moukiruwa 大病におかされた男と、その妻、愛人の物語。死に行く夫を複雑な心境で見守る姿と、ただ好きでたまらない愛人が男の変化に気付き戸惑う姿を交互に描く連作小説。

主人公は3人。
歳さんと呼ばれ不治の病におかされた男、銅版画家で不倫中のその妻、化粧品店で働きながら歳さんと交際する葉。
物語は、妻と葉の気持ちを交互に収録している。
妻は絵本の挿絵になる銅版画を作成する仕事をしており、仕事を通じて知り合った出版社の男・西口と不倫関係にある。
夫・歳への愛が消えたのかどうかはわからないが、西口との関係は保ちたいと思っている。
サプリメントなどを扱う化粧品のアンテナショップ店員の葉は、店で歳さんと知り合い交際しはじめた。不定期に来る連絡に応じ、会い、二人の時間を楽しんでいた。
歳はトランプ占いを生業とした不思議な男で、或る日不治の病におかされてしまう。
うまく成立していた夫婦と愛人という微妙な三角関係が崩れ始める。
顔を合わせることはない妻と愛人。
歳を介して感じあうしかないお互いの存在に苛立つ妻と、不安になる愛人。
西洋医学を信じず、なんとか治すと言って頑張る歳。
それに付き合いながら、どうしてこんな時だけ家に戻り自分にべっとりなのかと思う妻。その時愛人である女は何をしているんだと怒りを感じる。
愛人の方は、自分に連絡が無いのは最後は妻の元で過ごんだと宣言されたように落ち込む。他の男とデートしてみるものの、なかなか心は穏やかにならない。
3人の気持ちが交わることなく、物語は進み終わっていく。

途中、主人公の男の闘病記のように感じる部分もあったが、私はこの本は恋愛小説だと思う。
3人の微妙なバランス、もう壊れかかっているのに別れない夫婦という絆、好きで手放したくない愛人には自分の弱いところを見せたくないという心理。
大人にしかわからない、水面下の想いがひしめく1冊。著者のあとがきを読み、この物語が初めて完結し私の中で消化された。
著者の思い通りになってしまったことが悔しくもあり、嬉しくもあった。
病を通して人間の本質や本心が見え隠れする大人の小説。

<恒文社21 2001年>

井上 荒野
もう切るわ (文庫)

井上 荒野
もう切るわ  (単行本)
AD

yamerarenaiona よくありがちな女性の恋愛のコネタを説得力ある形でまとめている、リアルな恋愛短編集。


『一度も会ったことのない人と恋愛できますか?』はインターネットを通じ、好きなバンドのファンサイトを通じて知り合った男に淡い恋心を抱く沙也佳が主人公である。
ひとり暮らしで普通のOLの沙也佳は、アメリカのロックバンドに入れ揚げている。
帰宅すれば化粧を落としたり食事をしたりする前に、パソコンの電源を入れてブックマークにあるファンサイトのいくつかやバンドの公式サイトを巡回するのが日課である。
何人かのメル友も居るし、オフ会にも参加しているほどである。
そんなメル友の中でもJUNは沙也佳の中で別の存在だった。
JUNはオフ会で会う前に仕事でオーストラリアへ行ってしまっており、一度も対面したことがない。
月に1~2度しかやり取りしないメールを心待ちにする沙也佳に、朗報が飛び込む。
なんと、JUNが赴任中のオーストラリアからバンドのツアーがスタートすることになり、一緒に行かないかとメールで誘われたのだ。
迷いながらも行くことを決心する沙也佳だったが、返事のメールを書いている時に届いたJUNのメールを見て愕然とする。


全ての題名に「?」がついている。
そして、読み終えるとその「?」の意味がわかる。
確かに、女性ってそういうところあるよね等と共感してしまったり、身に覚えがあったりする。
基本的に、恋をうまく操っていると勘違いしている女性が主人公なので、自分がこの主人公に似ているわ、とは言いたくないが、似ている人物も登場した。
これまでの短編集と似たり寄ったりだなぁと思う点も多々あるが、それが著者の作品のよさだしパターンでもあるので、これに飽きていない方はどうぞ。
6作品収録されていて、長さも適度なので通勤等で手軽に読めるのでおすすめ。


