怪しい装いでコンサートへ

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ノブちゃんに元彼の太一くんのコンサートに行ってもいいか聞くことに失敗した


なのでもう、勝手に行くことにした


でも、さすがに罪悪感があった私はルールを作った


①太一くんにコンサートに行くことは言わない
②絶対に私だとわからないように変装して行く
③もし私だとバレた時点で風の如く退場する


まず①に関してだが、これは昔太一くんと付き合う前に一度使った手法なので、コンサート行けないと伝えたところで太一くんは私が来ると勘ぐるかもしれない

だからそれに備え完璧な②をしなければいけない

それでも太一くんのステージ上からのいつもの洞察力で私を発見するかもしれない。私を認識したと思ったら、次の曲前の出入りオーケーのタイミングで会場をあとにする、と言ったプランだ


よし、まずは①だ。保留にしてた太一くんのメールに返信する

太一くん、パリで頑張っているみたいでよかったです。コンサートのご案内ありがとう。残念ながら行けませんが、頑張って下さい。

送信っと


問題は②だ。恐らくサロンホールは客席も明るめな予感。となると完璧なる変装が必要になってくる。


しかしコンサート会場でサングラスや帽子はもちろんNG。お父さんの、鼻メガネ借りても入場拒否されるのがオチだ。どうしようかな…


逆に目立ってもいけないから、地味目な変装


とりあえず、伊達メガネをしよう。それも、インパクトのある感じじゃなくて、地味なもの。そしてベージュはあまり普段着ないので、ベージュのカーディガン、膝下のスカート

メイク…付き合ってたからスッピンも知られてるし…あんまり自分には似合わない流行りの太眉垂れメイクしてみるか…


うん、おてもやん


もう、おてもやんでいい。おてもやんにメガネかけて髪の毛の分け目をちょっと変えて、よし!これで大分わからない!


かなり怪しい装いの私はこれで行くことにした




コンサート当日




その怪しい格好とメイクを再現して家を出た

最近忙しいノブちゃんは出張でいない

彼氏が出張中に内緒で元彼のコンサートに変装して出向く

ふふふ…ちょっと楽しい…



行きの電車の中で今日のことをシミュレーションする

席は自由席だからきっといい場所から埋まって行く


太一くんのなるべく目線に入らない左側の後ろの方に座ろう


太一くんは開演まで楽屋から出てこないはずだ。だからとりあえずコンサートが始まるまでは心配はいらない


問題は太一くんがステージに上がってきてからだ


私は拍手をする時顔の角度に気をつけよう。分け目を変えた髪の毛で顔を半分隠しつつ、左下方面に顔をうつむかせよう


きっとこれで完璧だ


最寄駅に着いて会場へ


ロビーに着くなり私はひぃぃいいいい!!!と心の中で叫び物陰に隠れた


そうか、私はバカか。いるに決まってる、太一くんの友達…



付き合ってる時に何度か交流があった人たち



げっ!!!!!


そしていらっしゃる!いらっしゃるぞぉ!太一くんの元カノのアキコさん!!相変わらずお美しいこと…


もう今となっては私も元カノ。元カノ同士こんにちは、みたいなことにはなってはならない

とにかく私の今日のミッションは太一くんに来たことをバレてはいけないのだから!


よし、私の変装を試してやろうじゃないか


私はうつむき加減で当日券を買いに受付へ

よし、誰も振り向かない

そのままうつむき加減でホールへ

よしよし、誰も見向きもしない

よさげな席を発見

着席




完璧じゃないか!!自分!!




あーこれで一安心だ。あとは太一くんと目が合わないようにして、休憩の間もトイレなど行かなければ危険はない



開演時間がせまり、ドキドキしてくる…


なんのドキドキなのか。コンサート自体、特にピアノは自分の本番と重ね合わせてしまいドキドキするし、太一くんにバレないかのドキドキもあるし、演奏楽しみだなぁのドキドキもある


太一くんが出てきた!


会場が拍手で湧く。みんな、太一くんの久しぶりの演奏を楽しみにしている雰囲気がにじみ出る


久しぶりに見る太一くんは、さらにキザオーラが増していていつになく自信に満ち溢れている


一礼すると、友達の方を見て、ふっと笑顔になる

よかった、友達の方に気が行って私に気付いてない



そして演奏が始まった


ドビュッシーのベルガマスク組曲から始まる。フランスに留学してフランス音楽をちゃんと勉強したことを披露する


もう、ほんっっとうに最高な音色。この人はやっぱりピアノが上手い


柔らかな音で会場を包み込む

みんなが思わず笑顔になる



それから太一くんは得意のショパンやリストなどを弾き、2時間弱ほどのプログラムはあっという間に終わった


いやー、楽しかった。みんなが席を立つ前にそそくさと退散しよう…




しかし全然バレなかったな。この、おてもやんメイク、完璧だったんだな



と思ったら会場の出口のあたりで

「さくらちゃん!?」

ぎくぅ!!!!!!!!





この声はたぶんアキコさん…



思わず立ち止まってしまった私


でも



振り向いたら終わりだ



振り向いたら、このおてもやんはさくらちゃんだと認めることになる



アキコさんは、さくらちゃん?と疑問形で呼んだ


まだ確信していない



だから


だから私は






逃げる





私は振り向かずに早足でその場を去った





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