青の炎 / 貴志祐介

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ahonohonoo 『黒い家』で第四回日本ホラー小説大賞を受賞した著者の作品で、数年前に映画化されている。


櫛森秀一は湘南に住む高校生で17歳。

女手一つで秀一と妹を育てる母と、明るくかわいい妹との三人暮らしだ。

穏やかな毎日が、或る日壊れた。

自分たちの幸せを踏みにじる侵入者が現れたのだ。

母が昔再婚し、別れた男・曽根だった。

曽根の傍若無人な振る舞いに秀一は怒り、気持ちを押さえきれなくなる。

母だけでなく妹にまで危険が及びそうな生活に耐え切れなくなり、秀一は考えはじめる。

誰に相談しても、警察を頼っても、法を頼っても、秀一の願いは聞き入れられることなく、願いも叶うことはないとわかり、秀一は自らの手でこの澱んだ空気を一掃しようと決意する。

そして、完全犯罪を模索しはじめる。

どうやれば、曽根を消せるのか。

どうやれば、また家族三人で幸福に暮らせるのか。

秀一は考える。

そして、実行する日がやってくる。

青少年犯罪が横行する今の日本で、このような事件が起きもなんらおかしくないだろう。

それくらいリアルで、今の社会に沿っている話だと思う。

ここまで少年を追い詰めるような義父に大きな問題はある。
しかし、少年がそこで問題を解決する答えが犯罪にしかないと思わせるような社会も問題だ。

これはフィクションで、小説だ。

けれど、妄想とは言えない気がして恐ろしい。

読み終えた後、色々考えさせられ、恐怖と感動が入り混じった1冊だった。


角川文庫 2002年>


著者: 貴志 祐介
タイトル: 青の炎 (文庫本)

著者: 貴志 祐介
タイトル: 青の炎 (単行本)
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hachi 運命に導かれるように出会った男女の、恋の物語。


主人公マオは不思議な力を持つ祖母の死に際に、予言のようなものをつぶやかれた。
急いでメモを取ったそれは、【あとは継がない、絵を描く、ハチ、大事、ハチの最後の恋人】だった。
新興宗教のようなものの教祖的な存在だった祖母と、その会を営む母の下で育ったマオにも、何か不思議な力はあった。
祖母が亡くなった後、揉めている家に嫌気がさして家出をした時、ハチという名の男性に偶然出会う。
恋に落ちる瞬間、突然訪れる家庭の崩壊、変わった人々との出会い、ハチとの穏やかな生活。
そして、いつか訪れる別れ。
ゴールの見えた恋愛に身を投じるマオとハチのせつないやりとりが心に沁みる。
優しさにも寂しさにも満ちた不思議な時間の中で、愛を育み、羽ばたく時を待つ二人。
そしてマオは気付く。
もう会えないとしても、死んだ訳じゃなく、この空の下でハチは生きているんだと。


どうして著者の小説に出てくる人々は、こんなに素直で透明感がある感じなのだろうか。
エグいことをしていても、とんでもない境遇で育っていても、それらが悪い方向へ働かずにいる感じがして、読んでいて暗い気持ちにならない。
現実的で生々しい様々な体験の部分も、嫌悪感を味あわせないで読ませる文章を書くって凄い。
そこが魅力なんだろう。

<中央公論社 1996年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハチ公の最後の恋人 (単行本)

著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハチ公の最後の恋人 (文庫本)
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bokuta 1996年に交通事故に遭い療養中の人気マンガ家・岡崎京子の初の物語集。

著者の漫画を愛読する方なら、懐かしい感じがする言葉や文調がつまった14の短編が収録されている。


『一分間(あやちゃんに)』は私がエレベーターを待つ時間に家族のこと、日常の風景、偶然見かけた手袋のことなどを思い巡らせる物語だ。
お父さん、お母さん、2つ年下のよりちゃんのこと。
2DKのびっしり物が詰まった部屋のこと。
今ではボロくなったニュー・タウンの我が家のこと。

