかっただろうけどね」
弟は何も言わなかった。
彼女のことなのに、同意も否定もしなかった。
「彼女さ、何で悪いことするんだと思う?」
「解らん。いつも聞くけど、別にえぇやんばっかりや」
「悪いことするのって楽しいよね」
弟は頷きながらも難しい顔をした。
「ほら、校則破って色T着てカッコよくもないのに格好つけてみたり、夜の学校に忍び込んでプールで騒いでみたり、悪いと解っていてもスッと心が晴れる」
「あぁ」
「それってさ、元々何の為にやる行為かとか考えたことある?」
「う~ん…」
「あんたはどんな時羽目を外す?」
「むしゃくしゃした時かな」
「彼女は何にむしゃくしゃしてるんやろう?」
「親のこと愚痴ったりしてるかな」
「彼女はそんな心を晴らそうとしている…推測やけど」
「うん」
「今、あんたは悪いことをして気を晴らそうと思う?」
「うーん、あるかもしれんけどどっかでストップがかかるかな」
「そんな時、あんたはどうするん?」
「うーん、カラオケ行ったりとかしかないかもな…」
「彼女には何があるんだろう?」
「…あ、夜中呼び出されて海に連れて行けって言われたことがあった。あいつ、静かな場所が落ち着くらしくて、不思議と海見てるだけで落ち着いたことがあった」
海じゃないんだよね…彼女でもないのにそう思った。
「そっか…彼女は何故、海を見に行かなかったんだと思う?」
「俺が、シカトしたんだよ…」
「あんたさ、彼女をどう思ってるわけ?」
「ん?」
「ただ、更正させたいだけ?」
「え、だけって何だよ」
「…彼女に会ったこともないし、全てが推測でしか語れないけど、手を離すなら握らない方がいい」
「意味がわかんねぇよ」
「あんたが助けたら、あんたを失った時、繰り返される」
「……」
「その無言は理解したということ?」
「俺、あいつと結婚する気あるよ」
「自分が未成年だという事忘れてない?これから沢山の人に出会っていつ心変わりするかもしれないと仮定してそれでも言ってるわけ?」
「そんなこと解んねぇけど、これから先一緒にいたいと思うから更正して欲しいんだよ」
「これは答えじゃないし、お姉ちゃんが思うというだけの事だから一つの考えとして参考にして欲しい」
「あぁ…」
「彼女に更正する気は全くない。それは鑑別所の辛さよりも誰かを振り向かせたい、痛い心を取り除きたいと思う気持ちの方が勝ってるから」
「また繰り返し…」
「反省なんかしない、止めたいという彼女は嘘つきだよ。何が悪い!ってきっと思ってる筈。彼女は今傷の癒し場所を奪われようとしてる。大人に傷つけられ、癒し場をその大人に奪われて、耐えろって言われてる。死にたいと思っても不思議じゃない」
「鑑別から出てきたらヤバイじゃん…」
「でも、死にたいと言ったのも嘘。それはただあんたと寄りを戻したいと願う気持ち。女はズルイよ。どんな手でも使う。でもね、それはそうまでしても守りたいものなんだと思う。傷ついて薬で心晴らしてきて、自分でも薬なんていけないと思ってるけど仕方ないじゃんって思いながら過ごしてきたと思う。彼女はあんたが居てくれることで更正できると思ってる。小さな期待を胸にしまってる。この人なら…そう思う気持ちは彼女が見つけた唯一の縋れる場所だった。なのに、手を離されてさ…もう死ぬか薬しかないじゃん。あなたが居ないと生きていけないよ~って言えないから態度で示す。ハッキリ言って彼女の弱さだと思う。だけど、そこまで人間強くないんだよ…薬に手を染めた彼女は弱くない、薬に手を染めさせるほどに心を弱くしたの誰の所為って私は思う」
「親だ…」
「とりあえずもう一度言っておくけど推測だからね」
「そっか」
「まともに生きてる人間はね、晴らす場所を知ってる。カラオケだったり、スポーツだったり、世の中には悪いことと同じくらいスカッと気持ちいい事が沢山あること知ってる。何で悪いことに手を出さないか解る?」
「う~ん、悪いからとしか…」
「悪いことをすると後味が悪いからじゃない?!」
「あぁ!」
「彼女もきっと後悔してる。でも繰り返すのは、回りに誘惑する友達がいるからなんじゃない?」
「かもしれん…始めはカラオケしてたけど結局いつもやった」
「心を取り戻すことは一人じゃ無理なのね。誰もが、一人ぼっちだと駄目になる。誰かが居るから心が晴れる。落ちたとき、誰かを探さない?」
「電話しまくるな!」
「そこに居た人間と心を晴らす。そこに居た人間が悪いことに誘ってきたら、断るほど心は強くない。今すぐにでも癒したい心がある」
「負けんなよって思うよ」
「彼女が探し出す場所にあんたが居ればいい」
「俺が居なかったから…」
「あんたが悪いことを止めた時、そこには誰がいた?今、あんたの周りに誰が居る?彼女はあんたを探してる。薬や自傷じゃないと誤魔化せなかった痛い胸の傷があんたの手で癒されるのを知った。今は彼女の唯一の救い。多分、一人更正していったあんたを見て置いていかれてる気分だと思う。遠くから見守られたって不安で仕方がない。しっかり手を握ってないと、離れた手は一番近い物を握ろうとする。痛みを取り除ける頼れるものを握る。側に居た友達の手の中の薬だったり、一人っきりの夜に側にあったカッターナイフだったり…」
「一番近くにあるものか…」
「更正したら結婚しようなんて手に届かないものなんて何の意味もない。目の前の手を伸ばしたら直ぐ届くものじゃないと駄目なんだよ。未来にあんたがいるんじゃなくて、今側に居て欲しい」
「どうすれば…そんないつもいつも見張ってられない」
「そうだな…鑑別所から出てきた彼女を海に連れて行く」
「海?!」
「彼女が鑑別所で反省することなんて何もない。何も変らず出てくる。その後にまともな大人に諭されたって念仏にしか聞こえない。罪悪とか後悔とか感じる隙間なんてないんだよ。海で彼女が癒されるわけじゃない。彼女は海でやっと心の傷を知るの。そしてやっと罪悪と後悔が押し寄せる。何もないこと、そこにあんたがいること、そこで痛いと思った心の傷はあんたが負わせる傷なの」
「意味が解らない」
「コンビニのおにぎりを盗んで、どれだけの人に迷惑がかかってどれだけの人が心を痛めるかなんて正直わからないよね。ある程度罪悪を感じてコンビニの店長に謝って、母親に頭下げて~その場で処理できるものならないいけれど、心にまだ残る罪悪はどう処理すればいいのだろうって思わない?」
「後味悪ぃ~よな…」
「まだ謝れる相手が居ればいいけれど、薬に手を出した罪はどう償えばいい?」
「難っ!」
「あんたが自殺をした時、誰に謝罪しようと思った…?彼女の…悪を与えてやれるのはあんたなんだよって事。今まで生きてきた罪をこの人に謝らないといけない、そう思うことが彼女の更正なんじゃないかな」
「お前が悪いことをしたら俺に迷惑が掛かるから謝れって?!」
「いや、あからさまにやれって言ってるわけじゃなく、彼女にそう思わせてあげられたら、少しは楽になるかもしれないって話。あんたがつけた傷は、必ずあんたが治せるから。一度ついた傷をあんたがつけたかのように錯覚させるって言うのかな…難しいけどね。この海が心の戻る場所なんだって教えてあげられたらいいと思う。どんなに心痛めた時でも、思い出せる程の海を作りだせるといい…いうてること解る?」
「何となく…」
「あんたがお父さんと喧嘩して家飛び出したとき、ずっと話中だった。あんたが夢中で掛け続けた場所、向かった場所、探していた人がそうだと思う。睡眠薬を飲んだ時、誰も側には居なかったよね…。だけど、見つけてくれた人が居ることを忘れちゃいけない。あんたはこれから彼女のそんな人になるんだよ」
弟の視線を見定めることができない。
弟は何を見ているというのか。
「鑑別居る時に貰った姉貴からの手紙まだ持ってるよ」
私は返事もせずに、便箋を探した。
「一応、あまり硬くならずふざけ過ぎない白の便箋がいいんじゃない?」
「あぁ、これでいい」
「書くこと決まった?」
「そうだな…とりあえず俺が守らないとって思ってる」
「果たせない約束ならしないほうがいい」
「俺、待ってるよ」
「好きにしな!」


少し私情を挟みすぎた。
果たされない約束だったとしても、その時救われたことは確かなのに、失った時の傷をどう癒せばいいのかなんて私にはまだ解らないから…彼女の側に弟が連れ添うことが正しいことなのかどうか解らない。
今、私はこの痛みを受けるのなら、始めから…そう思う時がある。
だけど、他の術を知らない。
本当に本当に唯一だった。
死を選ぶのは弱さなんかじゃない、逃げなんかじゃない、卑怯なんかじゃない…それだけの痛みに耐えた結果だ。
だけど思う、たった一人側に居てくれるだけで癒える傷があること、死の選択は馬鹿らしい。
何故、たった一人なのか…。
親が子を愛していないのか、子が親の愛を感じないだけなのか、だとしたら何故愛を感じられないのか…。
それでもたった一人の愛を救いに思う。
初めて出会った愛のように。
「あのね、今日のんちゃんと遊んだの」母親の愛を確かめることを何処で覚えるのだろうか。
私は一度だってやった覚えはない。
学校で教わる家族愛は、他人事に聞こえる。


弟は3時間ほど部屋にこもって手紙を書いていたようだ。
私は彼に電話をする。
繋がらない電話。
<あのね、聞いて欲しいことがあって電話した。また時間できたら電話ください>
そこに壁があることを知りたくなくて「あのね」を詰まらせる。
お願いです、私の唯一を奪い取らないで…。
彼に「あのね」とメールする。
彼の愛を確かめるため?
違う、私は一人じゃないんだと確かめるために。
そこに在るカッターナイフを手にしないために。



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2006-06-13

253.過去の呪縛

テーマ:彼女じゃない恋愛

カラオケを出て、夜の街を車で走っている。
外の風景が見慣れないことに私はホッとする。
いつ、帰されてしまうのだろうかという不安、知らない街がかき消してくれる。


「お前、聞きたいことあったんじゃないの?」
「あぁ…えっと…」
「顔合わせてると言い難いことやったか?」
「うんと…繰り返しになるけど、やっぱり何処まで許されるのかが解らない」
「あぁ~、俺が悪かったよな」
「悪いことだったの?」
「いや、そうじゃないよ」
「ゆうじはいつから恋愛だと思ってたの?」
「今思えば始めからなのかな」
「じゃぁ…戻る場所なんてないじゃん」
「う~ん」
「ゆうじは、泣いてるウチを抱きしめてくれたし、一晩中だって側にいてくれた。それは好きって言われる前も後も変らなかった。違ったのはセックスをしたこと。違う?」
「そうだな」
「ゆうじが優しく抱きしめてくれたのは好きだから?それともウチだから?」
「……」
「ゆうじが他の友達が泣いているのを見て抱きしめてるところなんて見たことない。何でウチには優しくしてくれたの?何で足の遅い私の手を引こうと思ったの?何で…今日は私に触れないの?何で映画の時、私に触れたの?」
「そんなに悩むようなことなら、これから気をつけるようにするよ」
「それは、やらないようにするってこと?」
「そうだよ!」
「何で態度が変るの?思うようにしてたらダメなの?」
「友達同士で手を繋いで変じゃないか?」
「変だと思うけど、ずっとそうしてきてくれたゆうじがいるから…」
「だからしないって言ってるだろ」
「何で我慢しなきゃいけないの?友達だって手を繋ぎたいと思ったら繋ぐ、それはもしかしたら好きかもしれない前兆かもしれないけれど、繋ぎたくなくなったら繋がなくなればいいんじゃないの?」
「何でもかんでも思ったまま動いてられないだろ?」
「だったら…」
「俺が悪かったよ」
「そんな風に言われたら…」
「そうだな…今、泣きそうなお前を見て抱きしめてやりたいと思う。そう思うなら抱きしめてやればいいと思うかもしれないけれど、俺の中ではやっちゃいけないって思いもあるんだよ。それは俺の下心かもしれないし、好きな人を思えばこそなのかもしれないし、何がそう思わせるのかは解らないけれど、今、俺が取る言動も俺の思ったままなんだよ」
「ウチ、ゆうじに触れたいって思うことがある。ゆうじの胸で初めて泣いた時、辛い胸の痛みが吹っ飛んでくのを感じた。ゆうじの手で癒されたいと思うの。でも嫌がるだろうなって思ったら耐えようって思う。そしたらもっともっと辛くなって、どうしていいのか解らなくなる」
「お前はお前が思うようにすればいい」
「嫌われたくない」
「だったら、友達以上のことはしない。俺も嫌われたくないって思ってる。寧ろ大きい」
「友達…って何?」
「何だろうな…」
「友達なんていなかった」
「あいつがいるだろう?」
「あの子とゆうじは違う」
「お前は俺をどうしたいの?」
「どう…?ゆうじはゆうじでいて欲しい」
「俺は俺だよ。今の俺が嫌なら仕方ないんじゃないか?」
「ゆうじは思うようにやってる…」
「そう」
「ウチは我慢しなきゃいけない…」
「そう思うなら、もう会わないよ」
「そう言われると思った」
「我慢しなくなるようになって欲しい。最低な男か?」
「…うぅん。それが強さなんだね。ウチはどうしたら…」
「……」
「自然にそう思わなくなるのかな…。あの頃からどんな風に心変わりしていったの?ウチはどう切り替えればいい?」
「これとは言えないよ」

「友達…なんて何処にも見つからない」

「お前は過去にとらわれ過ぎだ」

「……」

「人は変る…」
「変ってく…そう、ウチは今でもどんどんゆうじを好きになってく…いつまで続いていくの…?」
「……」
「心は何処で終わる?」
「……」
「ホントに、ホントに初めてこんなに人を好きになったの。この気持ち消えて欲しくないの。ずっとこのままで居たい…うち、ゆうじのこと…もう好きじゃないよ」
「そっか」
「全然好きじゃない」
「そか」
「全然普通。友達…だよ。ちょっと変なだけ。そう…変なだけ。何が変?何をして欲しくない?」
「……不必要なメールは送らないで欲しい」
「そか…」
それが全てだよね。
私には全てが必要だった。
彼に対して不必要なものなんて何もなかった。
全てを否定された気分だった。


「俺さ、仕事辞めようと思ってたんだけど、今の仕事でずっとやっていこうと思ってる」
しばらくの無言を彼が切り裂いた。
「そっか」
「安定しないし、生活は不規則だし、だけどそれだけに遣り甲斐はある。やったらやっただけ返ってくる。何処までやれるかは解らないけれど、やってみようと思うんだ」
「うん」
「将来結婚した時、十分な幸せを与えてやれる環境は作れないかもしれないけれど、中途半端で終わるような事はしたくない」
「うん」
「一生愛せる人と一緒になって…もう誰も苦しめたくはない」
「そうだね」
「お前には本当に辛い思いをさせてしまった」
「うぅん」
「俺は憎む資格なんてないのかもしれない…」
「…お父さん?」
「お前、母親のこと憎んでないのか?」
「別に…」
「親の勝手でどれだけ俺たちの人生が左右された?!」
「ウチは、最善の結果だと思ってるよ」
「お前が母親役をやってきた時間は取り戻せない」
「皆、今やれることをやりたいようにやってる。誰も文句なんて言ってない。これで成り立ってる。今までそれが理由で振られたこともあった。仕事だって満足にできない。だけど、それはそれでよかったと思う。パパだって周りが止めても自分の意思で母親を養ってるの。誰も苦労だなんて思わないし、好きでやってるんだよ。ゆうじのお母さんだって、自分の意思で別れて自分の意思で必死に働いてきたんじゃん。苦労なんかじゃない、ゆうじが好きだからに決まってるでしょ。ゆうじのお母さんの苦労は父親の所為じゃない。ゆうじを育てる為じゃん」
「苦労じゃない…か…」
「ウチが苦しんでるのは、ゆうじの所為じゃない。ウチがゆうじを好きだからだもん」
「……」
「解る?ウチが辛いのは、母親が家を出た事じゃない、ウチがママを好きで帰ってきて欲しいって思ってるから。家族が好きだからあったかいご飯を作ってあげようって思ってるだけ。なんで、一緒にいるかなんて簡単じゃん。幸せだからに決まってるでしょ!」
「そうだな…」
「ゆうじは結局誰も愛してなんかいないんだよ…」
「そうかもしれないな」
「嫌ならやめちゃえばいい。親を将来養わなきゃいけないとか思うなら止めといた方がいい。だんだんボケていってさ、自分の事なんて忘れていっちゃうんだよ。自分の好きな人だってそう、いつ愛したことを忘れてしまうかも解らない。それでも、一緒にいるんだよ。名前さえ呼んではもらえないかもしれない。それでも幸せなんだよ」
「そうだな…」
「親を憎むのは勝手、私を巻き込まないで」
自分の意思を押し付ける形になってしまった。
彼の父親のことに口出しするつもりはなかったのに、気づけば言葉をぶつけてた。
これは私が何年も積み重ねた想いだ。
彼には今投げた言葉を飲み込んで欲しくはなかった。
彼の手で彼の心で、父親を受け止めて欲しい。
今すぐ強くなれなんて言いたくはない。
土台のない強さなんてもろく直ぐに崩れてしまうから。
「もう少し、お母さんと話す機会ができればいいのにね」
「そうだな…」
涙が出そうなのは、私の土台もまた強くはなりきれずもろいものなのだ。
「お前さ、死のうと思ったことある?あるよな…」
「ふふ…。何?」
「俺、この数ヶ月お前のことを考えて、お前の気持ちを全てわかる分けじゃないけれど、お前の解るだけの痛みを感じて、それでも俺はお前を捨てる形になって…自殺しようと思った…」
「そか…生きててくれて良かった」
「お前さ…」
「怖かったでしょ?何も考えず楽に生きてればいいんだよ」
「俺、お前に…」
「ウチね、死ぬの怖いから、車にはねられようが命ある限り生きてやる~って思ってるんだ。だから、どんな事があってもウチは生きてるし、大切なものを守ってく。ゆうじが一人ぼっちになっても、ウチが守ってあげるよ」
「俺…」
「辛かったね、ゆうじ」
彼の顔を見ないようにした。
もう抱きしめてあげられないから…見ていないフリをした。
彼がどんな顔をしていたかなんて私は知らない。


「俺、仕事残してきてて、今日中にやらなきゃいけない仕事があるんだ。帰らなきゃいけなくて…そろそろ送ってくよ」
「うん」
彼は、辺りを見回し、帰り道を確認しているようだ。
徐々に見慣れた景色が目につく。
ずっと無言だった。


私の家の前に車が止まる。
彼は車のエンジンを切り、少し右よりに座りなおしドアにもたれ、私の方を向く。
「今日、ありがとな」
「うん」
「楽しかったよ」
「うん」
「また、遊びにいこうな」
「うん」
「今度はCD持ってくるから」
「ゆうじ」
「ん?」
「お誕生日おめでとう」
ずっと引き出しにしまっていた、プレゼントを渡す。
「え?!」
「……」
「あ…!ごめん…バレンタインからずっとだったもんな…。本当にごめん」
バレンタインって言葉は涙のスイッチに変る。
泣きそうだった。
「開けていい?」
「うん」
「なんだろ…これ…」
「あなたの嫌いな緑と幾何学模様の贈り物」
「あはは、だからあん時あんなこと…。あれはポスターの話やし…ってこれ何?」
「オイルスコープだよ」
「おぅ!綺麗」
彼は車のライトをつけ、オイルスコープを覗く。
「嘘ばっかり!」
「ほんと、ほんと、綺麗だよ」
「あっそ」
「俺、万華鏡なんて初めて貰ったわ。何でまた?」
「2月、忙しかったでしょ。疲れてたし、癒せたらいいなって思ってた」
「それで緑?!」
「そ~う!ごめんなさいね、運気下げちゃって」
「冗談だって、部屋には沢山植物もあるし、緑は癒されるよ」
「気ぃつかわなくったっていいよ!」
「ほんとだって」
「捨てるならウチが見つけ出さないところでやって」
「大切にする」
「あっそ…」
「ありがとな!…あ、手紙入ってんじゃん」
「え?」
「これ、手紙じゃないの?」
「あ、え、あ、そ、それはダメ!返して」
「いいじゃん。入れてたの忘れてたんか?頂戴よ」
彼は2月に書いた私の手紙を開けて読もうとしている。
「ダメ!返して!もうあなたには必要ないでしょ」
「解った解った、見ないから頂戴。何年か経ってから見る」
私が奪い返そうとする手紙を、彼は阻止する。
子供からおもちゃを取り上げたように。
「ほんとに…本当に、ごめんなさい…」
「何が書いて…」
「解るでしょ…何が書いてあるのかくらい…」
「……」
「私が処分するの…あなたは一度その言葉を受け取ることを拒否した…」
「そんなつもりは…」
「もう二度と届けるつもりはないです」
今日は泣かないつもりだった…。
「お、おぃ…」
手紙を彼の手から奪いとり、私は車を降りた。
「ちょと待てよ」
彼に腕をつかまれ、引き止められる。
「何か…言えよ」
「バイバイ…」
笑顔を作ってそう言った。
彼の手が私の腕を伝い落ちる。
車のドアを閉める。
バンッ。
弾けとんだ…涙がどっと溢れ出る。
彼を振り返ることなく、私は家に帰った。



ゆうじへ


お誕生日おめでとう。
会えない日が続いてるけれど、次に会える日を思えばとても毎日が楽しいです。
だって、ずっと一緒だもんね。
ゆうじと出会ってから、今日の日を好きになりました。
何度も迎えた今日の日だけど、あなたに愛されて迎える今日の日を嬉しく思います。
仕事が忙しいのに、わがままばかり言ってごめんね。
3月はいっぱいデートしようね。
仕事忙しいだろうけど、すごく離れているけれど、心だけはずっとずっと側にいてね。
バレンタインに言われたこと、忘れずにいるからね。
泣かないから。
信じて待ってる。
来年は一緒にお祝いしようね。


せのりより



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2006-06-13

252.友達の形

テーマ:彼女じゃない恋愛

「映画の時間までだいぶあるな。ブラブラするか」
「ブラブラ」
「お前ってブラブラしたりするの?」
「あんまり」
「あれだろ!買い物行っても目的の物しか買わない」
「そうそう」
「お前とこうやってブラブラすることもなかったよな」
「そうだね」
「ちょっと外出て煙草すうか」
雑居ビルを出て、喫煙所を探す。
「最近は煙草吸う場所も限られてきたよな」
「次の喫煙所までもたないよね」
「やめたら?」
「なんでさ!」
「俺が言ってもやめないか」
「やめないよ!止める時は自分で決める」
ビルの影、人気のない場所で小さな灰皿を見つける。
私は鞄の中から煙草を出し、2本取り出す。
1本をくわえ、もう1本は口を開けて待つ彼の口へ運ぶ。
彼はパクッとくわえ、モゴモゴ言いながら「火」と言う。
「あれ?ライターない」
「えーーーもう!あぁ、俺のポケットにある」
「え?!」
「両手ふさがってる。取って」
「どっち?」
「さぁ、どっちでしょう?」
「えぇ!もう」
私は彼のジーンズの狭いポケットに無理やり手を入れる。
「どこ?ないよ?」
「まだポケットはいっぱいあるだろ~」
「まさか、チビポケットinポケットじゃないよねぇ~」
「なんだよその、チビポケットinポケットって」
「ポケットの中に意味のないチビポケットあるじゃん」
「そんな風に言う奴おらんし、てか入らんし」
「もぅ!どこ!!」

「は~や~く~」
「自分でとりなよ~~~。ちょっと失礼」
彼のケツをパシパシ叩く。
「おい、それライター探す以外に、怨念こもってないか?」
「気のせいだよ」
「煙草吸いた~い」
「もうポケットない」
「もう1個入り口あるの知ってる?」
「どこ?」
「ここ~」
そう言いながら彼は腰を前に突き出す。
「……あ…あ、あったあった、ここを忘れてた~。こうやって擦ってちょっと時間掛かるけど、愛情たっぷりに擦ると火がつく~ってなんでやねん!」
私は彼の股間を遠慮がちにさすりながら言う。
「乗るなよ!あはは。てか最初躊躇ったろ」
「バカじゃないの!」
「はい、荷物もって」
「始めっからそうしなよ!」

「普通に左のポケットに入ってるし」
「そんな奥まで入んないし」
「そんなこと言ったら火貸さないよ」
「ご…ごめんなさいー」
彼は、火をつけてくれそのままライターをまた左ポケットにしまった。
「ぷは~やっと吸えたね。ありがと」
「至福の時や!お前にこれ以上の至福なんてないだろ」
「うん、失くなった」
「……そか」
「もう、あぁいう事させないで…」
「ごめん」
しばらく、無言のまま二人煙草を吸った。
もう少し無言のままで、そう思っていたかどうかは解らないが、時間をかけて1本を吸った。

「さっき横通った輸入雑貨の店行ってもいい?俺探してる物あるんだよ」
「うん、何?」
私たちは煙草を灰皿に押し付け、ビル内に入り来た道を戻った。
「木の人形で、体が三角なん。去年かな1体貰ったんやけど、そいつの仲間がいるらしくて、集めつめてるねん」
「ふ~ん」
「おっ!ヤバイ!いっぱいおる」
「どれ?」
「これこれ」
「わ~可愛い」
「だろ?」
「いっぱいおる~」
「俺もこんなおるとこは初めてみた」
「部屋がにぎやかになるね」
「完成図を想像するだけでワクワクするわ」
「こいつとこいつは恋人同士やねんね」
「みたいやな!俺、こいつ持ってるから相方は買ってやらんとな」
「この犬可愛い~」
「どれ?おっ!それ頂き」
「ちょっと待って!コレ全部表情ちゃうや~ん」
「そうやで!だから良いねんやんか」
「うっわ~~~可愛いね~」
「お前って何色好き?」
「んとね、緑」
「最悪やな、俺の運気を下げる」
「凹む…」
「お!おったおった」
手渡される緑色のサルの人形。
「可愛くないサルや」
「可愛くない…いらない」
「俺も、そいつはいらんわ」
「ムカつく…このサル可哀想」
「お前が買ってやればいいじゃん」
「……いらないもん」
私はサルの人形をもとあった場所に戻し、その売り場から遠ざかる。
「俺、もう少しみてるから」
もっと、ずっとずっと前にこんな買い物をしたかった。
そしたら私も、絶対あのサルの人形を買ったのに…。
私は輸入雑貨店の違う商品を見てまわった。
少しレトロなおもちゃが並ぶコーナー。
無人駅のホームに置いてある広告がついてあるようなベンチに、バスと停留所。
私はバスを手で押し走らせ遊ぶ。
残酷的にそこに置いてある人形をバスでひきはねてみたりもした。
「何やってんねん」
「あ、このベンチにさっきの子たちが座ると可愛いね」
「お!ほんまや、ちょっと並べてみたろかな」
「あは、ピッタリサイズやん。ちゃんと座ってる~」
「部屋にあるやつは、テレビの上にただあるだけやから、このベンチ欲しいな~」
「このベンチがあるだけでミニチュアの世界だね」
「お前、いいこと言うわ!こういうおもちゃにかけては先生やな」
「何かムカつく」
「お前にも出来上がったとこ見せたりたいわ」
「ふふ…」
1度だって見ることはないのだろうな、そう思ったら寂しくなった。
彼に喜んでもらえたことの嬉しさと寂しさ。
私は何故ここにいるのだろうという気分になる。
「ちょっとごめん」
「ん?」
彼の方を見ると、彼は私の両肩に手を添え押す真似をした。
私の肩と彼の手の距離はやっぱり10cm程あった。
「ちょっと通る」
「あぁ、はいはい」
私は狭い通路に少しのスペースを作った。
彼は、細心の注意を払うかのように私に触れずすり抜けていった。
私、バイキンみたいじゃん…。
何となく見るものなく、やることもなく、すり抜けていった彼の後をおった。
彼はポスターを見ている。
「ポスターも部屋にあるの?」
「部屋が寂しいからな」
「ふ~ん」
「う~ん、こういうのはいらんねんな」
彼は幾何学模様のポスターを持ち上げ言う。
「嫌いなの?」
「目、チカチカするやん」
「綺麗じゃん」
「何か逆に疲れる」
「そ…そなんだ…」
「何?」
「別に…」
「やっぱ、ド~ンとこう1つインパクトがある方がいいかな」
彼が持ち上げたのは背景余白を十分に残した単純なデザインのものだった。
「そう言うのが好きなんだね」
「まぁな。どうした?」
「うぅん」
「疲れたか?」
「大丈夫だよ」
「そろそろ時間やし、行くか」
彼は清算をすませ、店の外で待つ私に駆け寄ってきた。
「楽しくないか?」
「うぅん、楽しいよ」


「ちょっと早いけど休憩がてら待つか」
映画館の売店などが並ぶフロアの置く、ソファーベンチに座るよう彼に言われる。
私が座った場所に荷物を置いた彼は、売店へ飲み物を買いにいった。
そして手に飲み物を握りながら私の元へ戻ってくる。
飲み物を手渡され、置いていた荷物をずらし、彼は私の隣に座る。
彼は半身私に被さって私を後ろから包み込むよう密着して座った。
え?!あれ?!え?!
「のど渇いたろ?飲めよ」
そう言いながら彼は私の頭を撫でた。
挙動不振になる。
そんな私に気づいたのか、彼は何もなかったかのように、少し私からスペースを作り座り直した。
本当に何もなかったかのように…。
「せのり電車男って見た?」
「映画の方?見てない。ドラマは見るつもり」
「あれだろ、伊東美咲」
「伊東美咲?」
「うーん、ランチの女王に出てた」
「あぁ、好き」
「いや、好き嫌い聞いてないし」
「嫌いだったら見ないじゃん」
「ま、そうかな」
「で、何?」
「…何、言おうとしてたのか忘れたわ!曲誰?」
「あれ、トびはねでやってるやつ」
「あぁ、サンボマスター」
「え?!サボテンマスター」
「何の専門職だよ!」
「あぁ言う純愛ってどう?」
「ありえんわな~」
「ありえん…」
「今、何がありえんって思った?」
「え、いや、顔だろ!顔!と思って」
「まぁな、何だかんだで顔って重要だよな」
「カッコいい奴じゃないとしゃべりたくもない」
「何で俺と話すようになったん?」
「え?!それ本気で言ってんの?」
「何?!」
「その顔で、自覚なし?!」
「自覚ってなんだよ、自覚って」
「モテるでしょ~ってよく言われるでしょ!」
「あぁ、実際言われるけど、好意を寄せられたことなんてないよ」
「性格悪いもんね」
「それ、結構凹む」
「あはは」
「でも、俺ってお前のタイプではないだろ」
「全然!ストライクだよ」
「何処がだよ!お前の好きな奴って、ガクトとか堂珍とか王子様系やんか」
「そこだよポイントは!王子様」
「王子様が何?」
「一般ピーポーが王子様をストライクゾーンにするかってこと」
「あぁ、別格って事か」
「そう!もし、ガクトが目の前に現れたら拝むね」
「俺は?」
「何?容姿で悩んでるわけ?」
「こんな事お前に言うのもアレだけど、何で俺なのかな?って」
「どういう意味?」
「お前ならさ、もっといい男が横に並んだ方がいいんじゃないかって」
「そりゃ好みでしょ!」
「まぁそうだけどさ」
「ウチってさ、可愛いと思うんだよね」
「あはは、調子こいて何言い出してんだよ」
「冗談じゃなく、一応は可愛いと思われるようにしてるわけさ」
「あぁ、でも冗談抜き上玉だよ」
「ウチはね、不細工は嫌いだし、友達にもならない」
「ハッキリ言うね」
「腹黒いかもしれないけど、実際そう!私はそんな低いレベルの人間じゃないって思ってる」
「いい心がけだ!」
「でもね、世の中には自分より可愛い子たちがウジャウジャいるわけで、もっと可愛くなりたいって思っても身に染みて自分のレベルを感じるわけよ」
「で、お前の中のランクって?」
「中の上」
「ま、妥当だな」
「ウチは、自分よりレベルの低い人間とは付き合わない。出来れば高いレベルに混ざって向上させたい」
「それって、褒められてる?」
「ウチのことを上玉だと思ってくれてるなら、もっと自信もって」
「あはは、ありがとう」
「ゆうじが自分に自信がない人でよかった」
「ん?」
「本当なら、ウチに見向きもしない別の世界の人だよ」
「また褒められてるな~俺!励まされてるのか?」
「ウチは、周りの人がゆうじの横を見て何であんな女連れてんだろうって思われないよう頑張った」
「そっか」
「可愛くなったと思う。もっと可愛くなりたいと思う」
「そうだな」
「ゆうじもウチに劣ると思うなら頑張ればいい」
「あはは、そうだな」
「好きな人振り向いてくれないの?」
「ん?」
「綺麗な人なの?」
「俺はさ、自分で言うのもアレだけど高飛車なんだよ」
「ぶっ!っぽい」
「いつも自分より下じゃないと嫌なのね。お前くらいだよ…な、だけにお前が俺と一緒にいることが不思議で仕方ない」
「ふ~ん、見下されてるって思ってるんだ」
「思ってないよ。お前は尊敬してる」
「ウチもだよ」
「少し彼女と話をしたんだよ。仕事上だけどな」
「そう」
「何だろうな…」
「眼中になく見下されてる気になった…」
「どうだろうな…」
「そんな、自分で自分を貶してたらどんどん落ちてくよ」
「落ちてるつもりはないけどな」
「ゆうじの良いとこ消えちゃってるよ」
「俺の良いとこ?」
「悔しいから教えない」
「あはは」
「ゆうじは素敵な人だよ」
「ありがとな…お前、そんな綺麗な笑顔で笑えたっけ?」
「ウチは何も変ってない。ゆうじが勝手にウチより下に落ちただけだよ」
「そっか…」
彼はひじを膝につき、両手を組んで両人差し指で眉間を押さえ、時々目をつむり黙ったまま何かを考えているようだった。
私はそんな彼の横顔をじっと見つめた。
しばらくすると、彼は右手で拳を作り、左の手のひらへパチンと拳をぶつけ、大きなため息を無理やり吐き出した。
「せのり、見てみろよあのカップル!援助かな?」
「どれ?う~ん、ぽいけど男の子まだ若いって」
「高校生だな、いや退学しましたって感じだなありゃ」
「女の子制服だけど、何故か胸元はだけてるね」
「俺らと同じ映画っぽいな」
「かな」
「この時間だと映画終わって確実セックスだな」
「わかんないでしょ~」
「あのカップルセックス三昧っぽくねぇ?」
「ぽ、ぽいけど~」
「バック、バック、バック、バック!みたいな」
「キモイよ!てか、バックばっかじゃん」
「映画見終わってやることってったら一つしかないわな」
「ふ~ん、一つしかね…」
「俺らも行くか!」
「え?!」
「あはは、え・い・が!」
「う、うん」
私たちは上映10分前の劇場へと向かった。


