フィンランドにひっそり佇む食堂を舞台にし、小林聡美らが出演。話題となっている映画『かもめ食堂』 の為に書き下ろしたという珍しい形での出版作品。

ヘルシンキの街に謎の食堂『かもめ食堂』が出現した。
街の人々は子供が営んでいると誤解しているが、経営者は38歳のサチエである。
サチエは早くに母を亡くしており、武術を教える父と二人暮しだった。
「日々修業」が口癖の父の言葉を守りながら厳格に生きてきた。
やがて料理に深く興味を抱くようになり、大学や料理学校へ通学しはじめる。
いつか自分の店を持てたらという淡い思いの下、勉強の為に食べ歩いてみてもなかなか思うような店には出会えない。
或る日、サチエは「日本でお店を開く必要なんかないんだ」と気付く。
そして、運良く資金を手にしヘルシンキで店を開いたのだ。
閑古鳥の泣く店の中を磨く毎日でも、サチエは幸せだった。
日本びいきのフィンランド人・トンミ君だけは毎日通ってきてくれるものの、珈琲のみである。
客足は全く伸びない『かもめ食堂』だったが、偶然の出会いでミドリ、マサコと出会い3人で店をやっていくことになる。
その過程をのんびりとした空気と独特のリズムで刻む。

ほのぼのとした挿絵、著者ならではのゆったりとした時間間隔での文章など本作では著者の長所が生かされている。
有り得ない設定だと言われてしまえば、そうなのだ。
無理がある部分もある。
でもそんなことは無視し、ただ物語りにハマってしまおう。
そうすればきっと楽しめる。
のんびりと、ゆっくりと、なんてことないヘルシンキでの日常に自分も一緒に溺れてしまおう。
読み終えた時にあたたかい気持ちになれるのが今の私には嬉しくてたまらなかった。
映画を見る予定は無いが、出演女優と物語がシンクロして心地よくなかなかイイ感じで楽しめた1冊。
決して恋愛小説ではないし、こんなジャンルですと断言できる本ではない。
ただ穏やかに、のんびりと時間が流れる物語の中で心地よく時間を過ごせる。そうとしか表現が出来ない。
春先の心地よい時期にのんびりと読書を楽しみたい方にはおすすめの1冊。

<幻冬舎 2006年>

群 ようこ
かもめ食堂
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yamerarenaiona よくありがちな女性の恋愛のコネタを説得力ある形でまとめている、リアルな恋愛短編集。


『一度も会ったことのない人と恋愛できますか?』はインターネットを通じ、好きなバンドのファンサイトを通じて知り合った男に淡い恋心を抱く沙也佳が主人公である。
ひとり暮らしで普通のOLの沙也佳は、アメリカのロックバンドに入れ揚げている。
帰宅すれば化粧を落としたり食事をしたりする前に、パソコンの電源を入れてブックマークにあるファンサイトのいくつかやバンドの公式サイトを巡回するのが日課である。
何人かのメル友も居るし、オフ会にも参加しているほどである。
そんなメル友の中でもJUNは沙也佳の中で別の存在だった。
JUNはオフ会で会う前に仕事でオーストラリアへ行ってしまっており、一度も対面したことがない。
月に1~2度しかやり取りしないメールを心待ちにする沙也佳に、朗報が飛び込む。
なんと、JUNが赴任中のオーストラリアからバンドのツアーがスタートすることになり、一緒に行かないかとメールで誘われたのだ。
迷いながらも行くことを決心する沙也佳だったが、返事のメールを書いている時に届いたJUNのメールを見て愕然とする。


全ての題名に「?」がついている。
そして、読み終えるとその「?」の意味がわかる。
確かに、女性ってそういうところあるよね等と共感してしまったり、身に覚えがあったりする。
基本的に、恋をうまく操っていると勘違いしている女性が主人公なので、自分がこの主人公に似ているわ、とは言いたくないが、似ている人物も登場した。
これまでの短編集と似たり寄ったりだなぁと思う点も多々あるが、それが著者の作品のよさだしパターンでもあるので、これに飽きていない方はどうぞ。
6作品収録されていて、長さも適度なので通勤等で手軽に読めるのでおすすめ。


<幻冬舎文庫 2005年>

真野 朋子
やめられない女たち

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minoarimatdu 家族をテーマにした、エッセイなのか、フィクションなのか、自叙伝的な一面を見せる短編集。

