42歳の主人公が一気に襲いかかる老い・介護問題・夫への疑念等の試練に思い悩みながらも、大人の恋を手にしたい・愛されたいと足掻く姿を描く。
女性誌『Precious』に連載されたものをまとめた長編恋愛小説。

主人公・裕子は42歳。
有名校の教師である夫・康彦と、自分の母校である私立の女子大付属小学校へ通う娘・七実の3人家族である。
実父は既に他界し、実母は72歳で健康。兄一家と同じ敷地での同居をしている。
イタリア家具を扱うショップの店長として働き、余裕のある家庭の子が通う学校へ娘を通わせていることもあり、肌やネイルにも気をかけることが出来る幸せな生活を送っていた。
或る日、嫌々行った康彦の知人のパーティーで思いもがけない言葉を耳にする。
康彦の口から発せられた言葉に、裕子は愕然とする。
その言葉に囚われてしまった日から全てが狂い始めた。
実母が痴呆だと義姉が騒ぎ、介護問題が巻き起こる。
友人と軽い気持ちで行ったパーティーで知り合った男と深い関係に陥り、一人相撲だと気付き深く傷つく。
更に夫にとんでもない噂が立ち、一気に襲い掛かる様々な難問に裕子はどう対処すればよいのか悩み苦しむ。
そんな時、店の客としてやってきた誠実そうな男・新井と出会う。
店長と客としてのやり取りから、やがて友情、愛情へと進展し裕子は新井に支えられながら試練を乗り越えていく。

やがて訪れるだろう様々な問題を投げかけられたようで、一気に読んでしまった。
結婚し、仕事を持ち、幸せだと疑わなかった自分の生活が一転する瞬間が、いつかやってくるのかと恐ろしくなった。
大人の恋愛だけではなく、生々しい兄嫁との確執や実母の介護問題、夫との関係の崩壊が描かれ、ただの恋愛小説とは感じられなかった。
主人公の悩みは重いものが多く、帯を読んで感じていた印象とは全く違いヘビーなストーリーだったので引き込まれるように読めるが、読み終えた後に気分が落ちる。
未来への希望が若干削がれたというのか、歳を重ねることがとても怖くなってしまった。
ハッピーエンドでもなく、アンハッピーで終わるのでもなく、何とも表現し難い終わり方が悩ましい。
大人の女性向けの1冊。

<小学館 2006年>

林 真理子
秋の森の奇跡
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futarinori 2005年、第27回野間文芸新人賞受賞作品。
離婚した姉、夫に浮気され出て行かれた妹、そしてその夫の悲しい因果を描く連作小
説。


標題作『二人乗り』は、夫・道彦は浮気で女のところへ転がり込み、一人娘・菜々は祖母にあたる母親のところへ行ったきりで、知らないうちに一人暮らしになってしまった不治子が主人公である。
不治子は実の両親が営む小さな会社で事務員をしている。
東京に住む姉・嵐子は離婚後、会社役員というポジションに就き数ヶ月に一度の道彦の出張の際に宿泊させるというのが仕事で不治子とほぼ同じ給与を得ている気楽な姉だ。
そんな中、道彦は同じ市内のスナックのママ・ゆきえのところへ行ってしまった。
道彦は結婚後、両親の会社に就職しいずれは後を継ぐはずだった。
しかし、そんな思惑は外れ、居なくなってしまう。
そして娘も母の家に行ったきり、不治子を避けて母の家から学校へ通うようになった。
一人きりの家の中で、不治子はフラストレーションを溜めていく。
或る日出会った女優・葵と意気投合し、葵との同居生活がはじまる。
葵が前、不治子が後に乗り、よく二人乗りをして市内を巡った。
ずっと住んでいるこの街に、新しい何かを感じる不治子。
いつか終わるであろうその充実し楽しい暮らしの中で、不治子はイキイキしはじめる。
葵と暮らすとききつけた娘も戻ってきて、三人で楽しく過ごしていたのも束の間、葵は仕事があると帰っていく。
葵がよく口ずさんだ「ベサメ・ムーチョ」を思い出しながら、不治子は葵に負けないようペダルを漕ぐのだった。

