風味絶佳 / 山田詠美

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fumizeka 作家生活20年目を迎えた著者の短篇集。


表題作『風味絶佳』の主人公はファンキーな祖母を持つ志郎。
高校卒業後、親の反対を押し切りガソリンスタンドで働きはじめ3年。
その時、猛反対をする親を説得してくれたのが、ファンキーな祖母・不二子である。
不二子は横田基地の近くで「Fuji」というバーを営み、志郎に「グランマ」と呼ばせる若さみなぎる老女だった。
不二子は森永ミルクキャラメルを「恋人」と呼び、愛している。
いつもバッグに入れており、何かあるごとに1粒口に含む。
そんな不二子はいつも若い男を乗せてカマロに乗って志郎のガソリンスタンドに給油に来る。
スタンド仲間からはカッコいいおばあちゃんだの、イケてるだとの言われる度に恥ずかしい思いをすることもあるが、そんな祖母に仕込まれ育ってきた志郎は祖母を嫌うことが出来ない。
スタンドでバイトする乃里子との恋など、気付けば祖母は志郎に関わっている。
そして、志郎もそれを望んでいるかのように、「Fuji」を訪れてしまう。
自分の知らない祖母を知る若い男、終わっていく恋。
それらを通して、志郎は一歩大人の男になっていく。


久しぶりに山田詠美の新刊を買った。
最近はエッセイなどが多かったように記憶している。
よって、手に取る機会が激減していた。
昔は出るもの出るもの読んでいたのに、と残念に思っていた或る日発売されたのが本書だった。
昔の山田詠美とは違う、新しい一面を見ることができる短篇集で予想とは違う物語ばかりだった。
でも、それが期待を裏切られたとかではなく、新作を期待出来る感じがしたのだ。
若い恋愛、弾けるような恋愛、そんな作品が多いイメージだったが、本作は違う。
大人のしっとりした想いや若者を主人公としても、もっと奥深い物語ばかりだった。
帯にあるとおり、著者としては新しい恋愛小説と言えるだろう。
ただ、肉体労働者にこだわった理由は全くわからないし、ちょっと退屈なくだりもあるので今までの山田詠美をイメージして買ってしまうと「・・・。」と思うかもしれない。


<文藝春秋 2005年>


山田 詠美
風味絶佳

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724dori 好きな作家の一人、吉田修一の作品で、珍しく女性が主人公となっている恋愛長編である。

主人公は20代で中小企業で勤める地味な女性・本田小百合。
港のある街に住み、その街を行ったこともないポルトガル・リスボンに例えて暮らしている。バス停の名前や通りの名前、公園などを「ジェロニモス修道院前」やら「7月24日通り」やらと心の中で呼んでいる変わった女性だ。
小百合には美しい弟・耕治がおり、彼に輝かしい人生を歩んで欲しいと望んでいる。
いつも美しい娘と交際し、特別な世界で生きて欲しいと思っている。
母は亡くなり、電気屋を営む父には海原さんという彼女らしき40代の女性が存在し、楽しそうに暮らしている。
小百合は高校時代に好きだった聡史を、今も忘れていない。心のどこかに聡史がありながら、会社と家を往復する毎日を送る。
高校の先輩の亜希子と結婚した会社の営業・安藤、友人の直子、高校時代に告白された真木、初めての男・山本、耕治の彼女めぐみ、同窓会で再会した聡史、書店で偶然知り合った画家。
小百合の穏やかな毎日にも、何かしら起きる。
そんな小百合の日々を淡々と描く吉田修一ワールドを満喫出来る作品。

地味で目立たない存在として生きてきた主人公がその殻を破り、人生初の冒険的恋愛を試みるまでの物語で、共鳴出来る点も複数あった。
普通に生きていても、事件やトラブルは起きるものだ。
自分が起こしたいと思わなくても、巻き込まれてしまうこともある。
小百合の毎日はまさにそんな日々なのだ。
リスボンに例えているあたり、ちょっと病んでいるのではないのかと思ったが、そうやって変化の無い日々を楽しむ小百合に最後には共感していた。
心を乱されることなく、さらりと読める1冊。

<新潮社 2004年>

 
著者: 吉田 修一
タイトル: 7月24日通り
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なんてインパクトのある題名だろう。
気にならないのがおかしい。

30年前、教師だった24歳の松子は或る日失踪する。
伯母である松子の死を父から聞かされ、初めて松子の存在を知る笙。笙は松子のアパートの後始末を頼まれる。死んでから知った伯母の存在。
興味本位から、笙は松子の人生を調べはじめる。
突然の失踪から最期までを追う笙。
どうして人生を転げ落ちていくように生きなければいけなかったのか?
松子が追い求めたものとは?
松子の人生とは一体なんだったのか?
純粋に、真っ直ぐ生きているように見える松子。一生懸命な松子。でも、それで残ったものはあるんだろうか?
笙はその凄まじい松子の人生を知れば知るほどその先を追いたくなり、更に調べ続ける。

松子の壮絶な人生、松子の毎日次々巻き起こる落とし穴のようなものに惹かれて、その先を知りたいと一気読みしてしまった1冊。
読み終えた後、疲労感があった。
でも、一気に読めるということは、面白いのだ。
人の人生をのぞき見しているような感覚がたまらなかったのかもしれない。
下世話だが、他人のトラブルや落ちぶれる様を垣間見たい気持ちというのは正直なところ私にはあり、その感覚で読み進められたから、一気に読めたのかもしれない。

体調の良い時、一気に読める本をお探しの方にお薦めする。
なぜ体調が良い時かというと、途中松子の壮絶な人生にぐったりしそうになる瞬間があるからだ。それを跳ね除け読み続ける気力と体力があれば、絶対に楽しめる本である。

果たして、松子は嫌われていたんだろうか?
〝嫌われ松子〟と謳う程に嫌われていたのだろうか?
確かに松子を疎む者もいたが、逆に松子を愛する人たちもいた。数は少ないが、松子を忘れず、松子のことを語ってくれる人がいた。語ったから愛しているとは限らないけれど。少なくとも松子はあっさり忘れられるような存在感の無い女性ではなかった。
松子は、嫌われていたんだろうか????
今もわからない。

<幻冬舎 2003年>

著者: 山田 宗樹
タイトル: 嫌われ松子の一生
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