『背中』は、就職したばかりで仕事に夢中な私が主人公。
忙しくしている毎日は充実感に満ち溢れ、働いても働いても働き足りない程だった。
弟は独立し、私は両親と暮らしているが顔を合わせることは殆ど無かった。
父は長年勤めた会社を退職し、事業を始めていた。
母はその手伝いと、慣れない経理を学ぶために夜は学校へ通っていた。
皆、それぞれ忙しくしていた。
そんな中、母は自転車に乗りたいと言い出した。
危ないからバスで通えばよいと言うと、バスは遠まわりになるし自転車のが早い。何よりパパと一緒に2人で会社に通いたいのだと言う。
幼い頃、父に支えながら私も自転車の練習をしたことを思い出す。
そして、自分のことで精一杯で両親の状況を知ろうともせず、2人に背中ばかり見せている自分に気付くのだった。


21の物語が収録されており、友人と結婚観について語る『結婚』も既婚者としては心に残る1編であった。
ヴァンテーヌに連載されたものをまとめているようで、読者層に合った20代で仕事を持つ女性の心に響く物語が多かった。
読者層に当たる年齢ではない私のような30代の人間でも感じるところがある1冊。


<新潮社 2000年>


光野 桃
実りを待つ季節 (文庫本)


光野 桃
実りを待つ季節 (単行本)

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二人の彼 / 群ようこ

テーマ:

futarikare 平凡な毎日に待つ想定外の展開、ありがちだけれど自分の上には落ちてきて欲しくないトラブル等を描く短編集。


『やりたい放題』の主人公はジュンコ。
普通のOLである。
或る日は母・マサヨは「好きな人がいるから離婚する!」と父に一方的に通告し家を出て行ってしまう。
かれこれ1年の付き合いになる好きな人がいるとかで、母は離婚を決めたようだった。
離婚届をポンと置き出て行った母の思惑通り、父は印を押して離婚が成立する。
憔悴した父と二人で暮らすジュンコ。
父も怒りや悲しみを日ごと変化させながら消化しているようだった。
或る日ジュンコは結婚することになり、連絡も途絶えていた母・マサヨに電話をし結婚式に参列してもらった。
父と母の事情を飲み込んでくれた夫一家に感謝するジュンコだった。
新婚生活半年後、突然母・マサヨが訪れ恋仲だった男が浮気をしたので出てきたから暫く置いてくれという。
なんて身勝手な!と怒るジュンコをたしなめる夫。
しょうがなくマサヨを泊めたのだったが、翌日マサヨは姿を消す。
マサヨが次に訪れたのは、懐かしいあの人のところと知り、ジュンコは放心する。


短編でクスッとさせてくれるのはやっぱり群ようこかもしれない。
日常生活をテーマにし、その中で見つけるドジな行為、イライラする発言などをうまくまとめて読ませる。
そういうことってあるよね、と思わされる。
真面目に相手をするのが馬鹿みたいだと思っても、つい一生懸命になってしまう。
そして案の定バカをみる。
そんな展開が楽しくて、疲れた心に笑いをもたらしてくれた。
日常生活に有り得そうな物語ばかりで違和感なくさっくり読めて、頭を使わないでラクに読書が出来るのも著者の作品の利点だ。
小難しいことは抜きにして、お気軽に楽しい物語を求める方におすすめの1冊。
何かを得ようと思うと、拍子抜けで楽しめなくなるのでご注意を。


<角川文庫 2003年>


群 ようこ
二人の彼 (文庫本)


群 ようこ
二人の彼 (単行本)

siwon BoiledEggsOnline で連載されているエッセイをまとめたもの。
作家・三浦しをんのオタクでハードな日常をのぞける。


『ぶらりにっぽん大阪の旅』は著者が大阪までふらりと行った時のこと。
本人はふらりのつもりは無く、大好きなバンドのライブを見る為に意気揚々と(?)行ったのだが、はたから見ればふらりと行ったようにしか見えない軽装だったらしい。
その気軽さ、表題の通りの「ぶらり」感覚は大事だと思う私は至極共感した。

好きなアーティストが居ておっかけ行為をする、旅先でも大好きな漫画を探して古本屋を巡る、お金に困りPHSが止まるなど著者の作品からは感じられない「素」の感じがたまらなくおかしい。
もちろん文才は充分な作家なので日記のようなエッセイでも笑えるツボや読ませる箇所をきちんとこしらえている。
飽くことなく最後まで読めてしまうのは言うまでもない。
久々にエッセイを一気に読んだが、自分のプライベートと合致する箇所や年齢が近いことで親近感を覚え、著者のファンになりそうだ。
楽しくって日記のような感覚で読めるエッセイを探している方におすすめの1冊。


<新潮社 2002年>


三浦 しをん
しをんのしおり (文庫本)


