前回のお話







-S side-





あんな事言われたら無理でしょ。
愛しの恋人が泣き疲れて寝ちゃうんだよ。




俺を求めて泣き続けるなんて堪らない。
放っておくことなんか出来ないよ。




雅紀は一回泣くとなかなかおさまらない。




ニノに言わせると、特に俺が居ないとハンパないらしい。
俺が帰って来るまで泣き続ける時もあるって。
その時のニノは本当に可哀想で、少し痩せたんじゃないかって思うほどゲッソリしていた。



定期的に来る嵐のような癇癪は手に負えない程大変だけど
同時に堪らなく愛くるしい。



泣き疲れて俺の腕の中で眠る雅紀の寝顔を見る度、最高に幸せを感じた。
もちろん、その後ニノもたっぷり可愛がってあげるんだけどね。



いっぱい撫でてニノが嫌がるほどスキンシップを取り、好きなだけキャッチボールとゲームにも付き合った。



息を切らし貸し切り露天風呂のチケットを持ってきてくれたニノには申し訳ないけど




泣き疲れて寝てしまったなんて聞いたら
もう、ここから先に足は進まない。



体も逆方向を向いていて
頭に思い浮かぶのは露天風呂なんかじゃなくて
雅紀の無邪気な笑顔とバイバイする時の寂しそうな顔になった。




「いってらっしゃい」



雅紀は手をヒラヒラさせながら笑顔で俺を送り出してくれたけど
長い耳は垂れ下がっていて、すぐに作り笑いだと分かった。




一生懸命笑顔を見せる健気な姿を見てたら、旅行鞄を放り投げて雅紀を抱き締めてあげたくなった
けど、ニノが、すげぇ怖い顔してるからさ・・・・
わざと雅紀を見ないようにして背中を向けた。




「泣き疲れて寝た感じ」




でも、その言葉が踏ん切りつかない俺の背中を思い切り押してくれる。
智くんを見れば深く頷きOKサインを出していて、やっぱり俺の一番の理解者でもあり親友だと改めて思った。





この埋め合わせは必ずするからと
俺は智くんに抱き着き固い握手を交わす。




こうなったらニノの言うことなんて聞かないよ。
全然聞こえません。




ニノは、まだ諦めず身振り手振り大きく騒いでるけど何を言ってるのか全然耳に入って来ない。
とにかく早く帰ろう!!
雅紀に会いたい!!
旅行なんて止め止め!!




「翔さん!!」


「なに?」


「ちょっと本気?智くんは?!」


「智くんもいいって言ってるだろ」


「気使ってるんでしょ?優しいから!」


「気使うような仲じゃないし、なぁ?」


「うん」


「えぇ?!駄目だって!!せっかくゆっくりするチャンスなんだから」


「ゆっくりするより雅紀と居たいよ」


「兎とは、いつだって居れるでしょ・・・・・・・・」


「明日まで泣き続けるぞ?」


「だ・・・・・大丈夫だよ・・・・・」


「大丈夫じゃない。雅紀が泣き過ぎて脱水症状起こしちゃうじゃん」


「俺の事も心配もしてよ・・・・・」


「だからニノの心配もしてるだろ?またこの間みたいになったら最悪だろ?」


「なに?この間どうしたの?」





ニノはなんだか納得いかない顔をして
智くんは興味津々な顔で聞いてくる。
ドタキャンされたのに全く動じない智くんは本当に心が広くて関心した。




「にんじん一箱分、全部かじったの」


「しかも一口づつ」


「あははは。可愛いね」


「あと、あれでしょ、靴箱から全部靴出したり」


「食器用洗剤ぶちまけたりね」


「相葉ちゃんそんな事するの?」


「スイッチ入ると駄目なんだよ。よしよしーってして貰わないと次から次へ。怒ったら逆効果」


「へーそうなんだ。なんか意外」


「な?人は見た目で判断しちゃいけないだろ。動物も一緒だよ」


「なら余計帰った方がいいよ!!」


「え?!!智くん!!」





ニノが唖然とする表情を2人で見て笑い、俺たち3人は愛の巣へ戻った。














目の前に俺の天使がスヤスヤ眠っている。
本当に暴れてる姿なんか想像出来ない。





「雅紀」




おまえの背中には大きな羽が見えるよ。
天使の輪を飾った髪を数回撫でれば黒目がちな瞳が現れる




「しょ・・・・ちゃ・・・・・」



俺を見つめる艶黒な瞳。
震える甘蜜な唇。
溢れ出す清潤な涙。




「ひっ・・・ひっ・・・・うそ・・・・・」


「ただいま」


「ゆめ・・・・・?」


「夢じゃないよ」




静かに抱き寄せると
雅紀は俺の体にしがみ付く様に手を伸ばし
強く抱き着いてくる長い腕は震えていて
また愛しさが込み上げた。



「しょうちゃん・・・・しょうちゃん・・・・しょうちゃん・・・・」


「ごめんね」



全身を使い子供みたいに泣きじゃくる雅紀は目に入れても痛くないだろう。




俺が居ないと駄目なんだ。
俺が強く抱き締めてやらないと
外泊なんかしたら雅紀は壊れちゃう




「しょうちゃん・・・・・会いたかった・・・・・」




まだ1日も経ってないと言うのに・・・・・




「しょうちゃん・・・・・・」


「雅紀」



いつものように名前を呼んで欲しくて俺は今ここに居る。



人目を気にせずキスが出来るようになったのはいつからだろう。
目の前に居る可愛子ちゃんに翻弄されて周りなんてアっとゆう間に真っ白な世界に変わっていった。




いつでもどこでもすぐに2人の世界に浸る事が出来るから
自分も大胆になれた。




我に返ってニノに目をやれば顔を真っ赤にして口をあんぐり開けている事が多い。
耳まで赤くしたニノは照れたように俯きしばらく俺とは目を合わせてくれなかった。
そんな凄いことしてんのかな。





ニノが恥ずかしそうにしている姿が物凄く可愛くて





「ニノもして欲しい?」




悪戯に微笑むと、ニノは顔のパーツが全部取れそうなぐらい激しく首を振り何処かへ行ってしまう。




どいつもこいつも可愛すぎて
俺には勿体ないペット達




でも今日は雅紀とキスをした後
ニノを見れば顔を赤くするどころか
面白くない顔をしていた。




そっか・・・・・
そうだよな
ニノは雅紀と2人の時間を楽しみにしていたのかもしれない




自分の気持ちばかりでニノの気持ちまで考える余裕がなかった。
大人げない飼い主でごめんな。




今日はニノの大好きなハンバーグにしよう。
ニノの為に覚えたハンバーグ
料理の苦手な俺でも今じゃ得意料理になっていた。





今日は2人をベタベタに甘やかせて・・・・・・





そう思っていたのに




なんでこんなことになったんだろうか。




今、目の前に広がる光景は想像していたものとは、だいぶ違った。




雅紀は最初よりも酷く泣いていて
ニノはさっきより面白くない顔をしている。





でも、ほんと





帰って来て良かったよ。




このまま旅行をして帰って来てたら
しばらくの間ハンバーグは作ることはないと思ったから。






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