エレベーターが着くまでに、頭の中でぐるぐると思う様々な出来事。

そして、やっとエレベーターが来た。

そして私はそれに乗る。

ドアが閉じる瞬間に見知らぬ男の人が飛び乗ってきたので私は「何階まで?」と聞くと「15階」と言う。

新しい住人だろうか?お客さんだろうか?そんな風に思いながら、自分の住む階に着くのを待つ私。

でも、私はもう家に着けないのだった。


著者の漫画なら、こんな感じの登場人物と、背景がと・・・と頭に直ぐに浮かんでくるような物語ばかり。
著者ならではのエグさやリアリティが、小説の中にも存在していた。

好き嫌いはあるだろうと思うが、今の岡崎京子を再確認できる1冊




平凡社 2004年


著者: 岡崎 京子
タイトル: ぼくたちは何だかすべて忘れてしまうね
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kudokan  俳優であり脚本家であり今回は映画監督の仲間入りとなった宮藤官九郎。
映画のオファーがあった時から、映画完成、披露までの一部始終がドキュメントが映画日記という形でまとまっている。


製作の過程や撮影現場の写真等、初監督作品である『真夜中の弥次さん喜多さん』のオフショットがたっぷり楽しめる。
日記の部分は撮影日全て分が収録され、どのシーンで何を思っていたのか、何を感じていたのかを知ることができる。
スタッフの行動や言動を観察している辺り、著者の観察力や独自の視点の在り方のヒントではないかと感じた。
映画監督としての初々しさも感じる文章が続き好感が持てるし面白い。
著者の作品によく出演する俳優陣についてのコメント的なものもあり、ファンなら楽しめること間違いなしの本になっている。


シナリオがほぼ全部収録されているので、映画を見た後にそれを読めば誰がどこでアドリブ入れてたかもわかってしまうというオマケもついてくる。
『真夜中の弥次さん喜多さん』観覧後に余韻に浸りながら読むのをおすすめしたい。


<角川書店 2005年>


著者: 宮藤 官九郎

タイトル: くど監日記 真夜中の弥次さん喜多さん

furarifurari ミニコミ誌の制作、雑誌への執筆、コピーライティング、インテリアコーディネートなど様々な事柄を手がける著者の3冊目の本である。


webで連載中の日記 に、初秋から晩秋にかけての鎌倉散歩、切手の楽しさ、装丁で本を選ぶ等の乙女なテーマのエッセイを追加した1冊。

著者の素敵な写真と日常の記録がぎっしり。
表紙もレースの女の子ちっくな装丁になっているが、内容も女の子である。
乙女である。
著者が買った本、訪れた場所や食べたもの、お気に入りの音楽など、読んでいると心がほわ~んとしてくるのが不思議。
小さな楽しみを提案してくれるので、自分の日常を見直そうかなと思えるのがいい。

読みながら、紹介されているいろいろな場所に行きたくなってくる。


乙女的発想が頭に広がり、
女性として生まれてきたことを嬉しく思わせてくれる1冊。

とにかくページをめくってみなければ魅力はわからないだろう。

ただ、鎌倉散歩の部分は秋の撮影なので、読む季節を間違えたかもしれない。


<新泉社 2005年>


著者: 柳沢 小実

タイトル: ふらりふらり帖

虹 / 吉本ばなな

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niji 実家の食堂、タヒチアンレストランと、ウェイトレスをする主人公の恋と転機の物語。
吉本ばななの「旅」をモチーフとした小説シリーズの1つ。


人生初とも言えるまとまった休みを使ってタヒチへ一人旅をしている水上暎子が主人公。
海と太陽に包まれたタヒチで一人、暎子は思う。
東京での怒涛の日々、そして自分の心。
これからどうするのか、自分はどうしたいのか。
タヒチで東京の生活を思い起こし、自分と向き合う姿を描く。


暎子が育ったのは海辺の観光地で、祖母と母と暮らしていた。
二人がは小さな食堂を営んでいた。
幼い頃から食堂の手伝いや家事をして過ごしていた暎子。
母が食堂を畳んだのをきっかけに東京に出て、憧れていたタヒチアンレストラン「虹」で働きはじめた。
人生初めての就職は、住宅街にある素敵なレストランで、暎子はウェイトレスを天職だと感じるようになる。
充実した毎日が過ぎていたのに、或る日母が死んだ。
暎子は母の死で疲労し、体調を崩してしまう。
見かねた店長が暫くの間、オーナーの家の家政婦をしながら休養してはどうだと暎子に提案し、暎子はそれを受け入れる。
オーナー、オーナーの妻、オーナー宅で飼われる犬と猫。
それらとの出会いで暎子の心は揺れ、乱れ、穏やかな毎日に変化が生じる。
恋や怒りや衝動的な行動が続く中、逃げるようにタヒチへ旅立った暎子。
帰国までの日々の中で、暎子は悩みながら、自然と戯れながら、自分が歩む道を見つけ出す。


