「昔、紋舞らんっていう素晴らしいAV女優がいたのを覚えているかい?」
「まあ、名前くらいは知ってるよ。顔はわからないけどね」
「彼女はいま、どこで何をしているんだろうねえ」
「さあ、結婚でもしてるんじゃないのかな」
「大変だよな。顔も割れてるし、授業参観で同席した父親は仰天するだろう。ウワサは信じられないスピードで広がって、子供はイジメられる。
「ママ友たちのランチの格好のネタにされるだろうね。他人のミスや暴露話は、彼女たちにとって最高の調味料になる」
「AV嬢は昔から必要な存在だよ。この世からはきっと無くならない。なのに、実際自分の身近にいたりすると、拒絶して嫌悪する。何故だろう」
「性をあけっぴろげにするのが、みっともないと普通の人は考えるのではないかな」
「自分たちだって性行為の果てに子供を作っているのにかい?」
「それが不特定多数の相手だったり、性行為そのものを商売にしているところが気に入らないのじゃないかな」
「それがパートナーに恵まれない男性を多く救っているとしても?」
「この世界に入ると決めた時点で、人から蔑まれることを覚悟してなくちゃいけないよ。顔を晒して他人に性行為を見せるということが、どれだけリスクをはらんでいるのかを」
「そのリスクを負う分、彼女たちにはそれに値する報酬を得てもらいたいものだ。少なくとも今の僕は、AV嬢に対して、それはもう大変な仕事をしている人たちとして尊敬の念を抱いているよ」
「それならさ、自分の娘がAVに出てたらどう思うよ?」
「嫌だよ。それが率直な答えさ」
「君は矛盾しているよ」
「いや、嫌だけど、諸々のリスクを話した上で、どうしてもAV嬢になりたいというのなら認めるよ。それもまた彼女の人生だろう」
「それじゃあ親失格だよ」
「親に合格も失格もないよ。性行為をして、精子と卵子が結合して、母親の子宮から無事に子供が産まれた時点で、誰もが親の資格を得るのだから。僕のようなクソみたいな考えの人間にも、残念ながら親になる資格がある」
「なるほど。どんな悪の権化も、正義の味方も、金持ちも貧乏も、親になる資格はあるね」
「ただ、人に性行為を見られたいという欲や、不特定多数との性行為がとにかく好きだという欲があってやるのならいいのだけれど、お金に困って仕方なくやる、というのなら、僕は一度だけ助けたいと思っている。だから、そのためにしっかりと仕事して、それなりに稼がないといけないね。つまり、自分以外の誰かを助けるために、僕は仕事をがんばるってことさ。さあ、夜に備えて昼寝しよう」
ということを、差し入れの激ウマモンブランを食べながら、弁証法で考えました。
明るく生こまい
佐藤嘉洋
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