桂佐ん吉(かつら・さんきち) 【平成28年度 大衆芸能部門[落語]】

 

 

 

中学生の頃、ひょんな出合いから落語の面白さにグイグイと引き込まれ平成13年9月、故桂吉朝に入門。あれから16年、現在34歳の落語家・桂佐ん吉さん。平成14年から3年間大師匠・米朝のもとで内弟子修業に励み、平成23年文化庁芸術祭新人賞、平成26年なにわ芸術祭奨励賞をそれぞれ受賞。平成27年には念願のNHK新人落語大賞を獲得し、平成28年度咲くやこの花賞にも輝きました。上方落語の名門・桂米朝一門にあって、けん玉は初段の腕前という特技もユニークな今勢いにのる若手注目株のひとりです。谷町六丁目のカレー屋「アララギ」での落語会は6年目に突入し、10月には梅田・蔦谷書店にて「第1回 ウメツタ寄席」で一席を担うなど、出前感覚で落語の面白さを幅広い層に届けるフットワークの軽さも魅力です。12月には咲くやこの花賞受賞記念公演『桂佐ん吉“ハメモノ”と落語の世界』も控えるなど、2017年下半期もご活躍の佐ん吉さんに、記念公演の見所や落語への思いを伺いました。

 

 

「やっぱり落語は“ほんまの気”でやるのが一番大事!」

 

近年は年一回のペースで様々な賞を受賞されています。周囲からの注目度の高さや期待感などはお感じになりますか?

 

注目度…、期待感…、ないですね(笑)。咲くやこの花賞に関しては、吉朝師匠をはじめ代々すごい師匠方や兄弟子たちが獲られてきた賞ですので、歴代の顔ぶれをみると、なんか自分も行政に認められたというか私鉄が市営地下鉄になったというか、公認を得た感じがします。昨日、会に出させて貰った(林家)染左兄さんに話すと「今後何かと大阪市のイベントに呼んでも貰えるからええやん」と言ってくれました。受賞記念公演とか銘打ってくれたり、「おめでとう」の気持ちでみんな観に来てくれるので、与えられた打席で結果出すのが大事だなと。嬉しさ半分、焦りの気持ちも強いですね。受賞は忘れ去られるのも早いので、その効果はもって1年ぐらいじゃないでしょうか。

 

 

2011年から続ける谷町六丁目のカレー屋「アララギ」での落語会など、自主企画のイベントや勉強会にも積極的な印象です。

 

勉強会は自力をあげていくために地道にやっていかないといけないですから。具体的には新ネタを覚えたり、大きいネタはかける機会が少ないので自分からその機会を作っていく。後は、お客さんに新しいな、面白いなと思ってもらえる会をする。底力をあげることと間口を広げる、この二つを両輪にやっていますね。

 

 

 
   

 

   

 

同じネタでも回を重ねるほどに発見があるものですか?

それはひとりでネタくってる時にもあります。次はこういう言い回しで言ってみようかなとか。回を重ねるとどうしても型にはまっちゃうんですね。それを敢えて崩すようなことをしてみたり。


そうすると、人物の心理描写も変わってくる。

やってるほうの気が変わるんですよね。毎回おんなじことを呪文のように言うてるのを、あえて変化をつけることで、次に返す言葉がほんまの気で言い返している。やっぱり落語ってほんまの気でやるのが一番大事なことやと僕は思ってるんですけど。リズム、間、噛まないのが大事なのはもちろん、その上で、ほんまに言うてるようにお客さんが感じるのが最上だと思う。けど、これが難しい。いいなと思った言い回しも、次には型にはまった言い方になってしまうので。


つかまえたと思ったらひゅっと手の平から抜け落ちる。その繰り返しはキツくないですか。

そこを追い求めるのが、楽しいですね。そいう所はまったくストレスじゃない。何がストレスかと言えば、お客さんが来ないこと。2週間後に独演会やのにまだ半分いってないとか、すごく嫌になりますし(笑)。一番の理想は、落語会で「佐ん吉さん面白かったよ」と、1人のお客さんが1人連れてきて、2人が今度は4人になること。でも現状は会を増やすほどに、お客さんが分散してしまう。 
  

