いい女 / 藤本ひとみ

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iionna 良妻賢母を貫いて、気付いたら50代目前。
夫と子供の為に日々自分の時間を費やし、家庭を守り、何もかもを優先している主婦が或る日気付く虚しさ。
自分は何のために生きているのだろう。
どうしてこんなに乾いているのだろう。
反旗を翻し自分の為に生きようと試みる女の変化と歩みを描く長編作品。


主人公・詩織はサラリーマンの夫と2人の娘を抱えている。
家事の合間に得意なフランス語の翻訳を手がけている。
受験を控えた娘二人への気遣い、平日は遅くまで仕事をし週末は趣味のゴルフばかりの夫との4人暮らしだ。
30年ぶりに開かれた、フランス滞在時の学校の同窓会に夫や子供に気遣いながら参加した。
化粧直しに入った会場のパウダールームで謎の女性・蜜子に口紅を直してもらったことから詩織の人生の変化が始まる。
久々に会ったのだからとはしゃぐ同級生を横目に、詩織は子供の夕食の準備の為、そそくさと家路に着く。
メイクもファッションもないがしろにし、夫と子供のために捧げた主婦としての人生に疑問を抱き始める。
蜜子の誘いに乗って、蜜子が経営するエステサロンへ通い始める詩織。
自分の為にお金と時間を費やすことに後ろめたさを感じながらも、少しずつ女として生きたいと思いはじめる。
同級生・早匂からの誘惑、編集者・本多との出会い、夫の浮気、子供の反抗的な態度、母親からのプレッシャーなど全てが詩織を変化させていく。
母親として、妻として、精一杯頑張ってきたこれまでの人生をリセットし、一人の女として生きたい、綺麗になりたい、美しくありたいと思う詩織。
翻訳に真剣に取り組み、蜜子から以来される通訳もこなし自分で稼ぐことに取り組みはじめる。
更年期もスタートし、女として生きるには最後のチャンスだと思う詩織の著しい変化に対応できない娘たち。
その変化に気付かず、家族を蔑ろにして自分の道を歩く夫。
その中で詩織は、はじめて自分だけの人生というものを考え向き合いはじめる。


世の専業主婦が皆このようなことを考えている訳ではないだろう。
柔軟に生活を謳歌している主婦も多いだろうし、良妻賢母も結構だ。
しかし、自分の人生を振り返るターニングポイントに立ってしまったと気付いた時が問題だ。
「今の人生が最高だ、後悔は無い、このまま前を向いていたい」と言い切れれば何もトラブルは無いだろう。
しかし、「こんな生き方でいいのか、私にはもっと何か可能性があるんじゃないだろうか」と疑問を抱き、新しい道を開くことが出来てしまうタイプなら大きな変化が訪れ何かが崩れ、また築かれていくのだろう。


小説としては面白かったし、専業主婦のわびしさなどもリアルだったが、女として生きることを選ぶからといって様々なことにクビを突っ込み軌道修正していく様は理解し難かった。
30代以上の既婚者ならば、エンターテイメントとして楽しめる1冊ではないだろうか。


また、コバルト文庫でしか馴染みが無かった著者に新しい一面を発見できよかった。


<中央公論新社 2005年>


藤本 ひとみ
いい女

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花探し / 林真理子

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hanasagasi 生まれ持って美しいながらも輝きが鈍い女性が磨き上げられ容姿端麗な美女として愛人生活を送る。
絵空事のような物語だが、「パトロン」に頼りきっている愛人生活を描く官能長編。


