futarinori 2005年、第27回野間文芸新人賞受賞作品。
離婚した姉、夫に浮気され出て行かれた妹、そしてその夫の悲しい因果を描く連作小
説。


標題作『二人乗り』は、夫・道彦は浮気で女のところへ転がり込み、一人娘・菜々は祖母にあたる母親のところへ行ったきりで、知らないうちに一人暮らしになってしまった不治子が主人公である。
不治子は実の両親が営む小さな会社で事務員をしている。
東京に住む姉・嵐子は離婚後、会社役員というポジションに就き数ヶ月に一度の道彦の出張の際に宿泊させるというのが仕事で不治子とほぼ同じ給与を得ている気楽な姉だ。
そんな中、道彦は同じ市内のスナックのママ・ゆきえのところへ行ってしまった。
道彦は結婚後、両親の会社に就職しいずれは後を継ぐはずだった。
しかし、そんな思惑は外れ、居なくなってしまう。
そして娘も母の家に行ったきり、不治子を避けて母の家から学校へ通うようになった。
一人きりの家の中で、不治子はフラストレーションを溜めていく。
或る日出会った女優・葵と意気投合し、葵との同居生活がはじまる。
葵が前、不治子が後に乗り、よく二人乗りをして市内を巡った。
ずっと住んでいるこの街に、新しい何かを感じる不治子。
いつか終わるであろうその充実し楽しい暮らしの中で、不治子はイキイキしはじめる。
葵と暮らすとききつけた娘も戻ってきて、三人で楽しく過ごしていたのも束の間、葵は仕事があると帰っていく。
葵がよく口ずさんだ「ベサメ・ムーチョ」を思い出しながら、不治子は葵に負けないようペダルを漕ぐのだった。

三話収録されており、長女である嵐子・次女である不治子・その夫道彦の三名を主役とした連作。
恋をして離婚をした嵐子、恋をされて夫を失いつつある不治子、恋をして逃げ出したものの息苦しい毎日を送る道彦。
各自の心の描写、毎日の生活が淡々と描かれており、そこが面白くて頁が進む。
ふとした出会い、突然やってくる別れ、人が想像もしない出来事が人生にはあり、それらを受け入れなければ前には進めないのだ。
そして物語の最後にやってくる、三人の輪が繋がる出会い。
この物語は出会いを軸にし、恋心や日常をうまく描いていて楽しめた。
どんな出会いが三人を繋ぐのか、話してしまうと面白くないのでぜひ読んでみて欲しい。
非日常的な日常の物語を好む方におすすめの1冊。


<講談社 2005年>


平田 俊子
二人乗り

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恋ひらり / 島村洋子

テーマ:

koihirari 昨年放送されたドラマ、「今夜ひとりのベッドで」から生まれた装幀の本を単行本化した企画もの。
永遠の怖さと、悲恋を描く長編恋愛小説。



主人公・山口珠輝がレンタルビデオ店で知り合った年下の青年・文也と交際しはじめるところから物語りは始まる。
この時の珠輝は29歳。文也は3つ年下の27歳だった。
珠輝は事情があり、だいたい1年ごとに職場を変えている。
まじめに仕事をこなし、周囲とつかず離れずうまくやる珠輝を本採用したいと言ってくれる職場も少なくなかったが、珠輝は常に職場を転々として生きている。
引越しも多い。
珠輝はある治験に参加したことから、1年に200万の報酬が常にあるのでアルバイト程度の仕事をこなしていれば、それなりの暮らしを送ることができた。
誰とも深く関わることをせず、職場と家の往復が基本の珠輝の暮らしに文也との出会いが生じた。
珠輝はその時、いくつか持つ名前の1つである有美を名乗った。
文也との関係が深くなるにつれ、不安は大きくなるが、それでも珠輝はほんの一時の幸せを感じるくらい構わないではないか、と思っていた。
そんな時、絹子から連絡がある。
絹子は同じ治験を経験している女性で、治験によって起こる様々な症状や他の治験体験者の情報を教えてくれる人で、珠輝が唯一常に連絡を取っている女性だった。
大恋愛の末に相手の親に反対され辞めてしまった結婚、その元恋人との再会。
文也との関係。
自分の身体の異変。
そして、珠輝に哀しい最後が訪れる。


不思議な物語りである。
有り得ない設定ながら、なんだか夢中になり読んでしまうストーリー展開はさすがである。
主人公、その恋人、父、祖母、友人など様々な視点から描かれており物語のテンポが小気味良い。
久々に一気に読んでしまった。
普通の恋愛小説に飽きてしまった方にオススメの1冊。

