前回のお話








「雅紀・・・・雅紀が居ない・・・・・ニノ・・・・どうしよ・・・・・」



「しょうさん」



基本しょうちゃんは、いつも強気だ。
泣き言なんか滅多に言わないし愚痴だってこぼさない。
弱音だって吐かないし頭も良ければ顔もいい



後輩には慕われるし
先輩にも可愛がられる。



雅紀やニノの事だってしっかり支えてくれるし
料理以外は、なんでもこなす。



他の人から見たら、きっと、しょうちゃんには「隙」がない。
完璧な男



だけど
一歩家に入ればどうだろう
家に入ればじゃない



雅紀と居る、しょうちゃんはどうなのだろう。
雅紀の事になると、まるで別人の様になってしまう、しょうちゃんの姿を見る度
ニノはなんだか嬉しくなった。




だって、こんな間近で本物の愛に触れられることは、なかなかないから
キリっとしてる、しょうちゃんの顔がデレっとする瞬間も堪らなく好きだった。




「雅紀に・・・・雅紀に何かあったら・・・・・」



今はおどおど、しょうちゃん。
普通こんな姿は見れないよ。




ペットの特権かな



まるで2つの顔を持つように
雅紀の事になると感情をコントロール出来なくなる飼い主




「大丈夫だよ。他も探そう?家の中には居るでしょ。さすがに外には行かないよ」



酷く降る雨を映した窓辺に視線を送ってから
不安に震える、しょうちゃんの肩を支える様にして
ニノは別な部屋を探し始めた。




居ないと言った雅紀の寝室に行けば
お気に入りの毛布と共に可愛い姿は消えている。



ここって、さっきまで
しょうさんと兎が、なにしてた場所だよな・・・・



あまり想像したくなくて
思い切り寝室に背を向け別な部屋に行こうと廊下を歩くニノの鼻はピクピクと激しく動いた。



「しょうさん。多分、風呂場」


「え・・・・・」


「あいつの匂いがする」


「マジで?!!」


「すげー甘ったるい匂い」


「そっか・・・・おまえ犬だもんな」


「しょうさんだって、あいつの匂いわかるでしょ?」


「わかんない・・・・なんもしねぇよ」


「今はわかんないか。その鼻じゃ」




泣き過ぎて赤くなる鼻を、しょうちゃんは恥ずかしそうに手で隠しながら
ニノが言うバスルームに駆けていく。



バスルームに近付くにつれて、しょうちゃんが感じるのは
甘い香りよりも、雅紀の呼吸だった。



必死に泣き声を我慢して耐えている雅紀の息使いが、もしかしたら幻聴かもしれないけど
しょうちゃんにはハッキリと分かり一段と駆けるスピードが上がっていく。



勢いよくバスルームに着けば、今日3人で使った入浴剤やボディシャンプーの香りがして
こんな事になってしまった事を酷く悔やんだ。




「雅紀・・・・・」



目の前には大きな扉があるけど、確かにそこに雅紀が居る事がわかる。
手を伸ばせば体温が伝わって来そうで
しょうちゃんは、その白い扉に静かに手を添えた。



「雅紀。居るの?」



優しく囁くと雅紀の呼吸が一気に乱れるのが分かる。
やっぱり泣いている。



きっと浴槽の中でお気に入りの毛布に包まり膝を抱えて泣いているんだ。




「雅紀・・・・・」



今すぐ触れたくて、堪らずバスルームの扉に手を掛け開けようとしたけど
やっぱり内側から鍵が掛かっていて雅紀の姿を目で確認する事すら出来ない。




「雅紀。開けて。雅紀?」



愛する飼い主が何度呼んでも雅紀の反応はなく
後から来たニノに向かって、しょうちゃんは左右に首を振った。



「臍曲げたの?」


「多分、怒ってる・・・・だけど泣いてるよ・・・・・」


「あいつが悪いんじゃん」


「俺が悪いんだよ・・・あんな言い方・・・・」


「しょうさん甘いよ」


「雅紀が風呂で泣いてんだぞ。早く・・・・・抱き締めてやらないと」


「風呂場でいつも鳴かせてんじゃん」


「おい」



鼻に続き頬まで赤く染める、しょうちゃんはニノの頭をポコっと叩いた。



「見つめ直させるんじゃなかったの?」


「なんだよ。雅紀のところに行ってもいいって言ったじゃん」


「なんか甘過ぎてムカついて来たの」



しょうちゃんから雅紀への愛を感じるのは嬉しくもあるけど
やっぱりペットはヤキモチだって妬くんだ。



加糖過ぎればひねくれたくもなる。
