ninshincare 妊娠した姉に戸惑い、やがて悪意を抱いていく姿を描く表題作以外にも2作品が収録された作品集。
本作は1991年に芥川賞受賞している。


主人公・私は両親を失ってから、精神科に通院している姉と暮らしていた。
やがて姉は結婚し、夫である義兄と3人で暮らしはじめた。
義兄は私にとってはつまらない男でしかなかった。
姉が妊娠し、つわりがはじまり食べ物一切、臭い一切を受け付けなくなっていく。
23週目にはつわりも終わり、姉は一気に食欲を取り戻す。
或る日、食品デモンストレーションのバイトをする私は、勤務先のスーパーで袋いっぱいのグレープフルーツを貰う。
姉の食欲は日々増進し、おなかはどんどん大きくなっていく中で食材を貰うのはラッキーなことだった。
大粒できれいな黄色をしているグレープフルーツでジャムをこしらえる私。
その過程で、以前参加した地球汚染のセミナーで見たパンフレットに載っていたグレープフルーツを思い出す。
危険な輸入品として紹介され、出荷までに3種類の毒薬が散布され、発ガン性のある防かび剤も含まれるという。
しかし姉はグレープフルーツジャムをむしゃむしゃと食べていく。
私はおなかの赤ちゃんに影響がないか呆然と考える。
それ以降、グレープフルーツジャムを食べる姉と作る私は定番化した。
作る、食べるの繰り返しだった。
私はグレープフルーツを買う時には必ずアメリカ産か確かめる癖がついてしまった。
やがて出産を迎えた姉に会いに産院へ向かう私。
きっとあのグレープフルーツの毒にやれれているだろうと思いながら、産院の中を進んでいくのだった。


妊娠、つわり、つわりが終わり安定期に入り食欲旺盛になる妊婦~姉~の姿が日記のように日付で区切られて描かれている。
読みやすく、そして少し怖い物語だ。
つわりが突然終わりを告げ、枇杷のシャーベットが食べたいと騒ぐ姉とおろろろする私・義兄の描写には疑問を抱いた。


久々に本棚から引っ張り出して読み返してみたが、やっぱり面白い。
本作は賛否両論あるが私は嫌いではない。
最近は離れていた作家なので、今後はまた新作も含め読んでいこうと思った。


<文藝春秋文庫 1994年>


小川 洋子
妊娠カレンダー

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bankholyday ロンドン在住で保険仲介業者のPAとして働く著者が描く、ロンドン金融街・シティを舞台にした、日本人女性の物語。
仕事に恋に終わりかけの結婚生活に奮闘する姿を描く痛快な恋愛小説。


主人公・エリコは31歳。
ロンドンの金融街・シティでコンサルに勤めている。
翻訳アシスタントとして雇われたが現在はPA(パーソナル・アシスタント)として勤務している。
3歳年下のイギリス人・ティモシーと電撃結婚して6年。
現在夫はフランクフルトに単身赴任中である。
結婚生活は破綻しており、明るい未来の無い別居と化している。
しかし離婚までの道は遠く、なかなか具体的な話に着手できないでいる。
もう一度女としての人生を歩みたいと、エリコは恋に走る。
シティで知り合う男性陣は皆ゴージャスで知性的な男ばかりである。
橋渡しを頼んだはずの恋多き同僚・クリス、妻との離婚を目前に動きの悪いジェイムス、同僚の女性から紹介されブラインドデートをした紳士・ローレンス、やり手で気難しいビジネスマン・スティーブ、公開ディスカッションで知り合ったチャールス・・・
魅力的な男性を前に、エリコは持ち前の美貌とトークでターゲットと接近していく。
勿論、思い通りに落ちない相手もいるが、そんなことは気にしない。
次の恋を見つけるだけだ。
仕事も恋も、中途半端は嫌というはっきりした意志を胸に、エリコは今日もシティを闊歩する。
そして、昔のフィアンセ・公一の登場でエリコとティモシーの結婚生活にもファイナルアンサーが出ようとしていた。


