2006-06-08

248.あの頃に戻ろう

テーマ:彼女じゃない恋愛

時計の秒針を目で追った。
3週も時計を凝視していると眉間が痛くなる。
また時計を見る、4分を過ぎたところだ。
彼に催促のメールを打ちたくて仕方なかった。
携帯のメール受信ボックスを開く。
連絡すると言う彼とたった5分前に届いたところなのだという事を確認して携帯を閉じぐっと我慢する。
ネットでお気に入りのホームページを見たり、パソコン内臓のゲームで遊んだり、週刊ジャンプを読んだり、読みかけの文庫を開けて直ぐ閉じ、基本など知らないストレッチをする。
上手く時間を潰せなかった。
たった30分の間にコレだけこなせれば大したものだが、どれを取っても無駄に終わってしまった。
ふと、目に入ったノート。
私はノートを手に取り1ページ1ページ見開いた。
彼と出会ってから彼のことだけを書き留めたノート。
日付は敢えて書かなかった。
彼との時間に、時を刻むという概念が私にはなかったのだ。
もう既にこの頃から限りなく永遠に近いものを感じていたのかもしれない。
途切れぬことのない関係に刻む時は必要ない…。
何年経っていようが彼は彼だった。
ノートを読みながら、私は時を数えた。
あと、どのくらいこのノートは続いていくんだろうか…。
彼との縁を自ら切ろうとした時も私はこのノートを持ち歩いた。
それが自然だった。
私は今このノートを手放したい。
相変わらず涙は止まらない。
私は何故泣いているんだろうか。


涙は逆に感情を誘発させる。
感情ありきの涙を、涙が出るから悲しいのだと逆転させる。
心がどんどん震える。
息は荒くなる。
私は一体何を考えているのだろうか。
聞こえるのは「落ち着かなきゃ」の1点。
何で…こうなんだろう。
彼と話がしたい。
彼に「何を考えてるの?」そう聞かれるだけで、気づける。
言葉を詰まらせながらも、吐き出せる感情。
彼が居なきゃ…。
鞄の中をあさった。
コレを無意識というのだろうか。
心療内科で貰った薬を1錠飲んだ。
この薬に即効性はない。
だけど、飲んだという事だけで少し安心する。
息は荒いながらも、もう直ぐ楽になるという安心感が徐々に私を落ち着かせた。
しばらくすると、頭がスカーンと軽くなる。
興奮状態を抑える薬で動悸や不安を抑える効果がある。
つまり、無理やり脳の信号を遮断させるという事なのだろうか。
心という臓器がないという事を改めて感じた。
心は心臓付近に存在するかのように私たちは胸に手を当てる。
苦しくなるのもこの辺りだ。
なのにそこには何もない。
息は少し荒いが、軽くなったのは頭だった。
不思議だけれど苦しい・辛い・悲しいとか感情が消えたわけではない。
何も変わりはしないのに、ぎゅっと締め付けられる重さと、どうしようというモヤモヤだけが消えたのだ。
そして思う、心臓が痛いと…。
脳が創る幻、私は今胸に手を当てようとは思えない。
妙な爽快感。
私は重く苦しい心を探した。
利口な頭は、彼を理解することのみが残った。
仕方ないよね…流石の脳だ、直ぐに解決へと導く。
でも嫌だな~、そう思った私は何だか棒読みで嘘みたいだった。