ニノも上手く感情がコントロール出来ないでいる。




「もう十分だよ」


「30分も経ってないと思うけど」


「いいの!」


「兎学校で虐められてもいいの?」


「てか、なんなんだよ!さっきはいいって言ってたじゃん!」


「このままだと兎の為にならないよ」


「大丈夫だってば・・・・最悪、兎学校には行かせないから」


「だからそれもダメだってゆーの!」


「俺が教育するから」


「出来てないからこうなってんじゃん!」




雅紀が居るバスルームを指すようにニノがクイっと顎を上げ眉間に皺を寄せると
しょうちゃんは申し訳無さそうに肩を落とした。



「とにかく・・・・・雅紀の顔が見たい・・・・こんな所に可哀想だよ・・・・」


「許すのね?」


「許しちゃう」


「許しちゃうじゃないよ。まったく」



今にも泣き出しそうな、しょうちゃんの顔を横目で見ながらニノはバスルームの前に行き
ハンバーグの手を思い切り開きながら扉を叩く。



「兎開けろよ。そんな所、風邪引くから出てこい」


「雅紀。もう怒ってないからごめん」



しょうちゃんの甘々発言にニノもお手上げ。
どうしたって雅紀には敵わないし
しょうちゃんを変えるのも無理だ。



何を言っても反応を示さない雅紀にニノは



「しょうさん、アレ持ってくる?」



例のアレで誘き出そうと、しょうちゃんに耳打ちをする。



「・・・・・・そうしようか」



切さそうに開かない扉を見つめながら
結局は物で釣ると言う情けない現実に、しょうちゃんは再び目頭を熱くさせ




「持って来てもらってもいい?」



消えそうな声でニノにお願いをすると、ニノは、うんと頷いてからパウダールームを出て行った。



ニノが戻ってくる間にも、しょうちゃんは何度も雅紀の名前を呼ぶけど
鼻に掛かる、その可愛い声も聞かせてくれなくて、きっと悲しいを通り越して相当怒ってるんだと頭を抱える。




「お待たせ。まだダメ?」



雅紀の大好きなニンジン型のニンジンの色をしたニンジンのパンを持って来たニノが心配そうに聞くと
しょうちゃんは大きく頷ずき、絶望した様に落とされた肩がいつも以上になで肩に見えた。




「雅紀ニンジンのパン持って来たよ。一緒に食べよう」


「早く出て来て」



雅紀の大好物を持ち雅紀の大好きな2人が優しく囁くと




「いらない」



やっと雅紀が口を開いた。
可愛い声が聞こえてホっとしたけど



「あっち行って・・・・・」



すぐに反抗した態度が顔を出し
しょうちゃんもニノも唖然とする。



「2人で寝てていいから」


「雅紀」


「おまえさ、ふざけんな・・・・」


「ニノ!いいから」


「だって・・・・逆切れじゃん!兎が悪いんだよ?」


「違うよ」


「え・・・・・・・」


「ニノには聞こえないの?」


「何が・・・・・・・」


「雅紀の心の声」



しょうちゃんが力なく微笑むと
再びバスルームから消えそうな声が聞こえた。



「しょうちゃん・・・・ニノ・・・・・ごめんなさい・・・・もっと頭冷やすから・・・・
もっと・・・・もっと冷やすから・・・・・」


「兎?」


「ちゃんと・・・反省する・・・・・も・・・・甘えない・・・・・ごめんなさい・・・・」



怒っていたのではなく
自ら反省の態度を見せる雅紀。



呼吸を乱し泣き出す雅紀の声を聞いて
しょうちゃんも号泣



「雅紀・・・・・・雅紀ーーーーーーー!!!!!!!」



大きな声で叫びながら
バスルームの扉が壊れるんじゃないかぐらいの勢いで引っ張り



「雅紀・・・・・雅紀は悪くないから・・・・俺の言い方が・・・・・ごめんな・・・・
だから・・・・早く開けてくれ・・・・・早く・・・・顔見せて?雅紀・・・・・お願いだから・・・・・ここ開けて・・・・・」












いっぱい可愛がってあげるから








極上の愛の言葉を囁くと




「しょうちゃん・・・・・・」




扉は、ゆっくりと開き




「しょ・・・・ちゃ・・・・・」




大粒の涙を零しながら甘い甘い香りを漂わせた兎が
しょうちゃんの体に思い切り跳び付いて来た。





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