コメディ要素も多く、欧米で暮らす日本人女性の姿をうまく表現し面白い。
アメリカ男性とは違う、イギリス男性の魅力や物足りなさを上手く描き読んでいて飽きない。
アクティブ、ポジティブ、そんな言葉が似合う女性が主人公の物語は読んでいて気持ちがいい。
失恋しようとも、離婚問題が迫っていようとも、落ち込まないし無駄に悩まない。
仕事も恋もディナーもワインも、とことん楽しみ後悔はしない。
そんな潔い、サムライのような主人公が私は気に入ってしまった。
時折、会話の中に混じるジョークやウィットに飛んだ会話も小気味良い。
著者は本書が1冊目の出版のようなので、今後の作品も期待したい。
重く湿っぽい恋愛小説ではなく、楽しくポップな恋愛小説を求める方にはおすすめの1冊。


<集英社インターナショナル  2005年>


十貴川 洋子
バンク・ホリデイ

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iloveyou 祥伝社の創立35周年記念として特別出版されたアンソロジー。
人気の男性作家・6名が描く恋愛作品集。


1作目として収録されている『透明ポーラーベアー』は伊坂幸太郎の作品。
八月、主人公・優樹は遠距離恋愛目前で微妙な空気が漂っている恋人・千穂と動物園に行った。
そこで偶然、富樫さんを見かけた。
富樫さんは姉の最後の恋人だった人で、優樹が姉の歴代の恋人の中で最も気に入っていた人だった。
富樫さんの横には芽衣子さんという女性が寄り添っていて、時の流れを感じる優樹。
自由奔放だった姉。
姉は失恋する度に度に出る癖があった。
それは中学生の頃からで、両親も優樹も飽きれていた。
そして例に漏れず富樫さんと別れた時も、旅に出た。
それが、姉との永遠の別れになるとは誰も思わなかった。
シロクマが好きな姉は、カナダを一周してシロクマを見たら帰ってくるなんて言って出かけたっきり、戻らない。
富樫さんもそのことを知っていた。
そして今、お互いが恋人を連れてシロクマを見ていた。
不思議な縁・運命ではないかと思う瞬間を描く作品。


他にも何十年も同級生として過ごした男女の関係に変化が生じる様を描く、石田衣良の『魔法のボタン』など、恋愛小説として楽しめる作品が続く。
男性作家はあまり手にしない私なので、こういったアンソロジーで新しい作家を知っていく。
今回の作品で伊坂幸太郎をもっと読んでみたいと思うようになった。
また逆に、避けていて正解だったと思う作家も含まれていて、今後の本選びの参考になるアンソロジーだった


<祥伝社 2005年>


伊坂 幸太郎, 石田 衣良, 市川 拓司, 中田 永一, 中村 航, 本多 孝好
I love you

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青空 / 桃谷方子

テーマ:

aozora 北海道出身の作家で、「百合祭」で北海道新聞文学賞を受賞している。
そんな著者が北海道を舞台に、女子高生と老人の交流を描いた書下ろし長編作品。


主人公・高倉美有は16歳、高校2年生。
放課後は友達とつるむことよりも、図書館で好きな本を借りて読むことが好きである。
1つ年上の祐一というボーイフレンドがおり、時々バイクの後ろに乗せてもらって見る青い空を見るのを楽しんでいる。
いつものように学校の図書館で本を借り出し、中島公園で読もうと思っていた或る日、公園の東屋で老人に声をかけられる。
老人は岩尾伊佐治と名乗る。
74歳で画家だという。
他愛も無い会話を交わし、また会う約束をしてしまう美有。
老人は苦手だと思っていたはずなのにと戸惑うものの、伊佐治の個性に少しずつ惹かれていく。
伊佐治のアトリエへ通うデート生活が始まる。
週に2度ほど訪れては、ブルーフィルムを見せてくれたり手作りのタンシチューなどをごちそうしてくれ、知らない世界を教えてくれる伊佐治に少しずつ打ち解ける美有。
友人の行方不明、それに伴い親しくなった同級生、祐一との関係など、伊佐治と知り合ってから美有に少しずつ変化が生じていく。
伊佐治を異性としてなのか、老人としてなのか、好きだと思い始め伊佐治との時間によろこびを見つけられるようになってきた時、伊佐治は死んでしまう。
いつもと同じ放課後が戻ってきたけれど、美有は自分の中で何かが変わったことを感じる。

