2006-03-05

227.女の願望 成れない男

テーマ:彼女じゃない恋愛

彼は私に謝り続けた。
「ごめんな、ろくにメールも電話もせんくって」
「大丈夫やで」
「ごめんな、寂しい想いさせて」
「うぅん」
「ごめんな」
「うん」
「ごめんな」
「うん」
私は、ただただ許すことしか出来なかった。
今なら、許すことなく改めることも出来ただろう。
ただの相槌だったのかもしれない。
彼が何を話そうとしているのか、そればかりが気になった。

「初めて出会ったときの事、覚えてるか?」
そう言われ、今よりもずっと胸を痛めていたあの頃を思い出す。
「あの頃、彼女と別れる積もりもなかったし、彼女以外の女性と友達なることすら自分に考えはなかった」
「そうだったよね」
「一瞬でお前に惹かれた。これが一目惚れって言うものなんだなって思った」
「・・・そう」
「あの頃、恋愛感情ではないって言ってたけど、彼女に対する想いが恋愛であるのなら、お前に対する想いは恋愛ではない、そう思ったんだ」
「愛なんてどんなものか判んないもんね」
「散々言ってきてるけど、ほんと今でも自分の恋愛観っていうのが判らない」
彼の顔はとても真剣で、私の目をまっすぐに見つめていた。
時折、目線をはずした彼の顔は悔しそうに見えた。
無いものの前で苛立っているような、そんな顔。
言葉を吐き出せず飲み込む彼を見て、そんな風に思った。
私は彼の言葉を待っている。
彼が話そうとすることは想像できる。
改めて話されるこの話は、何度聞いても改められない彼の想い。
私は徐々に彼の顔を見ることが出来なくなる。
人事のように、彼を辛そうだと思う。
そして、私が苦しめているのか、なんて思いになる。
彼が語る過去の想いに新鮮さはない。
私が知っているだけの過去、彼が話せるだけの過去。
彼女の話はまったく聞かされはしない。
それでも私は、頷きながら彼の話を聞いた。
「お前は今どう考えてる?」
「今?!」
「いや、今の今じゃなくて、大きく今をどう感じてる?」
「うーん、難しいこと聞くね」
「別に難しく考えることなんてないよ。思ったまんまいえばさ」
「思ったまんまね…」
「いろいろ望むこともあるやろ?」
「そうでもないよ。このままずっと続けばいいなって思うくらい」
「このままでえぇんか?」
「いや、そういうんじゃ…」
「思ってるやろ?!」
「うーん…例えば?」
「何で俺が…ま、彼女と別れて欲しい」
「そうだね~、別れて欲しいな~」
「ずっとお前の望みを叶えてやりたくて、でもずっと我慢させてきた…ごめんな」
「でも、別れないんでしょ!」
「叶えたい」
「ふ~ん、断言しないのは嘘になるから?!」
「そういうんじゃないけど…」
「いいよ…何となく解かるから言わなくて!自分だったら同じように言うと思うし」
彼がため息を飲んだようにみえた。
言葉を失っているのだろうか。
「そんな中途半端な想いで断言された方が困る」
彼の頭の中に罪悪という文字が浮かんでいない事を祈った。
「他には?」
「え?!」
「いろいろ望むこともあるやろう?」
彼の口調を真似て言った。
「あぁ、毎日会いたい、とか」
「うん、それから」
「毎日メールしたい、とか」
「うん、それから」
「毎日電話したい、とか」
「うん、それから」
「彼女になりたい」
「うん、それから」
「結婚したい」
「ふふ・・・」
「子供が欲しい」
「・・・」
「ずっと、一緒にいたい」
相槌をしなくなってから、2・3続いた私の願望は途切れた。
「叶えたいと思ってる」
「うん…ゆうじは…」
「何?」
あなたも同じ事を望んでいるの?
聞けなかった。
きっとこの雰囲気なら、嘘でもYESと答えるだろう。
そんな雰囲気にのまれそうだった。
私自身、望んでいないと言ったら嘘になるけれど、望むに値しないことだった。
相槌すらできなかった。
驚いた。
彼の口から結婚という言葉が出たことに対して。
そんなこと考えるの早いでしょ…冷静になった自分がいる。


「俺、お前が俺を必要としてくれてるのすごい判るねん」
「うん、すごい必要だよ」
「お前が弱いとかそんなんじゃないけど、守らないといけないってずっと思ってる」
「うん、ゆうじと会って楽しくなった」
「そうか?!」
「うん、晴れた~って感じ」
「そか…」
「何?」
黙ってしまった彼に、俯いていた顔をあわせてみる。
寂しそうな顔…。
私はいつも彼のこの顔に傷ついてきた。
人生が楽しくなったのも、心晴れたことも嘘じゃないのに、どうしてか自分を嘘つきのように思えた。
そして、笑顔をくれる顔を私は見ていられなくなる。
「お前が俺の前から居なくなって、また戻ってきたとき、正直嬉しかったよ」
「…うん」

