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「小説すばる」に掲載された、全国の温泉地を舞台とした男女の物語を描く短編集。


『ためらいの湯』は、京都の祇園畑中での男女の秘め事である。

勇次は既婚者だが、半年ほどまえに偶然喫茶店で出くわした大学時代の同級生・和美と関係を持っている。

和美とはたまたま自宅が隣の駅同士だったこともあり、会いやすかったからか続いていると思っている。本当は駅など関係ないかもしれないが。

そんな和美も既婚ではあるがバリバリと化粧品関係の仕事をしている。

たまたま出張で京都へ行くのでその日程に当てはまる三連休の日程を合わせて一緒に行かないかと誘われ迷う勇次。

嘘をつく夫とつかれる妻、嘘をつく妻とつかれる夫。
頭を過ぎるそんな思いに勇次は戸惑うのだが1日だけ、京都へ同行することを承諾してしまう。

そういう時に限って、京都へ着いた途端に妻から電話が入る。

何の用もなく他愛も無い会話をやり過ごす勇次と妻。

電話を切り、和美が泊まる旅館に着くが、そこに和美はいなかった。


お互いがお互いの家庭を裏切りあっている者同士が、いつのまにか裏切り者な自分たちを裏切るのが怖くなっていたという物語なのであるが、終わり方が中途半端でその後勇次と和美がどうなったのか、勇次は妻とどうなったのか。

まったくわからない。

吉田修一的な文体でまとめられた5つの物語は、すべてはっきりとした答えは持たず、至極普通の生活で繰り広げられている恋愛を淡々と描いている。

前作よりさらりとしていて、物足りなさを感じるものの、読み終えて心が白紙の状態になった。

何かがリセットされた感じを得たのだ。

悩みがあったり、悶々としている方にはおすすめの1冊。


<集英社 2006年>


初恋温泉
吉田修一
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