高校生が主人公の物語を読むのはこの数年苦痛で、本書も避けていたところがあったが、案ずるよりうむが易しとはよく言ったもので思いのほか楽しめてしまった。
女子高生と老人の交流など、実際には有り得ない設定ではある。
本作は、その辺りのもやもやは一切感じることなく、読み始めたら最後まで小説として楽しめるように作りこまれていた。
伊佐治という個性的な老人にしたことで嫌味もなく介護や老人への思いやりなんて側面とは関係のないところで老人を想う気持ちをうまく描いている。
ラストで老人が死を迎えるのはありきたりにも思えるが、それによって女子高生が得たもの、感じたことが良かったと思う。
次々ページが進み、1日で読めた。
なかなか面白い1冊。

<講談社 2000年>

桃谷 方子
青空

otokono 50代を前にし、寂しさから同居した男との生活を解消したい女。
その家族や街の人々の人間模様を織り交ぜて描く、ある1日の物語。


主人公・美衣子は生まれ育ったこの街で、母・桐と、同居人というか同棲相手というべきか微妙な男・青野と3人暮らしである。
桐は70を過ぎた今も達者で、自営していた理髪店とアパート3棟の経営者となり昼間は近くのカラオケ店「スワン」で過ごすきままな老後を送っている。
5年前、老後の寂しさを緩和したいと思い軽い気持ちから青野との同居を決め今に至っている。
美衣子はと言えば、2度の結婚に失敗し、その2人の夫との間に1男1女をもうけた。
娘・晴香は3度の結婚、3度の出産を経てまた再婚したいと言い出すし、息子・吉樹は12歳年上の未亡人・千代と生活しており、どちらも異性運がいいとは言えない。
もちろん、美衣子自身も例に漏れず男運が悪い。
青野のキャバクラ通いを同級生に聞いてから、青野との同居は軽率だったと後悔しはじめる。
カラオケ店「スワン」での出来事、初恋の人で障害者となった葉介の世話、娘たちの異性問題、母の老いへの心配など様々なことが頭を巡る中、最大の懸念事項は青野のことだった。
幾度か別れを切り出すものの、全く相手にされない。
家賃も食費も要らない今の生活を、青野がそう簡単に捨てる訳がない。
美衣子はどうやってこの男を始末するか、頭を捻る。
悩みに悩み、母・桐へ相談した。
母が出した解決策は、想像もしないやり方だった。


午前4時から午後10時までの6月のある1日を描いた作品。
中年男女の人間模様、恋愛模様かと思いきや、最後にとんでもない結論が出され驚く。
いやはや、おそろしい女の物語である。
表題「男の始末」の意味するところを最後に知り、呆然とした。
これまでの著作と同じテイストながら、物語の設定をある1日としたところが新しく、人間というのは1日で様々なことを考え、色々な場所へ出向き、怒ったり笑ったり落ち込んだりするもんだと改めて気付く。
そういう意味で斬新な作品だったが、ストーリー展開は陳腐な部分もあり、これまでの著者の作品のように楽しめた訳ではなかった。
最後に意外なオチがついたものの、とりたてて面白い作品だとは言い難い。
同年齢の女性が軽い気持ちで読む本を探していたら、おすすめする1冊。


<講談社 2004年>


藤堂 志津子
男の始末

sekensirazu 第21回すばる文学賞受賞作。
表題の如く、世間知らずな画家志望の女の堕落した生き様を描く。


主人公・エリコは画家志望の無職の女。
デザイン事務所で勤めていたものの、自分がやりたい仕事ではない業務をこなすことに疑問を抱き、絵を描いて生きていこうと決める。
しかし人生はそんなに甘くなく、気付けばガスも電気も止められ手元には70円しか残っていなかった。
お金には困らない友人・ゲイの夏樹のところへ転がり込み、暫く面倒を見てもらうことにする。
絵を描くことを条件に、夏樹はエリコを受け入れる。
自立しなきゃ、成功しなきゃ、絵を描かなきゃと焦るエリコだが、思うようにいかない毎日に苛立ち酒に溺れはじめる。
以前からアルコールに依存していたところはあったし、酒や薬で何かを生み出す人間をバカにしていたエリコだったが、今はもうアルコール無しでは暮らせなくなっていた。
人が働く時間に酒を飲み眠る日々。
酒浸りでロクな絵など描ける訳もなく、焦りながらも毎日は流れていく。
24時間酔っている毎日が続いた或る日、スーパーで高校の同級生・冬美に出会う。
そこで、以前交際していた男との不倫の恋を思い出さされてしまう。
今の生活に終止符を打てるかもと冬美の誘いのもと、ボランティア活動に参加するものの、結局そのグループのリーダー・麻子の夫・基と関係を持ってしまう。
冬実はエリコの不倫をエリコの実父に密告し、エリコは忠告を受ける。
以前の不倫の際に、相手の妻に乗り込まれていたのに、未だに同じ事を繰り返すエリコをけなす義妹たち。
エリコは更にダメ人間の烙印を押され、追い込まれていく。
エリコの父はエリコの実母の死後直ぐに再婚し、反りの合わない双子をもうけ楽しい家族を築いていた。
馴染めないエリコは疎外感から崩れていってもいた。
父の死、酒への依存、入院、前へ進まない画家への夢。
エリコはプライドを捨てられず、また夢も捨てられず、ただ季節の流れに見を任せるだけになっていく。


