「挨拶力を育む」(澤田良雄氏) | 清話会

清話会

昭和13年創立!政治、経済、社会、経営、トレンド・・・
あらゆるジャンルの質の高い情報を提供いたします。

鬚講師の研修日誌(26)
「挨拶力を育む」

澤田良雄氏((株)HOPE代表取締役)

◆出講企業から学ぶ「挨拶力」への想い

「笑顔+挨拶=成長」をスローガンとしたN運送の管理職研修に出講した。
N社長は地元経営者の間でも明朗で楽しさを醸しだす評判の人だ。先代より後継したときに掲げたのが冒頭の言葉。

運送屋から企業への脱皮を目指しガバナンス力(組織統治)を高めた協業体制の拡大と強化に力を注いできた。現在200余人の社員を擁し、地域業界1の存在を固めつつある。玄関を入ると社員がすかさずお迎えの挨拶でご案内し、「いらっしゃいませ」と事務所内社員からの声がかかる。

研修会場では、さすが管理者、親和感を抱く挨拶言葉をきっかけに気軽に会話を弾ませる。退社時には立礼の挨拶言葉でお送り頂く。まさに挨拶の「挨」は心を開く「拶」は近づく・迫るの心と行動の実践だ。

笑顔は微笑み、微笑みの心は太陽に向かって両手を挙げて包み込む様と同様。従って笑顔+挨拶は関わる人へのハグする心境での言動である。今日までのN社の成長の一因が実感できる。
 
この挨拶実践は相手に寄り添う心の育みにもなっている。
一例を示すと東日本大震災から6年経った。小生は「忘れないで」「伝えて下さい」被災地を訪れ現地の方から托された言葉を大事にしているが、伝える話題はN社の支援活動もある。

それは福島県内の姉妹都市への支援。行政では支援物資を募り届ける支援策を発表。物資の募りと、梱包、そして輸送へ。小生も物資梱包を4日間奉仕活動に参加した。難題は輸送。現地までの道路が寸断されるなど最悪状態である。

その任を買ってでたのがN運送。積み込み作業では梱包のお品を丁寧に扱い、瞬時に判断できっちりと積み込む手際の良さ。取り巻く人から「さすがですね」の声が出る。「お願いいたします」「行ってらっしゃい」「気をつけて」の言葉に、姿勢を正して「行ってきます」と微笑みの挨拶。

運転席に乗り込む姿は逞しい。数日間の尽力の活動は「社内で一丸助け合う」とのタイトルで新聞の掲載記事にもなった。被災地の方々の困窮状況を想い、その事への寄り添う心のお役立ち活動だ。
 
寄り添う心といえば、車の心を汲み取る企業もある。M運輸だ。「元気な挨拶と掃除の徹底」をモットーに食品輸送を主業務として40年。「お品の生きの良さのイメージを高める事が肝心。それは人による印象が生命。その魅せる言動が挨拶。そして真っ白な輸送車はお品を包む風呂敷と同様、だから心を込めてお掃除する。

更に、車と社員は同一の扱い。新車の入車式を全営業所で行う。役員・社員が勢揃いし、乗務する社員が車販売社からキイーを譲り受けるセレモニーだ。廃車式も行う。「ごくろうさまでした」との感謝の心で入車式同様、役員・社員が勢揃いし、御神酒、お塩を施し廃車センターへ送り出す。まさに入社式、退社式と同様である。

特に廃車式の意図は「車の気持ちを考えてみた。多分に「雨風、凸凹、混雑、寒暖、運転者と共に私も頑張ってきました。多くの方に安心と信頼されてきました。その事は車の誇りです。ならば、ねぎらいと感謝を表すことだと気づきました」とM会長は語る。