三話収録されており、長女である嵐子・次女である不治子・その夫道彦の三名を主役とした連作。
恋をして離婚をした嵐子、恋をされて夫を失いつつある不治子、恋をして逃げ出したものの息苦しい毎日を送る道彦。
各自の心の描写、毎日の生活が淡々と描かれており、そこが面白くて頁が進む。
ふとした出会い、突然やってくる別れ、人が想像もしない出来事が人生にはあり、それらを受け入れなければ前には進めないのだ。
そして物語の最後にやってくる、三人の輪が繋がる出会い。
この物語は出会いを軸にし、恋心や日常をうまく描いていて楽しめた。
どんな出会いが三人を繋ぐのか、話してしまうと面白くないのでぜひ読んでみて欲しい。
非日常的な日常の物語を好む方におすすめの1冊。


<講談社 2005年>


平田 俊子
二人乗り

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jidokisho

第105回芥川賞受賞作品。
人を起こすという変わったバイトに就く青年と眠りについて描く不思議な作品。


主人公・ぼくは、聡という植物に詳しい青年と一緒にバイトをしている。
そのバイトというのは、大手通信社内にある仮眠室で眠る社員を希望の時刻に起こすという「起こし屋」という特殊なアルバイトだった。
夜勤シフトなのはもちろん、寝起きがいい者ばかりではないので、決して楽なバイトとは言えない。

しかし、ぼくはそれなりに楽しんで勤務していた。
同僚の聡の不思議な魅力にも惹かれていた。
ブラックリストに載せてやりたい程、起こす度に腹立たしい気持ちになる社員も複数居る。
しかし、聡はそんなムカツクやつさえ上手に起こしてしまうテクニックの持ち主だった。
仮眠室に居るのに眠れないままで過ごし、起こしに行くと起きている謎の社員も居る。
そんな不思議なバイトの中で、眠りについての不思議さや面白さや恐怖を複数体験していく。
或る日「自動起床装置」が導入されることになり、「起こし屋」廃業かと焦ったが、そうはならなかった。
「自動起床装置」をテスト導入することが決まった時、聡はそんなのはおかしいと怒っていた。
聡はぼくとは違う意味で、このバイトを続けているんだろうと感じた。
そんな中事件が起き、ぼくはバイトを辞めてしまう。


非常に不思議な作品。
昔放送局で働いていた時に、こういった仮眠室があり利用したことがある。
起こしてくれる人間は居ないので、各自携帯をバイブにしたりして目覚まし代わりに使ったり同僚に起こしに来てもらっていたことを思い出す。
特殊な環境を舞台に、人間の眠りへのこだわりや不思議さ、眠りの深さを垣間見れる作品。
ただ何を言いたいのかとか具体的にドンと胸に迫るものは感じられず、消化不良のまま読み終えた感じで正直なところ感想が書き難い。
親の本棚から適当に読んだのだが、当たりばかりではないようだ。


<文藝春秋文庫 1994年>


辺見 庸
自動起床装置


辺見 庸
自動起床装置


辺見 庸
自動起床装置

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bisyoku 大人の女の生き方に恋愛や仕事、様々な心模様を交えて描く中編集。


『幻の男』の主人公・治子は遠山由香里という名で爆発的な人気少女漫画を連載する売れっ子だ。
治子の彼は有名広告代理店に勤める育ちのいい男で、治子は彼と会う度にこの男と交際する自分に満足していた。
なんの欠点も無く優れた男だが、1つだけ問題があった。
それは妻子があることだった。
別居中でうまくいっていないという男の言葉を信じ、付き合いを深めていくが治子はどんどん欲が出てくる。
この男を手放したくないと指輪をねだることから二人の関係に亀裂が生じる。
写真週刊誌に二人のことが掲載され、治子は焦り他の雑誌へ独占告白を続け男は少しずつ離れていく。
治子の予測とは違う流れが一気に押し寄せ、治子は男との交際は本当にあったことなのか、彼と付き合っていたのかさえわからなくなる。


