2005-06-03

36.弟の自殺

テーマ:彼女じゃない恋愛

私は、心を閉ざした人の声が聞こえる。

前にも言ったが、これは能力とは違う。

勘があたるだけ。

それと、もう一つ閉ざした人はよく話す。

おしゃべりという意味ではない。

閉ざした人の言葉は、必ずそこからの糸口があるのだ。

それを絶対聞き逃してはいけない。

閉ざした人にも沢山のタイプがいる。

数多くの言葉の中に心の傷を隠す者や、無口だけれど口にした言葉に助けを求める者など。

私は何となく、そんな傷を負った言葉が大きく聞こえてくる。

心に引っかかる。

全て、勘だけど。


父は一番下の弟に対し必死だった。

高校生の彼に、日曜日に遊びさそってみたり・・・。

今まで放任してきた分、弟にとってはウザイだけだったと思う。

小学生じゃないんだから・・・。

心を開かない弟に、父はいつも白旗あげて私に相談してきた。

「あいつにどう対応すればえぇのか解からん」

「今まで放ったらかしてたんやから、自業自得」

「でも、あいつはお前が言うように構ってもらいたがってるんやろう?」

「あのね・・・。高校生の男の子が、日曜日にお父さんと二人で遊園地に行きたいと思う?」

「でも、お前は喜んどったやないか?」

「小学生の頃はね。あの子がそれをして欲しかったのは小学生の時なの!解かる?今更・・・」

「じゃぁ、どしろって・・・」

「ウチも考えてるから、少しは大人しくしてたら?」


難しかった。

正直私もお手上げ状態だった。

弟の声は、沢山ありすぎて大きな声過ぎて聞き取れなかった。

でも、一つ一つ解決していかなくちゃいけない事だけは解かっている。

今、弟に大切なことは一体何?


これからどうすれば・・・お金がない・・・話を聞いて・・・俺はアホやから・・・誰も俺の事解かってない・・・どうなってもいいんだ・・・お姉ちゃんとお兄ちゃんばっかり・・・一人で生きてくんだ・・・。


「お父さんとお母さんは何故別れたの・・・?」


弟は沢山いろいろな言葉を私に投げかけたが、最後に決まってそう言った。

彼にも理由は解かっている筈なのだけど、どうしても理解出来ないらしい。

母はギャンブル依存で、借金をかかえ、財産を持って逃げるように出て行った。

それ以上どう説明すればいいのか、私には解からなかった。

離婚ってなんだ?

結婚ってなんだ?

恋愛ってなんだ?


その他にも沢山彼の悩みはある。

親が放任したせいなのか、彼は勉強ができなかった。

登校拒否をしてもすんなり高校に受かった姉がいる。

父の仕事を継ぐために難なく国家試験に受かった兄がいる。

テスト用紙や通信簿を何の躊躇いもなく見せられた姉と兄がいる。

姉が大学を受ける為に勉強してる姿を見ている。

だけど、彼は行きたかった高校の受験を先生から諦めさせられ、不良校と言われている高校へ入学させられた。

弟は未来予想図をもっていない。


そして、弟のアルバムは家にはなかった。

姉と兄のアルバム。

遊園地、動物園、旅行先の写真、生まれたときからの思い出の詰まったアルバムを彼は持っていない。

親が彼の写真を撮らなかったわけじゃない。

弟は何処にも連れて行ってもらってはいない。

彼が家族の思い出を作る頃、私たちは受験を目前に机の前にいたからなのかな。

ずっと弟は私の部屋にいた。

私の友達にシスコンと言われながら。


そうそう、小学生の頃は弟も頭がよかったんだ。

私が勉強していた全てを弟の頭にも詰め込んでいたから。

小学生の柔軟な脳が私以上に知識を吸収していくのがおもしろかった。


弟はいつ、諦めてしまったのかな。

テストで0点取っても、叱られることなく羨ましく思ったこともあったのに。

あの頃すでに、そんな劣等感を持ってたのだろうか。

あんた、どんな大人になりたい?

本来行きたかった高校へ行って何がしたかった?

誰に褒めて欲しかったの?

やっぱり、私じゃないよね。


「お父さん?あいつの夢とか知ってる?」

「さぁ?」

「はぁ・・・聞いて飽きれる」

「でも、普通親子でそんな話する?」

「金だけ出してりゃいいってもんでもないでしょ?!」

「お前の夢は?」

「・・・・正直不安。速球投げかける親に子供はグローブは構えません!」

「キャッチボール」

「アホの子みたいな声ださないで!ますます不安になるから・・・」

「そういえば、あいつとキャッチボールとかした事なかったな」

「反省してね」


その日から、弟の話を父が聞くことになった。

私は、口出ししなかった。

弟が父に話をすることなんてないとは思っていたけれど、言えた時何かが変わるそう思った。

父親に面と向かって、何故離婚したのか聞けたら・・・。


弟は父の話し合いをずっと門前払いしていた。

毎夜、部屋に友達を連れてきては騒いだ。

父への抵抗。

これほどの抵抗を見せる彼の声は大きかった。

「俺の勝手やろ!」

そんな言葉に、父は切れてしまった。

「出て行け、今すぐ出て行け!」


日付が変わる頃だった。

静かな町は、音をよく響かせた。

家中で暴れだす弟。

それを見て逃げ出す友達。

父が止めようとかけよるけれど、弟は家中のありとあらゆるものを床にたたきつけた。

だけど、誰も傷つけようとはしなかった。

弟に近づけずにいる家族はその場に固まっていたけど、誰一人怪我をしなかったんだ。

その後、弟は部屋にこもった。

誰も声を掛けられなかった。

私もどうすることもできなかった。

これまでにない、弟の大きな声に頭が痛む。


後片付けをして、寝ようと思った深夜1時。

弟の部屋が少し開いており中から光が漏れていた。

そっと覗いてみた。

弟はいなかった。

気付かなかった。


逃げ出した友達の元へ行ったのかと、心当たりに電話した。

「あいつ、さっき電話あって来るって言ってたけどまだきてないっす」

「今どこ?」

「え~っと、北小の校門前っす」

「来たら連絡頂戴」

「俺らも探した方がいいっすか?」

「お願い。あ、そこに誰か残っててね」


弟を見つけてくれたのは、またしても暴走族の子たちだった。

北小学校とはまったく逆方向の道端に倒れていた。

見つかったのは深夜4時を回っていた。

彼は致死量の睡眠薬を飲み、此処まで歩いてきたらしい。

暴れた際に、祖父母の睡眠薬を全て持ち出していた。

病院へ連れて行った。

飲んでから3時間近く経っていて、全身に薬が回ってしまって洗浄しても全て取り除けなかった。

医者は「多分、目覚めるでしょう」なんてあやふやなことを言う。

当分目覚めないらしく、私たちは家に帰されてしまった。


朝日が昇った。

私は、弟が散らかした家中を片付けてるとき、もう無理なのかもって諦めかけてた。

多分、そんな私には弟の声が聞こえなかったんだと思う。

死にたい。

そんな絶対聞き逃してはならない声を私は聞き取れなかった。

家族が自分の部屋へもどってゆく。

静かな朝に、家族の息遣いが聞こえる。

誰も眠れないでいた。



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