人だけでなく物(車)への寄り添う心は素晴らしい。M会長は小生の敬する人である。中堅企業としての存在感は業界でも一目置かれる。運送業界を取り巻く環境は小口化、配送の頻度拡大、料金の締め付け、運転手不足と厳しい状況だ。必要なお品を、必要な場所に、必要な時間迄にお届けするこの条件を満たし、選ばれ続ける企業に挨拶力の影響は大きい。

◆挨拶文化を育む実践の確認
 
挨拶は企業文化である。社員間、協力企業様、顧客様、勿論社会活動にも通ずる挨拶力。その持つ価値は次の3点。

①挨拶は人と人の心を継ぐ金の鎖なり
社員は、共に当社での出会いの縁を生かした絆で活躍を楽しむ。それは社内外の関わる人全てに対しての実践。互いに認め合う心と行動の交流がそこにある。自己承認欲求を認め合う挨拶は寄り添いの絆をつくる。

②挨拶は、事に向けての積極的取り組みを示すバロメーターである。
元気な挨拶は背筋がきちっと伸び、スピード感ある歩き方、かける目線には目力がある。心を開いて迫る気概は、何をどうするかの気配りの感受性を高める。そして先手の施し。そこには積極的思考に基づく内側の士気の高さの表現があり「あの人はやる気がある」との評価が高い。

③挨拶はお客様と会社を繋ぐ安心・信頼の基である。
社会常識の実践は一応の評価を得る。そして挨拶力が生きたプラスワンの施しはおもてなしに通ずる施しだ。「あの人がいるから」「あのような上役がいるならきちっと教育されているだろう」の信頼と安心。挨拶一つできない、例えしても、素っ気ないなどのできうる力を粗末にした無精は顧客様からの不信と、駄目会社の不評・風評を助長する。

まずは3点を共有化し、具体的実践は「あ・い・さ・つ」のキーワードだ。
           、
あ=明るく、笑顔で目をかけて
言葉は言霊。心の持ちようが声が小さい、暗い表情、目をそらした粗末な挨拶となる。場に合った大きめの声はかけられた人の心に活気を産む。響く声の挨拶は自然と笑顔だ。暗い気分の時だからこそ、明るく大きめの声で気分一新のスタートを切ればよい。相手に届ける心意気は目線がともなう。声がけ後の一秒の溜めた目線の間合いが肝心。

い=いつでも、どこでも、誰にでも、
まずどこでも。 
先日、東南アジア2カ国を訪れた。出入国、機内、ホテル各所でのちょっとしたやりとりの場では「こんにちは」「おはようございます」「よろしくお願いします」と丁寧(笑顔、明るく、お辞儀)に声がけし、事処理過程では微笑みを持って、目をかけ、「はい」と返事を返す。就労時には「どうもありがとうございました」「さようなら」と挨拶をする。当地言葉に敢えて変えることなく日本語である。出入国手続きでの厳めしい係官も短時間で融和感が漂ってくる。「こんにちは。こんばんは。ありがとございました」真似調での挨拶言葉を口ずさんできたのも楽しいことだ。挨拶の持つ妙味の一例である。社内外も同様。対人関係の習慣化された関わりだ
 
誰にでもこのキーワードに対してどうだろう。気が合う人、好きな人、なじみの人には臆せずするが、気が合わない、ウマが合わない、苦手な人、初めての人にはつい言いそびれてはいないか。
 
いつでもはどうか。考え事をしていた、心配事がある、疲れている、挨拶する気分でない。との言い分はよく耳にする。それは、習慣化されてない未熟さであり、本物となっていない。意識すればできる、損得での価値づけでの挨拶は、関わる人からすればお天気屋・計算高い人としか見えない。

さ=先に
「挨拶は下位からする事だ。学生時代クラブでは当然、自衛隊での敬礼も然り、その習わしが抜けない」との話も聴いた。上が何で先にとか、業者が先に声がけするのが当たり前だの心持ちを察したこともある。立場を変えれば新人や、営業マンには先にすることが鉄則と弱者での立ち位置での対応策として指導が現実だ。だからこそ立ち位置の逆転した先手の挨拶はその人の人徳として評価される。謙虚なねぎらいと感謝の念の表現だからだ。「実れば実るほど頭を垂れる稲穂かな」の如し。「挨拶はかくれんぼと同じ、見つけた人が声かける」。そこには立ち位置を超えての認め合う素晴らしさがある。

