『あたし、ポールに会わなくちゃ。愛しているのよ。だって素晴らしいし、彼もあたしを必要としているの。』
今回は、1964年のアメリカでのビートルズ現象について、映画 『抱きしめたい / I WANNA HOLD YOUR HAND』 (1978) を中心にして記事にしました。
60年代のビートルズ現象を描いた映画としては、64年公開のイギリス映画 『ビートルズがやって来る ヤァ!ヤァ!ヤァ!(公開時邦題 )/ A HARD DAYS NIGHT』 (監督:リチャード・レスター)があります。78年公開のアメリカ映画 『抱きしめたい』 (監督:ロバート・ゼメキス、総指揮:スティーヴン・スピルバーグ)は、同じビートルズ旋風でもファンの視点で描かれています。
ビートルズ本人たちが出演しているわけではないのですが(一部当時の映像を使用はしている)、ビートルズ映画としては、名作だと思います。監督がロバート・ゼメキスで総指揮がスピルバーグ。安っぽい映像になるはずもありません。ただ残念なのは現在中古のビデオを見つけるか、どこかで放映された時に見るしかないということです。僕のはかなり傷んだ録画テープですが、それでもたまに観たりします。機会があったら観てほしい映画です。
内容はコメディー・タッチの青春映画です。
1964年2月7日、ビートルズがアメリカに初上陸。彼らに一目会いたくて、ニュージャージーの田舎町から高校生6人組が、ビートルズの降り立ったニューヨークに向かうところから物語が始まります。そしてかなりドタバタの珍道中を経て、あの手この手を使い遂に2月9日の「エド・サリヴァン・ショー」のチケットを入手!選ばれし者として会場に・・・。大雑把に言うとそんな内容です。
LOVE ME DO
この映画の素晴らしい所は、ファンの視点で描かれている所です。
『ヤァ!ヤァ!ヤァ!』 のオマージュとも言えるような、ビートルマニアが群衆となってビートルズを乗せたリムジンを追いかけるシーンもあるのですが、そこに見えるのはビートルマニアという群衆ではなく、ひとりひとりのファンの顔です。映画製作者のビートルズに対する愛を感じます。
印象的なシーンはいくつもあるのですが、やはりこのシーンかなと。
偶然にもビートルズの泊まるホテルの部屋に入り込むことのできた彼女は、婚約者からの婚約指輪を外し、震えながらポールのヘフナーに触れます。あまりにセクシャル。そして精神的な深い愛も感じるシーンです。あの当時の全世界の女性ポール・ファンすべての気持ちを表して入りとも言えるこのシーンにはもう・・・
Love,love me do / 私を愛して
You know I love you / こんなにあなたを愛している
素晴らしい演技の顔に見覚えのある方もいるかも知れません。後に大ヒット映画 『ロボコップ』 でマーフィの同僚の婦人警官を演じることになるナンシー・アレンです。
このシーンのあとに、婚約者が彼女を迎えにやって来るシーンがあります。彼女は 「ごめんなさい。あなたとは結婚できない。イヤになった」 と婚約者を振り切ってビートルズの待つ会場に向かいます。堅実で誠実そうな彼に罪はないのですが、このシーンこそが、音楽の枠を越えて全米の若者に起こったビートルズ革命を象徴的に表しているように思えます。
2月9日の夜。ビートルズの持つ輝きと新しさは、それまでのアメリカの価値観を古い色あせたものに変えてしまったのかも知れません。
She Loves You
冒頭に記した言葉は、64年のビートルズの全米ツアーにアメリカ人記者として密着取材を許されたラリー・ケインの著書 『ビートルズ 1964-65 マジカル・ヒストリー・ツアー』 (小学館)から、引用しました。
記者がファンから聞いたその言葉は、ファンの間では当たり前の事だと、取材を続ける中で知るようになったそうです。こちらの著書もかなり面白いので薦めます。映画の中では 「私、ジョンと結婚するの」 なんて言う女の子が出てきます。
映画でのクライマックスは 「エド・サリヴァン・ショー」 での演奏シーンです。ビートルズ本人たちの実際の演奏シーンの映像を上手く使い、臨場感溢れるシーンに仕上げています。「いや、こんな方法があったのか!」 と思った映画関係者は多かったのではないでしょうか。
ロードショー公開時ではないのですが、随分昔にこの映画を劇場で観ました。大画面によるシーンを前にして、自分がまるで2月9日のあの夜のニューヨークに降り立ったような、アメリカのビートルマニアと共に会場にいるような、そんな気持ちにさせてくれる映画です。