主人公・舞衣子は29歳。
21歳の頃、売れないモデルとして活動しあるイベントに行った時に神谷という不動産王に見初められ愛人街道を歩き始めた。
高級ブランドの服を着、一流のマンションに住み、有名店を食べ歩き、贅を尽くした愛人生活は田舎育ちの舞衣子を磨き上げた。
バブルがはじけ、神谷も金回りが悪くなり舞衣子を養うことが出来なくなった。
そこで、老舗の料亭の後継ぎ・大沢へ舞衣子を委ねた。
それ以来、舞衣子は大沢に生活を支えてもらっている。
舞衣子が置かれている立場は不倫をする愛人ではなく、生活全てを養われ囲われている愛人である。
普段はテーブルマナーや料理教室、一流のスポーツクラブなどに通い男の為に美を保っている。
定期的にエステに通うのはもちろん、自宅でもケアはぬかりなく。
最新のファッションにも敏感で居る。
そんな愛人生活に翳りが見えはじめ、舞衣子は次の男を模索し始める。
スポーツクラブで知り合ったちょっとガサツな弁護士、フィニッシングスクールで知り合った女に連れられて行ったパーティーで知り合った御曹司、香港で知り合った有名作家。
舞衣子の前には次々男が現れるが、舞衣子の今の生活を保てるような男は居なかった。
舞衣子は焦り悩むが、全ての条件を満たす男は現れない。
そんな時、女友達に誘われて訪れたパーティーで大沢の娘に遭遇する。
舞衣子は大沢の娘を目の当たりにし、何かが弾けるのを感じる。
大沢、そして大沢の娘。
舞衣子にとって切り札になるのだろうか?


愛人生活というのは十人十色なのだと知った。
私のイメージは、会社の上司等と不倫をし止む無く愛人というカテゴリーに属してしまった、というものだった。
しかし、自分から望み愛人生活を選び続ける女性もいるのだ。
生活の全てを支えてくれるような男の存在も、きっとフィクションではなくあるんだろう。
一生自分が経験しない世界を読めるのは読書の楽しみでもあるが、本書は衝撃的だった。
同年代の女性の生き方の中で、もっとも縁遠く理解できない世界だったから。
愛人が悪いとか、そんなやぼなことを言うつもりはない。
でも、自分の家族や自分以外の人間に惜しみなく金を遣うというのはどういう気持ちからなのだろうか?
また、男を自分に遣ってくれるお金で判断するというのも驚きの価値観だった。
一気に読み進められたが、色々な疑問が残った1冊だった。

そして、その疑問は一生解かれることはないだろうと思った。

林真理子のセックス描写も楽しめる作品。
たまに官能小説的なくだりが多すぎて戸惑う作品もあるが、この作品の場合はいいスパイスとして働いていると思う。


<新潮社文庫 2002年>


林 真理子
花探し

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1000koi 時々読んでいた「ウフ」での連載などをまとめた短編連作小説集。
若い男女を著者らしい視点で描くほろ苦い恋の物語が綴られている。


『夏めく日』は女子高生の佐伯が主人公。
夏休みの少し前に学校に残り解けない数学を相手していた時の数時間の出来事。
石田先生に話し掛けられた。
今日中の宿題なのだと言うと少し手伝ってくれて無事解決した。
石田先生はもうすぐ結婚する。
地理の片倉先生と結婚する。
そして、異動する。
佐伯は石田先生が好きだった。
石田先生にあれこれお願いしてみたいけれどうまく表現できなくて、図書館の中で手をつないで歩くと言うことだけは受け入れて貰え歩いた。
ほんの少しのその時間が、佐伯の心に響く。
繋いだ手から染み渡る何か、もっと話したいことがあった、見ていたかった。
若さゆえの恋心がきれいにまとまっている。


同性の親友にほのかな恋心を抱く女に恋をする男、大好きな彼氏にふられたことを元彼に相談する女、同級生のかわいい女の突拍子もない動きに手を焼く太った男、軽い気持ちで付き合った女には深い傷があり困惑する男など、みんな誰かを好きで何かを大切にしているけれど、なかなかうまく届かない。
切ない気持ちになりつつも、最後には試みたされる答えが用意されているような、純粋な恋愛小説集。
ほろ苦い時間や日々を忘れかけていた気持ちを思い出せる心地よい1冊でよかった。
また、著者のセンスの良さが光っている短編とも言える気がする。
純粋な恋愛小説を求める方にはおすすめの1冊。


<マガジンハウス 2005年>


島本 理生
一千一秒の日々

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hitorigurasi 男にだらしない女、実家を飛び出す女、 昼夜働きながら家を買おうとする女、プロポーズに揺れる女。
4人の女の複雑な恋心とひとりで居ることを選ぶ様子を描く短編集。