三浦 しをん
しをんのしおり (単行本)

inochi 誰と出会うか、どんな人と関わっていくかは命の器次第----
新聞等で連載してきたエッセイやコラムを集めた自伝的エッセイ集の新装版。


『命の器』は、著者が大人になってやっと気付いた人間界の法則について書かれている。
伸びる人は伸びる人とと付き合い、自分がどんな人と知り合っていくかはその人の器次第であり、類は友を呼ぶという諺以上にリアリティのあるものなのだと記されている。
前に進んでいく人はどんなに仲の良い人間でも落ちていくような人とは自然と疎遠になっていくもの。
企むのでもなく、自然とそうなる不思議について語っている。
繋がり、離れを繰り返し自分の器に合った人と繋がっていくのだ。
そして、逆に自分が相手の器にそぐわない場合は落とされていくものなのだ。
なんて生々しく恐ろしく悲しいことだろう。
けれどそれは事実で、思い当たることは過去を振り返れば沢山あるのだ。
たった3ページのエッセイに私は人生の深さを感じた。
人が人と知り合い、人と繋がり、永遠ではない付き合いもあれば永久に続くこともある。
誰かと距離を置き、置かれ、人は生きていく。
当然のこと、当たり前のこと。
それが、物凄く心に染みるように書かれている。
私の人生のバイブルになった。
このエッセイの最後には「どんな人と出会うかは、その人の命の器次第なのだ」とある。
それで締め括られている。
私の器は、いかほどなんだろうか?

このエッセイ以外にも、人として頭に無ければならないこと。
忘れてはいけないこと。
知っていなければならないことがさり気ないエピソードに紛れて記されている。
これまで、これからの自分の人としての在り方を考えるとき、この文章を読んでいてよかったって思える日が来るような気がする。
『父がくれたもの』、『十冊の文庫本』、『貧しい口元』など短いページの中で得られるものがある素晴らしいエッセイが詰まっているのが本書だと思う。
『潮音風声』、『アラマサヒト氏からの電報』も心に残っている。
ショートショートと言える短さのエッセイなので読みやすい。

通勤や眠る前の数ページで自分と向き合えるのは悪くない。
おすすめの1冊。



<講談社文庫 2005年>


宮本 輝
命の器

宮本輝
命の器


宮本 輝
命の器

青空 / 桃谷方子

テーマ:

aozora 北海道出身の作家で、「百合祭」で北海道新聞文学賞を受賞している。
そんな著者が北海道を舞台に、女子高生と老人の交流を描いた書下ろし長編作品。


主人公・高倉美有は16歳、高校2年生。
放課後は友達とつるむことよりも、図書館で好きな本を借りて読むことが好きである。
1つ年上の祐一というボーイフレンドがおり、時々バイクの後ろに乗せてもらって見る青い空を見るのを楽しんでいる。
いつものように学校の図書館で本を借り出し、中島公園で読もうと思っていた或る日、公園の東屋で老人に声をかけられる。
老人は岩尾伊佐治と名乗る。
74歳で画家だという。
他愛も無い会話を交わし、また会う約束をしてしまう美有。
老人は苦手だと思っていたはずなのにと戸惑うものの、伊佐治の個性に少しずつ惹かれていく。
伊佐治のアトリエへ通うデート生活が始まる。
週に2度ほど訪れては、ブルーフィルムを見せてくれたり手作りのタンシチューなどをごちそうしてくれ、知らない世界を教えてくれる伊佐治に少しずつ打ち解ける美有。
友人の行方不明、それに伴い親しくなった同級生、祐一との関係など、伊佐治と知り合ってから美有に少しずつ変化が生じていく。
伊佐治を異性としてなのか、老人としてなのか、好きだと思い始め伊佐治との時間によろこびを見つけられるようになってきた時、伊佐治は死んでしまう。
いつもと同じ放課後が戻ってきたけれど、美有は自分の中で何かが変わったことを感じる。

高校生が主人公の物語を読むのはこの数年苦痛で、本書も避けていたところがあったが、案ずるよりうむが易しとはよく言ったもので思いのほか楽しめてしまった。
女子高生と老人の交流など、実際には有り得ない設定ではある。
本作は、その辺りのもやもやは一切感じることなく、読み始めたら最後まで小説として楽しめるように作りこまれていた。
伊佐治という個性的な老人にしたことで嫌味もなく介護や老人への思いやりなんて側面とは関係のないところで老人を想う気持ちをうまく描いている。
ラストで老人が死を迎えるのはありきたりにも思えるが、それによって女子高生が得たもの、感じたことが良かったと思う。
次々ページが進み、1日で読めた。
なかなか面白い1冊。

<講談社 2000年>

桃谷 方子
青空

umaumanote コスメ雑誌「VOCE」で連載されていた食いしん坊コラムを1冊にまとめた本。
仕事をする東京、故郷の富山、ロケ先などで出会う美味しいモノをイラストと写真、喋り口調のままの文章で楽しめる。


