森野榮一のエコノぴっくあっぷ
第14回 「非難の先」
森野榮一氏(経済評論家、ゲゼル研究会代表)
週末はゆったりしたいが、忙しい一週間であったほど、取り残し、読み残した情報があり、まとめて読まざるをえない。不景気な話が多かったときほど、人間、元気がでる明るい話が欲しいものだ。しかしネットに溢れる情報はそうとはかぎらない。せめて落ち着いた議論がほしい。そういうときは英国のメディアから読むことにしている。
ちょうどオバマ大統領がアジア訪問する直前の12日(木曜)のガーディアンを見る。「輸出は中国を非難ーー米国の経済上の苦しみを中国のせいにするのはあまりに容易、本当の悪人はウォール・ストリートの銀行家たちと彼らの影響力」という記事がある。
http://www.guardian.co.uk/commentisfree/cifamerica/2009/nov/10/china-obama-trade-deficit
たしかに中国の人民元に対する切り上げ圧力やドルから離れて自由な市場性をもたせるべきだとの圧力はある。これを中国が聞き入れるかといえばすぐには呑まないだろう。ドルが下がるほど、人民元もドル以外の通貨に対して安くなるわけで、輸出の競争相手との関係上、有利だから、容易にそうした利点を中国が放棄するはずがない。IMFもアジアの通貨が全体的に安く国際的なインバランスの原因とみているようだが、主に人民元を念頭においているのではないか。強いドルを強調せざるをえないガイトナーも、そう言うことは間接的に「過小評価された人民元」に言及していることでもある。
これに加えて、中国が多額のドル準備をため込み米国を凌ぐ大きな力を持っているように見えることも米国の一部に懸念を抱かせ、そう主張する声もネットではとりわけ大きいものがある。それは中国がドルをダンピングし始めたらドル暴落になりかねないという懸念と裏腹である。いきおい中国を悪者にする論調が力を増すということになる。
確かに自国通貨が安くなれば輸出に有利で輸入には不利、輸入インフレの懸念さえ出てくるし、反対に高くなればその逆ということは単純な理屈。ドルの下落で米国の輸出が伸びれば、それは望むところだが、同時に人民元は切り上げて欲しいというのは米国の本音にみえる。米国にとっては財政赤字の問題と同時に貿易収支の赤字は大きな問題であるからだ。
そのためにはドルをいっそう輸出競争に勝てる水準に引き下げたいということになる。このことは米国の製造業者はよく知っている。しかし彼らの政治的影響力は大きくない。米国で影響力を有しているのは金融部門である。それはこの間の金融危機でどれほど彼らが優遇されたかを見ればわかる。
金融業者にとってはドルは強いほどよい。理由は簡単。海外で彼らが資産を購入するときドルが強ければそれだけ安く投資向けのなにかを購入できるからだ。加えて輸入品を安く購入できるからインフレを引き込む懸念も少ない。
米国内には金融部門とその他部門とで、ドルの価値を巡って利害が相克しているわけだ。
こうした状況のなかで非難される先として中国がもちだされる構図になっている。たしかに自由な交換性を人民元は欠いている。ドルが他国の通貨に対して安くなったように人民元に対してもそうしたいところかもしれない。
オバマは中国も訪問するようだが、どんな交渉をするのだろうか。
同記事はけっして非難される先として中国を見るべきでないとしている。それはこういう指摘だ。
「中国のドル建て資産の保有に関し、中国は10年物の財務省証券のような米国国債を大量に保持している。中国政府がこれらの多くを安く売り払うなら、それは米国で長期金利を上昇させるだろう。抵当金利やその他の長期貸出金利は、長期の財務省証券と一緒に動く傾向があるので、これは米国経済に明らかにマイナスの影響がある。
しかし、これはドル下落とは別の問題であると強調しなければならない。長期の米国財務省証券の中国による売却の脅威は懸念すべき何かだろうか?そうではない。
まず最初に、中国政府は、米国経済に害を与えたがっていない(まだ、米国は中国の輸出の約20%を吸収している)。中国が長期財務省証券をため込んだ1つの理由は、米国での2001~2007年の経済拡大期、輸出の伸びと需要を助けるために米国での長期金利を押し下げることであった。
エコノミストによっては住宅バブルを中国のせいにしようとさえした。これらの購買がバブル期、抵当金利を押し下げるのを助けたからだ(しかし、住宅バブルは過大評価されたドルよりも熟慮された米国の政策の結果であった)。
そうして、この不況の間、既にしているように連銀は、長期財務省証券や抵当金利の望まれざる上昇に対処することができる。
さらに、米国の財政赤字強硬派と別の恐怖を煽る人たちは、私たちがさらなる債務の蓄積を回避するために深刻な景気後退の期間、成長と雇用を犠牲にしなければならないと人々を説得する別の武器として米国債務の中国による蓄積を使う。
これも危険な誤解である。残念ながら、私たちの経済問題は合衆国で作られているし、それが修復されねばならないのはここ、ワシントンでである。」
外国への評価や批判はおおむね自国内の事情や対立が反映される。国際的な不均衡を改善するために中国に姿勢の変化が必要であるにしても、不均衡を作り出してきた原因や景気後退の原因は国内にもある。
この点を見忘れた議論やあるいはあえてそこから目をそらそうとする議論は注意して読む必要があろう。この間の金融・経済危機を引き起こし、その対策のために信じがたい公的債務を膨らまさせてきたのはどこか、だれもが知っているはずだからである。
○森野榮一氏公式ブログ
○ゲゼル研究会公式HP
http://www.grsj.org/
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