『家路』の主人公は日菜子。
専門学校卒業後、OLとして働いていたが「マイホームが欲しい」と思い夜のバイトを始めることにする。
いくつか面接を受けた結果、「ラルゴ」で働くことになった。
週に3日、カウンターの中でお客の相手やお酒を作ることが日菜子の仕事だった。
年齢不詳のママ、明らかに年をごまかしているやさぐれた冬子が「ラルゴ」のメンツだった。
少しずつ仕事に慣れ、日菜子びいきの客も出てきて順調に毎日が流れていった。
「マイホーム」の為に菓子パン・おにぎり・カップラーメンで食費を節約し、毎月数十万を貯金していった。
日菜子がどうして「マイホーム」に拘るか。
それには悲しい日菜子の生い立ちが関わっていた。
或る日自分が理想とする物件に巡りあい、日菜子は絶対にその家を買うんだと誓う。
あまりに深く強い思いで「マイホーム」を望むあまり、切羽詰った日菜子は「ラルゴ」の客にお金を借り始める。
思ったより簡単に客はお金を振り込んでくれた。
日菜子は思い上がり、次々と客に連絡をしお金を用立てて貰いはじめる。
そんなことがうまくいくはずもなく、ママの知れるところとなりクビになる。
その時はじめて、様々なことから日菜子は目覚めるのだった。


藤堂志津子らしい短編集で、大人の女の視点での「ひとり」を選択する女性の心理を描く。
平成11年に単行本として発売された作品集だが、6年経過した今も色褪せずに読める。
若い時に藤堂志津子を読んだ時はあまり共感もできず面白いとも感じなかったのだが、この2年くらいは読みまくっている。
年齢と共に、好きな作家や共感出来る物語に変化があるのだと改めて感じている。


<文芸春秋 2002年>


藤堂 志津子
ひとりぐらし (単行本)


藤堂 志津子
ひとりぐらし (文庫本)

bubble その昔、銀行は永遠に絶対安全だった。
しかし現代は大手銀行同士が統合したり、挙句の果てには倒産した銀行まである。
そんな都市銀行を舞台に、バブル時代に入行した男達の銀行マンとしての日々を描く長編小説


主人公・半沢は有名大学に在学している。
否応なくやってきた就職戦線から物語はスタートする。
売り手市場といわれたその時代だが、銀行部門は倍率も高く数少ない買い手市場だった。
半沢は都市銀行を希望し、幾度かの面接を通過して内定を貰い例に漏れず拘束された。
高倍率の中で内定を手にした一握りの連中と銀行から拘束される夏を過ごし、晴れて入社した。
それから十数年。
半沢は統合され名前の変わった東京中央銀行の大阪西支店で融資課長として働いている。
そこで問題が起きた。
支店長・浅野にゴリ押しされて止む無く進めた西大阪スチールへの5億の無担保融資が焦げ付き、窮地に立たされているのだった。
支店長・副支店長から責任転嫁され憤る半沢。
なんとか債権を回収しなければ半沢は飛ばされる運命だった。
怒りを抑え課の連中と今回の融資について調査を進めると、不自然な帳簿やおかしな金の動きがあることに気付く。
連鎖倒産した下請け企業の社長・竹下や同期の渡真利などと手を組み真相を明らかにしていく。
やがて意外な真実に辿り着き、半沢は債権回収と復讐に燃えていく。


大手銀行に勤めていると聞けば、羨ましいとか凄いなぁとか安定してるのねなんて言われたものだ。
銀行不倒神話は崩壊し、昨今は大変であろう。
そんな銀行を舞台に、働き盛りの男が無実の罪をきせられそうになったり、どうしようもない年配連中や上司に追い詰められながらも自分の足と部下や仲間からの助けで真実を見つけ出し逆境にめげず突き進んでいく様は痛快である。
銀行の裏側や内情、金融用語などもわかりやすく書かれており、面白く一気に読めた。
途中、妻からのプレッシャーなどのくだりもありサラリーマン男性の辛さを垣間見る部分もある。
最後の実父とのやりとりの回想部分はそれまでの戦いとは打って変わって心に染みる。
男女関係なく読める娯楽小説だが、同年代の会社員たちはもっと楽しめるのではないかと思う1冊。


