エピローグ

 -追伸-

 結局葉月の結界をもってしても宇宙船の爆発を全て封じ込めておくことは出来ず、街には多少の被害が出たけれども死者を出すことだけは避けられた。
 私たちも宇宙船から遠ざかる途中で爆風に吹き飛ばされたが大したケガではなかった。
 
 しかし私は電池が切れたようにそのまま気を失って一週間眠り続けた。初めてゲートの力を駆使した私の肉体は思っていた以上に疲弊していたらしい。姉貴も体に毒が残ったまま無理をしたので三日間眠っていたそうだ。

 私が一週間ぶりに目覚めると、すでに両親とお爺ちゃんは帰ってきていて事の顛末をすべてタッキーから聞いて知っていた。
 意外にもお父さんもお母さんも私がハンターの仕事に首を突っ込んだ事に、特に怒りはしなかった。
 絶対に大目玉を食らうと思っていた私は拍子抜けをしたが、体の調子を聞いてきた時のどこか怯えた様なお父さんの顔を見た時に、ああ私は心配をかけたんだなと反省した。

 最後にお父さんからメロディア女王の為に良く頑張ったと褒めてもらえたのが、一人前になれたみたいで嬉しかった。
 そして女王は地球を離れる間際まで私たち姉妹の事を心底心配してくれたらしく、しかも何度も感謝の言葉を述べていたと聞かされて、私は何だか照れくさかった。

 そう言えば、私の知らない間に琴乃ちゃんがかなりエキサイトしていたと、後で葉月に聞いて腹を抱えて大笑いした。きっと琴乃ちゃんは女王に重陽子爆弾を食らわせた女として小人たちの伝説となるのだろう。


 そして今回唯一の生き残りとなった賞金首のピックパークは、警察の手によりカンナニラ銀河へ送還され、タッキーは二、三日の間は事後処理に追われて大変だったそうだ。

 
 桜吹雪女子学園での女生徒の犠牲者は十八名に上り、校舎やグラウンド、市街地の損害に加えて、巨大化したディッツとピックパークの姿を見た生徒や市民の数はいざ知れず、大規模な記憶操作と隠蔽作業にはかなり手間取ったと、後日家に訪ねてきた時にこぼしていた。

 相変わらずどこかのセールスマンみたいに、人の良さそうな笑顔を浮かべて語る姿を見ても余り同情する気にはなれなかったけれど、新聞には「隕石爆発」と、「スクールバスがタンクローリーと衝突、生徒18人死亡」の記事が載っただけで、街はいたって平穏そのもので、そう考えるとタッキーは実はかなりのやり手じゃないのかって、半分同情もこめて思う様にしてあげた。

 さて、肝心の私はと言うと――

 結局、お父さんからハンターの仕事を手伝っていいと言う正式な許可は下りなかった。ハンターの仕事をするには、私の体はリスクがありすぎて危険だと言うのが、お父さんの意見だった。

 だけど今回のベニラ団逮捕の功績により、私の名前は自動的にカンナニラハンター協会に登録されることになり、お父さんの反対を余所に私のハンターとしての人生は始まることになったんだけれども。

 でもお父さんの心配もよくわかっている。
 あの時、私の体にどんな現象が働いたのか、正直今も良くわかっていない。ただ私を苦しめていた病気は、実は元々私の心臓にあった蟲たちとの世界を繋ぐ入り口が姉貴の力に反応していた為だと言う事は、お母さんから改めて教えられた。そして姉貴がそれを苦にして家を出て行こうとしていた事も。
 お母さんは遠くを見る様な目で、あなた達はほんとに手がかかるわねえ、と優しくほほ笑んでいた。

 結局、ディッツは私の命を奪うと同時に、私を縛り付けていた鎖を断ち切ってくれたのだ。
 私の魂は解き放たれて水平線の向こう側の世界へと旅立ち、何かを見て、何かと語り、何かに触れて、その事実が胸の奥にずっしりと沈み込んでいた。その体積の分だけ心の水面が上昇して、私の心に不思議な満ち足りを感じさせてくれていた。

