角田光代は最近話題になることが多い女性作家だと思う。
書店店頭でも平積みを横目で見ながら、なぜか手に取ることがなかった。
そんな時、知人から借りたのがこの『庭の桜、隣の犬』だった。

よくある、普通の人生を歩む房子と宗二は30代の夫婦。子供はいない。
極々普通の二人の生活は、宗二の母親や個性的な同僚レミの存在、ちょっとしたハプニングによって揺れていく。

なんとなく結婚した二人。二人は結婚に強い思いもなかったかのように感じた。結婚の意味がわからない二人。
そんなものだからと結婚して、そんなものだからと親の援助でマンションを買い、そんなものだからと生活を共にしてきた二人の「未熟」さ。
何もかも満たされ、特に不満もなくハングリーさの欠片もなく中流家庭で育った二人は、或る日気付く。
強い思いで築き上げた何かが存在しないと。
二人の家庭のはずが、その家庭すら自分たちのモノでは無いと感じてくる。
夫婦ってなんだろう?心にある厄介な何かを抱えて、自分たちははどこへ向かうのだろう?何が答えなんだろう?
二人は彷徨っていく。

読み終えて、とても満足していた。
私が思っていること、私が普段感じることに近く、シンパシーを感じた。
私も、この夫婦と同じように、一体何が答えなのか、何を築いてきたのか、どこが本当の居場所なのかと悩むことがある。
ちょっと変わった、でも生々しい家族の肖像が詰まった1冊。この1冊で、何かが見えるかもしれない。
そして私は小さな何かを見つけられた気がしている。

<講談社 2004年>

著者: 角田 光代
タイトル: 庭の桜、隣の犬
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カラフル / 森絵都

テーマ:
2002年に森田芳光の脚色で映画化された森絵都のコメディ系小説。

いいかげんな天使が、一度死んだはずの〝ぼく〟に言う。
「おめでとうございます、抽選にあたりました!」と。
〝ぼく〟は他人の体に乗り移ることになるという・・・
〝ぼく〟が乗り移ったのは「小林真」という自殺したばかりの14歳の少年。
真は絵を描くのが得意な以外は、親友と呼べる存在も持たないパッとしない少年。
父親は自己中な偽善者で、母親はフラメンコの先生と不倫・・・何もいいところなんて無く思える「小林真」。
乗り移っている気楽さも手伝って、「小林真」が存在する世界をじっくり観察してみる〝ぼく〟。
そして〝ぼく〟は少しずつ気付いていく。現世はそんなに単純じゃない、たくさんの色に満ちていると。

最初はなんだかよくわからなかったが、読み進めるうちに心に染みてくる1冊。
随所随所でじんわりくる言葉が使われていて、自分が中学生だった頃に読めたら何か違ったかなぁなんて思った。
基本的に、こういったコメディ系の小説や何かに乗り移って~的な小説は好まないのだが、友人の強い薦めで読んでみたのだが、思いのほか心に残った。

中高生向けの小説だと思うが、忘れたあの頃が心をいっぱいにしてくれる暖かい作品。
【世界はたくさんの色に満ちている】というテーマは、どの世代にも共感できるもの。学生時代の心を呼び起こしたい時にはもってこい。

<理論社 1998年>

著者: 森 絵都
タイトル: カラフル
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以前も紹介した『東京 五つ星の手みやげ』の続編。
東京でおすすめできる和洋菓子等をフルカラーできっちり紹介している。
有名店から穴場のお店まで、幅広く網羅していた前作同様、今回も色々な店が満載だ。
帯にもあるように、〝知る人ぞ知る〟という感じだ。

東京に住む人へのお土産は、前作だと「あ、●●のだ!」とわかってしまいそうだけれど、今回紹介されている店のものならば、「知らないなぁ」となるかも。
そんな期待を抱いて読み進め、さっそく週末の外出に役立てようと思っている。

東京に住む人のお土産用だけではなく、地方から上京した時のお土産にも活躍間違いない。
大人の女には欲しいお土産知識が詰まってる1冊なので、たしなみとして読むことをおすすめしたい。もちろん前作と併せて。