<文藝春秋 2004年>


池井戸 潤
オレたちバブル入行組

nazeketukon 晩婚、未婚は昨今話題になりまくっている。
どうして結婚しないのか、どうして結婚できないのか、理由は明確なのか。
どんな新聞記事を見ても、テレビでの特集などを見てもよくわからなかった。
私自身は既婚だが、周囲は殆ど未婚である。
その疑問を、少し緩和してくれるルポタージュである。


未婚の親同士が集い、子供の写真を持参して見合いをするというのが話題になったことがあった。
未婚のまま年を重ねる子供を見かねて、親が集うのである。
集う親たちは焦っている。
様々な職種、年齢、経歴の子供を持つ親が集い会話をし、お互いの子供を紹介しあう。
話がまとまれば面会~見合い~の約束をする。
不思議な集いである。
親に世話をされて結婚するというのは昔からあることではあるが、それは見合い写真を持ってくるとか知人の息子さんを紹介されたとか、そういった話ではなかっただろうか?
今は違うのだ。
全く見ず知らずの親たちと会い、約束を取り付けるのである。
そこまでしないと結婚に至らないのだろうか?
その背景、どうしてその集いを開くことになったのかなど、主催者と参加者のインタビューは赤裸々だった。
そして、とても重いものだった。


また、地方に住む女性の未婚率が高いこと、高学歴の女性は結婚から遠のきがちであること、男女の結婚に対する意識があまりに違うことなども興味深かった。
男女の意識に相違があることは、自分の友達から話を聞いてもわかっていたが、ここまで違うとそれは噛み合わないなぁと思わずにいられなかった。
本書に書いてあることが全てではないし、100%信じられるとは言い切れないだろうが、周りに当てはまることが多過ぎるのだ。


結婚が全てではない。
結婚しなくても幸せは味わえるし、楽しい人生を送ることもできるはずなのだ。
しかし、一般論は違う。
なぜか結婚に拘り、結婚しなければダメだというような空気があるのだ。
そして、その一般論に振り回され困惑する未婚者が多いのも事実で、焦り迷い悩むのだ。
特に30代、40代は結婚を意識せずには居られないだろう。

負け犬や結婚難民などと言う言葉が新聞記事などで踊っているのを見る。
過剰だとも思うが、少子化が進んでいたりと現実問題、未婚者の増大というのは日本の将来に大きく影響するようで、その背景についても書かれている。
どうして結婚しない社会になっていったのか等にも触れており、わかりやすい。
読んだから何かが大きく解決し、動くということではない。
でも、未婚と現代社会の流れが大きく関係しているんだということがわかり納得できたのは大きな収穫だった。
面白く興味深く読むことが出来た。
未婚の子供を持つ親、結婚したいと思っていたり焦っていたりするのに本気で向き合えない人におすすめの1冊。

<すばる舎 2005年>


菊地 正憲
なぜ結婚できないのか 非婚・晩婚時代の家族論

7irono51 最近また凝っているアンソロジー本。
7人の女性作家が7つの恋愛をオムニバス形式でまとめた短篇集。


『そしてふたたび、私たちのこと』は角田光代の作品。


登場人物は高校時代の同級生3人組、私、ユリエ、ワカコである。
私は普通に年相応の恋愛をし、36歳になった。
ワカコは高校の頃から妻子持ちの年上男ばかりと恋に落ち続けていた。
ユリエはオタクな同年代の男と恋をし続けたが、或る日全く違う恋をし始める。
常軌を逸した行動を取ってしまうワカコ、そのワカコを否定しつつも気にし自分も同じ気持ちを味わってみたいとワカコに歩み寄る努力をするユリエ。
そんな二人を客観的に見守る私。
不思議な女の三角な友情を綴る。



女性3人でツルむというのは非常に難しいと思う。
女性が奇数だとまとまるのは至難の業ではないだろうか?
それをトラブルも含みつつさらりと描くのが角田光代らしく、結末も現代の恋愛事情と近くリアルでよかったと思う。



