「YEBISU BAR」、「Yahoo!Books」のサイトで連載されていた「プレミアムストーリーズ」の単行本。
女性作家8人が描く、本の題名「最後の恋」をテーマにした短編を収録したアンソロジー。

『海辺食堂の姉妹』は阿川佐和子の作品。
海沿いの町外れにあるこじんまりとした一軒の食堂が舞台。脱サラで開業した両親とその子供である姉妹で切り盛りしていた、ちょっとモダンな食堂。
両親が急死し、今は姉妹で経営している。
姉妹は年頃というにはちょっと年齢を重ねすぎた独身の姉と妹。
死んだ両親は明るく社交的でフロアを担当している姉のことは心配していなかったが、大人しく人見知りをし厨房でひたすら料理のみに専念する妹のことをとても心配していた。
それは姉も一緒であった。
店に来る男性客達の中には妹を意識しているだろうとわかる者もいたが、妹は全くその気はないと取り合わない。
姉にも特定の彼氏が居る訳ではなかったが、自分のことよりも妹を思っていた。妹が片付かなければ自分は結婚などできない、と思っていた。
或る日、妹が両親の死後に過労で倒れ数日店を閉めていた時のこと。
妹を見舞う男性がやってくる。
それが1人ではなく、2人3人とやってくるのだ。姉は驚いてしまう。
あの妹が複数の男性と交際していたなんてと。
終いには何故妹ばかりに男性が惹かれるんだろう、私はなんだろうと悩み怒りがこみ上げてきた。
そんな時訪れた見舞い客の銀行員の男性。
彼は、妹ではなく姉を心配しやってきた。最初は訝しんだものの、少しずつ心を開き彼と交流していく。
複数訪れた男性の見舞い客の中で最後に来た銀行員の男と少しずつ想いを交わしていくようになる姉。
自分の知らない妹の一面に面食らったものの、姉妹はお互いのペースで恋愛をし店を切り盛りしていくようになるのだった。

死んだ男を忘れられない女を描く『ヒトリシズカ』(谷村志穂)、もう誰も好きにならないと誓ったことが心を閉ざす理由になり大人になっても真剣に人を愛せないことに悩む『LAST LOVE』(柴田よしき)など、女性ならば経験があること、感じることがある想いなどが少しずつ織り込まれたアンソロジー。
作家のメンツも新鮮な人からアンソロジー定番の人まで揃っていてバラエティに富んでおりなかなか面白い。恋愛小説好きの方におすすめの1冊。

<新潮社 2005年>

阿川 佐和子, 角田 光代
最後の恋
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loveletter 電子子書籍配信のサービス『Timebook Town』にて連載されたものを単行本化。
ラブレターにまつわる様々な想いを綴る恋愛アンソロジー。

『ありがとう』は石田衣良の作品。
大学に入学した僕が出会ったのは「美丘」という名の個性的な女の子だった。
春先にグレーのコートを羽織り、意思の強そうな風貌で、クラスメートの男子の中には怖いとさえ言う者も居た程だった。
けれど、僕は美丘に惹かれていった。
偶然が重なりランチという名のデートをした時、突然セックスしたいと言われ面食らったけれど、もちろん気になっていた女の子からの申し出を断るはずもなく、僕は美丘とセックスする。
そこで初めて聞く美丘の病のこと。
それから始まる二人の暮らし。
愛に満ち溢れた二人の暮らしはそう長くは続かず、美丘は逝ってしまう。
美丘と過ごした数ヶ月が僕の心に広がりつづける。

いつか僕は、美丘の名前のように美しい丘で君にありがとうを言うのだと誓う。


その他、島村洋子や山崎マキコ、井上荒野の作品も心に残る。
思ったよりパッとしないアンソロジーだったが、いくつか切なさでホロリときそうな作品が含まれていたのでまぁ◎という感じである。
アンソロジーが増える昨今だが、もう少し突飛な作品やアンソロジーならではと思える短編を読ませて欲しいなと欲が出てきた。


<幻冬舎 2005年>


石田 衣良, 川端 裕人, 森福 都, 前川 麻子, 島村 洋子
Love Letter

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xmas あたたかい恋も、せつない恋も、別れも、全てはクリスマスに繋がっている。
人気作家6名がクリスマスをテーマに様々な物語を紡ぐアンソロジー。


『セブンティーン』は奥田英朗の作品。
主人公は17歳の娘と中学生の息子を持つ母親。
クリスマス間近の或る日、娘が「イブは愛ちゃんの家に泊まるから」と母に告げる。
母は女の勘でピンときたのだ。
娘は処女を捨てる気だと。
娘のボーイフレンドの顔も知らず、不安が募る母。
どうやって阻止しようか思案するが、友人から自分が娘と同い年だった時にどうだったかと諭されまた考え込む。
高校生の時に好きだった男の子のこと、ファーストキス。
母は色々思い出し、娘の気持ちもわかるような気がしてくる。
そんな時、娘が泊まるはずの愛ちゃんの母親から電話があり、娘の考えが明確になる。
そして母は決断するのだった。

