What's ヘラっち

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 男子歴もほどなく半世紀。さすがに、男子なる生物のなんたるかが、ひとつひとつ、この身をもって分かってくる今日この頃なのです。古今東西、ホワッツ男子。

 男子を男子たらしめる要素のひとつに「凝り」があります。

 将棋に凝る、野球に凝る、プラモに凝る、ギターに凝る、カメラに凝る、ギャンブルにスピードに…枚挙にいとまがありません。それはもう、狂ったように凝るのです。古今東西、ザッツ男子。

 それぞれにそれぞれの出会いがあって、各々の道を行き、薮をかきわけ、傷も喜びも経験し、気づけばよそからみたらアホとしか映らない領域で生きている。何のために安らぎに背を向けて。

 いろんな道がありますが、一体、究極のアホ男子道ってなんだろう。最近こんなことを考えます。

 あたしの場合、普通のひとよりだいぶギターに時間とお金と魂を注ぎ込んでいると思われます。自分では「こんなんじゃまだまだ恥ずかしいぐらい足りない!」と感じておりますが、皆さんからみれば「いやいやいや、異常異常」てところでしょう。どれもこれも、大同小異エレキはエレキ。それを何本も、なかにはかなり高額なものだって「あ、これ欲しかったんだよー、みーっけ!」なんてシャツでも買うぐらいの軽いタッチでさくっと購入。たしかに、ことギターに関して、金銭感覚は麻痺しきっておるといえるかもしれません。そいつらを、中学のときとさして変わらぬ情愛をもって常日頃から飽きもせず抱っこしておるわけで。

 しかしながらあたしの場合、それを人前で披露できたり、自分の音楽でそれをレコードに吹き込んだり、それなり以上の果実を得ておるわけで。つまり、男子の凝り、見返り無視のアホ道というにはちと弱く。

 その点を踏まえ、最近気になっているのが、ヘラブナ釣り。いかがでしょう。

 いわゆる海釣りなんかだと、まずは母なる海を一身に浴びる時点で大いなる果実。大物釣ったりなんかして、美味しくいただいたり近所にお裾分けなんかしたりして、更なる果実。釣りに興味のない人でも、「ああ、魅力的なんですね」と十二分に説得できるってもんです。渓流釣りなんかもしかり。ネイチャーでロハスでステキですね、ってなもんです。イワナにヤマメに鮎、美味です。

 魚を食わずにリリースする類いの釣りはどうか。ブラックバス釣りに代表されるいわゆるひとつのスポーツフィッシング。カギのついた針で獲物を仕留めておいて、引きを存分に楽しんだら、リリースなんてキレイな名の下に放流する。これ、動物愛護なのか。放流された外来魚は引き続き国内固有種の魚を捕食して巨大化する。あたくしどうにも違和感を禁じ得ないのですが、まあそれはそれとして。

 スポーツ(この言葉もひっかかるが、まあそれはそれとして)フィッシングなんて称されるぐらいだから、レジャーとしての認知度も高く。有名著名人のファンも多く、それほどアホな男子道という感触はない。

 そこへいくとヘラブナ釣り。

 まず、魚のルックスが地味極まりない。ヒトコブラクダよろしく背がもっこり盛り上がっていて、動きは鈍臭そう。色は灰色、すっごい地味。顔はかわいいっちゃかわいいですが、目つきなんてぼーっとしていて、すっごい地味。色とりどりの美しい細工を施したルアーやフライでなく、エサはうどん等の植物性練り餌らしいですね。うん、地味。

 海の大型魚やブラックバスのように豪快な引きを楽しむものでは、どうやらなさそう。イワナや鮎のようなキレのある泳ぎをしているようにも、どうしても見えない。そして、なんといっても美味しくなさそう。

 ヘラもバス同様、釣ったら逃がすのがマナーだそう。でも、カギ針は決して使わぬそうです。魚をなるべく傷つけないように。タモと呼ばれる釣った魚をすくいあげる網も、粗いネットでなくきめ細かく柔らかい素材のものを使うそうな。魚をなるべく傷つけないように。素人目にはそれほど美しくもなく映る魚のために、この気遣いよう。

 ボートなんかを使って派手に釣り場を移動するバス釣りなんかと違って、ヘラは「今日はここ!」と釣り場を決めたら基本動かないそうな。池だか沼の動かぬ水面を日がな一日睨みつけ、ほぼ腰掛けたまま一日を過ごす。雨の日は傘の下、雨具に身をつつんで。真夏は太陽に照りつけられながら、真冬は北風に煽られながら。たったひとりで。

 食うでもない、派手でもない、そのくせ釣り上げるのが難しい(らしい)地味な魚をひたすらじーっと待ち伏せて。

 だいぶ果実にも安らぎにも背を向けていると思うのですが、いかがでしょう。

 更に、道具がまた一家言も二家言もありそう。非常に繊細なアタリを正確に見極めて、カギのない針にしっかり掛けるため、道具もだいぶ奥が深そう。その道の職人さんが見初めた極上の竹を、乾燥させ軽量かつ頑丈にして、魚の動きを手元へと文字通り手に取るように伝えるべく過不足ない削りを加え、何重にも漆を塗り仕上げに朱で模様を施し、サインを入れてハイ出来上がり。竿一本ウン十万円!ウキ一個ウン万円也!なんてね。全部妄想ですけどね。

 ボーナスの大半をつぎ込んで買っちゃうんだ。週末には「月刊ヘラ」(あるのかないのか知りませんが)に載ってたX県のY沼に行っちゃうんだ。そんなこんなで毎月末はすっからかんなんだ。でもエサのうどんには手を出さないんだ。もちろん妄想ですけどね。

 どうです。だいぶ狂ってるでしょ。ヘラ釣り。

 ストイックで見返りが少ないうえに、モテなさそうなところも良い。合コンで、

「趣味はなんですかー?」

と聞かれ、

「ヘラでーす!」と素直に答えてその話が盛り上がるとは到底思えない。つい熱く語ってしまおうものなら、その夜は時間もお金もハートもドブに捨てる結果となるであろうことは、火を見るより明らか。

 そこまでして、ヘラっちの一体何が、彼らを夢中にさせてやまないのか。なんだか引っかかる今日この頃なのです。

 なんとなく、自分に向いていそうで怖い今日この頃なのです。