「二度と何処にもやらないって思った」

「そう…」

「守れる力もないくせに、不安でいっぱいなくせに、俺にしか守れないって思った」

「ふふふ、かもね」
「世の中でさ、俺を必要としてくれてるのはお前だけなんよな…俺にもお前が必要で、頼る頼られるとかそんなんじゃなく…お前を尊敬してる」
「私も、ずっと上を見て歩いてきた」
「何かが欠けてるわけじゃなく…得ようとするもので…」
「ん?」
「なんか、こう…」
彼が言葉に詰まった。
詰まる言葉に不安をおぼえる。
俯いた顔をあげ、彼の顔を盗み見た。
彼は変わらず真剣なまなざしで私を見つめていた。
詰まらせた言葉は、彼自身の意思で飲み込まれていた。
何故だろうか、上げた顔を下ろせなくなた。
彼の目から、離せなくなった。
「うん…な!…うん」
彼は一人で納得してた。
「俺、まだ成れてないんだ」
「え?!」
「お前には同じものを感じた。お前が必要としてる俺には成れなくて、守りきれずに…」
「そんなことは…」
「俺自身、目指すところはそこにある」
「守・・・る・・・」
「弱いものを守る強さじゃない」
「・・・」
「守りたいから、守れるようになるから…」
彼の言葉は、私のそれとは違ったように感じた。
私は何を守りたがっている?!

否、彼が不安がるほど壊れやすい私って?!
「出会ってから、ずっと変わらずの想いや」
同時に、私はずっと変わらないまま…。
「…うん」
頷いていた。
「解かってんのか?」
「…へへ」
「まぁいいや、俺も何言ってんのか解からんかったし」
「何故、その言葉を選んだのか解からないけど、待ってればいいんでしょ!?」
「ま、つまりはそういうことやけど、守りきれない分、お前には頑張ってもらいたいって思ってる」

「うち、ゆうじが側にいてくれると、何でも頑張ろうって思えるよ」

「見てて痛々しいけどな」

「ん?何みてんの?」

「うまく話せない…」
「ふ~ん。全然解からないのに、解かった気になるのってさ、何なんだろうね」
「何なん?」
「ウチ、ゆうじのこと信じてる」
「解からないのに信じるの?」
「言ったことが本当か嘘かとかじゃなくて、きっと今ゆうじは想いを伝えてくれたんだろうなって」
「あぁ」
「そうだよね!」

「あぁ」

「いつか、きっとでいいんでしょ?」
「大好きやで」
「うん」
「何笑ってんねん!」
「うん。・・・・・・うん」
彼の話を聞いて、意味不明な話を聞いて、何も変わらない話を聞いて、今を変えようとしていた昨日の自分を思いとどまらせた。
本当に、解かった気になるのって何なんだろうか。
待つことに意味があるようなそんな気がした。
言葉を飲み込んだ彼が正しかったような、そんな今を正当化する…幸せだと思った。
涙が出るくらいに。
「今日は、ちゃんと言おうと思ってきたんよ」
「そっか…でも誘ったのウチだよ」
「お前から誘ったのなんて初めてやったよな」

「言わなきゃ、どうなってた?」

「どうなってただろうな…」

「教えてあげようか、私壊れてたよ」

「そっか…」

「話し聞けてよかった」

「店、出ようか」
彼が時計を確認する。
それをそっと盗み見る。

日付が変わった。


荷物を抱え、席を立つ彼を追った。



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コメント

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2 ■> 風さん

はじめまして、せのりです。
そう、多分、気持ちが言葉にならないってこういう事なんだろうなって思います。吐き出す言葉は嘘みたいで、挙句は両者を比べることだってあるでしょう。言葉が持つ意味が全てなら、言葉って少ないですよね…。
私には彼が放つ言葉の意味が解らなくて、辛くて嬉しい。
彼の想い以前に、自分の想いをこのブログに描写することも難しいですが、どうぞ、これからもよろしくお願いします。

1 ■切ない

はじめまして。
とっても切ない気持ちで読ませていただきました。
彼はあなたのことを大切に思っている気持ちと、他にも注がなくてはならない気持ちもありで、難しいのですね。
何だか、とっても気になりながら読んでいます。これからもお邪魔させてください。

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