かなり豪華なメンバーと言える本書には、紹介した母と娘の葛藤を描く『セブンティーン』や離婚までのゴタゴタを描く角田光代の『クラスメート』、中距離恋愛の思いを綴る島本理生の『雪の夜に帰る』、不倫の悲しさと喜びを描く盛田隆二の『ふたりのルール』他、計6作品が衆力されている。
アンソロジーの醍醐味である馴染みの無い作家を知るチャンスを得ることもできたし、当然クリスマス前のこの時期にクリスマスにまつわる物語ということで季節感もバッチリだった。
装丁も素敵で本好きの友達や恋人へのプレゼントにもおすすめの1冊。


<角川書店 2005年>


大崎 善生, 奥田 英朗, 角田 光代, 島本 理生, 蓮見 圭一, 盛田 隆二

クリスマス・ストーリーズ

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nakazuri 1990年にJR東日本が行ったキャンペーンの一環で電車内に掲出された中吊りポスター小説と文庫化にあたり+11話を収録した短編集。


『別れの朝』は阿刀田高の作品。
主人公の男女は知り合って三ヶ月余り。

恋人と呼べる関係ではないが二人で過ごす時間が増えていた。
初めての遠出を迎えた朝、女が約束の時間より遅れて来たことから二人の間にズレが生じていく。
小さな言葉の行き違いがきっかけで心が急速に離れていく様を描く。


たった10ページ前後の短編で中吊りのイメージのままの印刷となっているので通常よりも文字数が少ない。
そんな中で、きちんと起承転結のある物語を読める。
表題どおり中吊りで連載された作品が半分を占めるので、ちょっとの時間でも読みきれるようになっているのだ。
その微妙な文字配分や物語の分けかたが良い。
老若男女が混在する電車内だからこそのラインナップで、作家陣と挿絵家が豪華だ。
吉本ばなな、泉麻人、椎名誠、森瑶子、赤川次郎、伊集院静など総勢19名の作家の力作が揃う。
エッセイ、恋愛小説、ファンタジーなど物語の種類も様々で飽きたら読み飛ばす贅沢もアリ。
当然、通勤にもってこいの1冊。


<新潮社文庫 1994年>


吉本 ばなな, 阿刀田 高, 椎名 誠, 村松 友視, 高橋 源一郎
中吊り小説

anokorotakara 仕事、家族、恋愛、友情など、毎日の生活の中で欠かせないものに対する忘れたくない気持ちを描く。
後に「ありがと。」 と改題し文庫化されているアンソロジー。


『光の毛布』は中山可穂の作品。
主人公・咲は28歳。
金融関係の会社で事務職に就いていたが一念発起で二級建築士の資格を得て建築業界へ転職した。
決して待遇の良い会社ではなかったが、毎日の充実感は今まで得たことがない程で咲は寝る間も惜しんで仕事に励んだ。
それをよしとしない人間が一人だけ居た。
彼氏の智彦だった。
最初は応援してくれ、愚痴を聞いたり励ましたりしてくれた智彦だったが、咲が多忙になり連絡も取れなくなったり現場の仕事なので時間が読めなくなり朝まで働く様子を見て反対をし始める。
しかし咲はこの仕事を天職だと感じており、続ける意向を変更しない。
二人の関係はうまくいかなくなり、別れてしまう。
智彦を失った途端に全てが色褪せて見えてきた咲は、仕事に疑問をもち始める。
どうするか悩む咲を説得する社長。
そして咲の頭の中にある光景が浮かび上がり、咲は仕事を続けるか否かを決めるのだった。


他にも、休日の銀座で出会った同級生との数時間を描く『ルージュ』(島村洋子)、愛犬の散歩にまつわる恋と出会いの物語『アメリカを連れて』(藤野千夜)、やっとの思いで実らせた愛が壊れるように自分も壊れていく『わたしたち』(前川麻子)など計12作品が収録されている。

狗飼恭子、島村洋子といった馴染みの作家から、先日大変楽しんだ近藤史恵やコバルト以来の久美沙織など12名の作家が奏でる短編集で読み応えあり。
胸がキュンとなるものからクスッと笑えるもの、ファンタジー的要素を含んだものからぞくっとくる恐ろしい結末を迎える作品まで幅広いジャンルの短編が揃っているのも楽しい。
女性向けな1冊。