自分の暮らす場所から遠く離れて、己を冷静に見つめる。
自己との対話的な物語の進み方は、読みやすく感情移入しやすかった。
揺れる自分、迷う自分を見極めるには、その悩みの種から離れて冷静になることが一番だ。
主人公が冷静になる場所に選んだのは、タヒチだった。

何度読んでも、どの作品を読んでも、毎回著者の世界に浸ってしまう。
どうして著者はこうした世界が描けるのだろうか。
優しくておくゆかしい言葉の数々と、心に迫る感情表現は素晴らしいと思う。
この作品でも魅せられてしまった。


<幻冬舎 2002年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: 虹 (単行本)


著者: 吉本 ばなな
タイトル: 虹 (文庫本)

おやじ丼 / 群ようこ

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oyajidon どこの職場にも必ずいる〝オヤジ〟。
身勝手なオヤジに、臭いオヤジに、エロオヤジに、ケチオヤジ。
色んなカテゴリーに属するオヤジたちの哀愁や勘違い、思い上がりや間抜けっぷりを描く爆笑短編集。


『恥ずかしい人』はキムタク気取りでロン毛・茶髪にしたこっぱずかしい上司を観察している物語だ。
「ゴンドウ商事のキムタク」ことキムラタクジロウは48歳。
キムタクには全く似ていないキムタクである。
自分をハンサムでイケている男だと信じきっている。
ネクタイやハンカチ、靴などに気遣ってはいるが、誰もそれを評価していない。

まるで馬のような顔のオマヌケなキムタクの勘違いっぷりが克明に綴られる。
女子社員だけでなく、部長や同僚男性社員からも煙たがられている。
自分は若いと思っているキムタクをぎゃふんと言わせたいものの、人一倍口が達者でなかなか太刀打ちできない。
そんな或る日、渋谷でキムタクのプライベートを目撃する。


ハゲとか地味とかそんなことは特に問題ではない。
しかい、勘違いや自分をカッコいいと思っているオヤジは困る。
世の中には曲者オヤジが多く、迷惑をこうむる瞬間というのは多々ある。
そんなシチュエーションを面白おかしく短編にし、笑わせてくれる。
哀しいオヤジや切ないオヤジの物語もあり、父親と各物語の主人公を重ね合わせてしまう瞬間もある。
オヤジの多い職場で働く女性なら、更に楽しめるだろう。


<幻冬舎 2000年>


著者: 群 ようこ

タイトル: おやじ丼 (文庫)


著者: 群 ようこ

タイトル: おやじ丼 (単行本)

hardluck 死をテーマに描く二つの癒しの物語集。
奈良美智の装丁や挿絵も物語を印象付ける。


旅先で死んだ女友達を思い起こす奇妙な夜を描く『ハードボイルド』と、脳出血で入院中の姉の存在を通して、自分や家族や姉の周囲で生きた人間の心を知る『ハードラック』の2話が収録されている。

『ハードラック』の主人公〝私〟の姉は、脳出血で入院して1ヶ月になる。
沢山の管に繋がれ、自発呼吸をしなくなった。
少しずつ脳幹が機能を失っていったのだ。
いつか脳死が判定され、呼吸器を外す時を待つしかない日々だった。
結婚退職の為に詰めて仕事をし、徹夜続きの或る日倒れた姉。
フィアンセはショックを受けて故郷に引き返してしまった。
母親は今にも崩れそうな状態だ。
父も気丈に振舞っているが元気な訳はなかった。
そして〝私〟も、抜け殻のようだった。
けれど、1ヶ月経過して姉の容態がこれ以上よくなることはないとわかり、中断していたイタリア留学の準備を再び始める。
そんな姉を頻繁に見舞うのが境くんで、彼は姉のフィアンセの兄だった。
故郷に引き返してしまった弟の代わりだと思っているのか、こまめに足を運んでくる。
一風変わった風貌と不思議な雰囲気を持った彼に惹かれる〝私〟。
彼と話していると、とても落着く気がしてくる。
やがて、姉の死が訪れる。
永遠にやってこない、一度きりの今年の秋を見送る日がやってくる。


