ささのブログ

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2011年3月30日夜。N.Y.コロンビア大学内ミラーシアター。首の皮一枚をむりやりつなげただけの絶望的な状態の尺八を持って、自作曲「夜空」がハーピスト・ブリジットさんのソロにより始まった。


 最初の90秒はハープのソロ。その後、尺八は最高音のピアニッシモから始まる。割れをふさぐテープのぎりぎりの寿命を優先して、直前には一切音を出していない。これほど長い90秒を経験したことはない。


「祈るような気持ち」という表現があるが、あの時は確かにいろいろなものに祈っていた。割れて見るも無残な尺八に、長年培ってきたボディーボックス奏法に、習得した「気功」により特殊な熱を発する右手に。最初の一音さえ出ればあとはボディーボックス奏法でなんとかなる。不思議なことに、ハープのソロの90秒が終わりに近づくにつれ、心はしんと静まり返って行った。


 目をつぶって出した最初の一音、上三線のE音から始まるピアニッシモ。綺麗に鳴った。この瞬間、行ける、と確信した。肺を極限まで開き、上半身の共鳴体を全開にし、傷ついた尺八をやさしくなでるように吹いた。呼気による湿気を出来るだけ少なくするために、舌を口の奥にしまったまま、吹き続けた。


 最初の一音が鳴れば、後のコントロールは手中にある。次第に、ブリジットさんとの共演を、ニューヨークでの初演を、楽しめるようになっていた。そして、最後の音、やはり上三線のEのピアニッシモ。綺麗に終わった。


後で、冷静に判断すれば、尺八がまともな状態であった場合の9割がたの出来であったろう。終わったとたん恐ろしいほどの疲れに襲われた。まだその後、一曲あるのだが、気分的には最後の一曲は私にはおまけでしかなかった。


 楽屋に戻り、内側のテープを確認したら、歌口に近い部分はヨレヨレになっていた。やはりギリギリだったのだ。


 油断であった。乾燥極まる海外での演奏を数多くこなしてきた。真冬のフィンランドでも、師匠の龍笛は割れてしまったが、私の龍笛は大丈夫だった。なぜなら、常に革袋に楽器をしまっていたからだ。


 龍笛奏者のほとんどが、楽器を専用の木製の筒に入れる。直接入れる人もいれば、薄いきれの袋に入れてから筒に収める人もいる。だが、私から言わせれば、どちらも笛を大事にしているとは思えない。木製の筒も、薄いきれの袋も、乾燥の予防にはならない。


乾燥の予防には、革の袋に入れる、これしかない。革にはそれ自体に湿気を保つ力がある。ただ、それなりの厚みがあるため、革袋に入れた状態で、木製の管筒にはまず入らない。だから私は古典の舞台に登るとき以外は管筒は使わない。普段は、革袋に笛を入れて、賞状を入れる厚紙の筒に収めている。


尺八も常に革袋に入れてあった。渡米して10日が過ぎ、もう向こうの湿度に慣れたな、と過信してしまった。普段は吹き終わったら必ずスーツケースの奥に仕舞っていたのに、コンサートの前日はスーツケースの一番上に置いておいた。その為、革袋自体が乾燥してしまった。革袋を上からビニールで覆っておけば防げたのだ。


 あれから1年、今年のMusic From Japanの北米ツアー。排簫は合成樹脂製のものだったので割れる心配はない。龍笛と正倉院尺八は、バイオリン用の保湿棒を買ささのブログ って管の中に入れ、その上で革袋に入れた(1本2800円もした)。その効果があったのか、どの管も割れることなく元気に帰国した。


 1冊前の日記帳に、昨年のコロンビア大学ミラーシアターでの模様が詳しく書いてある。コンサートの翌日の帰国の便の機内で書いたものだ。今回、久しぶりに読み返して、そのときの状況が思い出され、胃が痛くなった。


帰国してから撮っておいた写真を開いて見ると、よくも演奏したものだと思う。あの尺八は、その後プロの製管師に頼んで修理してもらったので、今では元気に鳴ってくれる。ただ、修理の際に何重にも巻いた籐紐が、包帯のようにも見える。


 ボディーボックス奏法。もともと尺八・龍笛・排簫といったまったく形体の異なる楽器を吹きこなすために始めた奏法だが、「楽器に頼らない」副産物として、割れた楽器の演奏にも応用出来た。


が、こんな応用はもう二度としたくない。「ボディーボックス3」の項の最後に、今回の内容を「ボディーボックス4(番外編)」と書いたのは、あくまで本来の奏法の目的から外れた使用法だという思いが強かったからだ。ただ、「4」と番号を振って「番外」とするのも変なので、併記するのはやめた。


 毎日欠かさず100回以上続けていたトレーニングをここ数年していない。今回のブログをきっかけに、また再開するとしよう。そうすれば、さらに効果的な別のトレーニング法が見つかるかも知れない。そう、「ボディーボックス奏法」に完成形はないのだ。20年後、私の笛がまったく別な次元の音色になっている可能性もなくはない。そのためには、実直に、淡々と、毎日同じトレーニングをし、楽器を吹いて行くしかない。

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