他にも井上荒野、藤野千夜、唯川恵、江國香織、谷村志穂などといった活躍中の女性作家が揃っている。
異色なのはミーヨンというソウル生まれの作家である。
初めて著者の作品を読んだ。
こんな風に、手軽に新しい作家と出会えるのがこういったアンソロジー系の作品集のよさである。
お盆休みに手軽に読書したいという思いは満たされた。
手軽に読書には短編が最適である。




<角川春樹事務所 2003年>


江國 香織
ナナイロノコイ―恋愛小説

renaishosetsu 5人の人気女性作家の恋愛とお酒をミックスした短編小説集。
サントリーと新潮社のコラボから生まれた恋愛アンソロジー。


『夜のジンファンデル』は篠田節子の作品。
主人公の絵美は、保険会社に勤める夫と暮らしている普通の主婦だ。
学生時代からの友人百合子とその夫・隆夫妻とは家族ぐるみの付き合いを続けている。
隆は五十を目前に、中東へ海外赴任することが決まっていた。
それは出世コースを外れたことを意味するもので、決して喜ばしい転勤ではなかった。
ホームパーティーの席で見る隆は特に打撃を受けているとは思えなかったが、気になっていた。
隆の住まいの庭には、葡萄棚がありジンファンデルがなったと隆は言う。
その葡萄は、数年前にアメリカでの出来事を思い出させた。
夫と行くはずだったサンフランシスコに一人で向かった絵美は、現地でトラブルに見舞われ、当時サンフランシスコに駐在していた隆に助けてもらう。
その時の思い出が、ジンファンデルだった。
サラリーマンとしての自分を優先した隆の話に、絵美は笑わずにはいられなかった。
そして、隆からの告白は絵美の心に深く刺さる。
その後、何もなかったように中東へ行った隆にはもう二度と会うことはなかった。


よしもとばななの『アーティチョーク』は祖父が愛したウイスキーの飲み方にこだわりを持つ女の恋愛と祖父への想いを描いている。
これもまた、よしもとばななの世界観がきれいにまとまった短編だ。
サスペンスが多い乃南アサの恋愛小説も久々に読むことができ、私個人としては本書はかなりの満足度である。
ベテラン作家5人なので安心して読めるし、失敗がなかった。
ひとりでお酒を飲みながらのんびりと読書をしたいときにおすすめの1冊。


<新潮社 2005年>


川上 弘美, 篠田 節子, よしもとばなな 他
恋愛小説

mititarinutuki 独身でフリーランスのイラストレーターとして活躍する女と、若くして結婚し子供を産み離婚したいと思う専業主婦の女。
同級生だった二人は、同い年でも全く違う人生を歩んでいた。
34歳になり、二人は再び近づきはじめる。
女の幸せはキャリアにあるのか、家庭にあるのか、女同士の心の奥を描く友情と恋愛の物語。


主人公・おかざき圭はフリーランスのイラストレーターだ。
女性誌で挿絵を書いたり、コラムやエッセイ、ライフスタイルをインタビュー記事と写真で披露したりと活躍中である。
美術系の短大を卒業後、就職した後にフリーになった。
紆余曲折を経て今を勝ち取った圭は、充実した日々を過ごしていた。
編集者の恋人・章人もいて、女としても潤っていた。
或る日、短大時代の同級生・絵美子と会う。
久々に会う絵美子は圭とは全く違う人生を歩んでいた。
学生時代の恋人・佐々木と23歳で結婚し、茨城で生活し、男女1人ずつの子供を育てる絵美子。
二人の間には短大時代の思い出しか、共通する話題はなくなっていた。
軽い気持ちであった圭であった。
しかし、絵美子には大きな影を落とした。
離婚したいと思い別居を考えて実家に戻っている絵美子に、圭は眩しくてたまらなかった。
洒落た靴、垢抜けたファッション、都心のマンション・・・
絵美子にはどうしたって手に入らないものばかりが圭を取り囲んでいた。
全く別々の道を歩んでいた二人が、絵美子の離婚騒動を機になぜか交わりはじめた。
編集者になりたいなどと甘えたことを言う絵美子に嫌悪感を覚える圭。
年下のボーイフレンドが出来たと少女のように微笑む絵美子に苛立つ圭。
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溜まりに溜まった鬱憤が、絵美子の夫佐々木からの電話で漏れてしまう。
離婚し、子供も手放すことになった絵美子を哀れに思い自分の事務所で雇うことにした圭だったが、その仏心が破綻を招く。