<メディアファクトリー 2003年>


ダヴィンチ編集部
ありがと。―あのころの宝もの十二話 (文庫本)


狗飼 恭子, 久美 沙織, 近藤 史恵, 島村 洋子, 加納 朋子
あのころの宝もの―ほんのり心が温まる12のショートストーリー (単行本)

ginza24 「銀座百点」というタウン誌に掲載された短編集。
銀座を舞台にした悲しい恋、せつない結婚、羨ましくなるような友情、懐かしい思いなど様々な物語が詰まった24人の作家が描くアンソロジー。


『銀座カップル』は森村誠一の作品である。
主人公は山葉一朗と恵の夫婦。
二人は銀座の街角で偶然出会った。
その時、自称・カメラマンという国東にスナップを撮られたことから二人の仲は進展し、やがて結婚に至る。
しかし結婚生活が二年を経過した頃、二人の関係に亀裂が生じはじめる。
小さな事柄であるが、お互いに不満を抱き寝室も別になり、二人は離婚を決意する。
そんな時、国東からカメラと訣別するので最後に写真展をやるから見に来て欲しいとの連絡が入る。
二人は夫婦生活の終止符をこの写真展で、と話し合い出掛けて行くが、ここで国東に会うことは出来なかった。


エッセイのようなタッチの物語も多く、これは著者の経験談なのだろうか?それともフィクションで作りこんだ物語なのだろうか?と読み終えたあと考えてしまう。
しかし、それが楽しくもあり次の物語への誘いでもある。
本書の魅力はなんといっても椎名誠から赤川次郎、群ようこから平岩弓枝まで幅広いメンツを揃えた作家陣。
普段全く手にしない嵐山光三郎や連城三紀彦が意外に肌に合ったりと、アンソロジーならではの楽しみの要素もたっぷりあると思う。
私のように読む作家が偏っている場合は、特に刺激になるだろう。
十数ページの短編が24収録され、通勤にも寝る前のちょっとした読書にも向いてる。
男女問わず楽しめる1冊。


<文藝春秋 2001年>


銀座百点
銀座24の物語 (文庫本)


椎名 誠, 皆川 博子, 久世 光彦, 山田 太一, 赤川 次郎
銀座24の物語 (単行本)

iloveyou 祥伝社の創立35周年記念として特別出版されたアンソロジー。
人気の男性作家・6名が描く恋愛作品集。


1作目として収録されている『透明ポーラーベアー』は伊坂幸太郎の作品。
八月、主人公・優樹は遠距離恋愛目前で微妙な空気が漂っている恋人・千穂と動物園に行った。
そこで偶然、富樫さんを見かけた。
富樫さんは姉の最後の恋人だった人で、優樹が姉の歴代の恋人の中で最も気に入っていた人だった。
富樫さんの横には芽衣子さんという女性が寄り添っていて、時の流れを感じる優樹。
自由奔放だった姉。
姉は失恋する度に度に出る癖があった。
それは中学生の頃からで、両親も優樹も飽きれていた。
そして例に漏れず富樫さんと別れた時も、旅に出た。
それが、姉との永遠の別れになるとは誰も思わなかった。
シロクマが好きな姉は、カナダを一周してシロクマを見たら帰ってくるなんて言って出かけたっきり、戻らない。
富樫さんもそのことを知っていた。
そして今、お互いが恋人を連れてシロクマを見ていた。
不思議な縁・運命ではないかと思う瞬間を描く作品。


他にも何十年も同級生として過ごした男女の関係に変化が生じる様を描く、石田衣良の『魔法のボタン』など、恋愛小説として楽しめる作品が続く。
男性作家はあまり手にしない私なので、こういったアンソロジーで新しい作家を知っていく。
今回の作品で伊坂幸太郎をもっと読んでみたいと思うようになった。
また逆に、避けていて正解だったと思う作家も含まれていて、今後の本選びの参考になるアンソロジーだった


<祥伝社 2005年>


伊坂 幸太郎, 石田 衣良, 市川 拓司, 中田 永一, 中村 航, 本多 孝好
I love you

koinokaori 恋と香りがリンクすることは結構ある。
春先に沈丁花の花の香りを嗅ぐと中学校の頃に好きだった男の子を思い出す、など。
そんな恋の香りにまつわるエピソードを絡めたアンソロジー。