<東京書籍 2004年>

著者: 岸 朝子
タイトル: 【続】 東京 五つ星の手みやげ
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ミルキー / 林真理子

テーマ:
林真理子は短編も面白い。短編集が出版されると即手に取ってしまう。
この『ミルキー』もそうだった。
ごく普通の男女の愛とセックスを描く12作を収録した短編集だが、林真理子曰くあまり売れなかったらしい。正直なところ、この本は今までの連作短編集等に比べるといまいち感が拭えないが、読んだからこそ言えること。
私がいまいちだと思っても、面白いと絶賛される方もいるだろう。
そこで、紹介してみることにする。

表題作「ミルキー」はバツイチの奥村という男が主人公だ。
一年の産休の後戻ってきた陽子とのあれこれを綴っている。
その日は陽子の復帰歓迎会が内輪で行われた。
奥村は陽子と数回寝たことがあった。不倫だのなんだのと言う程の関係ではないが気になってしょうがなかった。
広告代理店の営業職の陽子は、高給取りの夫がいながら職場復帰を果たし、あの頃と同じ妖艶な女のままだった。
シミもシワもなく、子供を産んでさらに綺麗になったくらいだった。
奥村は陽子との情事を思い出しながら今の陽子を見つめている。
陽子も奥村を意識しながら周りと楽しそうに盛り上がっている。
その歓迎会の後、奥村は予想もしない〝アクシデント〟に遭遇する。

こんなオチがあるだろうか?
想像もしない結末だった。
昔の女との久々の再会に盛り上がりあれこれ思い巡らせる様までは想像できるが、その後の結末は度肝を抜かれた。
そして、「ミルキー」という題名に納得した。

やっぱり林真理子は素晴らしい作家だと思える短編集だが、私の心を鷲掴みにするまでには至らなかった。

<講談社 2004年>

著者: 林 真理子
タイトル: ミルキー
祇園は、私のような庶民には馴染みのない街だ。
その祇園で舞妓としてデビューし、1966年から6年間売上ナンバーワンの舞妓だった著者の自叙伝だ。

著者は岩崎峰子、1949年、京都府生まれ。
4歳ので祇園甲部の芸妓置き屋・岩崎に入り、1960年、同家の養女になる。
15歳で舞妓としてデビュー。20歳で芸妓、大手酒造メーカー等のCMでも活躍し、29歳で芸妓を引退する。
日本画家との結婚を機に絵の修復作業に携わりながら、何冊か本を出版している。
現役時代は祇園を代表する芸妓として各界のVIPにかわいがられる。
近年祇園文化を世界紹介する仕事にも取り組んでいる。
そんな著者が積んだ祇園での教養・芸の研鑽・様々な人々どの親交を赤裸々に記している。

私が想像していた祇園のお座敷とは、芸妓をあげてドンチャン騒ぎ・・・と思っていたのだが、そうじゃないようだ。各界の著名人が、心からくつろぎ、人と人とが語り合える場所、それがお座敷のようだ。

引退直前まで第一線で活躍した彼女の人生は、普段は絶対に覗くことのできない祇園の深部を支える人々の暮らしを紹介してくれる。
実に興味深く面白い。
女の人生として、こんな生き方も存在するのだ。
見知らぬ世界を教えてくれた1冊。

<集英社 2004年>

著者: 岩崎 峰子
タイトル: 祇園の課外授業

団欒 / 乃南アサ

テーマ:
一時期、乃南アサにはまり発売されている文庫を次々購入し読み漁った時期があった。
その中で印象に残った作品がこの『団欒』だ。

学校経営者の娘と結婚し、逆玉と言われる立場に立った男。婿養子となり妻の両親と同居することになるが、その家族の生活は男の想像を絶する光景ばかり。妻たち家族の奇妙な絆を訝しげに見つめていた男。或る日我慢が出来ず爆発してしまう。しかし妻たち家族は男の爆発程度に驚きたじろぐような人たちではなかった・・・
そんな世界を描いた『ママは何でも知っている』他、家主である男を除いた家族達が次々に生活を独自のルールで縛り生活が奇妙に歪んでいく『ルール』など、家族を軸にした本当のような嘘のような寒気のする物語が続く。