美食家の女社長が久々にときめいた男には隠れた本性があった「美食倶楽部」、地方出身の女が有名な高級住宅地に住めるということに目がくらみとんでもないお荷物を背負わされてしまう姿を描く「東京の女性」の3編が収録されている。
何かを得る為には何かを失う、人には隠れた本音が存在する。
そんなことを思い知らされる女達をうまく描いている。
この頃の著者の作品は本当に面白いものばかりだ。
毎度思うのはのは十年以上前の作品なのに時代を感じないということ。
今も昔も、女にはこういうところあるよなぁと思う。
昨今の作品に不満のある私は、著者が恋しくなったら暫く昔の文庫を引っ張り出して読む生活が続きそうだ。


<文芸春秋文庫 1989年>


林 真理子
美食倶楽部

kibidango 既婚・独身・不倫など様々なシチュエーションで恋愛に溺れたり憧れたり欲したりしている男女の機微を描いた短編集。


『ランチタイムをあなたと』の主人公・矢口は妻子がいるオヤジだ。
会社の近くの飲み屋で友人と飲んでいる時に知り合った広美と二年に渡り不倫関係を続けてきた。
一ヶ月前、突然「結婚するの」と告げられ困惑したものの、そろそろ潮時かもしれないという気持ちもあったので受け入れる。
広美は若く、洗練された女である。
まさか矢口が口説いてなびくとは思っていなかった。
一回の関係を持っただけで終わると思ったが、広美から連絡が入り度々会っているうちに交際がスタートし今に至っていた。
公認会計士の男との結婚を控え、最後にランチをしようと約束する二人。
約束の交差点で見た広美は、会社の制服を着たOLの広美だった。
矢口は勝手に広美を都会の遊んでいる娘と思っていたが、そうではないことが最後のランチでわかる。
そしてサヨナラを告げる時、矢口は広美の背中をみてたまらない気持ちになるのだった。


不倫する男女、浮気される妻、若い女に翻弄される男や年上の起業家に目がくらむ若い女など、著者が得意とするジャンルの物語が10編収録されている。
紹介した物語以外にも、上玉の結婚相手を見つけた若い女が結婚式の予約に訪れたホテルでの担当者は過去に不倫に講じていた時のフロントマンで様々な思いが走馬灯のように蘇り困惑する姿を描く『笑う男』など、大人の恋愛をテーマにした恋愛小説ばかりで楽しめる。
大手中古書店なら100円で買えると思うので、興味を持った方は読んでみて欲しい。
最近の新作は「・・・」なものが多いが、昔のこういった恋愛短編はワザがあり面白い。


新刊を読むのに飽きたり、忙しくて本屋へ行けてなかったりして、本棚を漁って手にしたのが本書だった。
10年前くらいに手にして読んだっきりだったが、今の年齢の方が物語の意味や面白さがわかる気がした。
昔の本を引っ張り出し読み返すのが楽しい行為だということを少し忘れていた。
次に読む本は決まっているのだが、今後また忘れた頃に本棚を漁ってみようと思った。


<祥伝社 1995年>


林 真理子
男と女のキビ団子


林 真理子
男と女のキビ団子

odepan 恵まれた暮らしをする専業主婦が、夫との暮らしに嫌気がさして昔の仲間と遊びはじめる。
トラブルやハプニング、ゲームの数々に酔いしれ、自分の結婚生活を悔やみ新しい世界へ足を伸ばしていく姿を描く長編小説。


主人公は裕福な環境で育った真織。
母親に背いて新しい自分とは全く違う世界で生きてきた男と結婚し、専業主婦として娘二人を育てひとだんらくしていた真織のもとへ届く昔の仲間たちからの手紙。
そこには、〝オデパンに参加して欲しい〟と記されていた。
〝オデパン〟、それは親の脛をかじると言う言葉を略したもの。
父の会社の傘下にあるグループ会社の子弟が集い自然と出来た遊ぶ会の名称だった。
〝オデパン〟の終身裁判長とされている真織にメンバーから相談が舞い込む。
日々の生活に退屈し、もやもやしていた真織の心には忘れようとしていた昔の思い出が一気に広がりはじめる。
真織は数十年ぶりに仲間たちのもとへ参じることにした。
心の通わない夫との退屈な暮らしを変えたい。
真織は再び〝オデパン〟に出入りすることで刺激を受け、新しい愛と冒険へと旅立っていく姿が描かれている。


普通の生活を送る者には想像もつかない集まりが〝オデパン〟だ。
最初から最後までリアリティに欠けると思ったのは、私が本当に庶民だからだろう。
「こんな世界もあるのかな」と思うものの、主人公を含め登場する人物の9割に共感・共鳴はできない。
主人公が夫へ不満を抱く理由も、私にとっては現実的ではない理由で納得がいかない。
鼻つまみ者の女への仕打ちなど面白いくだりもあるにはあるが、こんな設定でなくてもなぁと思うし。

読んで頂ければわかるが、遊ぶ会と表現されている〝オデパン〟の遊び方は尋常ではない。
高級ホテル、京都の豪邸・・・会場も遊び方もパーティーの内容もドレスコードも、そして〝オデパン〟の面々の暮らしっぷりも、全て想像しようにも出来ないくらいに無縁の世界なのだ。
著者が昔書いていたコバルト文庫を幼い頃に読んでいた時に思ったのと同じ感じなのだ。
これは自分とは関係無い世界の物語だ、と思うばかり。
読み続けても〝オデパン〟に染まれないままだった。
今流行りのセレブな世界なのかもしれないが、全く憧れは抱けなかった。
「有閑倶楽部」の大人版という感じがしないでもないが、あれは学生だったしマンガだから楽しかったんだなぁ、きっと。

続けて著者の近々の作品を読んだが暫く手にしないかもしれない。


<文藝春秋 2004年>


藤本 ひとみ
オデパン

raimugi 『ライ麦畑でつかまえて』の主人公・コールフィールド君が好きな著者。
小説の中でコールフィールド君が歩いたニューヨークを、コールフィールド君を思いながら歩き綴ったエッセイ+イラスト集。


行きの飛行機、JFKからのイエローキャブ、横断歩道での歩き方、文具店でのあれこれ、ホットドック売りのプエルトリカンのオヤジ、五番街からソーホーまで歩き回って感じたこと、思ったことを語りまくる。
時々コールフィールド君に話し掛けたり、思いにふけったりしながらの旅行記は面白い。
海外旅行に慣れていない著者の素直な視点がいいところを突いていて、エッセイがイキイキとしている。


『ニューヨークのホテル』でニューヨークのホテルの古さについて語っている。
それなりのグレードのホテルでも、広いが古く、決して豪華とは言いがたいのだ。
窓を開けたら隣のホテルの壁だったとか、そんなことはしょっちゅうである。
フロントの対応ものんびりとしていて、日本のホテルと比較したら苛々してしまうだけなのだが、どうしても比較してしまうものだ。
また、NYの水質の悪さも著者の書くとおり。
お金がありあまっていたら、マイケル・ジャクソンのようにエビアンを沸かしてお風呂に入るのがベストだろう。
私がNYへ旅行をした際に感じた様々なことを思い出させてくれた。


著者のイラストがいい味を出していて、エッセイに輝きを与える。
わかりやすいんだか、信じていいんだか、クスッと笑えるイラストでほのぼのしてくる。
NYにまた行きたいなぁと思わせてくれた1冊。
原田宗典ファン以外の人も楽しめると思う。
私もファンではないが、楽しめたので。


<朝日出版社 2000年>


原田 宗典
ハラダ発ライ麦畑経由ニューヨーク行

akkojidaimariko 80年代・バブルの時代に有り余る金と力を持つ男と知り合い、次々と虜にして伝説となった女「アッコ」。
自由奔放にバブルの東京を生きる女たちと、若くて美しい女に翻弄される男たちを描く。
伝説の女性「アッコ」の現在と当時を振り返る長編小説。
ちなみに、この「アッコ」という女性は実在する人物だそうだ。


主人公・厚子は40歳。
別居中の夫・五十嵐との間には俊太という息子が一人いる。
下馬の実家で両親と息子と暮らしながら、夜の街へもカムバックした厚子。
その厚子は、昔「アッコ」と呼ばれ週刊誌を賑わせた伝説の女だったのだ。
バブルの時代、名の通った短大に通いながら美しい友達と一緒に夜の街を練り歩いた。
男はいくらでも寄ってきたし、自分のお金なんて使わないで遊ぶこともできた。
美しい厚子の周りには惜しみなく金を遣える男が溢れていた。
有名大在学中の彼氏・高志が居ながら、先輩の母親・邦子の愛人だった地上げ王・早川といつのまにか愛人関係を結んでしまった厚子。
邦子の嫌がらせの一環で週刊誌に厚子と早川のことを売られてしまい、厚子は一躍時の人となる。
悪女、魔性の女などと好き勝手に書かれ、親からも見離された状態になってしまう。
厚子は早川と暮らし始めるが、周りの女たちのように海外へ行ってあれこれとブランド品を買ってもらう訳でもなく、都心の高級マンションを買い与えられる訳でもなく、付き合う前とは一転しお金を遣われない日々が続いていた。
自分だけが損をしていると感じはじめ、この生活は何かが違うと別離する。
昔付き合っていた高志と会ってみたり、遊び仲間だった女友達と過ごしたりするものの、世の中のバブル景気の波に乗れていないことに口惜しくなる。
もっと楽しみたい、もっと得をしたいと思う厚子の前に現れたのは西麻布の有名イタリアンレストランの御曹司・五十嵐だった。
妻も子もある五十嵐との交際に二の足を踏んでいたものの、早川とは違い羽振りのいい五十嵐に嵌ってしまい「1年の期限付きで付き合う」ことにする。
憧れていたファーストクラスで行く海外旅行、高級ホテルでの暮らしなどを経験するものの、物足りない気持ちになる厚子。
また高志と付き合いはじめるが五十嵐にバレてしまう。
そして、厚子は五十嵐の子を妊娠していることに気付き結婚することになる。
こっそり暮らしていたのに、妻の策略か世間にまた騒がれることとなる厚子。
それでも息子を産み、今に至っている。
女性作家からその当時の話を聞きたいと取材を受け、対応し回想する形で物語りは進んでいく。
厚子の幸せとは何なのか。
厚子は女としてどうやって生きていくのかを描く。


最初から最後まで著者らしい物語だった。
最後の締めくくり方も著者らしいなぁと思った。
『ロストワールド』でも描いていたが、バブルの時代を生き抜いた女性の現在というのが、著者は好きなのかもしれない。
『ロストワールド』とはまた違うタイプの女性が主人公で舞台も違っているが読み比べるのも楽しいだろう。
ただ、著者のストーリー展開など全てが物足りなく、もう少し深い作品を読みたいなというのが正直なところ。
以前の名作たちと比べて、浅い気がする。



<新潮社 2005年>


林 真理子
アッコちゃんの時代

胡桃の家 / 林真理子

テーマ:

kurumi 女性が主人公の物語4編が収録された短編集。
1986年に初版が出た作品。


『女ともだち』の主人公は淳子。
30歳の今は息子の私立幼稚園の入学に躍起になっている。
夫は出版社で勤務していた時に知り合った男で今は青山でレストランを経営する青年実業家だ。
都会に住み、都会に密着した暮らしをしている淳子。
そんな時、同級生の結婚式へ真似からた事から九州から大学入学に伴い上京した頃を思い出す。
同じく地方から上京した真弓とツルんでいた淳子はサークルの執拗な勧誘に誘われるままスキーサークルへ入部した。
そこに居たのは東京生まれの暁子だった。
器量もよく頭もよく気取らない彼女に嫉妬をしてしまう時期もあったが、一緒に居る時間が続くにつれ憧れが増し暁子を好きになる。
ところがその気持ちを踏みにじられるような事件が起き、淳子は暁子と疎遠になったまま大学を卒業する。
それから時は流れ、30歳になり暁子に再会する。
夫の転勤の為に仙台に住んでいるという暁子に若干の優越感を覚える淳子。
そんな穏やかな気持ちのまま、友人の結婚式も終わった或る日。
暁子の息子が東京の一流私立幼稚園へ入学したことを聞く。
仙台に居る暁子がなぜ?
淳子の疑問に返された答えは、淳子がどう足掻いても手に入るものではなかった。
笑いが止まらない、情けない、せつない、複雑な心理の淳子だった。


