前回までのあらすじ)
未経験で開発職希望。求人票は膨大だったが、一つ一つ取捨選択してみると、わずか2社しか手元に残らない。


この2社が、私が人生を託す先なのだろうか。
私の希望にマッチし、求人条件に合うのは、星の数ほどある会社の中でも、この2社しかない。高望みしていないにも関わらず。

一人だと、不安と悩みばかりが頭を巡る。
そこに、転職エージェントの山田さんが颯爽と入ってきた。

「ちょっと疲れましたか?」

彼は、初めて気遣いを見せた。
転職者の心を和ませる常套手段なのか、それとも、疲れている私の顔を見て思わず出た言葉なのか。
いずれにせよ、これは人生を賭ける作業である。誰でも疲れ果てる。

「なかなか難しかったです・・・。」

私も本音が漏れた。

笑顔を見せる山田さん。しかし、その眼は私の手元にある求人票を射抜いていた。
私が求人票を選ばなかったら、転職エージェントの彼は困ってしまうのだ。

山田さんの鋭い視線に気づくと、素直に心中を吐露した。

「2社しか選べなかったです・・・」

そのうちの1社は、IT企業ながらも創業が古く、社員数が多い。
そのうえ、未経験でも開発職を募集しており、これ以上ない条件だ。募集している部署も複数ある。

「これが第一候補の求人で、条件は申し分ないように思えますが。」

条件は完璧だが、それだけに気になった。気持ちが悪いくらい心地よい求人なのだ。
こんなに条件が揃うのは、あれだけ求人票があってもこの会社だけだった。

私は、彼の暗黙の求めに答えるように、手元にある求人票を差し出した。
社名を確認した山田さんは、「悪くない選択です」と言うようにうなずく。

「この会社、何て言うか、次々に人が辞めていくような会社ではないでしょうか。」

離職率が高ければ、それに反比例して求人も多くなるはずだ。
そういう裏がなければ、説明がつかないように思える求人なのだ。
いわゆるブラック企業である。

山田さんは、良い質問を受けて満足する教師のように、私の疑問に深くうなずいた。
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