家族の絆、家庭ごとの決まりごと・・・他人には理解できない〝家族〟という社会を乃南アサ流に描く。
この本の題材は、そこらにありそうな家族団欒のワンシーンだ。
しかし、乃南アサのエッセンスを加えるだけで恐怖の非日常的な世界に変化する。
ドラマにありそうな要素の詰まった家族サスペンスは「世にも奇妙な物語」の世界。
そんな怪しい家族たちの世界を5つ収録した短編集。
さくっと読めるサスペンスとしておすすめする。

<新潮文庫 1998年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: 団欒
私の好きな乃南アサが表現されてた、7つの物語詰まった短編集。
表題作のように冬をテーマにしたものから、梅雨・台風・残暑など日本の四季が人間の心を狂気にかりたてていくさまがうまく描かれている。

「指定席」は津村弘という、中肉中背で本当に普通の特徴の無い男性が主人公。
会社の同僚にも特に強い印象を与えず、何度会っても忘れてしまうような存在が津村だった。
遅刻もせず、残業もせず、毎日を淡々と送る。時々心で毒づきながら、おとなしく過ごしている。周りからは勝手に倹約家と思われる程、服装も構わない。これといった趣味も無く、酒もタバコもギャンブルもしない。就職してからずっと同じアパートに住み、独身という背景から、勝手に貯蓄に励んでいると思われるような地味な男だ。
そんな津村の毎日の楽しみは近所のコーヒーショップ〝檀〟での1杯のコーヒーと読書の時間だった。津村は通ううちに勤めるウェイトレスが気になっていった。
いつもカウンターの右端の指定席に案内してくれるウェイトレス。
そうやって穏やかな毎日を営んでいた津村の生活に少しずつズレが生じてくる。
最後に露見される津村の本当の顔とは・・・

季節の風景と人間関係を絡ませて、小さな心のズレが生じた男女の日々が描かれている心理サスペンスだ。
背中にゾクゾクと迫ってくるような恐怖を味わえる。
乃南アサ作品は、心理描写に長けており、短編は読んでいる人の想像を深く深く掘り下げてくれる物語が多く、臨場感溢れると思う。その代表作とも言えるのではないだろうか。

<幻冬舎文庫 2000年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: 悪魔の羽根

花盗人 / 乃南アサ

テーマ:
乃南アサといえばサスペンス作家と思われがちだが、時々違う形態のものも発表している。サスペンスの要素を若干含んだ、違う作品。
そんな小説を集めた1冊だ。

普通の日常が営まれる中で起きる小さな歪。本当に小さなものなのに、その出来事1つで心が乱れ、病や事件が起きてしまう。
普通が戻ってこなくなる。
様々な男女の日常が怖くて意外な結末まで流れる物語が詰まった全10編。

表題作「花盗人」は祐司と公子の夫婦の物語だ。
1DKのマンションで、世話の焼ける夫・祐司の世話をする公子。
7歳年下の祐司は、出会った当時は若く輝いて見えた。その祐司が年上の公子に熱を上げ大学卒業と同時にプロポーズをしたのは遠い昔の話だった・・・
たまには凝ったものを食べたいと言う祐司。デパートで勤める公子は疲れから食品売場で出来合いの惣菜を買って来てしまう。
広い家に住みたいと言う祐司。共働きでそれなりの収入があっても祐司の散財や転職で大した額は溜まっていないのでため息しか出ない公子。
そんな日々に疲れていた公子は、職場のみんなで飲んで騒いでパチンコをやってウサ晴らしをした。そうやって家を空けた公子に詰め寄る祐司。
公子の心に少しずつ闇が広がる。
毎日パチンコをしなければ家に帰れなくなった公子。でも、毎日しなければ収まらないのはパチンコだけじゃなくなっていた・・・