『日をつなぐ』は宮下奈都の作品。
主人公は赤ちゃんをひとり持つ女。
初恋の“修ちゃん”と結婚し、彼の住む街・秋田で暮らしている。
毎晩、豆のスープを作っている。
忙しい“修ちゃん”の為に、すれ違う生活の寂しさを埋める為に、彼女はスープを作っている。
“修ちゃん”は彼女の初恋の人だった。
地元・福井の中学校の同級生だった“修ちゃん”とはひょんなことで知り合い、そのまま彼を想い続けた。
同じ高校に進むものの、勉強のできる“修ちゃん”は京都の大学へ進学し、彼女は信金に就職する。
離ればなりになったものの、遠距離恋愛の中で二人の気持ちを積み重
就職で秋田勤務になった“修ちゃん”とますます距離が出来てしまい困惑している時に結婚した。
そして、子供が産まれた。
忙しい夫、知り合いの居ない寒い街、慣れない子育て。
彼女の中で何かが壊れはじめる。
そんな時思い出したのが豆のスープの香りだった。
彼女は豆のスープを作ることで自分を保っていくが、二人の心は保てなくなっていた。


せつない話が多い。
短編なので細かい描写は無いが、心の中でせつなさが渦巻く物語が多い。
冬っぽいイメージの物語が多い気がしたので、もう少し寒くなってから読めばよかったかな、と残念でならなかった。


<角川書店 2004年>


角田 光代, 島本 理生, 栗田 有起, 生田 紗代, 宮下 奈都, 井上 荒野
コイノカオリ

7irono51 最近また凝っているアンソロジー本。
7人の女性作家が7つの恋愛をオムニバス形式でまとめた短篇集。


『そしてふたたび、私たちのこと』は角田光代の作品。


登場人物は高校時代の同級生3人組、私、ユリエ、ワカコである。
私は普通に年相応の恋愛をし、36歳になった。
ワカコは高校の頃から妻子持ちの年上男ばかりと恋に落ち続けていた。
ユリエはオタクな同年代の男と恋をし続けたが、或る日全く違う恋をし始める。
常軌を逸した行動を取ってしまうワカコ、そのワカコを否定しつつも気にし自分も同じ気持ちを味わってみたいとワカコに歩み寄る努力をするユリエ。
そんな二人を客観的に見守る私。
不思議な女の三角な友情を綴る。



女性3人でツルむというのは非常に難しいと思う。
女性が奇数だとまとまるのは至難の業ではないだろうか?
それをトラブルも含みつつさらりと描くのが角田光代らしく、結末も現代の恋愛事情と近くリアルでよかったと思う。



他にも井上荒野、藤野千夜、唯川恵、江國香織、谷村志穂などといった活躍中の女性作家が揃っている。
異色なのはミーヨンというソウル生まれの作家である。
初めて著者の作品を読んだ。
こんな風に、手軽に新しい作家と出会えるのがこういったアンソロジー系の作品集のよさである。
お盆休みに手軽に読書したいという思いは満たされた。
手軽に読書には短編が最適である。




<角川春樹事務所 2003年>


江國 香織
ナナイロノコイ―恋愛小説

renaishosetsu 5人の人気女性作家の恋愛とお酒をミックスした短編小説集。
サントリーと新潮社のコラボから生まれた恋愛アンソロジー。


『夜のジンファンデル』は篠田節子の作品。
主人公の絵美は、保険会社に勤める夫と暮らしている普通の主婦だ。
学生時代からの友人百合子とその夫・隆夫妻とは家族ぐるみの付き合いを続けている。
隆は五十を目前に、中東へ海外赴任することが決まっていた。
それは出世コースを外れたことを意味するもので、決して喜ばしい転勤ではなかった。
ホームパーティーの席で見る隆は特に打撃を受けているとは思えなかったが、気になっていた。
隆の住まいの庭には、葡萄棚がありジンファンデルがなったと隆は言う。
その葡萄は、数年前にアメリカでの出来事を思い出させた。
夫と行くはずだったサンフランシスコに一人で向かった絵美は、現地でトラブルに見舞われ、当時サンフランシスコに駐在していた隆に助けてもらう。
その時の思い出が、ジンファンデルだった。
サラリーマンとしての自分を優先した隆の話に、絵美は笑わずにはいられなかった。
そして、隆からの告白は絵美の心に深く刺さる。
その後、何もなかったように中東へ行った隆にはもう二度と会うことはなかった。


よしもとばななの『アーティチョーク』は祖父が愛したウイスキーの飲み方にこだわりを持つ女の恋愛と祖父への想いを描いている。
これもまた、よしもとばななの世界観がきれいにまとまった短編だ。
サスペンスが多い乃南アサの恋愛小説も久々に読むことができ、私個人としては本書はかなりの満足度である。
ベテラン作家5人なので安心して読めるし、失敗がなかった。
ひとりでお酒を飲みながらのんびりと読書をしたいときにおすすめの1冊。


<新潮社 2005年>


川上 弘美, 篠田 節子, よしもとばなな 他
恋愛小説