 

見る側の懐事情などもあり、悩ましいですね。

 

いうても狭い世界ですから。ただ、先日『志の輔らくご』の会を観に行って来たんですけど、約1,000人のホールで5日間。多分、毎公演来るお客さんはいないと思うので述べ5,000人、大阪の森ノ宮ピロティーホールに来れるお客さんがおるんやなと。僕は100人呼ぶのにピーピー言ってるわけで。落語ファンの中にも佐ん吉を知らない人もいてるし、知っているけど観ない人もいる。いかにして、お客さんを呼べる人間になるかやと思っています。

 

「米朝にも吉朝にも、舞台袖で勉強して来いと言われました」

落語との出会いは中学生の頃。弟子入りとは、実際にはどんな行動をとるのでしょう。

 

体当たりです。楽屋入りのするのを待っていたり、明らかに不審者ですよ(笑)。そうやって顔を覚えてもらって「弟子にしてください」と。僕は中学3年生やったので、「まだ早い」と何回か門前払いされてから、だんだんと楽屋に入れて貰えるようになって、でもやっぱり早すぎると。そこでいっぺん怖じ気づいて、離れてた時期もあったんです。でも気持ちが冷めなかった。高校3年生の時にもういっぺんお願いに行ったら「そこまで言うんやったら」と弟子入りが認められ、置いてもうた感じですね。吉朝師匠は何かすごいってセンスがすごい、もう笑っちゃうくらいすごいんですよね。

 

 

 

 

印象的なエピソードはありますか。

 

師匠との出会いは、うちの母親が「きっちょう」と松尾貴史さんの愛称「キッチュ」とを間違えて桂吉朝の会を「面白いよ」というから、観に行ったんですよ。僕は全然知らんから、「なんや、四角い顔のおっちゃん出て来たわ~」と思って観ていたら、グイグイと引き込まれた。それがセンスですよね。基本的な声質やリズムの良さはもちろん、(笑福亭)たま兄さんの例えを引用すれば、「クラシックのコンサートでドラえもんの曲を流すようなセンス」なんです。クラシックを聴きに行って、「今日のドヴォルザークは…」とか話されてもツウしか分からないし、下手したら退屈で眠たくなってくる。そんなところへ、ドラえもんの曲を入れるような人。そうすると聴衆もスッと曲に戻ってきて、「今日のコンサート良かったね」となる。そういう、すごい感性の持ち主でした。

 

 

 

 

落語の面白さに感銘をうけたのが、落語家を志すきっかけに?

 

そこでみんな勘違いするんですよね、自分も出来るって。当時の米朝一門会では米朝、ざこば、南光、たまに吉朝が出る。前座には当時2、3年の兄さん方。それを観て「吉朝は難しいかもしれんけど、あの先輩たちは抜けるで」と思っちゃうんですね(笑)。

 

 

現実は違いましたか?

 

入ってからみんな「現実は違う」と思い知るわけです。僕は、昔よう早口やって言われてました。自分では師匠のリズムの通りに、普通の会話のリズムでやっているつもりなんですけど、録音を聞いたらめちゃめちゃ速い。全然思ってたのとちゃうなと。入門してからこっち、壁だらけですね。自分でも波があって、ノッてるなと思う時もあれば、お客さんにウケてても「今日はアカンな」と思う時もありますし、いろいろです。

 

 

先輩方を見る目も変わったのでは。

 

そうですね。例えば同じネタで自分がウケてないところを何でこの人はウケるのかなとか。その人の良いところを見たり、逆にこの人は何がアカンのかと見てみたり。米朝にも吉朝にも、「舞台袖で勉強して来い」とはよう言われました。ひとの芸を見るのが大事ですね。

 

 

 
   

 

 

 

メモをとったりされるのですか?

 

メモはしないですね。多分書くのは大事なことやと思うんですけど、本当に筆無精でまったく書かない。落語を覚える時も、みんなは一語一句文字に起こして、もう一回するときはその台本を見直したりしてますけど、僕は書かないですね。書いても、チラシの裏とかなのですぐ無くすんです。その後ノートに書いても無くすから、もったいないなと(笑)。紙に残さないから、出来なくなったネタもたくさんあります。変えたいのに変えられない、このスタイル。

 

 

ちなみに、本番中にネタを忘れることも?