独身で自立している女性と、既婚で家庭を守ることに生きてきた女性とでは会話が盛り上がる訳がないと思う。
そして、一度生じたズレがそう簡単に埋まるとも思えない。
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家庭での苦労、姑や夫の世話での辛さを払拭しながらも生きる苦痛。
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女の幸せは、どちらなんだろうか?
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そういったことを考えさせられる小説で、十数年前に出版された本なのに今の時代にも沿う内容なのは驚きだ。
なかなか面白い、女性同士の心の闇を描いた物語である。
生き方に迷っている女性におすすめの1冊。


<文芸春秋 1992年>


林 真理子
満ちたりぬ月

spilarage 40歳を目の前にして、不倫の恋に清算をした女。その同級生で年下の若い男を殺した女。更に不倫相手の妻。
或る日突然3人の人生が絡み合う時、3人は1つの罪を共有し、なぜか助け合う。
40代の女3人の、女としての生き方と生々しい苦痛の日々を描く長編サスペンス。


前島美樹は中野の分譲マンションを購入した独身OL。
薬剤師の資格を活かし、外資系企業で医療機器の薬事申請業務に携わっている。
ローン返済に追われながらも充実した日々を送っている。
3年に及んだ不倫の恋を清算し、空虚さは残っていた。
そんな或る日、駅のホームで高校時代の同級生・岩井雪乃に会う。
懐かしいニックネームで呼ばれたからか、人恋しかったからか、その気も無いのに自宅住所や連絡先を印刷した名刺を雪乃に渡してしまう美樹。
そこから全てがズレはじめ、狂い始める。
雪乃は年下の若い男を殺した後、美樹の部屋を訪れる。
美樹の部屋にいる金魚を見る為だ。
その金魚は雪乃の死んだ弟が釣った金魚だったのだ。
そこからなぜか同居してしまう二人。
犯罪者と、それをかくまう普通の会社員。
二人の共通点は金魚と同い年の同級生ということだけ。
雪乃をかくまう日々だけでも大変なのに、今度は不倫相手沢口の妻・暁子が登場する。
暁子は人気ファッション誌の読者モデルをしている美しい女で、ふとしたことから知った夫の不倫をを問いただそうとマンションを訪れる。
しかし、暁子が遭遇したのは雪乃だった。
そこから3人の人生は絡み合い、思いもしない結末へと進んでいく。
美樹の母、険悪な仲が続くバツイチの実の姉、その娘。
暁子の姑、小姑、思春期の息子、気の利かない夫。
外野との絡みや主人公たちの心理描写がうまく描かれ、女達の不思議な仲間意識や守りあう気持ちへと繋がっていく。


結婚しそびれた女2人と結婚し子供を産み幸せに暮らしている女。
3人は昨日までは全く関係の無い3人だった。
ところが或る日、急速に距離を縮めて何かを共有し何かを守り何かを育てていこうとする。
3人3様の複雑な心を持ち、皆が悩み苦しむ。
穏やかな毎日とは疎遠の日々の中でとんでもないことを受け入れ、とんでもないことに首を突っ込んでいく様は興味深い。
なぜそんな選択をするのか?なぜそんな風に結論を出すのか?
同じ女でも、よくわからない部分もあるが、理由は説明できないが共鳴できてしまう部分もある。
一気に読めてしまうサスペンスだ。
結局、軸となる雪乃が殺した相手に対しての怨念や何故殺したのかについて書かれていない部分がこの物語を面白くしているのかもしれない。
殺したことがテーマではなく、殺した後の日々がテーマなのだ。
また、独身女性の生き方と孤独、悩みも切実だったり、既婚女性の辛さと虚しさの描写もリアルでそちらの部分でも読み応えがあったと言える。
今までに読んだことのない感じの物語で楽しめた。
お盆休みに入る方もいるかと思うが、お休みを利用してサスペンスをと思われている方におすすめの1冊。


<講談社 2005年>


新津 きよみ
スパイラル・エイジ