2005-05-29

26.キャバ嬢最後の日

テーマ:彼女じゃない恋愛

翌日休業を利用しての支配人の誕生会へ招待され、気分も上々出勤する。

通勤時に母から連絡があったが、もう慣れた。

銀行って何処にあったかなと考えることもない。

何も感じはしない。

迷わず銀行から5万円を下ろして店へと向かった。


私はどんな仕事っぷりだったのかな。

何故だか思い出せない。

早々に店を閉め、ご機嫌なみんなの笑顔だけが印象的だ。

何故今日の事を思い出せないのだろう。

空っぽというよりも、圧縮袋に入った布団のように詰まり切って中に何が入っているのか判らないといった感覚だった。


店長と一緒に同系列の近くのキャバクラへ向かった。

防音の効いたキャバクラの戸を店長が開けると、クラブ音楽が具現化したように私にぶつかってきた。

私の中の嫌なものが一斉に吹っ飛んだ気がした。

ワクワクする。

中に進むとテレビで見たことのあるような芸能人がするようなパーティーが開かれていた。

す・・・すごい。

形だけは芸能人だ。

女の子達は仕事終わりでパーティードレスのままだし、ボーイはスーツで身をかためている。

モニターでピーコが監視していてもおかしくはない。

半端ねぇ。

田舎者の私が初めて体感した空気。

開いたままの口を意識的に閉じた。


楽しかったのはそんな一瞬の出来事に直面した時くらいだった。

慣れない私は、支配人も見つけられずにトイレ前で時間を潰した。

音が遠くで暴れている。

別空間を感じるとき、妙な孤独感に襲われる。

早く・・・帰りたい。


「折角の贅沢、楽しまな損やで」

誰だか知らないボーイに声を掛けられる。

違う店のボーイだろうか。

渋々店内に足を運ぶと、そこは戦争だった。

酒に酔いつぶれた人達がホールに転がっている。

これは、パーティーなのか?!