乃南アサの幅広い作風が一気に楽しめると文庫にもあったが、全くそのとおり。
サスペンスだけではない、恋愛だけではない、人間というものを扱った深い作品も書ける乃南アサを知ることが出来る短編集。

<新潮文庫 1998年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: 花盗人
今日は乃南アサ特集のように、乃南作品を紹介していくつもりだ。

この『ヴァンサンカンまでに』はサスペンスではなく、恋愛小説だ。
だが切り口はやっぱり乃南アサ。
ドキリとする展開や、恋愛をサスペンスのように捉えている部分があり、普通の恋愛小説とは違うストーリー展開を楽しむことが出来る。

主人公・仲江翠は入社一年目の新人OL。アパレルメーカーで広報を担当している。
同僚の原田恭一郎と恋仲だ。原田を狙う女子社員もいるほど、原田は注目の男性社員だった。原田とは結婚も視野に入れ、普通の恋愛対象として交際を続けている。
また、隣の部署の課長・荻島俊之とも不倫関係を楽しんでいた。荻島とはリッチなデート、ゴージャスな贈り物、充実したセックスの相手として関係を継続していた。
そんな中、同期の野崎亜希が不倫相手の上司を刺すという事件が起きる。
翠には全く関係ないようなこの事件をきっかけに、少しずつ今までの生活に暗い影が忍び寄ってくる。
深まるにつれ見えてくる原田の本性、多忙になり壊れていく荻島・・・
楽しいOL生活を続けたいだけの翠。その願いも虚しく、翠の未来は揺れていく。

社内で恋愛と不倫の同時進行。
よくあることだ。
翠だけじゃない。
ちょっと欲張った幸せは、誰しもが掴みたいと願うシロモノだろう。
翠は望みどおりそれらを掴んだが、満たされない。
そんな翠が本当の愛に気づく日がくるのか、自分の未来を願いどおりに操れるのだろうか?

世渡り上手なOLだと思っていても、いつか崩れてしまう日がある。
OLの揺れる心をテンポよく読ませてくれる1冊。
ただ、不倫や恋愛に行き詰まっている人は読むとちょっとへこむかもしれない。

<新潮文庫 2004年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: ヴァンサンカンまでに

鎖 / 乃南アサ

テーマ:
乃南アサが第115回直木賞を受賞した『凍える牙』の続編となる、女刑事・音道貴子が主人公の活躍する長編第2作目。
以前紹介した『嗤う闇』もこの音道貴子が主人公の短編集であるが、長編もかなり面白い。

東京都下で霊感占い師夫婦と信者2名が4人一緒に惨殺された。
音道貴子は警視庁のエリート星野とコンビを組み、捜査にあたる。相棒・星野の勘違いっぷりや、自分が女性ということで起きる小さな歪に苛立ちながらの捜査が続く。
或る日、捜査中に貴子は事件に巻き込まれ拉致されてしまう。

最初の霊感占い殺人、女刑事の辛さ、拉致事件、拉致後の辛い時間、そして最後まで一気に読み進めたくなる中毒性を持つ小説だと思う。
分厚いこと、少し冗長なのではと思わせるようなストーリー展開、主人公が窮地に陥ったまま延々とその状況が続くなど、途中でたるみそうな要素が揃っているのだが、実際手にしたらなんてことはない。
そんな心配は無用。
そして、乃南アサは素晴らしい作家だと実感する。

サスペンスが好きで読む時間も十分にあるという方にはぴったりの作品。
また、この作品の前に『凍える牙』、『花散る頃の殺人』などを読んでいれば、より楽しめると思う。主人公・音道貴子の刑事に対する思いや背景を知ることで、更に面白さが増すと思うからだ。
音道貴子シリーズは既に6冊ほど出ているので、気に入った方は続けて読んでみることをおすすめしたい。

<新潮文庫 2003年>

著者: 乃南 アサ
タイトル: