中央線沿線に住む女が「何か」を待っている。
私も同じ沿線に住んでいるが、確かに「何か」を待っている。
子供、結婚、目標、時間…待つものは様々だが、うまくまとめている著者久々の読みごたえのある短編集。

1作目の「コドモマチ」は、妊娠を待つ女が主人公である。
主人公・ナミは妊娠したいが為に広告代理店を退職し、基礎体温をつけ排卵日にはセックスをする日々を過ごしている。
きっかけは姉の妊娠だった。
ひとつ違いで仲良しの姉が妊娠し、今妊娠したら同じ学年の子供が持てるねと盛り上がり、それもいいなとナミは思った。
夫の毅も協力的で、子作りは毎月行われていた。
しかし姉は流産した。
それでもまだ、ナミは子作りを続けていた。
そんな或る日、毅の浮気に気付く。
その女の所在を知るのは簡単なことだった。無防備な夫の携帯を見て、ナミは浮気相手の平田庭子の家や勤め先を知る。
そして、自宅のある阿佐ヶ谷から電車に乗って、庭子の住む西荻窪に通い、庭子の勤務先を覗いてから喫茶店でお茶を飲み、庭子が仕事を終えるのをつけて何を買い物しているのか等をチェックする日々を過ごしていた。
偶然ぶつかってしまった平田庭子との会話で、ナミは何か待っているものがやってきた気がした。

正直、上記の作品においても他の作品においても同じ感想を抱く人は少ないかもしれない。
待っているものが何か、待っているものがやってくるか、待っているものは遠ざかるのか、消えるのか…
とにかく面白く不思議な物語と、独自の雰囲気は保たれていて、更にパワーアップした著者を感じることが出来る気がする1冊。

<文藝春秋 2006年>


角田 光代
ドラママチ
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直木賞作家の著者の7つの物語が盛り込まれた短編集。


『愛ランド』は40代後半の同期の女性2人と、ひと回り離れた後輩1人の定期旅行を舞台にした物語である。

佳枝が鶴子を旅行に誘ったのは2年前だった。
大して親しくもなかったが、ちょっとした出来事から会話を交わすようになり旅に誘われたのだ。
最初は面食らったものの、同期も減ったことだしと軽い出来心から旅行を承諾した。
そこへ佳枝が親しくしている後輩・菜穂子が加わったのだ。
今年の旅行先は上海だった。
上海では菜穂子が予約しておいてくれたエステへ佳枝と鶴子が向かった。
聞いていたのとは全く違う、想像もつかない施しを受けた二人は驚く。
そのことを夕食の席で菜穂子に問い詰め、そこから端を発し告白大会がスタートする。
鶴子が告白した、ある島での出来事に面食らう二人。
まさか嘘だろうと言う二人に、真実の話だと真顔で答える鶴子。
「来年の旅行はその島にしないか」という鶴子の提案に、慄きながらも乗る二人なのだった。

女のエグさや深さを描かせたらピカイチだと思っている作家の1人の著者だが、本作ではその才能が秀でていた。
表題作『アンボス・ムンドス』も素晴らしい作品だった。
実際に有り得そうで、絶対無いだろうというギリギリのラインを辿る物語ばかりで頁がどんどん進む。
久しぶりの読書だったが刺激的な1冊だった。


<文藝春秋 2005年> 




桐野 夏生
アンボス・ムンドス

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県庁の星 / 桂望実

テーマ:
根っからの役人気質の主人公が職員人事交流研修という名目で売上の伸びないスーパーへ赴任し、そこで役所と民間の差を知り変わっていく様子をアップテンポに描く、映画化もされた作品。

主人公・野村聡はY県県庁の産業振興課の職員であった。
が、1年間スーパーへ出向になったのだ。
「人事交流研修」はマスコミでもちょっとした話題になった研修で、2万9千人の職員の中から6名が選ばれ、各民間企業へ赴くことになったのだ。
聡の配属になったスーパーは酷かった。
パートの二宮女史が店内を仕切っているに等しく、店長や副店長は何をしているのかよくわからない。
一番最初に配属された寝具売り場の同僚に当たる渡辺は時々エスケープしてしまい、聡はどうしたらいいのか、右も左もわからず過ごす。
スーパーの経営方針、衛生環境に疑問を抱いた聡はお役所仕事的なテキパキさで書類やマニュアルを作成し上層部に配布するものの、反応は皆無であった。
そんな日々が続いた或る日、店長がトラブルに巻き込まれ退職、副店長が店長代理として店を切り盛りすることになる。
めちゃくちゃな人事異動で聡は惣菜売り場へと飛ばされる。
やる気を出し、外人の従業員たちと新しいメニュー作り等をはじめるがなかなか軌道にのらない。
そんなドタババが続く中、抜き打ちで消防署と保健所の検査があり、引っかかる。
聡の役人パワーとみんなとの一致団結でなんとか乗り切れた。
少しずつ店がまとまり、聡の気持ちも店の人間に近くなったとき、研修期間の終わりが見えてきたのだった。

痛快で、爽快なのは主人公の聡ではなく、裏の主人公・二宮女史だ。
彼女の仕事っぷりは惚れ惚れするものがある。
人から疎まれることもあるだろう、煙たがられることもあるだろう。
でもきちんと人を見て判断する力を持つ人間というのは強いのだと改めて感じた。
人を使うのは至難の技である。
それがうまければ、何をやってもうまくいく。
友情も愛情も、相手をちゃんと見て理解する力があればうまくいくものである。
この本を読んで、そういったストーリーとは関係の無い事を色々と考えてしまった。
一気に読める軽い熱血ビジネス小説で、途中若干の色恋沙汰を挟み読みやすくしているのもいいのではないかと思う。
評判程ではないと思ったが、エンターテイメント性はあるし、通勤等にはもってこいの頁数だ。
仕事にやる気を見出せない、何かワクワクする要素が含まれた本を読みたいという方にオススメ。

<小学館 2005年>


桂 望実
県庁の星


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刺繍 / 川本晶子

テーマ:
sisyu 39歳、バツイチの女には年下の恋人が居て、両親も健在して、穏やかな毎日を送っていた。
しかし或る日、母に痴呆の症状があらわれて、困惑していく。
介護、大人の女の自立、恋愛を描いた長編作品。


主人公・エリは39歳。
離婚後、一人で細々とイラストレーターの仕事をしながら暮らしている。
恋人の敏雄はとても若く、仕事を転々とする気ままな男だが、いざという時に頼りになり、エリの両親からも慕われていた。

一見、幸せで穏やかに見えた毎日に翳りが射しがのは、母の痴呆だった。
父に呼ばれて実家を訪れると、母は以前の面影も無く、確実に別の人に変化していたのだ。
返事もしない、食も細くなる・・・様々な変化に戸惑うエリ。
そして、黙々と介護をする父に胸を打たれる。
色々考えて、エリは両親との同居を決め、敏雄と会えない日々が続く。
しかし、合間合間で敏雄の助けを得ていくうちに、エリの父が「敏雄くんも一緒に住んだらどうだろう」と提案する。
母の介護の手伝いとして、報酬も払うという。
困惑するエリに、歓迎しあっさりと引っ越してくる敏雄。
不思議な同居生活と、母の病。
日々は重いこともあれば、明るく穏やかなこともあった。
痴呆の母はどんどん小さくなり、入院することとなる。
母が或る日刺繍を始めた。
うまく出来る訳はないが、針を手に布に糸を通す母を見て、エリも刺繍をはじめる。
母と過ごした幼い頃の日々を思いながら、大きな布に描いた様々な花に糸を通し続ける。
母との時間を大切にする3人の様子が描かれる。


介護は、今後の課題である。
私も他人事ではない。
自分が身体を壊している場合ではなく、健在する親がいつどうなるのか、エリのようになることもあるのだと心に迫る内容だった。
しかし決して暗く重い物語ではなく、痴呆の親がいても明るく楽しく、どうやったら母を楽しませることが出来るのか、みんな楽しく暮らせるのかをメインに描いているので気が重くなって沈んでいくことはない。
時々、介護が必要な老人を抱える家族のジレンマや苛立ちもきちんと描かれていてリアルだ。
普通の恋愛小説ではないが、合間合間に主人公の恋愛も含まれ、現代の40代女性の中には同じ様な気持ちを抱いていたり、同じ様な経験をしている人もいるのではないだろうか。
男女に関わらず、両親の介護に不安を抱く人、将来を思う人におすすめの1冊。


筑摩書房 2005年


川本 晶子

刺繍

pasukaru 第14回朝日新人文学賞受賞作。
10歳年上の恋人、再婚した明るい母、はきはきした親友に囲まれ、穏やかに暮らす女性の優しくてせつなくて人間らしい恋愛を描く。


主人公・皓子は24歳。
大学の研究室で助手をしていたが、担当教授がアメリカに1年赴任してしまいその間は何もせず祖父の残してくれた家でひとり暮らしをしている。
1年後に教授が戻ってきたら、また研究室に戻る。
それだけが決まっている毎日だった。
父は亡くなり、母は再婚しており、皓子はきままな毎日を過ごしていた。
そんな皓子の恋人・藤沢は同じ大学で虫の研究をしている34歳。
優しくて穏やかで真面目な人で、毎日同じ時間に皓子の家を訪れ一緒に食事をしたりおしゃべりを楽しみ、同じ時間に帰っていく。
お互い「好き」だと確認したことはないものの、毎日二人で過ごしていた。
穏やかでこのまま幸せが続けばいいと思っていた或る日、藤沢の知人だと言う河村が尋ねてくる。
河村という女性から聞いた話は、皓子の心に沢山の棘を残した。
皓子は悩みバランスを失いかけるが、親友の香苗に助けられなんとか自分を保っている。
そして香苗も辛い恋を育んでいた。
藤沢との関係は良好だったが、皓子の心には大きな影が残されたままだった。
そして、皓子は身体の変化に気付き藤沢との関係を考えなければならない時期が来ていることを悟る。
皓子の気持ちと藤沢の気持ちは同じ方向を向くのだろうか。


各章にいくつか心に響く文章がある。
152ページの後半の皓子と香苗の会話は特に好きだ。
せつない恋心をうまく言い表していると思う。

やわらかく、優しい雰囲気が最初から最後まで漂っていて心地いい。
せつなさも、寂しさも心地よくて読んでいてストレスは全くない。
フランスの数学者・パスカルの言葉を軸に主人公の恋愛を描く純粋な恋愛小説である。
せつない女心を読みたい方におすすめの1冊。


<朝日新聞社 2003年>


駒井 れん
パスカルの恋

kenja フリーター女性の日常に起こる小さな事件やミステリーを描く、連作短編集。


主人公・七瀬久里子は21歳のフリーターである。
両親とひきこもりがちな浪人生の弟と暮らしている。
専門学校卒業後、希望するファッション業界の仕事に就けなかったので近所のファミレス「ロンド」でアルバイトをしている。
週に4~5日ほぼフルタイムで働くうちに気付いた、常連の老人・国枝の存在がキーである。
国枝はほとんど毎日同じ席でコーヒー一杯で2~3時間座っている。
新聞を読んだりしているが、その新聞が3ヶ月前の物だったりして非常に謎の人物である。
ひょんなことから公園のベンチで過ごす国枝に遭遇し、言葉を交わしたことから二人は友達のような関係になっていく。
久里子が飼い始めた犬に起こった事件、ロンドで起きた事件など国枝が助けてくれた。
久里子はいつしか国枝を信頼し、頼れる老人だと思うようになった。
会話を交わす頻度が増えても、国枝が謎の存在であることは変らなかった。
ヘルパーのおばさんと会話する時、ロンドに居る時、久里子と話す時、全ての国枝が同じ顔をした違う人のようなのだ。
そんな中、ロンドの常連客でロンドの隣に住む小学生が誘拐される事件が起こる。
ロンドにも警察が聞き込みにやってきた。
久里子たちアルバイトも知っていることを話したが、その後なんとその小学生と国枝が歩いている姿が目撃されたことがわかる。
あの国枝が誘拐などするだろうかと戸惑う久里子。
捜査の進展とともに、意外な結末と国枝の素性が明らかになる。
そして、様々な事件を通し久里子は少し大人になっていく。


最初はフリーター主人公のありきたりなミステリーかと思って読んでいたが、国枝との交流が深まっていくごとに面白さが増し、最終話での結末もなかなかよくて偶然読んだ本にしてはかなり楽しめた。
本格ミステリーでもなく、本格推理ものでもなく、気軽に読めるタイプの小説なのもいい。主人公の気持ちと同じような感じで物語りにはまってしまい、国枝に対しての信頼や様々な疑問を体感した感じで結末に至るまでの数十ページはドキドキした。
脇役の弟やバイト仲間、憧れの青年などもいいスパイスとなり物語を盛り上げた。
結末が見えない小説の面白さを再認識させてくれた。
著者の作品は初めてだったが、好感を持った。
軽いミステリーがお好みの方におすすめの1冊。


<文藝春秋 2005年>


近藤 史恵
賢者はベンチで思索する

konohongasekainisonzai 人間と本をめぐる不思議な絆や縁を描く物語が9つ入った、著者最新の短編集。


『彼と私の本棚』の主人公・私は数年同棲した彼・ハナケンと別れることになった。
彼に好きな人が出来たのだ。
私が一緒に住んだアパートを出て、先に引っ越すことにした。
ハナケンには別れ話の日からウィークリーマンションに泊まってもらい、会うことを避けた。
その間、私は荷物を片付ける。
CDや電化製品、敷金の処理などさくさく片付いたのに、本棚の整理だけは時間がかかった。
二人はなぜか同じ様な本を買っていて、初めて本棚を見て驚いたほどだった。
だから自分の本かハナケンの本か迷ったり、本にまつわるあれこれを思い出したりして、なかなかサックリと片付けることが出来なかった。
けれど時は流れ、引越しの日になった。
引越しまでの間、あんなに悲しい別れの過程を踏んだにも関わらず普通に暮らしていることが衝撃だった。
友達と会ったり至極普通に暮らしていた。
そして引越しをし、晴れ晴れとした気持ちで荷解きをして見つけてしまったフィッツジェラルドの短編集を見た途端にハナケンとの思い出が一気に溢れてきた。
止めることはできなかった。
そこで私は気付くのだ。
好きな人と別れるって、こういうことなのだと。
本棚を共有するようなことなんだと。


その他、入院中の祖母から本を探せと言われ必死になった思い出を描く『さがしもの』、作家になり一番最初に思い出したのは幼い頃に通っていた故郷にある書店だった『ミツザワ書店』など魅力的な短編が収録されている。

本好きならば、共感できてしまう物語ばかりでずるいとさえ思うほどだった。
どの物語も、自分自身は経験したことがないが、こんなことがあればステキだなと思わせるのだ。
本と普段から接していると思っているから、本と何か強い繋がりや縁が欲しいと思うのは当然ではないだろうか。
そんな気持ちを埋めてくれるような物語ばかりで、読後感がたまらなく爽やか。
本っていいなと思わせてくれる。
最後のあとがきがそれまでの物語よりも更に素晴らしいと思った。
著者のこういうところが好きだ、と思えた。
私的には大ヒットの作品だった。


<メディアファクトリー 2005年>


角田 光代
この本が、世界に存在することに

kimiasu 第十八回山本周五郎賞を受賞した作品。
リストラを企業の人事部から以来され実施する会社に勤める男が出会う、様々なリストラ候補生たち。
様々な人間とのドラマが生まれるその酷な仕事と恋愛を織り交ぜた娯楽小説。


主人公・真介は33歳。

日本ヒューマンリアクトという会社の会社員だ。
企業の人員削減を手伝っていると言えば柔らかく聞こえるが、要はクビ切り候補の社員と面談し、早期退職を促すのが仕事だ。
本当に会社に不利益を及ぼしているオッサンもいれば、役立っているものの他部署とのバランスの為にクビ候補になる女もいるし、会社が統合されたことで負け組になってしまった人もいる。
様々な企業へ行き面接を行う日々。
その中で気の強いタイプの女・陽子と出会う。
かなり強引に攻めて、陽子と付き合い始めた。
気の合う彼女が出来ようと、毎日仕事がある。
恋に溺れる暇はない。
時には残酷に、時には紳士的に、面接をこなしていく。
偶然出会った同級生との面談など、神経をすり減らす業務も少なくない。
しかし、こんな仕事にやりがいを見出している自分もいる。
そんな真介の日常に恋やビジネスを絡めて描く。


想像したよりも恋愛寄りだったり、性描写が多かったりしてちょっと拍子抜けした部分もあるが、トータルしたら合格点。
面白い小説だった。
このご時世、よく耳にするもののその実状を知らない「リストラ」のリアルな世界を垣間見ることが出来るし、働く者への問いかけのようなくだりもある。
耳が痛い部分もあるし、自分に自信を持てる部分もあるし、衿を正して明日から真面目に仕事に取り組もうと思わせてくれる部分もある。
ビジネス7割、恋愛3割。
真介が主人公だが、恋人の陽子やリストラ対象者たちの側からの章もあり飽きることなく読むことができる。
これから就職する人、サラリーマン、OL、転職を考える人、仕事にやりがいを見出せない人などが読むと現状を改めて見直し何か答えが見えてくるかもしれない1冊。