他にも幼い槙子の目から見た両親・祖母・叔母の姿を描く『玉呑み人形』、その槙子が大人になり年老いた母親や親類とのやりとりを通して様々なことに気付く様を描く『胡桃の家』、煙草を愛する女の恋愛模様を描く『シガレット・ライフ』が収録されている。
女が主人公で、尚且つ男性にはわかりにくい微妙な女の心理を描く作品。
随分昔の作品だが、時代を気にせず読める。
女同士の戦いや嫉妬心などエグい部分を描く作品を読みたくて本棚から引っ張り出した。
正解だった。
やっぱり林真理子だ。
その辺りの心理を描かせたら右に出るものはいないのではないだろうか?
満足の1冊だった。


<新潮文庫 1989年>


林 真理子
胡桃の家

林 真理子
胡桃の家 シガレット・ライフ

いい女 / 藤本ひとみ

テーマ:

iionna 良妻賢母を貫いて、気付いたら50代目前。
夫と子供の為に日々自分の時間を費やし、家庭を守り、何もかもを優先している主婦が或る日気付く虚しさ。
自分は何のために生きているのだろう。
どうしてこんなに乾いているのだろう。
反旗を翻し自分の為に生きようと試みる女の変化と歩みを描く長編作品。


主人公・詩織はサラリーマンの夫と2人の娘を抱えている。
家事の合間に得意なフランス語の翻訳を手がけている。
受験を控えた娘二人への気遣い、平日は遅くまで仕事をし週末は趣味のゴルフばかりの夫との4人暮らしだ。
30年ぶりに開かれた、フランス滞在時の学校の同窓会に夫や子供に気遣いながら参加した。
化粧直しに入った会場のパウダールームで謎の女性・蜜子に口紅を直してもらったことから詩織の人生の変化が始まる。
久々に会ったのだからとはしゃぐ同級生を横目に、詩織は子供の夕食の準備の為、そそくさと家路に着く。
メイクもファッションもないがしろにし、夫と子供のために捧げた主婦としての人生に疑問を抱き始める。
蜜子の誘いに乗って、蜜子が経営するエステサロンへ通い始める詩織。
自分の為にお金と時間を費やすことに後ろめたさを感じながらも、少しずつ女として生きたいと思いはじめる。
同級生・早匂からの誘惑、編集者・本多との出会い、夫の浮気、子供の反抗的な態度、母親からのプレッシャーなど全てが詩織を変化させていく。
母親として、妻として、精一杯頑張ってきたこれまでの人生をリセットし、一人の女として生きたい、綺麗になりたい、美しくありたいと思う詩織。
翻訳に真剣に取り組み、蜜子から以来される通訳もこなし自分で稼ぐことに取り組みはじめる。
更年期もスタートし、女として生きるには最後のチャンスだと思う詩織の著しい変化に対応できない娘たち。
その変化に気付かず、家族を蔑ろにして自分の道を歩く夫。
その中で詩織は、はじめて自分だけの人生というものを考え向き合いはじめる。


世の専業主婦が皆このようなことを考えている訳ではないだろう。
柔軟に生活を謳歌している主婦も多いだろうし、良妻賢母も結構だ。
しかし、自分の人生を振り返るターニングポイントに立ってしまったと気付いた時が問題だ。
「今の人生が最高だ、後悔は無い、このまま前を向いていたい」と言い切れれば何もトラブルは無いだろう。
しかし、「こんな生き方でいいのか、私にはもっと何か可能性があるんじゃないだろうか」と疑問を抱き、新しい道を開くことが出来てしまうタイプなら大きな変化が訪れ何かが崩れ、また築かれていくのだろう。


小説としては面白かったし、専業主婦のわびしさなどもリアルだったが、女として生きることを選ぶからといって様々なことにクビを突っ込み軌道修正していく様は理解し難かった。
30代以上の既婚者ならば、エンターテイメントとして楽しめる1冊ではないだろうか。


また、コバルト文庫でしか馴染みが無かった著者に新しい一面を発見できよかった。


<中央公論新社 2005年>


藤本 ひとみ
いい女