【第106回】原中勝征さん(日本医師会会長)

 4月1日に投開票が行われた政権交代後初の日本医師会会長選挙。最大の争点となったのは、政権との距離感だった。結果、民主党との太いパイプを強調した茨城県医師会長(当時)の原中勝征氏が当選。従来型の「キャビネット選挙」が行われなかったため、ほかの会長候補を支えたメンバーが混在する新執行部がスタートした。新生日医は、政権との距離感をどう保っていくのか―。夏の参院選に向けた対応なども含めて原中会長に話を聞いた。(木下奈緒美)

■診療報酬「次も当然引き上げ」

―今年度の診療報酬改定の評価をお聞かせください。

 10年ぶりに総額が上がったことは評価できます。また、やっと最近、民主党が医療と介護を「消費」ではなく「投資」だととらえ始めたことは、大変よかったと思います。
 ただ、たった0.19%の増加と薬価引き下げ、後発医薬品の使用拡大によって浮いたお金のほとんどが大病院のために使われてしまったのは、医療全体を見ていなかったからだと思います。現在の地域医療の崩壊は、決して大病院の崩壊ではなく、中小病院の崩壊です。中小病院のほとんどを占める民間病院の努力に対する評価は全くなく、人件費も抑制されている。そのせいで、民間病院の従事者が結婚もできない、子どもも産めないという環境では、やがて日本は滅びてしまいます。
 再診料の病診統一は、大きな誤りだと思います。診療所の収入は診療費だけだから高くなければいけない、病院は入院費や大きな手術などがあり、それらを重視すればいいということで、病診に差がついていました。そういった歴史を全く分かっていません。

―次の報酬改定に向けてはどのように取り組んでいきますか。

 今まで日医には民主党とのパイプがありませんでしたが、鳩山由紀夫首相も小沢一郎幹事長も「現場の声を教えてほしい」と言っています。今後、民主党とよく話をして、医療費の配分をどうするのか、きちんと話し合って決めることが大切だと思います。もちろん、トータルの医療費は当然上げてもらわないといけません。
 政治家はこれまで、官僚がつくったデータを基に議論をしていたと思いますが、その中で「診療所の医師が楽をしてもうけている」といった誤った調査結果が故意に出されてきました。次回改定時にはこうしたことがないよう、わたしたちと国民が納得できるデータをきちんと提示し、医療費増の実現や、必要があれば医療法や介護保険法の改正も主張していきます。

―医療費財源の確保はどうしていくべきでしょうか。

 わたしは増税しないのは間違いだと思っています。国民感情があるので難しいですが、消費税を増やすなら増加分が医療に回るよう議論した上で手当てしてほしい。そうすれば、国民のためにきちんと使われるのではないでしょうか。国債を発行して後世につけを回すよりも、今高い税金を払って将来の負担を減らした方がいいと思います。
 このままでは、2055年には現役世代1.3人で1人の65歳以上の人を支えなければいけません。国の借金が増加する一方、人口が減少し、しかも生活保護の人が多くなってきている高齢者1人を1.3人でカバーすることなど、この国にできるはずがありません。今のうちから対応を変えていく必要があります。
 また、高額所得者の保険料や税金に関する上限をなくし、所得に応じた支払いをお願いするのも一つです。高額納税者に対して国民が感謝の気持ちを示すような社会にすれば、納めがいもあります。景気がよくなって税収が多くなることも期待しています。

■理想実現には「政権政党とのつながり」が不可欠

―日本医師連盟が決定した参院選への対応では、民主党公認の安藤高朗氏を推薦、自民党の西島英利参院議員と、みんなの党から出馬する清水鴻一郎前衆院議員を支援することになりました。やはり民主党との関係を重視したということでしょうか。

 国民にとってよい医療制度を目指さなければならないという思いは、どの政党も同じです。しかし、わたしたちの理想を実現したり、恒久的な制度をつくったりするには、政権政党とのつながりがなければできません。自民党が政権を取っていれば、自民党が推す人を選ばざるを得なかったと思います。ただ、はっきり言えば、自民党が与党だった時代にいくら応援しても、一つも制度がよくならなかったことも確かです。だから、わたしではなく、前会長の唐澤祥人先生が今、会長だったとしても、安藤先生を推薦しないことはなかったでしょう。政権政党を優先するのは仕方がないことであり、そこにパイプがあれば、日医の医療政策を実現しやすくなります。

―もう一度政権交代があり、仮に自民党が政権政党に返り咲いた際には、どのような対応をされますか。

 その時はまた考えないといけないと思いますが、民主党を中心とする政党が政権を取っている間に、本来あるべき医療制度をきちんとつくっていこうと思っています。そうすれば、政権政党が代わっても、揺るぎのない医療制度が確立されるでしょう。

―先の日医会長選では、3候補に票が割れました。分裂した印象がありましたが、日医連の方針決定の際にその影響は出ましたか。

 現執行部は全く一つになっています。それが、日医連で参院選に向けた方針を決定する際、委員長のわたしに一任していただく流れをつくったのではないかと思います。
 役員には年長者が多く、自民党との付き合いを「変えろ」と言っても変えられない人がいるのは当然です。しかし、それでもなお、「変えなければいけない」と皆に対して言うのが、会長の責任でもあります。
 わたしとしては、われわれの仲間である安藤、西島、清水の3氏の中から1人だけを決めて、2人を外すことはしてはいけないと思いました。医師の団体にとっては、当選することよりも、選挙運動の過程で考え方の異なる人を交えて議論することの方が大切だという気がしました。それで1人に絞らず、3人に順番を付ける結果になりました。参院選までの期間は短いですが、われわれの仲間が当選するための応援はできる限り急いでやろうと思っています。

■会長選の見直し、月内にも議論開始

―原中会長がおっしゃる「強い日医」を実現するために、どのような改革を進めていくのでしょうか。

 まず、会員一人ひとりが日医会員としての意識が持てる医師会にしないといけません。そのための取り組みの一つとして、日医会長選の直接選挙について検討するプロジェクトチームのメンバーが決定したので、5月末から6月初めには議論を開始します。メンバーには、勤務医、病院長、開業医、弁護士などいろいろな人を入れました。立場が違う先生方に、会長選挙がどうあるべきか、直接選挙で当選者を決めるのか、あるいは代議員制がある限りは代議員の票と合わせて当選者を決めるのかなどを検討してもらいます。会長選にとにかく全会員が参加することは確かです。間に合えば、次の会長選から直接選挙にしたいと思います。

―日医の今後の政治的スタンスについてお聞かせください。

 政権政党とのパイプを強くしていきます。もちろん、医師会の意見はあくまでも国民が望むことでなければならず、「国民医療を守る医師会」ということを全会員が確認する必要があります。国民のために発言すると同時に、日本の医療保険制度が世界的に高い評価を得ているにもかかわらず、国民の満足度が低いことを考えると、国民に対しても発言しないといけません。世界中でタクシーの初乗り料金よりも医療費が安い国はどこにもない。それで病院がつぶれない方がおかしいのです。国民も医療崩壊について責任を持って考えるよう提案していこうと思います。
 国民と共に医療を考えていくためには、例えば大集会を開いたり、アンケートを実施したりするなど、いろいろな方法があります。自殺者も増えているので、「生命倫理」という観点から命の大切さを教育することも必要です。それらを踏まえて医療政策を提案していくためにも、われわれの判断資料を作成する日医総研をもっと活性化しようと思っています。


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