『オポジションとシスタースクエアは調停される、デュシャンとハルバーシュタットによって』

P1(原書ノンブル、以下同)
 好奇心が、我々をある問題の解明へと向かわせたのである。その問題はこの20年間というもの、チェス文献に後味の悪い論文を定期的に送り出させてきた。
 それは「オポジションあるいは<シスタースクエア>の問題」と呼ばれている。
 我々は簡略化して、「オポジションと<シスタースクエア>の問題」とする。
 この問題についての定義上の論争を数多く読むと、印刷の工夫の誤りが混乱を生んでいることがわかる。
 そこで我々は、テキスト理解を助けるために、図版の数々を丁寧すぎるくらい多く載せる必要があると考えた。この見た目への配慮は、問題の秘義的な側面や、論争の第一の原因をはぎとってもくれることだろう。
 引用した書誌学的な文献の中でも、我々は特に「La Nouvelle Regence」(パリ、1860~61年など)と、Abbe. DurandとJean. Preti 共著の「チェス終盤戦の論理的戦略」(パリ、1872年)を挙げておく。

P2
 残念なことに、Durand の数々の発見を知っているのは限られたファンだけである。多くの点で、その発見は今日のエンドゲームの科学につながっており、その基本原則はこのパイオニアに負っているのだ。彼は早くも19世紀半ばには、“オポジション幾何学”の基礎を確立していた。彼が唱えた<有効なスクエア><境界のスクエア>は、本書で行う概略的分類の基礎となっている。
 Lasker - Reichhelm 戦の局面が出現した状況の詳細は不明だが、1900年頃のことである。少なくとも1901年に遡れば、その局面の論理的重要性を J. Bergerが強調しており、そのことに我々は恩恵を受けている。彼は著書「エンドゲームの法則と実践」や数多くの雑誌で執拗に追求を続けており、今日に至ってもなお決着からはほど遠い。
 1908年6月、ミュンヘン大学のチェスクラブにおいて、D. Przepiorka が「数学的方法の実戦への応用」と題した講演を行ってエンドゲームへの応用を示し、Lasker - Reichhelm 戦の局面をようやくを分析してみせた。幾つかのスクエア間の照応を論理的に証明した後、彼はオポジションをシスタースクエア理論の特殊な例と結論づけている。
 ほぼ同時期、S. タラッシュ博士はPrzepiorka の考え方を統合し直しながら、ドイツで複数回講演を行い 、この問題を取り扱っている。

P3
 C. E. C. Tattersall は「エンドゲーム1000題」(ブリティッシュ・チェス・マガジン編、1910)の中で、ロコック・ポジションと Lasker - Reichhelm 戦の局面について、シスタースクエア理論による解明を印刷化した(シスタースクエアという綴りがある)。
 しかしながら、1928年12月に「レシキエ」誌で、元U. A. A. R. のアマチュア・プレイヤーが紹介した Civis Bononiae 文書(1454)を忘れてはならない。同文書はシスタースクエアを使った最も古い例だと思われる。文字はあるマス目に印刷され、ラテン語のテキストは両キングの決定的な位置をその綴りによって説明しているのだ。
  J. Drtina(「Casopis Ceskych Sach」,1907)と F r. Dedrle は、オポジションの問題に関する新しい幾何学的要素を発見している。Durand の原理を(おそらく彼らはそれを知らぬまま)前方へと進めたわけだ。本書では第一章で、その<プリンシパル・ライン>の重要性について紹介する。
 最後になったが、我々は特にある著作に勇気づけられてきた。Ing. Rinaldo. Bianchetti の「ポーンゲーム学説への寄与 Contributo alla Teoria dei Finali di Soli Pedoni」(フィレンツェ,1925)である。
 本書は彼の著作に収められた2つの終盤問題から、“ヘテロドックス・オポジション”の新しい型を見出すことになる。


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シスタースクエア
原 註:cases conjuguees(仏語。結合されたマス目の意/訳者註:conjuguees の最初のeにアンサンテギュが付く)の英訳であり,H. D'O. Bernard の提案を受けた。チェス・プロブレム界で使われる用語の幾つか(モデル・メイトなど)は Bernard の創案。

Regence
訳者註:最初のeにアンサンテギュが付く。

J. Preti
訳者註:eにアンサンテギュが付く。

スクエア
訳者註:マス目のこと。

<この『緒言』部分からP36までは、今は連絡の途絶えてしまったO君が(結局、僕は一度も彼と会わないままでいる)、自分のHP上で翻訳してくれていた日本文に手を加える形で掲載される>