どれくらいこの薬は持続させるのだろうか。
このまま彼と話をしたら私はどんな言葉を吐き出すのだろうか。


0時を過ぎ彼と連絡を取ることが出来た。
繋がってからしばらく無言の時が続いている。
時折彼のため息だけが聞こえてきていた。
「何も話すことはないの?」
「話をしてくれるのはゆうじの方でしょ…」
「そうやったな…」
「ゆうじが何ヶ月もかけて考えてきたことを、2日で理解しろって事の方がおかしいよ」
「そっか…」
「ずっと側に居てくれるんでしょ」
「それはどういう意味で?」
「それを話して欲しいんだよ…」
「あぁ…恋愛じゃなく、せのりを守ります」
「恋愛じゃなく?」
「出会った頃、お前に抱いた感情は今もそのままで、守りたいとは思ってる」
「そ…つまりは、出会った頃に戻りたいって事だよね」
「お前は戻れるのか?」
「ウチね…側に居てくれるだけで十分なんだ…彼女になりたいなんて高望みだった」
「本気で言ってんのか?」
「嘘ではなかったけれど、言葉にするには早かった気がする。全部、受け入れたいっていう思いから出た言葉だった。こうしたら喜ぶだろうなこう言えば喜ぶだろうなってそればっかり考えてた。それが、ウチの喜びでもあった」
「お前、やっぱり…」
「そだよ~、セックスなんてしたくなかった。ゆうじの側に居られるならって…思ってた。明日も一緒なんだって確かめられることが幸せだった。多分…」
「嫌やったか?」
「うぅん、全然嫌じゃなかった、気持ちよかった」
「そか、そか!」
「ゆうじ、すごく優しかったし」
「まだ癒えぬ傷なんだろうなって思ってた」
「うん、怖かった…。セックスの後ウチ話さなくなるでしょ」
「あぁ、気づいてたよ。子供みたいに親指しゃぶる癖とブルブルと震える体、寂しく悲しい目を見てるといつも抱きしめたくなった」
「ウチが、始めに望んだ関係がこれから続いてく、そうだよね」
「…お前は、今も俺に合わせてるんか?」
「…それじゃだめ?」
「お前の意思はどうなるんだよ!」
「だって一緒に居たいんだもん。何かを犠牲にしなきゃ一緒に居られないなら、ウチはそうする」
「俺はお前を抑え付けたくはない」
「だったらセックスしてくれる?」
「…できないよ」
「ゆうじだって、我慢するんでしょ」
「我慢なんてしない」
「我慢じゃなかったら何?」
「お前をもう抱きたいとは思わない」
「ねぇ、ゆうじは何処に戻ろうとしてるの?あの頃、ウチを抱きしめてくれたのは何故?」
「確かに、戻るものではないかもしれないな。あの頃お前に抱いた感情を恋愛かもしれないと思っていた。だけど今は違う。違うと思えば自然に触れたいとは思わなくなる」
「そ…だったら一晩中一緒に居たって安心だね」
「俺も男ですけど…」
「ゆうじもやっぱり、性欲処理だけの為にセックスしようと思うんだね」
「そういう気持ちにはなるけど、やらないだけだ」
「んじゃ、我慢じゃんよ!」
「もうどっちだっていいよ!!」
「…何かを守りたい時、何かを抑えても守り通したいものってあるでしょ」
「そうだな…」
「ねぇ、何で恋愛じゃないって思ったの?」
「恋愛じゃないというか、前の彼女にしても今好きな人にしてもコレが恋愛なんだっていう言葉には出来ないけれどそう感じるものがあった…からかな」
「ウチにはなかった…」
「お前に抱いた感情は特別だった。だから悩んだ」
「でも、前の彼女は違うって思ったんでしょ?」
「不思議だな…」
「ウチもいつか、ゆうじへ抱く想いが恋愛じゃないってなるかな?」
「……」
「何か言ってよ!」
「こんな事言ったら卑怯なんだろうけど…お前には言わなきゃいけないような気になる」
「何?言っても大丈夫だよ」
「何で…お前のこと恋愛だと思えなかったんだろう…って」
「ね…」
「俺、本当にこんなに必要とされて頼られる事なんてなかったし、今まで何となくでいきてきた。弱い部分隠して強がって…お前と居るとコレじゃダメだなって思わせられる。弱いお前を支えながら、強いお前に支えられた。強くならなきゃって思った…そしたら、お前と過ごす時間は弱さの俺ばかりだった。甘えてたって思ったんだよ…」
「うん…わかる。ウチも、ゆうじが居てくれるんだったら、今のままで十分だって思った」
「お前には、俺だけじゃなく誰にでもそういう事の出来る人になってもらいたい。支えあうだけじゃなく、成長できる関係でいたい…」
「ねぇ、好きな人ってどんな人?」
「どんな人って…?!」
「う~ん、どんな風に愛してるのかなって」
「あぁ、難しいな…。今言葉にするならば、成長した上で目指す俺が将来愛する人かな」
「漠然だねぇ~」
「言葉にならない」
「じゃ…今は愛せないの?」
「今は、彼女に対して何もしようとは思わないよ」
「強くなるの?」
「そう…しばらく独り身で仕事や自分の人生のこと頑張ろうと思ってる」
「ふふっ…そう」
「何で笑う?」
「ちょっと嬉しかったから。ゆうじが他の女性とデートとかするの嫌だもん」
「もう話さないよ…」
「何で!?」
「お前に彼女の話をするべきじゃない」
「そんなことじゃいつまで経っても強くなれないよ」
「あはは、お前が言うなよ!」
「ねぇ、可能性の話をしてもいい?」
「何?」
「コレから先、ゆうじが私に対する想いを恋愛だと思うことはあるかな?」
「俺は、あの人を愛してるよ」
「可能性として1%でもあるのならYESって言って欲しいの。優しい嘘なんていらないの」
「あの頃に戻れるか?」
「うん」
「傷つけてばかりでごめんな…可能性はあるよ」
「あの頃に戻るけど、ウチ、ゆうじの事愛しちゃったんだ。ずっと好きで居てもいい?」
「それじゃ辛いだろ?」
「今までと辛さは変らない気がする」
「ごめん…」
「謝らないでよ…好きでいてもいい?」
「お前はそれでいいのか?」
「うん!ゆうじと同じじゃない?愛しちゃったら諦められないんだよ」
「あぁ」
「何処まで好きでいい?」
「何処までって…?!」
「好きって言ってもいい?」
「ダメ」
「ダメなんだ…また今まで通り遊びに行こうね、大好き」
「あぁ今まで通りな!好きって言ったら嫌いになるぞ」
「それならそれで構わないよ」
「強くなったな」
「これからももっと強くなろうね」
「あぁ」
「もうシカトしないで…」
「あぁ」
「好きな人の話はしないで」
「強くなるんじゃなかったの?」
「だってさ~」
「もしさ、好きな人と上手くいったらどうするん?」
「ムカつく!」
「そらそうやわな、ごめん」
「うぅん、でもね、告白する時はちゃんと報告だよ」
「あぁ、ちゃんと言う」
「…ゆうじはもっと素直になったほうがいい」
「何?!俺、素直じゃないか?十分、勝手きままやけど」
「ゆうじの心が深い…」
「はぁ?」
「ウチじゃなくてもいいけど、もっと話しなよ」
「結構色々いってるけどなぁ?」
「そう。それならいいんだけど」
「なんだよ!」
「恋愛かどうかなんて解らないけど、一生あなたを守るって思った」
「どっかで聞いたことある台詞だな」
「あなたの言葉だよ」
「…俺、最低な男だよな」
「そうかな?私にはいぃ男に見えるよ」
「お前だけだよな、そんな風に言ってくれるのは」
「ウチ、そんなに変じゃない!あなたに触れた人間はきっとそう思うに決まってる。浅い関係じゃあなたの良さは解らないよ!」
「だと良いけど、お前結構変ってるよ」
「何かムカつく」
「褒め言葉やで」
「あっそ!」
「…ん?泣いてんの?」
「気にしないで、多分、喜んでるから」
「何だよそれ」
「今日、病院行ってきたんだ」
「それで…?」
「見つけた未来を否定したいと思った」
「ん?」
「また、時が来たら話すよ」
「そっか…何かあったら電話してこい」
「その手には引っかからない!」
「何だよそれ」
「ゆうじが電話に出ることなんか殆どないもん」
「それは悪かったって」
「ちゃんと話聞いてくれるの?」
「仕事が忙しいのは本当理解してくよ」
「わかったよ」
「俺、お前になんて言えば…」
「ウチね、幸せだよ」
「幸せ…か…」
「好きになってセックスして愛し合う普通の恋愛はできないかもしれない。彼女ってのにもなったことないし、恋人ってものがどういうものかなんて知らない。ゆうじが感じた恋愛を理解することは出来ないかもしれないけれど…後悔してないし、ウチは確かにゆうじが好きだって言える。愛なんて知らないのに、変だね」
「恋愛に形なんてないだろ」
「そうだね、形にハマらずゆうじがウチを好きになればいいのに」
「それ以上言うとなぐるぞ」
「…いいよ、本当のことだもん」
「泣くなよ…」
「振られたら悲しいでしょ!ゆうじも振られたら悲しいでしょ」
「そうだな」
「明日からまた楽しくなるね。親友だよ、性別を超えた絆だよ~」
「あぁ…」
「ん?何か言いたそうだね?」
「んぁ?お前にならいつか話せるかもしれない」
「うん!待ってる」


彼との恋愛は終わった。
プラトニックに愛し、形に惑わされセックスをした。
交わることの快楽は時に愛を見る。
どんな愛かなんて私たちは知らない。
強要されたわけじゃない。
溺れたわけじゃない。
それは、ただただ自然に流れていった。
愛ってなんだろう。
恋愛とは違うの?
プラトニックに愛しいと想う。
私はそれを愛と呼ぶ。
私はそれを恋愛と呼ぶ。
私の彼女じゃない恋愛はこれからも続いてゆく。


音を立てる呼吸。
また、発作が起こるのか?
私は彼を理解した。
納得して、コレでよかったんだと言えるじゃないか…。
目の前が一瞬真っ白になる。
貧血?!
次の瞬間、今まで体を交わらせた男たちの顔が浮かぶ。
一瞬だった。
中には名前も知らない男だっている。
嘆き忘れた感情…そうだ、もっと思い出さなくちゃ…。


復讐…?なにそれ…。

突然頭を過ぎった言葉だった。

今、そんな言葉を思い描いた自分がとても怖かった。

彼に対してそう思ったのだろうか…それとも…。



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コメント

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2 ■> hikariさん

復讐という言葉の意味の是非は私にも分らないけれど、そういう気持ちで人と付き合っていたのかと思った時、少し悲しいです。
今までの恋愛を復讐と呼ぶことで、その時なんだかホッとしたんですよね。本当は大好きだったのに、素直じゃないのか…はたまたそれは本当の気持ちだったのか、今でもよく分りません。

1 ■しんどいよね・・

復讐・・私の頭もよぎりました、いつだったか、その言葉。
そういう気持ちは、正しいわけでも間違ってるわけでもないでしょうね。
ただ一緒にいれたらそれでいいのに。
そう思うのは、求められる側の人間だからでしょうか?
求めてももらえない方が悲しいでしょうか?
そんな二者択一でしょうか?
何だか混乱しますよね。
たぶん、誰も悪くないんですね。
悲しいけど。
自然になんて生きれないのが人間なのかもしれません。
自分の欲望にすら名前をつけたり、コントロールしたり。
そして偽ったり、ごまかしたり。

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