からたきの峰(2)

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からたきの峰(2)


新池からは、右側が開け、市街地を見ながらの急な尾根の登りとなった。ヤブこぎがあるものと思っていたが、笹は刈られていた。土留めの丸太もある。

地形図に山名もなく、私の知る限り紹介している書籍もない、登山口に案内や山名もないこの山が、これほど整備されているとは思いもよらなかった。急坂を登っていくと、松の木が一本たっている稜線上に出た。

地形図にある標高1691m地点と思われる。

塩尻市と朝日村の境界である。「一本まつの稜線」と名づけた。

稜線上もしっかりと道があり、別ルートの道だろうか、右下り方向も笹が刈られた道があった。下の公園で「小曽部山」と書かれている看板を見たが、小曽部山とは、この稜線の先にある1698m三角点であろうか。


左に行く。なだらかな下りとなる。正面に山腹に雪を残す山が見えてくる。右手の穂高連峰も見えてくる。広い雪原となって、道は隠れるがテープの目印が付けられている。

雪が笹をおさえていて、歩きやすい。コケにおおわれた樹木に山の深さを知る。

雪のへこみは、一週間くらい前の足跡だろうか。雪はしまっており、もぐらない。持参したスパッツは着けない。稜線上の雪原は広く、コメツガ、ダケカンバ、ブナの原生林である。傾斜はゆるく、雪上を歩くには助かる。アイゼンやピッケルはもってきていない。


カラマツの美林、緩やかで広い原生林の森、新池のミズバショウと市街地の展望、整備されて登山道、ロマンチックな山名、そして塩尻市の最高峰である。登山者を引き付ける魅力たっぷりの山であると思った。知られるほどに登山者も増えるであろう。


次の雪面を歩いていたら足跡があった。見ると丸くて大きい。そして新しい。これは熊だ。右から左に、横切る形についていた。この時点で、静かに引き返すべきであった。と痛切にかんじる。

足跡をデジカメで撮ってから数十歩前に進んだ。人の気配を感じれば、熊の方から離れていくもの、すでに遠くに行っている、との先入観んもあって、この時は引き返そうとの思いは全然なかったのである。


そのとき、左の笹の中から「グエーグエー」と泣く声が聞こえた。これは近いぞ、と左に目をやったら、小熊がピョンと笹の上に姿を見せた。

この時点でも引き返せたはずである。

四つんばいの小熊を90度起こした姿勢である。私の位置からは左後方5m、標高差5m、直線距離20mはない位置である。

つまり熊のいるところよりも前に出てしまっていたのである。雪原を横切った熊は、笹の中に入ったところで留まり、小熊がじゃれているものと思われる。親熊の姿は見えないが、子連れの熊だ。これはえらいことになった。


こんなに近いところに熊がいる。熊は私の接近になぜ気づかなかったのだろう。小熊と遊んでいたからかも知れない。残雪があり、この付近はその残雪が笹を押さえていて、音を消していたこともあろうか。

主原因は、私自身が私の存在を知らせるような行動をしていなかったことである。

熊を見るのは二度目である。しかし、前回の遭遇(20000930)とは状況が違っていた。子供がいること、近いことである。さあ、どうするか。最初に頭をよぎったのは、前回の経験の機先をせいして「大声で叫ぶ」であった。そうすれば、熊は逃げるものと思った。そして、そのようにした。ところが、わが意に反して親熊が笹の中から現れた。

雪原に立って姿をさらしていたので、親熊はすぐに私に気づいた。


そして目があった。結果的に、気づいていなかったであろう熊に、大声で叫んだことで私の存在を教えることとなってしまった。計算が外れた。


さ、どうするか。いくつかの対処法が頭に浮かんだ。目をそらさず、後ろを見せず、走って逃げず、自分を大きく見せるなどである。

雪原であり、枝や石を拾うことは出来なかった。こちらの武器は「ただ大声で叫ぶ」ことだけである。そして、それらを全部実行した。笹から出た熊は、私の予想とは違った行動に出た。


私の予想では、熊が様子を伺ってしばらく私とにらみ合う。立ち上がって威嚇する。その後、ゆっくりと近づいてくる、であった。しかし、笹から姿を現した熊は一直線に私に向かって、早がけで突進してきた。

こうなっては、熊が身を引いてくれることを願い、大絶叫する以外にないのである。少し木の影によったが、木に登るなど出来るわけがない。

私は手ぶら。先制攻撃は出来ない。デジカメを武器に、は思いつかなかった。もはや、熊の突進を直接体で受ける、相手の出方に身をまかすしかない状況になってしまった。

そして、その時を迎えた。



熊に襲われ敗退、からたきの峰3に続きます。



the summit of a mountain (山のてっぺん)

消えてしまったホームページより何回かに分けて載せることにしました。


☆「からたきの峰の熊に襲われ敗退」の体験や文章は「山のてっぺんさん」です。

私はただ記事をブログに載せただけです。(murasakiより)


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