 

ありますね。何とかつじつまを合わせていきますけどね。一番難儀なのが、言うてたか言うてなかったかを忘れたとき。落語のパターンで「仕込みバラシ」ってあるんですけどね。例えば「コーヒーって、こう飲むねんぞ」とあらかじめ言っておいて後で間違えるとか。最初に仕込むから後がイキてくる。それを忘れたら「仕込まずバラシ」ですから、聞いてるお客さんポカーンですよね(笑)。

 

 
   

 

 

 

(笑)。よく落語は覚えてから「いかに自分のものにするかが大事だ」と言葉にされていますが、具体的な“完成形”のイメージはありますか?

 

今後、気持ちは変わっていくかもしれないですが、ネタが自分のものになったなというのは、僕しか言うてないギャグとか息とかでネタを言えるようになったときですね。オリジナルの工夫、息、気持ち、ちょっとした事でいいんですけど。逆に持ちネタの中にも、吉朝師匠の言い方を一語一句変えられないネタもあります。使い勝手のいいネタなのでやるんですけど、自分のものじゃない借りてる感じがする。具体的には「河豚鍋」なんですけど。

 

 
   

 

 

 

変えられない、とは。

 

やっぱりこれより良くなると思うから変えるわけじゃないですか。僕の中で吉朝の「河豚鍋」が100点だと思っているので、いじれないですよね。やって120点になるんやった変えるんですけど。だからいま覚えるのは、自分なりにこんなふうに変えられるんちゃうかなと思うネタを覚えますよね。必然的に触手が動くというか、開拓の余地があると言うか。普段そんなことばっかり考えています。

 

 

「落語は何べん聞いても笑える、一番面白いエンタメです!」

 

吉朝師匠、米朝大師匠から学んだこと、受け継いだ教えとは。

 

吉朝師匠は言葉を大事にしていました。てにをは、というか。例えば「そこいらでちょっと天ぷらで一杯つきおうてえな」では、この「ちょっと」が大事なんやと。その一言でニュアンスが変わってくる。何でもない一言が大事なんやと、よう言われました。でも一番は、師匠が芸に向き合う姿勢、一席に向き合う集中力たるや、そこですね。

 
   

 

 

 

 

米朝師匠はいかがでしょう。

 

じつは米朝師匠とおった時間の方が吉朝師匠よりも長いんですよ。米朝師匠は、意外と言葉のチョイスはアバウトなんです。膨大な情報量の中から1つを導き出しているので、その時々で言葉のチョイスや並べる順番が違ったりする。晩酌の相手をしているときでも、あのひとの芸はこうだったとか、テレビを見ながら解説者のコメントを拾って、「ここを言わんとどないすんねん」とか。良いもの悪いものを見極める目を養えよと、米朝師匠からは学んだような気がしますね。当時は「早よ寝たいな~」とか思っていたわけですけど(笑)。

 

 

思い返すと、さりげなく分かりやすく、教えてくれていたのかもしれませんね。

 

そうですね。理屈じゃなしに身体で覚えろよと。だから「袖でよく見なさい」とは、よう言われました。晩年は、お歳も召されていたので、ちょっとトイレにたってコケたりしたらどうすんねんと、兄弟子たちからは片時も師匠の側を離れるなと言われて。でも師匠は横に立つと怒るんです。「お前は袖いって見てこい!」「師匠のところへ行け!」で、ずっと行ったり来たり、そんなんでした(笑)。

 

 
   

 

 

(笑)。細部への集中力と全体を見るおおらかさ。真逆にも思える両師匠からの教えは、ある意味やり方ははひとそれぞれだとも捉えられます。

 

正解がないですからね。この人にとっての正解が別の人には不正解、特に僕の場合は師匠がいてなかったので何が正解か分からなかった。やっぱり年季が明けてから自我が芽生えるわけで。年季中は何にも考えられない赤ちゃん状態で、師匠から言われたことをする。でも年季が明けたら、自分の選択肢が出てくるわけです。そういう時に、師匠やったらどういうんかなと考えたり、色んな人に話を聞いたり。「吉朝はこうだった」と5人に聞いたら5通りの答えが返ってきました。その中から、似たようなところを抽出して、自分なりの吉朝像を見出だす。師匠の残り香を探しながらやってきたんですけどね、僕は。