<新潮社 2005年>


垣根 涼介
君たちに明日はない

korekarahaarukunoda 著者の身辺で起こった様々なことやその時の気持ちを綴ったエッセイ。


普段からあまりエッセイを読むタイプではない私だが、図書館で目に入ったので借りてみた。
昨今の角田光代ブームで図書館の「か」の棚に角田光代があることは少ない。
図書館であっさり借りることが出来るならば、エッセイでも読んでみようと思ったのだ。


『人を喜ばせるプロフェッショナル』は著者の幼少時代の経験を綴ったエッセイだ。
母親の妹と同居していた時の出来事である。
その叔母は幼い著者がいつも「かっこいい」と思う存在だった。
クリスマスのプレゼントの渡し方も普通ではなく、素敵なサプライズを用意してくれていたらしい。
ウイットに飛んだ様々な出来事が思い出として残っているそうだ。
早く亡くなってしまったその叔母を想う著者の気持ちがせつなかった。


開いて直ぐにあるカラー写真は見慣れた土地のもので、著者への親近感が沸く。
昔住んでいた辺りに住んでいるようなのだ。
そんなこともあって楽しめた。
エッセイなので2~4ページで1つのエッセイといった構成なので気軽に読めるのもいいところ。
日常をこんなに面白く読みやすく書けるなんて、やっぱり今後も期待できる作家だと思った。
肩のちからを抜いてのんびり読める1冊。


<理論社 2003年>


角田 光代
これからはあるくのだ (文庫本)


角田 光代
これからはあるくのだ (単行本)

nazeketukon 晩婚、未婚は昨今話題になりまくっている。
どうして結婚しないのか、どうして結婚できないのか、理由は明確なのか。
どんな新聞記事を見ても、テレビでの特集などを見てもよくわからなかった。
私自身は既婚だが、周囲は殆ど未婚である。
その疑問を、少し緩和してくれるルポタージュである。


未婚の親同士が集い、子供の写真を持参して見合いをするというのが話題になったことがあった。
未婚のまま年を重ねる子供を見かねて、親が集うのである。
集う親たちは焦っている。
様々な職種、年齢、経歴の子供を持つ親が集い会話をし、お互いの子供を紹介しあう。
話がまとまれば面会~見合い~の約束をする。
不思議な集いである。
親に世話をされて結婚するというのは昔からあることではあるが、それは見合い写真を持ってくるとか知人の息子さんを紹介されたとか、そういった話ではなかっただろうか?
今は違うのだ。
全く見ず知らずの親たちと会い、約束を取り付けるのである。
そこまでしないと結婚に至らないのだろうか?
その背景、どうしてその集いを開くことになったのかなど、主催者と参加者のインタビューは赤裸々だった。
そして、とても重いものだった。


また、地方に住む女性の未婚率が高いこと、高学歴の女性は結婚から遠のきがちであること、男女の結婚に対する意識があまりに違うことなども興味深かった。
男女の意識に相違があることは、自分の友達から話を聞いてもわかっていたが、ここまで違うとそれは噛み合わないなぁと思わずにいられなかった。
本書に書いてあることが全てではないし、100%信じられるとは言い切れないだろうが、周りに当てはまることが多過ぎるのだ。


結婚が全てではない。
結婚しなくても幸せは味わえるし、楽しい人生を送ることもできるはずなのだ。
しかし、一般論は違う。
なぜか結婚に拘り、結婚しなければダメだというような空気があるのだ。
そして、その一般論に振り回され困惑する未婚者が多いのも事実で、焦り迷い悩むのだ。
特に30代、40代は結婚を意識せずには居られないだろう。

負け犬や結婚難民などと言う言葉が新聞記事などで踊っているのを見る。
過剰だとも思うが、少子化が進んでいたりと現実問題、未婚者の増大というのは日本の将来に大きく影響するようで、その背景についても書かれている。
どうして結婚しない社会になっていったのか等にも触れており、わかりやすい。
読んだから何かが大きく解決し、動くということではない。
でも、未婚と現代社会の流れが大きく関係しているんだということがわかり納得できたのは大きな収穫だった。
面白く興味深く読むことが出来た。
未婚の子供を持つ親、結婚したいと思っていたり焦っていたりするのに本気で向き合えない人におすすめの1冊。

<すばる舎 2005年>


菊地 正憲
なぜ結婚できないのか 非婚・晩婚時代の家族論