つ=ついでに一言プレゼント・そして続けること
「○○さん・おはよう・昨日は新人歓迎会幹事役ごくろうさま」名前で声かけ、ねぎらい感謝、認めの一言のプレゼントで締める。この実践。部下対象だけでない。他部門、他社の方にも同様。行きたいお店の条件ではよく紹介される「お久しぶりですね。御元気ですね」「お孫さん大きくなりましたね」「お風邪は直りましたか」などなど「覚えてくれていた」の嬉しさは格別、だから「叉来るね」と繋がる。実感。

大分はあのお店・新潟に行ったらあそこ、長野・熊本、高松……と年に一度か二度の出講地で食する店は自然と決まる。「半年ぶりですね」「一年ぐらいなりますか。千葉県は今頃は……」とお声がけいただき、久しぶりの語りを交わし、お薦めの品書きをいただく。気配りのある挨拶はその場だけの点対応でない。時には記憶、記録による継続的交流が肝心。その場だけのリセットでは次には冷たさに通ずる。

このような「あ・い・さ・つ」を心した日頃の実践がやがて企業の風土、文化となり評判力を高めている実態は周知の通りである。

◆風通しのよい協働関係を強める
 
挨拶は互いに応え合う事でもある。職種、キャリア、性別の十人十色の組織集団のコミュニケーションも一言のコミュニケーションから、会話そして、報連相、議論と深耕していく。関わる人との拡充もある。単なる表面的人の関わりから相互理解、衆智の結集と新たな強さを創生する基となるのだ。
 
装飾品メーカーA社。若手のデザイン、営業、年長の職人、風通しが課題。ならば挨拶の徹底を軸としての年間研修を施す。年齢、キャリア、職種の異条件を混在したグループワークを重ねた。活躍状況、討議、提案での過程では当然社員間の相互理解を深める。従来の勝手に決めつけていた人物印象での関わり不足の改善を産む。

結果は察しの通り。社内の空気が変わった。挨拶言葉の飛び交い、職種間の連携はスムーズ、年長者からの熟練技能の継承も実現した。当然各自の仕事にも工夫する楽しみが加味される。例えば恒例のイベント案内状は、角封筒入りからセンスが生きたカラフルな色と造形によるメールとなり、送り先には手書きの挨拶文を書き添える。営業では納品書に手書きメッセージカードを添えた。

ある時、大口お取引様トップからA社長に「御社をお訪ねしたい」との電話が入った。目的は明かさず。何かクレームでもと不安が横切ったが担当部門からの報告はない。訪社いただいた。玄関から応接へと社員の行き交いでの歩みを進め、応接室に入室。来客トップの開口一番は「理解できました。このような空気が、あのようなメッセージカードをお送りいただいているのですね。よく教育していますね」と。

メッセージカードを受け取る社員からの報告を受けて、興味を抱き訪社したとのこと。緊張感が一瞬のうちに抜けました。とはA社長の語り種である。

◆単なる礼儀作法のマニュアル実践ではない
 
挨拶当たり前の事だ。だがそれは単なるマニュアル通りの礼儀作法ではない。関わる人へのおもてなしの魅せる表現だ。おもてなしとは、相手のして欲しいことはどんなことかを察し、その対応として、自身(社)ができる施しは何をどうすべきかを即断即決して、先手で実践することだ。心情の琴線・機微に触れると表されるが、挨拶心の開いて近づく関心の持ちようと気配りある実践に通ずる事である。