 

 

その中で培われた、ご自身の持ち味とは。

 

よく人から言うていただくのは、女性を演じさせたら良いねと。自分では分からなかったのですが、言われるようになってからは選ぶネタも意識するようになりました(笑)。どっぷりネタの世界観が出せたら良いなと。

 


 
   

 

 

 

ご自身は中学生でハマった、落語の魅力についてもお聞かせください。

 

落語はコストパフォーマンスがすごく良い。よくお芝居を観に行って思うのは、こんなん2時間かけてすることかいなと。あくまで、僕個人の感想ですよ(笑)。逆にいくら払っても惜しくないと思う芝居は10本みて1本ぐらいの割合ですね。10本見たら9本は「これ落語で出来るやん」と。それくらい、落語というものがよう出来てるんやと思います。やっぱり時間をかけてええもんだけが残っているわけですから、何べん聞いても笑えますし。笑いという意味でも、人情噺におけるカタルシスという意味でも、落語は一番面白いエンターテインメントやと思っています。

 

 

さて、12月には咲くやこの花賞受賞を記念して、咲くやこの花コレクション『桂佐ん吉“ハメモノ”と落語の世界』が開催されます。

 

ハメモノとは普段見せることのない舞台袖で演奏する鳴り物のこと。落語の最中に後ろで流れている、バックグラウンドミュージック(BGM)です。これは上方落語ならではの持ち味で、江戸落語にハメモノはありません。それを今回はふたつのネタ「七度狐」「蛸芝居」で、どういうふうに演奏しているのかを表に出してお見せする。それも「良い例/悪い例」を挙げながら、普段の落語会にはなコント形式で見せようというもの。「すごいな!」と思わせる見事な演奏もあります。

 

 

 

見事とは、噺との一体感や臨場感など?

 

例えば、どっこいしょの声に「ドンドン」と太鼓の音を合わせる。それこそ息と間ですよね。そこがずれたら噺自体も面白くなくなってしまう。袖で太鼓を叩く方が、高座にあがるよりもずっと緊張するすものなんですよ。米朝師匠なんかはやっぱり厳しかったですから、「こんな入れ方してどないすんねん!」と。大阪にたくさん噺家がいてますけど、米朝一門が一番太鼓を叩く機会が多い。ハメモノは米朝一門が他の一門よりも一番勝っているところだと思います。公演当日は三味線の(内海)英華師匠も出てくれます。英華師匠ですか? 時に厳しく時にやさしく、色っぽく。一言でいったら、これぞ女芸人です(笑)。

 

 

 

 

 

◎取材・文・撮影=石橋法子(インタビュアー)

 

 

★大阪名物を訊く!【私の、咲くやこの花賞】……

僕の地元、大阪市港区です。最寄りの中央線「朝潮橋」駅を降りた瞬間から潮の香り漂ってきて、僕にとっては「帰ってきたな」とホッとできる場所です。また天保山とか、夕陽がきれいに見えるのも自慢ですね。すごく下町情緒もあっていいですよ。

 

★公演会情報……

 

『第1回 ウメツタ寄席』

日時:2017年10月31日(火)午後7時開演

会場:梅田 蔦屋書店 4thラウンジ

出演:桂佐ん吉、桂ちょうば、桂吉の丞

 

咲くやこの花コレクション『桂佐ん吉“ハメモノ”と落語の世界』

出演:桂佐ん吉、内海英華

日時:2017年12月7日(木)午後7時開演

会場:大阪倶楽部ホール4階

 

『桂吉朝十三回忌追善 桂吉朝一門会』

日時:2017年12月21日(木)午後6時半開演

会場:ピッコロシアター大ホール(尼崎市)

出演:桂あさ吉、桂吉弥、桂よね吉、桂しん吉、桂吉坊、桂佐ん吉、桂吉の丞

 

 

★レギュラー番組

FM守口「ラジオDESSE!」

毎週金曜日10:00~10:50出演中