<光文社 2005年>


島村 洋子
恋ひらり

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loveletter 電子子書籍配信のサービス『Timebook Town』にて連載されたものを単行本化。
ラブレターにまつわる様々な想いを綴る恋愛アンソロジー。

『ありがとう』は石田衣良の作品。
大学に入学した僕が出会ったのは「美丘」という名の個性的な女の子だった。
春先にグレーのコートを羽織り、意思の強そうな風貌で、クラスメートの男子の中には怖いとさえ言う者も居た程だった。
けれど、僕は美丘に惹かれていった。
偶然が重なりランチという名のデートをした時、突然セックスしたいと言われ面食らったけれど、もちろん気になっていた女の子からの申し出を断るはずもなく、僕は美丘とセックスする。
そこで初めて聞く美丘の病のこと。
それから始まる二人の暮らし。
愛に満ち溢れた二人の暮らしはそう長くは続かず、美丘は逝ってしまう。
美丘と過ごした数ヶ月が僕の心に広がりつづける。

いつか僕は、美丘の名前のように美しい丘で君にありがとうを言うのだと誓う。


その他、島村洋子や山崎マキコ、井上荒野の作品も心に残る。
思ったよりパッとしないアンソロジーだったが、いくつか切なさでホロリときそうな作品が含まれていたのでまぁ◎という感じである。
アンソロジーが増える昨今だが、もう少し突飛な作品やアンソロジーならではと思える短編を読ませて欲しいなと欲が出てきた。


<幻冬舎 2005年>


石田 衣良, 川端 裕人, 森福 都, 前川 麻子, 島村 洋子
Love Letter

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桜井です。
随分と、ここを放置してしまいまいました。
なんとか、少しずつ本を読んだり感想をまとめたり出来るようになってきましたので、少しずつですがまた更新していきます。

ご心配頂きありがとうございます。
書き込み、嬉しかったです。

また、沢山頂戴したままのTBは少しずつ返していきますのでもう少しお時間ください。

桜井はなんとか元気でやっております。
今までのペースは難しいですが、少しずつやっていきますので、末永く宜しくお願いします。

刺繍 / 川本晶子

テーマ:
sisyu 39歳、バツイチの女には年下の恋人が居て、両親も健在して、穏やかな毎日を送っていた。
しかし或る日、母に痴呆の症状があらわれて、困惑していく。
介護、大人の女の自立、恋愛を描いた長編作品。


主人公・エリは39歳。
離婚後、一人で細々とイラストレーターの仕事をしながら暮らしている。
恋人の敏雄はとても若く、仕事を転々とする気ままな男だが、いざという時に頼りになり、エリの両親からも慕われていた。

一見、幸せで穏やかに見えた毎日に翳りが射しがのは、母の痴呆だった。
父に呼ばれて実家を訪れると、母は以前の面影も無く、確実に別の人に変化していたのだ。
返事もしない、食も細くなる・・・様々な変化に戸惑うエリ。
そして、黙々と介護をする父に胸を打たれる。
色々考えて、エリは両親との同居を決め、敏雄と会えない日々が続く。
しかし、合間合間で敏雄の助けを得ていくうちに、エリの父が「敏雄くんも一緒に住んだらどうだろう」と提案する。
母の介護の手伝いとして、報酬も払うという。
困惑するエリに、歓迎しあっさりと引っ越してくる敏雄。
不思議な同居生活と、母の病。
日々は重いこともあれば、明るく穏やかなこともあった。
痴呆の母はどんどん小さくなり、入院することとなる。
母が或る日刺繍を始めた。
うまく出来る訳はないが、針を手に布に糸を通す母を見て、エリも刺繍をはじめる。
母と過ごした幼い頃の日々を思いながら、大きな布に描いた様々な花に糸を通し続ける。
母との時間を大切にする3人の様子が描かれる。


介護は、今後の課題である。
私も他人事ではない。
自分が身体を壊している場合ではなく、健在する親がいつどうなるのか、エリのようになることもあるのだと心に迫る内容だった。
しかし決して暗く重い物語ではなく、痴呆の親がいても明るく楽しく、どうやったら母を楽しませることが出来るのか、みんな楽しく暮らせるのかをメインに描いているので気が重くなって沈んでいくことはない。
時々、介護が必要な老人を抱える家族のジレンマや苛立ちもきちんと描かれていてリアルだ。
普通の恋愛小説ではないが、合間合間に主人公の恋愛も含まれ、現代の40代女性の中には同じ様な気持ちを抱いていたり、同じ様な経験をしている人もいるのではないだろうか。
男女に関わらず、両親の介護に不安を抱く人、将来を思う人におすすめの1冊。


筑摩書房 2005年


川本 晶子

刺繍