もう少し挨拶がよいと表される企業を観てみよう。

W会計事務所に訪ねると、ドアを入ったとたん20名の所員が一斉に「いらっしゃいませ」と
立礼する。応接室に入室までその姿は続く。事後応接をでると再度立礼し、玄関を去るまでお送りいただく。かといって窮屈さがある訳ではない。

ネジ製作のK社は10人の社員。油、音、の環境での精密なる機械操作を担うワーカーだが皆、笑顔での挨拶がいい。実に花が咲き、光が灯った感じだ。I社長の明朗闊達なる人柄と関わる人への謝念が挨拶人間としての好感のもとだ。まさにトップの言動が企業風土となっている。

日本一の製錬所N社は安全の基は、挨拶の徹底と結論づけての実践だ。ライン監督者研修で若手社員の絶対安全状況をどうつくるかの討議結果である。当たり前の事が最高実践できずして危険予知に準じた安全対応はできない。機械、装置、整理整頓、作業動作などを洞察、そこから感じ取るヒヤリハットに直ぐ手を打つ。心を開いて近づく積極行動がそこに生きる。読者諸氏の企業はどうであろうか。
 
家庭ではどうか。特に夫婦間ではなされているか。小生は「おはよう。今日もお世話になります。」という(笑い)。「美味しいよ。」「ありがと」「出かけてきます」「ただいま」「ごめん」「お休み」の言葉掛けは自然に交わす。
* 「○○さんおはようございます。」とハグするご夫妻も学び会う仲間にいる。いつでもどこでも、誰にでも の挨拶は、普段身近な人に何気なく交わす習慣なくしてできはしまい。

◆新人の企業人への脱皮にまずは挨拶風土に着目

「幼少の頃、「おはようございます!いただきます!ごちそうさまでした!さようなら!ありがとうございました!"笑顔で大きな声でと教えられ育ってきた。
 
今社会人として当たり前の事と認識しているが、さて私たちは当たり前に行動できているだろうか?自問自答してみる・・。そうだ!我が社では『原点回帰』基本に徹し、まずは当たり前の事を当たり前にしよう!・・・・。中略」

 
冒頭に紹介したN運送N社長のスローガン紹介の挨拶文だ。
 
もうすぐ新人が入社する。「新人は何もできないわけではない。今出来る事の最高実践をせよ」と説く。新人の挨拶は元気で最高の形を施す。就活で磨いてきた売りの一つだから当たり前。だが3ヶ月後お会いすると新人の粗末な挨拶ぶりが気になる事がある。なぜ、環境に慣れるが環境に同化したレベルダウンの現象だ。

「環境により人は育つ」「上行えば下これ見習う」「耳に入る言葉よりも目に入る言葉に学ぶ」。育成の現実条件だ。この不可欠条件が「鉄は熱いうちに打て」という新人の熱い心を企業人として当たり前の事を最高実践する躾の育成になる。ならば、迎える側の最高実践はどうか。

最近の若者は、の世評はどうであれ、企業人に即した素質づくりは一般論ではない。だからこそ、育成条件の前提条件である企業風土・受け入れ先輩社員の現状を確認してみることが肝心である。

M運送の研修を機会にまずは挨拶に着目して記してみた。各社・各自の魅せる挨拶実践、評判は如何であろうか。

///////////////////////////////////////////////////////

◇澤田良雄

東京生まれ。中央大学卒業。現セイコーインスツルメンツ㈱に勤務。製造ライン、社員教育、総務マネージャーを歴任後、㈱井浦コミュニケーションセンター専 務理事を経て、ビジネス教育の㈱HOPEを設立。現在、企業教育コンサルタントとして、各企業、官公庁、行政、団体で社員研修講師として広く活躍。指導 キャリアを活かした独自開発の実践的、具体的、効果重視の講義、トレーニング法にて、情熱あふれる温かみと厳しさを兼ね備えた指導力が定評。
  http://www.hope-s.com/
 


///////////////////////////////////////////////////////