 心の中に朧げに残る面影の正体は一体何だったのか。その正体は誰にもわからなかったし、今となっては知りたいと言う思いも沸き上がらなかった。
 ただ大いなる意思は、私に再度命を与えてくれ、こうして生かされている。そう思うだけで、この世界の理に感謝の気持ちで満たされるのだ。



 そして、もう一つ報告しておこう。

 私が一週間振りに目を覚ました日の夜、私は生まれて初めて姉貴の部屋を訪れた。

 最初、私の姿を見た姉貴は少し驚いた顔を見せた後で、感情をいつもの厚い氷の下に隠してしまった。
 でも私たち姉妹は生まれて始めて長い時間を語り合った。

 私の体に起きた現象からあの時に見た夢の事や、昔姉貴にいじめられて死にたいくらいに辛かった事。 でも病気と知ってハンターになれないとわかった時は、もっと辛かった事。落ち込んだ時には、死んでしまいたいと思ったことが何度かある事。結局勇気がなく て死ねなかった事。いつも空想していた事。空想の中の未来の自分に励まされていた事。潰れている猫耳の事。天然パーマの白髪の事。小学生の時、初めてラブレ ターをもらった事。でも宇宙人とバレるのが怖くて、結局断った事。琴乃ちゃんと出会うまで友達を作る事を避けていた事。いつも姉貴に話を聞いてもらいた いって思ってた事。でもそれと同じくらい憎んでもいた事。目の前から居なくなれって何度も思った事。

 でも今は何となくわかる。病気が発症してから姉貴は私に近付かなくなった。それは私の事を心配したからでしょ? 私の病気が自分のせいだと思ったからで しょ? ずっと長い間、自分を責めていたんじゃないの? 家を出て行こうとしてたのも、お母さんから聞いた。それなのに私は病気とコンプレックスの事でい つも頭が一杯で、姉貴のそんな苦しみを少しも理解しようとなんてしなかった。 
 
 でも結局私は死ななかった。ううん、死んだけどまた生き返った。もう姉貴は 私に近付いてもいいんだよ。小さい時みたいにまた私をいじめたっていい。二人で恋の話をしたり、どこかに遊びに行ったり、いつかお互いの恋人を紹介する日 が来てほしい。たまには喧嘩をしたい。私が間違った事をした時は叱ってほしい。今日からでも遅くはない。私たちは本当の姉妹になれないのかな。それとも、こん な出来の悪い妹なんて欲しくない? 私はお姉ちゃんに抱き締めてほしい……

 姉貴は黙って、私の話を聞いていた。その瞳から涙が一粒こぼれ落ちた時、厚い氷は崩れ落ちて、長い間、氷山の下に閉じ込めていた少女の人格が顔を出した。
 幼い少女の様に声を上げて泣く彼女が愛しくて、私たちは抱き合って泣いていた。
 過ぎ去った時間を取り戻す様に。



 ここで私の物語は終わる。
 私の新しい心臓が生み出す力――葉月曰く、チューンアップされたV8モンスター!――は、今のところ五分が限界だ。それを越えると私の体はこの前みたい に動かなくなってしまう。要は絶大なパワーですぐガス欠になってしまう訳だ。

 だから無理無く動ける時間は精々三分がいいところ。限界時間が三分だから、私 はこの時間をウルトラタイム(笑)と呼んでいる。
 いま私は毎日欠かさずトレーニングに励んで、このウルトラタイムの延長を企んでいるところだ。

 おっと、そう言えば相棒の話をするのを忘れていた。
 ディッツに破壊されたレオパルドだったがメモリーは無事生きていて、既に最新のボディへと移植済みだ。
 勿論その軍資金となったのはベニラ団の三人分の懸賞金からで、思い切り贅沢にフルオプションの最新バージョンとなったレオパルドとの訓練はおかげ様で充実しまくりだった。

 私が猫耳を押っ立てて弾よりも速く走り、瓦屋根を駆け抜けて、悪人をばっさばっさと切り倒すのは、また別のお話――
 と、言うことで。

                               第一部・完

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 最後まで読んでいただきありがとうございます。




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