『公開!ロケ弁日記』は、ドラマのロケ中に出てくる様々な仕出し弁当を写真付きで紹介するコラム。
ロケ弁には数軒の弁当屋からの色々な弁当が出てくるらしい。
弁当の定番とも言えるのり弁、生姜焼き弁当、とんかつ弁当はもちろん、魚屋さんのお弁当、洋風のサーモンバルセロナ風、アメリカンチキンなど多種多様。
しかし、毎回こんなに様々な弁当が用意されるとは限らないらしい。
また、弁当の毎日に飽きるとケータリングサービスになることもあるそうだ。
仕出し弁当を頼むタイミング、寒いロケ日に届く暖かい弁当についてなど、ロケという作業に参加する人にしかわからないエピソードが詰まっている。
著者のユーモアと観察眼が活きている楽しいコラムがたっぷりだ。


美味しいものは大好きである。
しかし、著者の故郷・富山料理や名物には疎いし、大人が行く大人の店というものにはまだまだ縁遠い。
そんな敷居の高い店もあれば、B級グルメもあるし、デパ地下の楽しみ方も載っている。
リーズナブルな定食屋もあり、東京に住んでいればこの本の店を実際に楽しむことも十分可能だ。
美味しいモノは主観である。
著者が薦めるものが全て美味しいとは限らないし、味覚に違いはあるのは当然。
でも、色々な人が美味しいと思うものを食べて自分の味覚の幅を広げるのは楽しい行為だ。
とっても参考になる1冊なので「食欲の秋」におすすめの1冊である。
ただ、2年前の本なので閉店している店もあるかもしれないのが残念。


<講談社 2003年>


室井 滋
うまうまノート

mo-so人間なら誰しも一度は妄想したことはあるはずだ。
いや、一度ということはない。
日々、何かに出会うにつけ少しは妄想的行為をするものだろう。
本書は女性ならではの妄想に着目し、様々な妄想ネタを面白おかしく綴っている傑作エッセイ。


まず、冒頭にある「ハイジのチーズ」の妄想からわかる!と膝を叩いてしまった。
「アルプスの少女ハイジ」に登場する木の枝に刺さったチーズ。
あれは憧れたし、食べてみたいと思った。
著者もそれを妄想した。
そのエピソードから、著者の妄想人生がスタートしたそうだ。

著者の脳裏で繰り広げられた数々の妄想が羅列されている。
カッコイイ兄・幼なじみがいたら。
実はもらわれ子だったら。
私の奪い合いをされたら。
本屋で運命の出会いがあったら。
花嫁姿の時にさらわれたら。
超能力があったら。
など、幼い頃に漫画を見たりして一度は妄想したであろう例ばかりで笑ってしまう。
少女マンガレベルの妄想で、少し不謹慎であるが、あー!と思ったのは下記のものだ。
不治の病になったら。
彼氏が事故死したら。
これは、少女マンガに結構あったのでなるほどと思った。
また、映画やアニメの主人公と自分を重ねる妄想なども披露されている。

「その網推す、私もした!」と共感してくれたら嬉しいと書いてあったが、冒頭から私など共感・共鳴しっぱなしである。
考えてみたら、私は相当な妄想家だったので、共鳴しない訳ないのだ。

久しぶりにクスクス笑ってしまうエッセイに出会った。
お風呂でリラックスして楽しい時間を過ごしたい時や、笑えるエッセイを求めている方におすすめの1冊。



<WAVE出版 2002年>


著者: 益田 ミリ

タイトル: オンナの妄想人生

murecata 使ってみたいなと思う商品が次々と登場するオールカラーのエッセイ。

写真と商品情報が細かく載っている。
朝・昼・夕・夜にカテゴライズされたその名のとおり、カタログ本。

定番「ル・クルーゼの鍋」でにる小豆のこと。
料理番組で観てから作り続けているという京都・菊乃井の主人オリジナルレシピの「和食の素」。
便秘体質改善の為にはじめた玄米から移行したという雑穀米の「充実雑穀」。
私も愛用しているポット型浄水器「ブリタ」。
顔や身体の乾燥予防に「ロクシタン ピュアシアバター」。
御礼状や近況報告用の葉書や便箋、ポチ袋は「嵩山堂はし本」。
ノンカフェインのたんぽぽ珈琲「タンポポ100」。
ページを進める度に心躍る品々と、こんなものがあったか!と思うアイテムたちが楽しく、著者のセンスや生活が伝わってくる。
私が欲しいと思ったのは「スチーム式アロマ加湿器」。エレクトロラックスジャパンのサイトをさっそく見てしまった。

こんな風に、この商品欲しいとか知りたいって思った時に、値段や販売元、URLなどが載っているので実用的だ。
私の生活スタイルに合うものばかりではなかったが、普段は買うこともないような商品に出会うことで視野が広がった感じがして、読んで損はなかった。

試行錯誤の末にようやく見つけたという品々が厳選されて載っている1冊。


角川書店 2004年>


著者: 群 ようこ
タイトル: 群ようこの良品カタログ