<幻冬舎文庫 2005年>

真野 朋子
やめられない女たち

AD
「YEBISU BAR」、「Yahoo!Books」のサイトで連載されていた「プレミアムストーリーズ」の単行本。
女性作家8人が描く、本の題名「最後の恋」をテーマにした短編を収録したアンソロジー。

『海辺食堂の姉妹』は阿川佐和子の作品。
海沿いの町外れにあるこじんまりとした一軒の食堂が舞台。脱サラで開業した両親とその子供である姉妹で切り盛りしていた、ちょっとモダンな食堂。
両親が急死し、今は姉妹で経営している。
姉妹は年頃というにはちょっと年齢を重ねすぎた独身の姉と妹。
死んだ両親は明るく社交的でフロアを担当している姉のことは心配していなかったが、大人しく人見知りをし厨房でひたすら料理のみに専念する妹のことをとても心配していた。
それは姉も一緒であった。
店に来る男性客達の中には妹を意識しているだろうとわかる者もいたが、妹は全くその気はないと取り合わない。
姉にも特定の彼氏が居る訳ではなかったが、自分のことよりも妹を思っていた。妹が片付かなければ自分は結婚などできない、と思っていた。
或る日、妹が両親の死後に過労で倒れ数日店を閉めていた時のこと。
妹を見舞う男性がやってくる。
それが1人ではなく、2人3人とやってくるのだ。姉は驚いてしまう。
あの妹が複数の男性と交際していたなんてと。
終いには何故妹ばかりに男性が惹かれるんだろう、私はなんだろうと悩み怒りがこみ上げてきた。
そんな時訪れた見舞い客の銀行員の男性。
彼は、妹ではなく姉を心配しやってきた。最初は訝しんだものの、少しずつ心を開き彼と交流していく。
複数訪れた男性の見舞い客の中で最後に来た銀行員の男と少しずつ想いを交わしていくようになる姉。
自分の知らない妹の一面に面食らったものの、姉妹はお互いのペースで恋愛をし店を切り盛りしていくようになるのだった。

死んだ男を忘れられない女を描く『ヒトリシズカ』(谷村志穂)、もう誰も好きにならないと誓ったことが心を閉ざす理由になり大人になっても真剣に人を愛せないことに悩む『LAST LOVE』(柴田よしき)など、女性ならば経験があること、感じることがある想いなどが少しずつ織り込まれたアンソロジー。
作家のメンツも新鮮な人からアンソロジー定番の人まで揃っていてバラエティに富んでおりなかなか面白い。恋愛小説好きの方におすすめの1冊。

<新潮社 2005年>

阿川 佐和子, 角田 光代
最後の恋
AD

直木賞作家の著者の7つの物語が盛り込まれた短編集。


『愛ランド』は40代後半の同期の女性2人と、ひと回り離れた後輩1人の定期旅行を舞台にした物語である。

佳枝が鶴子を旅行に誘ったのは2年前だった。
大して親しくもなかったが、ちょっとした出来事から会話を交わすようになり旅に誘われたのだ。
最初は面食らったものの、同期も減ったことだしと軽い出来心から旅行を承諾した。
そこへ佳枝が親しくしている後輩・菜穂子が加わったのだ。
今年の旅行先は上海だった。
上海では菜穂子が予約しておいてくれたエステへ佳枝と鶴子が向かった。
聞いていたのとは全く違う、想像もつかない施しを受けた二人は驚く。
そのことを夕食の席で菜穂子に問い詰め、そこから端を発し告白大会がスタートする。
鶴子が告白した、ある島での出来事に面食らう二人。
まさか嘘だろうと言う二人に、真実の話だと真顔で答える鶴子。
「来年の旅行はその島にしないか」という鶴子の提案に、慄きながらも乗る二人なのだった。

女のエグさや深さを描かせたらピカイチだと思っている作家の1人の著者だが、本作ではその才能が秀でていた。
表題作『アンボス・ムンドス』も素晴らしい作品だった。
実際に有り得そうで、絶対無いだろうというギリギリのラインを辿る物語ばかりで頁がどんどん進む。
久しぶりの読書だったが刺激的な1冊だった。


<文藝春秋 2005年> 




桐野 夏生
アンボス・ムンドス