「下品なパーティーや!」

支配人がそう呟きながら立ちすくむ私とすれ違って行く。

「さ、戻って上品な2次会でもするか」

そういうと、暴れ狂う人達を残し店を出て行った。

それに気付いたボーイと女の子とうちの店長が後に続く。

私も、その後に続いてみた。

置いてかないでくれ・・・。


店に戻ると、静かだった。

此処はキャバクラ。

なのに、空気がうまい、そう思った変な感覚。

店に戻った全員が、ソファーに深く沈み深いため息をついた。

そこへ並べられる寿司に活造り。

「さ、食え!」

支配人のごちそうだった。

「おぃ、ピンク開けてもえぇやろ」

支配人の子供みたいなやりたい放題に少し笑った。

どこが、上品だよ。

「なぁ、無礼講で言いたい放題言うってゲームやらんか」

支配人は店の者をいじめだした。

「まずは・・・店長!なんかないのか?」

「え?!俺っすか・・・副店長にはもう少し利益を上げるやり方を覚えてほしいっすね」

「ほー、らしいぞ!副店長」

「あ、はい、方針を変えていきます」

「女の子はないんか?」

「支店長聞いてくれる?店長、贔屓してるん」

「そうなんか?店長」

「いえ、そんな事はないです」

「らしいぞ!」

「えーそんなことないよ~」

「おぅおぅ、バトルが始ったぞ」

支店長と女の子だけは楽しそうだ。

此処もまた居心地が悪い。

私には、やっぱりこういうのは似合わないんだろうな。

あの人、今何してるんだろう・・・。


「もっと酒もってこいや!」

支店長がさけぶ。

水のように飲み干されたドンペリは、既に3本も開いている。

ここでも徐々に潰れてゆくやからが増えてきた。

私も少し飲まされている。

帰りたい。

帰るタイミングを見つけられない。

一人の女の子が席を立ち上がった。

「そろそろ失礼します」

私もこれに続こう。

私もすっと席を立った。

「お、せのり、席立ったついでに、たこやき買ってきてくれ」

マジかよ・・・。

「支店長~私もそろそろ失礼します」

「お、じゃぁたこやき買ってきてからな」

私は、大人しくたこ焼きを買いにいった。

店を出ると朝を通り越して、街は休日を楽しむ若者で賑わってた。

かなり、私は浮いてる。

すれ違う人達の視線を奪う。

そういえば、着替えるの忘れてた。


たこ焼きを買い、店に戻ると殆どの人が眠っていた。

たこ焼き食べんのかよ・・・。

眠い。

私も少し寝てから帰ろうかな。


店の奥のソファーに横になった。


目を覚ますと、デジャヴかと思ったが私がいつも見てきた光景がそこにあった。

また、店長と二人かよ・・・。

帰るなら起こしてくれれば良いのに。

ゆっくり立ち上がり、着替えを済ませ私は店を出ようとした。


鞄・・・。


鞄が、ない。


店中を必死で探した。

どこかに隠されたんだ。

そうに違いない。

どこかにある、絶対に。

ゴミ箱もあさった。

だけど、鞄はどこにもなかった。


「店長、店長・・・鞄がないよ」

まだ寝たりなさそうに店長は起き上がってきた。

「よく、探したんか?」

「ってか、無くなってる時点で大問題なんですけど」

「まぁな、何が入ってた」

「客の名刺と財布、キャッシュカードにクレジットカードにそれから現金が・・・多分10万弱」

「痛いな・・・とりあえず、電話。カード止めろ。現金は諦めろ、な」

「うん・・・でも、店に泥棒?店長は?」

慌てて店長は自分の鞄を確認しにいった。

「いや、俺のはあった」

「そっか・・・何でわざわざロッカーに入ってる私の鞄なの・・・」

「もぅ・・・考えるな」

「でも・・・」

「店の人間っていいたいんか?」

「店長の口からそういう言葉が出るって事はそういうことなんじゃないの?」


そこへ眠りにつく前にいたボーイ達が揃って帰ってきた。

「お前ら何処行ってたんや?」

明らかに疑うような言い方で店長はボーイ達に言った。

「いや、俺ら後片付けにいってたんすよ」

「そうか・・・」

「どうしたんっすか?」

「せのりの鞄が盗まれた」

「ないんっすか?」

「あぁ、他の奴らは?」

「帰ったんじゃないっすか?俺らが出る前はみんないましたから」

私は、パーティーに参加していた女の子達だと確信した。

ここにいる全員がそう思ってたのではないだろうか。

だけど、誰一人この話を続ける者はいなかった。

店長から1万円を受け取った。

これはお金のない私への交通費なのか、口止め料なのか・・・。


私は剥きだしの1万円を握り、手ぶらで家に帰った。

それから店を1週間休んだ。

携帯は鳴り続ける。

客から店長から店のボーイから、うるさいほどなった。

いずれも私は電話に出ていない。

始めに休んだ日の店長の電話を受けた時から。


「お前、鞄の話は店ではするな」

「なんで?」

「ぶっちゃけ、犯人探しをしてそいつを首にするのは店としては痛い」

「ふーん」

「とりあえず、とられた分の金を店で稼げ」

「うん、解かった」


パーティーに来ていた女の子はすべて私よりも売り上げがいい。

店長の言っていることは理解できるし、助けてもらおうなんて思ってはいない。

だけど、私が店を休み続けているのは、少なくとも私は店の人間にも暖かな心があると思っていたのかもしれない。

これは裏切りとかではない。

当たり前の事だ。

私は、彼らに信頼などおいてはいない。


2週間ほど経って、携帯も落ち着き始めた頃、支配人から電話があった。

「店長に何言われた?」

「話、聞いたんですか?」

「全て報告させてるからな」

「鞄の事は黙っとけって」

「そうか・・・俺はこの話し流すつもりはないぞ」

「店の売り上げ落ちるじゃん」

「あのな・・・たとえ売り上げが良くても、そんな心の汚い人間がトップにいても、いずれ店は傾く」

「はぁ」

「お前が一人こなくても、売り上げは落ちるんやぞ」

支配人の言葉が本当のように聞こえたのは何故かな。

店に来させようとしている芝居なのに・・・。

嘘でもよかった、これで辞められる、そう思った。

「1年弱働いて、やっぱりそれくらいの精神がないとやっていけない世界だと思います。私は、田舎者だしこれ以上は辛いです。すみません、また新しい子を見つけてください。今日限りでお店やめます。すみません」

私は、そう言い切って一方的に電話を切った。

その後も何度か支配人から電話やメールが届いた。

持ち物検査を始めたとか、聞き込みを始めたとか、本当か嘘かも判断はつかなく、だけど、それでも本当ならと嬉しい気持ちがこみあげる。


私は、支配人には返信しなかった。

代わりに、バーテンダーの彼へメールした。

<私、キャバクラやめたんだ>

直ぐに返信がくる。

<そうか。久しぶりに顔だせよ>

彼の言葉だけに癒される。

私は、戻ったんだな。

胸が痛いよ。

私は一体、何に傷ついているのだろうか。



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コメント

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2 ■> uraprdさん

ほっとしました。
ずっと側にいてくれる彼、戻る場所がある。
だけど、素直に飛び込めない私。
でも、ほっとしました。

1 ■コメント2

彼に間に合ってよかったね。

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