後味のいい作品ではないし、共感する部分も少ない作品だが、心に残る作品である。
酒に溺れるしかない、酒に逃げるしかないと思う人間は多々いて、アルコール依存に悩む人やその家族を知っている。
ここから脱却するのは簡単なことではない。
その姿がリアルに描かれており、読み応えがある。
画家になる夢を捨てられない主人公の気持ちはわかるし、それがなかなか叶わず挫折しまくって自分を見失っていく主人公の姿もわかるし、そこは共感出来るが、酒に逃げる姿と、その酒代さえ他人に払わせている姿は苛立ちさえ覚える。
しかし、人が落ちていく時というのはこんな感じなのだろう。
今までには読んだこと無いタイプの物語で、著者の他の作品も気になるところ。
全編暗い闇の中を彷徨う主人公の姿を描いているので、覚悟してご一読頂きたい。


<集英社 1997年>


岩崎 保子
世間知らず

koinokaori 恋と香りがリンクすることは結構ある。
春先に沈丁花の花の香りを嗅ぐと中学校の頃に好きだった男の子を思い出す、など。
そんな恋の香りにまつわるエピソードを絡めたアンソロジー。


『日をつなぐ』は宮下奈都の作品。
主人公は赤ちゃんをひとり持つ女。
初恋の“修ちゃん”と結婚し、彼の住む街・秋田で暮らしている。
毎晩、豆のスープを作っている。
忙しい“修ちゃん”の為に、すれ違う生活の寂しさを埋める為に、彼女はスープを作っている。
“修ちゃん”は彼女の初恋の人だった。
地元・福井の中学校の同級生だった“修ちゃん”とはひょんなことで知り合い、そのまま彼を想い続けた。
同じ高校に進むものの、勉強のできる“修ちゃん”は京都の大学へ進学し、彼女は信金に就職する。
離ればなりになったものの、遠距離恋愛の中で二人の気持ちを積み重
就職で秋田勤務になった“修ちゃん”とますます距離が出来てしまい困惑している時に結婚した。
そして、子供が産まれた。
忙しい夫、知り合いの居ない寒い街、慣れない子育て。
彼女の中で何かが壊れはじめる。
そんな時思い出したのが豆のスープの香りだった。
彼女は豆のスープを作ることで自分を保っていくが、二人の心は保てなくなっていた。


せつない話が多い。
短編なので細かい描写は無いが、心の中でせつなさが渦巻く物語が多い。
冬っぽいイメージの物語が多い気がしたので、もう少し寒くなってから読めばよかったかな、と残念でならなかった。


<角川書店 2004年>


角田 光代, 島本 理生, 栗田 有起, 生田 紗代, 宮下 奈都, 井上 荒野
コイノカオリ

umaumanote コスメ雑誌「VOCE」で連載されていた食いしん坊コラムを1冊にまとめた本。
仕事をする東京、故郷の富山、ロケ先などで出会う美味しいモノをイラストと写真、喋り口調のままの文章で楽しめる。