身近な人間の死をテーマにした吉本ばなな作品は多い。
その中でも、さっぱりと読めるタイプの本だと思う。
霊や夢で何かを予知したり、感じるといった経験が全く無い私には感情移入しきれないところがあるのは否めないが、吉本ばななの書く透明感のある文章や、やさしい空気感に惹かれていつも読んでいるのだ。
本書も、心をろ過してくれるような文章が続く癒しの1冊だと思った。


<ロッキング・オン 1999年>


著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハードボイルド/ハードラック (単行本)

著者: 吉本 ばなな
タイトル: ハードボイルド/ハードラック (文庫)

ダカーポ 559号

テーマ:

dacapoコンビニに入って直ぐの棚に、常にぽつんと存在するダカーポ。
普段は買おうと思うことも無いのだか、今回は表紙を見るなり手に取って即レジへ行っていた。

表紙を見ればわかるとおりの特集内容だ。
『「恋愛小説」の書き方と読み方』である。
書き方編と読み方編に分かれていて読みやすく、わかりやすかった。
当然、恋愛小説の書き方の章もあった。
マガジンハウス編集部の方のインタビューがあり、江國香織と唯川恵の恋愛小説の組み立て方や作風について述べているところはなかなか面白かった。
編集者ならではの視点での語りは、読み応えありだと思う。
また、江國香織・角田光代・渡辺淳一・高樹のぶ子・川上弘美・よしもとばななという人気作家の6作品を解剖・分析するくだりも面白い。
各作家の作品を1つ選び、作品データ・構造・主人公のキャラクター・あらすじなどをまとめ、作品の時間の流れを追うというなかなか面白い解剖記事だった。
作品の分量、物語の時間、セックス描写の回数などを全てカウントしているのだ。
他にも井上荒野、島本理生の恋愛小説の作り方やポイントなどのインタビューもある。
ページ数は少ないが、濃密な記事でさっくり読める割には読み応えがある。
読み方編では藤田香織氏が21世紀の名作恋愛小説を国内・海外作品から各5作品選び、語っている。
自分が読んだ作品が含まれていたので、なるほどと思ったりそうかなぁと思ったりしながら読めた。


25~6ページの特集で、深みはそんなにないかもしれないがページ数の割には満たされた感じで読み終えることができた。
恋愛小説が好きな私なので楽しめたんだと思う。
290円でこの内容なら悪くないのではないかと思う。
最近の恋愛小説の傾向がわからない、読みたいけれど何が面白いのかわからない、色々読んだのでその作品について興味がある、好きな恋愛小説家がいるからどう評価されているか知りたいなど、これらに該当する方にはおすすめ。

 

<マガジンハウス 2005年>

tamorisakaお昼の番組の司会でお馴染みのタモリだが、実はマニアックな知識が豊富で博学なのだ。
テレビ番組「タモリ倶楽部」では、江戸ブームが起きた昨年よりかなり昔から東京を堪能する企画を連発していた。お家芸と言ってもいいだろう。
そのタモリが日本坂道学会の会員として、坂道をテーマに東京散策を語っている。
『TOKYO1週間』で人気の連載が1冊の本としてまとまった。

 

23区内でも選りすぐりの坂をタモリ撮り下ろしの写真で楽しめる。
もちろんオールカラーだ。
坂の由来から周辺の街並み、古地図や界隈のグルメスポットなどもフォローされている。
史跡紹介や坂にまつわる歴史系エピソードなども網羅されているので、これ1冊でかなり東京の坂に詳しい人になれてしまう。

散策、デート、普通に坂道を楽しむなど、街歩き本としてはなかなか有能だ。
こんなに情緒溢れる坂道が東京にあったのか!と驚いたり、やっぱりここは素敵だなぁと再確認したりと、本書をたっぷり堪能してしまった。

 

東京を歩いて楽しむ散歩系の本は山のように出版されている。
しかし、切り口が「坂道」というのが新しい気がした。
タモリが「よい坂」として挙げる4つの条件を満たした坂道をGWに楽しんでみるのはどうだろう?

 

<講談社 2004年>

 

著者: タモリ
タイトル: タモリのTOKYO坂道美学入門