田崎聡の【沖縄から食の風】⑲
口蹄疫パンデミック
田崎聡氏(NPO法人「食の風」代表、㈲楽園計画代表取締役、沖縄・奄美スローフード協会理事長)
宮崎の口蹄疫は、発症後2ヵ月半経過した今もなお感染拡大し、もうすでにワクチン接種した20万頭を超える牛・豚の殺処分が行われた。現地では処分用地と獣医の確保がままならない状態で、畜産・畜養農家は途方に暮れている悲惨な日々が続いている。
宮崎は肉用牛の飼養頭数が27万頭と、全国3位の畜産王国だ。ちなみに1位は北海道の51万頭、2位は鹿児島の37万頭である。九州地区では宮崎に次いで熊本14万7千頭、長崎9万頭、沖縄8万4千頭、大分6万4千頭、佐賀6万4千頭、福岡2万8千頭となっている。
とにかく、九州・沖縄は豚、牛、鶏と、比較的畜産農家が多い。ということは、いつ他県に飛び火感染してもおかしくない非常事態なのである。沖縄でも畜産農家は、毎日眠れない日々が続いている。
以前、デンマークで発生した口蹄疫が海上を250kmも移動し、ノルウェーまで菌が風に乗って飛散した事例もあるので、完全な殺菌は不可能に近い。また、人間をはじめ畜舎を徘徊する犬、猫、イタチ、ネズミ、カラス、昆虫類にいたるまですべて媒介者となりうる為、ヘタをするとかつてのイギリスのように何百万頭の殺処分、という事態にもなりかねない恐ろしいウィルスの侵入が現実に進んでいるのだ。
これに対して、政府は6月15日現在、宮崎県、鹿児島県、大分県、熊本県に口蹄疫特別措置法の指定地域に認定し、ワクチン接種と殺処分を急ぐように指示している。が、まだまだ畜産農家への対応は遅すぎるという批判が多い。
先日、この非常事態を受けて私の主催する「NPO法人食の風」として、急遽西表島の水牛を救うために消毒液を運ぶことになった。しかし、消毒液は劇薬なため飛行機持ち込みは断念。結局、洗剤として宅配便で送り何とか間に合ったが、那覇空港の空港職員に「口蹄疫って何ですか?」と聞かれたときには、あきれ返って物も言えず。あまりのこの危機管理のなさに沖縄県庁に「空港や港湾での口蹄疫やウィルスに対しての危機管理はされているのか」と問い合わせたところ、「やってない」との答。あきれ返って物も言えない。案の定、空港や港湾の乗降客ゲートには靴底消毒も行われていなかった。
一事が万事、日本の危機管理体制(沖縄だけかもしれないが)はこれだけ観光客を誘致しているにもかかわらず、私のようなシロウトが見てもお粗末といわざるをえないのが現状なのだ。これでは、新たな感染が広がってもおかしくない。
一方、畜産王国のオーストラリアやニュージーランドは150年間もの間、口蹄疫を出していない。そのためには、国家が膨大な費用と労力をかけて防疫体制が整っていて、空港ではカップヌードルの干し肉までチェックされるほど、検査が徹底しているそうである
さて、八重山諸島の由布島や竹富島は水牛車の島として有名で、のんびりと水牛に引かれる観光の写真を誰でも一度は目にしたことがあると思う。現在、八重山諸島には水牛が77頭いる。20数年前には265頭いたというから、八重山と水牛の関係は深い。かつて、牛の輸入が自由だったころ、台湾からの移民が水牛を農耕用に連れてきたのが始まりで、パインや稲作に水牛は大きな役割を果たしていたそうである。
今では、農耕用に水牛を飼養するところはないが、観光客相手に毎日由布島と西表島間の海中500mを力強く往復している。「彼らは私たちの大切な家族です。だから、絶対に口蹄疫なんか運んでほしくない。もう、しばらく営業をやめようかと思っています。」と由布島観光のスタッフは悲しむ。宮崎から遠く離れたこの離島にも影響を与えるという、このウィルスによる感染力とは本当に恐ろしいものである。
かつて、マレーシアで流行した「ニパウィルス感染症」は、ヒトに感染するときわめて死亡率が高い感染症として恐れられた。ニパウィルスは、オオコウモリを宿主、豚を中間宿主としてヒトに感染するといわれている。沖縄にも、このオオコウモリがたくさん生息しているので、ウィルスがいつ発生するかわからないのだ。日本政府や行政は、こうしたウィルスパンデミックに備えて早急に対応する組織を造っておかなければ、日本の農畜水産業界を救うことはできないのである。
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㈲楽園計画
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