『公開!ロケ弁日記』は、ドラマのロケ中に出てくる様々な仕出し弁当を写真付きで紹介するコラム。
ロケ弁には数軒の弁当屋からの色々な弁当が出てくるらしい。
弁当の定番とも言えるのり弁、生姜焼き弁当、とんかつ弁当はもちろん、魚屋さんのお弁当、洋風のサーモンバルセロナ風、アメリカンチキンなど多種多様。
しかし、毎回こんなに様々な弁当が用意されるとは限らないらしい。
また、弁当の毎日に飽きるとケータリングサービスになることもあるそうだ。
仕出し弁当を頼むタイミング、寒いロケ日に届く暖かい弁当についてなど、ロケという作業に参加する人にしかわからないエピソードが詰まっている。
著者のユーモアと観察眼が活きている楽しいコラムがたっぷりだ。


美味しいものは大好きである。
しかし、著者の故郷・富山料理や名物には疎いし、大人が行く大人の店というものにはまだまだ縁遠い。
そんな敷居の高い店もあれば、B級グルメもあるし、デパ地下の楽しみ方も載っている。
リーズナブルな定食屋もあり、東京に住んでいればこの本の店を実際に楽しむことも十分可能だ。
美味しいモノは主観である。
著者が薦めるものが全て美味しいとは限らないし、味覚に違いはあるのは当然。
でも、色々な人が美味しいと思うものを食べて自分の味覚の幅を広げるのは楽しい行為だ。
とっても参考になる1冊なので「食欲の秋」におすすめの1冊である。
ただ、2年前の本なので閉店している店もあるかもしれないのが残念。


<講談社 2003年>


室井 滋
うまうまノート

bisyoku 大人の女の生き方に恋愛や仕事、様々な心模様を交えて描く中編集。


『幻の男』の主人公・治子は遠山由香里という名で爆発的な人気少女漫画を連載する売れっ子だ。
治子の彼は有名広告代理店に勤める育ちのいい男で、治子は彼と会う度にこの男と交際する自分に満足していた。
なんの欠点も無く優れた男だが、1つだけ問題があった。
それは妻子があることだった。
別居中でうまくいっていないという男の言葉を信じ、付き合いを深めていくが治子はどんどん欲が出てくる。
この男を手放したくないと指輪をねだることから二人の関係に亀裂が生じる。
写真週刊誌に二人のことが掲載され、治子は焦り他の雑誌へ独占告白を続け男は少しずつ離れていく。
治子の予測とは違う流れが一気に押し寄せ、治子は男との交際は本当にあったことなのか、彼と付き合っていたのかさえわからなくなる。


美食家の女社長が久々にときめいた男には隠れた本性があった「美食倶楽部」、地方出身の女が有名な高級住宅地に住めるということに目がくらみとんでもないお荷物を背負わされてしまう姿を描く「東京の女性」の3編が収録されている。
何かを得る為には何かを失う、人には隠れた本音が存在する。
そんなことを思い知らされる女達をうまく描いている。
この頃の著者の作品は本当に面白いものばかりだ。
毎度思うのはのは十年以上前の作品なのに時代を感じないということ。
今も昔も、女にはこういうところあるよなぁと思う。
昨今の作品に不満のある私は、著者が恋しくなったら暫く昔の文庫を引っ張り出して読む生活が続きそうだ。


<文芸春秋文庫 1989年>


林 真理子
美食倶楽部

mizumizumizu 埼玉県でスナックを経営する現役ママが語るオミズの悩み、笑い話、苦労など本音が詰まったエッセイ。


『そんなオミズの…クーデター』は、或る日突然女の子達が辞めてしまった時の話。
女優であるホステスは様々な嘘をうまく用いて経営者や客を納得させてしまう。
ホステスの口から紡ぎ出されるエピソードに頷き辞めることを受け入れると、後日目と鼻の先の店に出勤している…なんてことは日常茶飯事のようだ。
ホステスが居なければ店はまわらない。
各店、しのぎを削っているのかと驚く。
他にも22編のエピソードが収録されている。


偶然巡り合った著者から頂戴した本書。
エッセイをあまり読まない上に、水商売とは縁が無かったので楽しめるか不安を抱きながら読み始めた。
心配無用、楽しめた。
まず、自分が経験したことない職種や世界を垣間見るというのは当然面白いし興味深い。
偶然「FOXY(宇佐美游)」を読んだ後だったのでなるほどと思いながら読み進める部分も多かった。
仕事のことだけじゃなく経営者としての思い等も描かれており、深かった。
ちょっとホロリときてしまうエピソードもあった。
異業種を覗くのは楽しい。


<文芸社 2005年>


月谷 小夜子
女に酔わず酒に酔え―オミズ物語り