「野生時代」に掲載されていた作品集で、不思議な女たちとそれにまつわる物語を11の短編を収録。

『最初の妻』は、中学生の頃の思い出を語った話である。
13歳の頃、特別可愛い訳でも無い、どちらかと言えば男子からより女子から人気のある同級生と、今で考えればデートのようなことをしたことがあった。
2人の持ち合わせたお金を合わせ、彼女が行きたいという隣の市まで電車に乗った。
中学生になったばかりで、隣の市まで女の子と出かけることは大冒険だった。
彼女が降りると言った駅は、なんてことのない寂れた街だった。
バスにのり、川沿いを歩き、オムライスを食べ、商店街を歩いた。
偶然見つけた不動産屋を前に、「もしも結婚したらどんな家に住むか」というどうでもいい話に白熱する2人。
それだけじゃ飽き足らず、歩きながら目に入った家に「ここはダメだ」「ここじゃないなぁ」と盛り上がる。
歩きながら話しつづけた時、彼女が1棟のアパートを指差し「ここは?」と聞いてきた。
何故か生々しく一緒に暮らすシーンが浮かんだことに焦り、僕は大きな声で「こんなところに住むなら死んだ方がいい」と言ってしまう。
彼女は一瞬悲しそうな顔をして、それから笑うのだった。
後日、彼女が転校してから何故あの時悲しそうな顔をしたか知った僕は心で「ちがうんだ」と叫ぶ。

他にも、どんな時も泣いている変わった女なのに究極の瞬間には泣かずにクールだった女を描く『泣かない女』、雨の日に居着いてしまった女の姿を描く『どしゃぶりの女』など、様々な女の姿を描く。
女性について、淡々と語る男性が主なのだが、その淡々としたクールさがたまらなく何か心に訴えかけてくる。
感じることは人それぞれだろうが、私は一話一話にせつなさや悲しさ、虚しさなどを感じ読み終えるまでに色々な気持ちを味わった。
あっという間の1冊だった。しかし、コレという物語が無かった。
心に色々な気持ちを感じさせたものの、読み終えて本を閉じた時「もう一度これが読みたいな」と思わせる物語が無かった。
味わい深い1冊だったし、作者の良さが出ている1冊だが、何か物足りなさを感じた。


<角川書店 2006年>

吉田 修一
女たちは二度遊ぶ
AD
42歳の主人公が一気に襲いかかる老い・介護問題・夫への疑念等の試練に思い悩みながらも、大人の恋を手にしたい・愛されたいと足掻く姿を描く。
女性誌『Precious』に連載されたものをまとめた長編恋愛小説。

主人公・裕子は42歳。
有名校の教師である夫・康彦と、自分の母校である私立の女子大付属小学校へ通う娘・七実の3人家族である。
実父は既に他界し、実母は72歳で健康。兄一家と同じ敷地での同居をしている。
イタリア家具を扱うショップの店長として働き、余裕のある家庭の子が通う学校へ娘を通わせていることもあり、肌やネイルにも気をかけることが出来る幸せな生活を送っていた。
或る日、嫌々行った康彦の知人のパーティーで思いもがけない言葉を耳にする。
康彦の口から発せられた言葉に、裕子は愕然とする。
その言葉に囚われてしまった日から全てが狂い始めた。
実母が痴呆だと義姉が騒ぎ、介護問題が巻き起こる。
友人と軽い気持ちで行ったパーティーで知り合った男と深い関係に陥り、一人相撲だと気付き深く傷つく。
更に夫にとんでもない噂が立ち、一気に襲い掛かる様々な難問に裕子はどう対処すればよいのか悩み苦しむ。
そんな時、店の客としてやってきた誠実そうな男・新井と出会う。
店長と客としてのやり取りから、やがて友情、愛情へと進展し裕子は新井に支えられながら試練を乗り越えていく。

やがて訪れるだろう様々な問題を投げかけられたようで、一気に読んでしまった。
結婚し、仕事を持ち、幸せだと疑わなかった自分の生活が一転する瞬間が、いつかやってくるのかと恐ろしくなった。
大人の恋愛だけではなく、生々しい兄嫁との確執や実母の介護問題、夫との関係の崩壊が描かれ、ただの恋愛小説とは感じられなかった。
主人公の悩みは重いものが多く、帯を読んで感じていた印象とは全く違いヘビーなストーリーだったので引き込まれるように読めるが、読み終えた後に気分が落ちる。
未来への希望が若干削がれたというのか、歳を重ねることがとても怖くなってしまった。
ハッピーエンドでもなく、アンハッピーで終わるのでもなく、何とも表現し難い終わり方が悩ましい。
大人の女性向けの1冊。

<小学館 2006年>

林 真理子
秋の森の奇跡
AD
フィンランドにひっそり佇む食堂を舞台にし、小林聡美らが出演。話題となっている映画『かもめ食堂』 の為に書き下ろしたという珍しい形での出版作品。

ヘルシンキの街に謎の食堂『かもめ食堂』が出現した。
街の人々は子供が営んでいると誤解しているが、経営者は38歳のサチエである。
サチエは早くに母を亡くしており、武術を教える父と二人暮しだった。
「日々修業」が口癖の父の言葉を守りながら厳格に生きてきた。
やがて料理に深く興味を抱くようになり、大学や料理学校へ通学しはじめる。
いつか自分の店を持てたらという淡い思いの下、勉強の為に食べ歩いてみてもなかなか思うような店には出会えない。
或る日、サチエは「日本でお店を開く必要なんかないんだ」と気付く。
そして、運良く資金を手にしヘルシンキで店を開いたのだ。
閑古鳥の泣く店の中を磨く毎日でも、サチエは幸せだった。
日本びいきのフィンランド人・トンミ君だけは毎日通ってきてくれるものの、珈琲のみである。
客足は全く伸びない『かもめ食堂』だったが、偶然の出会いでミドリ、マサコと出会い3人で店をやっていくことになる。
その過程をのんびりとした空気と独特のリズムで刻む。

ほのぼのとした挿絵、著者ならではのゆったりとした時間間隔での文章など本作では著者の長所が生かされている。
有り得ない設定だと言われてしまえば、そうなのだ。
無理がある部分もある。
でもそんなことは無視し、ただ物語りにハマってしまおう。
そうすればきっと楽しめる。
のんびりと、ゆっくりと、なんてことないヘルシンキでの日常に自分も一緒に溺れてしまおう。
読み終えた時にあたたかい気持ちになれるのが今の私には嬉しくてたまらなかった。
映画を見る予定は無いが、出演女優と物語がシンクロして心地よくなかなかイイ感じで楽しめた1冊。
決して恋愛小説ではないし、こんなジャンルですと断言できる本ではない。
ただ穏やかに、のんびりと時間が流れる物語の中で心地よく時間を過ごせる。そうとしか表現が出来ない。
春先の心地よい時期にのんびりと読書を楽しみたい方にはおすすめの1冊。

<幻冬舎 2006年>

群 ようこ
かもめ食堂
AD