席につき、荷物を置き、彼と私の間にあるホルダーに飲み物を置く。
私は膝に手を置き彼の手を眺めてた。
いつも握ってくれていた手を眺めてた。
彼は指で太ももをリズムよく叩く。
そして両肘掛に手を置き、居心地を確かめるように肘掛を摩り、落ち着かなかったのか今度は自分の太ももを摩る。
何となく、彼の手が落ち着く場所を探してるように見えた。
自分が自分の手の置き場に困っていたからかもしれない。
彼は、両手を合わせ指を絡ませる。
行ったり来たりの指、握ったり叩いたり…。
そして両手は引き離される。
また太ももを摩り、もう迷わないぞとばかりにもう一度彼は両手を組みそのまま下腹部のところへと落ち着かせた。
私も両手を組み太ももの間に置いた。
お互い、行き着いた場所は自分の手を自分で握ることだった。
劇場が暗くなる。
スクリーンで予告上映が始まった。
「せのり、多分それほどエグイもんはないと思うけど少しアクションあるからな」
「うん、だって戦国でしょ!覚悟はしとります」
「叫ぶなよ!」
「大丈夫だよ!!」
大丈夫ではなかった。
バッサバッサ、ドッカンドッカンと人が死んでいく様を見て、私は固まる。
パッカリ開いた口、殴られるわけでもないのに顔をガードする腕。
「で、何この手」
「な、何でしょう?」
「怖いか?」
私は首を横に振る。
正直めちゃくちゃ怖かった。
泣きそうだった。
「この手、すんげぇ力入ってんな!震えてんじゃん」
彼は私の手を握りそう言った。
「繋いでてやろうか?」
私は、首を横に振った。
彼は、少し私の手を摩ったり握ったりしたあと、ポンポンと私の手を叩きまた自分の手を握り直した。
大きなアクションがあるたびに私は怯む。
脱力しかけたころ、彼は私の頭に手をやり私の顔を彼の肩へ伏せさせたのだ。
そっと頭を撫でられ、私はそのまま動けなかった。
怖い映画を見ようとも思えず、彼に頼ることも出来ず、何も選べず、ただ与えられた状況を超えるしかなかった。
溢れそうになる涙をぐっと耐えた。
何に恐怖していたのかは解らない。


映画を見終え、私たちはカラオケへ行った。
「やっぱりお前に会ったらカラオケ行かないとな!」
「何それ!」
「周りはおっさんばっかやからな」
「おっさんでも歌ってりゃいいんじゃない」
「知ってる曲が違うやん」
「ウチもそんなに知らないじゃんよ」
「気にするな!今日はせのりの歌が聞きたい」
「えー、ゆうじが歌うんでしょ」
「いいから!ほら、何歌う?」
「え、ちょっと待ってよ」
「最近、何聞いた?」
「えー、CDは買ってないし…スマスマくらいしか」
「先週何歌ってた?」
「友だちへ」
「よし、それいっとこ」
勢いで選んで歌わされた曲に声が震えた。
彼にも伝わってしまっただろうか。
今まで茶化していた彼が、真剣に画面の文字を追っていた。
「'Cause I needed a friend 君が必要さ 友達と 呼べる…」
「どうした?歌えよ~」
「もういい…」
「君には 僕が必要さ 友達と 思える幸せ Good love from me to you」
彼は私の代わりに最後まで歌った。
「いい歌だね」
「そうだな」
「本当にいい歌だと思えてるのかな…うち」
「……お、お前にそんな歌の才能があるわけないやろ」
「あはは、そうだね」
「よし!次、何歌う?」
「もうウチはいい~の~」
「大塚愛、覚えた?」
「まだ」
「聞くっていったろ?」
「お金ないもん」
「あぁ、もう!そう言うと思った。俺ずっとお前にCD貸そうと思ってたんだよ」
「貸してくれんの?」
「持ってくりゃ良かった!今度絶対貸すから、てか帰ってすぐ郵送したいくらいや」
「そんなに歌わせたいんだ…」
「特に『大好きだよ。』な」
「うん…」
「ってか、自分で歌お!聞いとけ」
何だかんだと言いながら2時間ほどカラオケをした。


これが、友達と呼べる幸せなのだろうか…。 
彼の側にいて確かに幸せと呼べるあたたかいものを感じた。
だけど、おしつぶされそうな重圧感に涙を堪えることで精一杯だった。
ずっとこのまま…そう思う気持ちと、今を乗り越えるという気持ち。
私はあなたの友達が出来ていますか?



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歌詞引用

SMAP, エリック・クラプトン, 竹内まりや, 小林武史, 麻生哲朗, 武藤星児
友だちへ ~Say What You Will~

歌詞検索は「うたまっぷ

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